僕の体で神様を送ります。

ジャム

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夏祭り

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自分は、無条件にリュウトに受け入れられるように、リュウトが好む姿を借りているに過ぎない。

この姿にリュウトは捉われているだけで、自分の中身がどんな形でも構わないのだ。

本当はただの水でしかない自分、透明な水に色を足して人の形に変えただけ。

この姿で無ければリュウトは自分を好きになることなど無いだろう。

考えれば考える程、睡蓮の気持ちは暗くなっていく。

そして、一番大事な事はどんなに人の形を真似していても、本当の自分はただの水だということだ。

実体が無い自分には性別も性器も無い。

そして神でも無いから、憂火がシたように他の神の代わりにリュウトを抱き、『門』を開かせるという事も不可能だ。


リュウトに対して何かをしてやりたくても、その『何か』がわからなかった。


自分に何が出来るのか?

傍にいて護ってやりたい。

でも、傍にいるだけで何も出来ないんじゃないか。

自分は神では無い。

神と対等に戦える力もない。

睡蓮が自問自答の末、自分の非力を嘆いて、リュウトから視線を逸らしていると、リュウトが睡蓮の手を握った。

「ねえ、あのデブ猫オレに挨拶に来たよ」

「え!?」

リュウトはベッドから起き上がると、部屋の電気を点けて、やっと安心して勉強が出来ると、教科書を手に取った。

「さっき夢の中で、大事な用事思い出したって、次来る時は人間の格好で来るってさ。そんで、睡蓮にもよろしくって言ってた」

「・・そうですか。実は、今まであの猫神様の所に居たんです。私に抱かれている内に自分がなぜ神の国へ逝きたいのかわからなくなってしまったそうで・・」

「ええぇ!?何でまたそんなことに」



あの猫神は商売繁盛の神として、とある商店に居た。

何代か前の店主が飼っていた猫が、その店主と店を愛するがゆえに死にきれず、猫又からステップアップし、招き猫になったということ。


店は変わらず繁盛していたが、その店主の子どもの死をきっかけに店主は店を畳んでしまったという。


怒ったのは猫神だ。


自分が商売繁盛にした店を潰されて、おまけに店も他人に売られる始末。

誰も居なくなった店に一人残された猫神は、ついにこの世に愛想をつかし、逝った事も無い神の国という所へ逝ってみる気になった。


それがきっかけで、リュウトの前に現れたという訳だ。


一端の神になったつもりだったが、睡蓮に抱かれて撫でられている内に、自分がなぜ商売繁盛の神になりたかったのかを思い出したという。


あの店主の役に立ちたかった。
一緒に居たかった。


あの店先で、店主の膝の上にいるのが幸せだったからだ。

それが、昔かつての話だったとしても、自分が護るべき人間は今も生きている。

店に依存するのでは無く、自分も一緒にその家族と共に行くべきだったと初めて気づいたのだ。

猫神は店に居たい訳じゃなかった。
あの店の主人が好きだった。


そして、睡蓮とデブ猫は一緒にその家族がどこに移り住んだのかを探し、東京の西へと飛んだ。

睡蓮がやっとこ見つけたその家族は、古めかしい小さな駄菓子屋に移り住んでいた。

その店先に数匹の猫が集まり、餌を貰っている。

その姿を見たデブ猫は、店主の足下へと走り擦り寄ると、その足下でクルクルと回り、尻尾を店主の足に絡めると、その姿を霧のように消した。




「へ~・・睡蓮、やるじゃん」

教科書を丸めたり広げたりしながらリュウトが睡蓮に満面の笑みを向ける。

「これも結果、リュウトのためになるかも知れないと思ってした事なので、私の行為は偽善です」

「えー!でも、ほんといい話じゃん!猫神一人で家族んとこまで帰れなかっただろうしさ~」

リュウトは両手を前に伸ばして体を捻る。

「それにオレ本当に助かったもん!今日のテスト、点取れてるかはアレだけどちゃんと受けれたし!何よりさ~『猫の○○』を飲まなくて良かったって事が!!もう、そこが!!本当に睡蓮ありがとう!!感謝してもしきれないよ!」
と大笑いするリュウト。


それに攣られて笑う睡蓮だったが、実際、この先も、もし同じ様なパターンが起これば、リュウトには遠からず『○○』を飲む日がやって来るだろうと、内心思い悩む。

睡蓮は、自分の役目がどうであれ、リュウトのために出来るだけ『神送り』のための神を選別をしようと決める。

「あ~なんか安心したら、お腹減った!なんか食べよ睡蓮」

「いいですよ。付き合います」

睡蓮は精霊なので、食べても食べなくても平気だが、リュウトに付き合って部屋を後にした。

その夜、試験勉強もそこそこに、気の抜け切ったリュウトは、その日憂火に言われた大事な事を言い忘れて、睡蓮を抱き枕にして眠りに落ちてしまった。










そして、2日間のテスト期間が終了。
その間は何事も無く、リュウトは平和な時を過した。


梅雨明けも近づいたその週末。
リュウトとテッタ、トウヤにマキはクラスメイトの女子と夏祭りに行く約束をした。

睡蓮は遠慮して、少し離れた場所からリュウトを見守るという。


待ち合わせ場所に向かうと、神社に続く角の道に、カラフルな浴衣姿の女子達が集まっていた。

「すげえ・・浴衣ってすげえ!あんなに女を可愛くしてくれんのか!」
「お前、何気に失礼だかんな、それ」
興奮するトウヤにテッタが突っ込む。

「リュウトく~ん!」
こっちに気づいた女子が、皆でリュウトに向かって手を振ってきた。

「え!」

呼ばれたリュウトは思わず手を振り返したが、その腕をトウヤに強く掴まれる。

女子の人気が自分一人に集中した事で、一気に沈んだ空気になった3人に、リュウトは顔を引き攣らせながら、おずおずと手を降ろした。

「お前!マジで一人オレに寄越せよ!」
「寄越せって言われても・・元々オレんじゃないしっ」

「リュウトってなんか女子に印象いいんだよね~」
「確かに顔かわいいしな・・可愛がられ系か」

ブツブツと文句を言うテッタとマキに、荒れるトウヤ。


なんか最悪・・っ
これならオレ、マジで睡蓮と二人で来たかった・・!
女絡むと男同士の友情、メッチャ脆い・・。




「リュウトくん!生還おめでとう祭りだね!」
一気に押し寄せてきた女子に囲まれたオレは、なんとか他に話を振って離脱を試みる。

「いや、オレの事はいいから、せっかくのお祭りだし!ほら皆で楽しんで!な?それぞれ、な!?」

「なんか奢ってあげるよ!みんな、一人一個ずつリュウト君に買って来よう!」

女子が「おー!」と雄叫びを上げる。

その浴衣の袖を引いて、「待て待て!お前らあいつらも連れてけって!」と小声で訴えると、「おっと忘れてた」と素で答えるから質が悪い。


「頼むから、オレらの友情を奪わないでくれ・・」
「ヤダ!身近なボーイズラブ!」
目を輝かせる女子達に、リュウトは真剣に青冷める。


「ヤメろ!健全な方だ、健全な方!」
リュウトは自分の肘を抱いて肩を震わせ、『悪いがオレは面食いなんだ』と心の中で呟いた。

結局、女子に腕を引かれて反強制的に露店へと買い物へ駆り出されて行く友人達を見送って、リュウトは露店の通りから少し入った神社の入り口の鳥居の下にしゃがみ込んだ。


そこへ、睡蓮が近づいて来る。

「どうして一緒に行かないんです?」
「わかってる癖に」

苦々しく睡蓮を見上げると、睡蓮は、ニッコリと笑ってリュウトの髪に指を絡めた。

「そんな風にしてたら放っとけないじゃないですか」
「じゃあ、放っとかないで下さい。すっげえ寂しんぼじゃんオレ」

リュウトは頬杖をついたまま睡蓮を見上げた。

「あ・・睡蓮、きっと浴衣似合うよ!っていうか何着ても似合いそうだけど」
「リュウトこそ、浴衣着れば良かったのに」

「オレがそんなの着て来たら、どんだけ気合い入れてんだって、どうせ文句言われるだけ」
心の中では、別にクラスメイトの女子の事なんて、リュウトはどうでもいいと思っている。なのに、この責められよう。

「睡蓮がいればオレは・・」
と、リュウトが立ち上がる。

刹那、何か空気が変わった。


その異変に、睡蓮も気付き、リュウトの視線の先を見つめる。

神社の鳥居の手前にある短い階段を昇ってくる人影に、リュウトはなぜか寒気を覚えた。

体つきは、大きくない。
リュウトより少し大きく感じるくらいだ。

だが、その顔には、立体的な白い狐の面が掛けられている。

その面の細い目がまるでホンモノの狐の目に見えて、リュウトは一歩後退りした。

「なんかヤな感じ?」

すぐに睡蓮がリュウトの手を掴んで、自分の背中にリュウトの体を隠した。

「リュウト、逃げろ」

白面の狐がどんどんリュウトへと近づいて来る。



「早く逃げろ!」



禍々しい雰囲気に、睡蓮が両手を広げて結界を張る。


「睡蓮っ!!」


睡蓮と白面の狐の姿が、パッとそこから消えて見えなくなる。

でも、これは見えなくなっただけで、実際にはすぐこの先に居るのだ。

それを理解しているリュウトは、迷いながらも、そこから明るい方へと走り出した。




結界を張った睡蓮は、白面の狐を水攻めにして沈め、円の中に閉じ込めようとしていた。

ジタバタと水の球体の中で激しく暴れる狐が、急に諦めたように動かなくなり、ぐったりとする。水攻めが効いたと思った睡蓮は、ホッとしつつも気を抜かないよう気をつけた。
水の結界を更に強くしようと2重3重に狐を水の円で包み込む。
が、木の枝を踏むような音に、思わず後ろを振り返ってしまう。

その瞬間。

水の球体が弾け割れ、睡蓮の結界も鏡が割れるように砕け散った。


術を解かれた睡蓮はただでは済まない。

腕や足に、自分の張った結界が砕けた破片が突き刺さり、傷口から沸騰した水分が蒸発した。


「何者だ、お前は!?」


睡蓮の問いに、狐の面の口元が歪む。

「誰だって?オレが誰だって?」

ケラケラと笑う白面の狐が、両手を広げる。

「まさか」

睡蓮は、もう一度結界を張る。
今度は自分と狐の間にだ。

だが、一度破れた結界は、もう狐を拘束する力はなかった。


激しい発光と爆発に、空間が弾け飛ぶ。


それと一緒に、睡蓮の体が切り刻まれた。
体は爆発の風圧で飛ばされ、神社の中の太い杉の幹に叩き付けられて、落ちた。






明るい方へと逃げたつもりだったリュウトは、我に返った。

提灯は沢山あって明るいが、通りにも露店にも誰も居ない。


「なに・・これ?」


あり得ない状況に足が竦む。
人っ子一人、誰も居ない。


「どうしよ・・テッタ・・マキもトウヤも・・皆、どこ行っちゃったんだよ・・!?

こんな事が起こるなんて信じられなかった。

前も後ろも露店が延々とどこまでも立ち並び、どっちに行けばいいのかさえわからなくなる。

「どっち?どっち行けばいいんだ・・!?」

迷っていると、リュウトの背後からさっきの白面の狐が歩いて来る。

リュウトは咄嗟に走り出し、その場から逃げた。



「なんかヤバいヤバいヤバいって!!」



どうしよう!?どうしよう!?
誰か・・!!



そこでハッと憂火を思い出し、携帯をポケットから取り出す。

その間にも狐はゆっくりと歩いているように見えるのに、リュウトとの間をどんどん詰めて来る。


「憂火・・憂火、早く!」


電話を掛けながらリュウトは走る。

着信音に気を取られている内に、後ろに迫ってきた白面の狐が、リュウトに向かって腕を伸ばした。


その腕が大きく布の様に広がり、リュウトの肩に巻き付いてくる。


「ウワーーーーーー!!」


帯のような手に体を強く締め付けられ、リュウトの肋骨がミシミシと軋んだ。


「イっ離せ!!このヤロー!!」


大声で叫ぶが、為す術無く頽れそうになった次の瞬間。

白面の狐の、帯のようにリュウトの体を締め付けていた手から力が抜け、リュウトの足下へ、それがパラパラと落ちた。



「呼ぶのが遅せえ」



「憂火・・!」

リュウトと白面の狐の間に立った憂火が、狐の腕をサバイバルナイフで切り落とす。


膝から崩れそうになるリュウトの腕を憂火が引き起こし、顎でしゃくって「暮」と合図した。

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