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第二十八話

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 それから二人は森の中でゴブリン討伐に勤しんでいく。

「せい! やあ!」
 最初は魔力操作と戦闘で精いっぱいだったセシリアも慣れが出てきて、軽やかなステップでゴブリンを倒していく。

 ここからはリツも本格的に参戦して、魔法を使って次々に遠距離にいるゴブリンたちを撃ち抜いてた。

「まだまだリハビリ段階って感じだなあ」
 魔法を放った後、少し納得のいっていない顔をしているリツは各属性の魔法を使って見事にゴブリンを倒しているが、本人は細かい威力調整などに不満が残っている様子だ。

「あれだけのことをやってそんなことを言えるのは、リツさんくらいですよ?」
 あれだけ、と苦笑交じりのセシリアが言うだけの結果が二人がここまで進んできた道に残っている。

 倒れているゴブリンは数十を超えており、その八割をリツが倒していた。

「うーん、まあゴブリンだからなあ。これで上位種でも出てきてくれればいい訓練になるん、だけど……」
(あれ、これってもしかしてフラグなんじゃないか? そもそも、ゴブリンの数が異様に多すぎる気がするし、確か最近になってゴブリンの数が増えてきたって受付で聞いたような)
 嫌な予感を覚えながらリツがそんなことを考えていると、セシリアが慌てた様子でリツを呼ぶ。

「リツさん! ゴ、ゴブリンソルジャーです!」

 リツたちの視界の先の森の道を、雑な布を巻いた筋肉質な体格をした大きなゴブリンがいかつい顔をして歩いている。
 ゴブリンソルジャーは戦闘特化のゴブリンであり、中位から上位の魔物に分類される。
 一対一の戦闘では、冒険者ギルドではCランクに設定されていた。

「……おいおい、これはすごいな」

 ゴブリンソルジャーの数はおよそ十体。
 部下として一般的なゴブリンを三十体ほど引き連れている。
 近くにゴブリンの巣があったのか、ゴブリンの集団がうろついているのが視界にとらえられた。

 しかし、リツが驚いているのはそれらのゴブリンたちではなく、更に後方にいる巨大なゴブリンだった。
 ゴブリンキングは通常のゴブリンの何倍もの大きさで、オーガと見間違うほどのサイズである。
 頭には冠、赤いマントを羽織った彼はそこにいるだけで強烈な存在感を見せていた。

 その手にはゴブリンキングの身長をも超える長い長い三又の槍を持っている。

「ゴブリンキング……これは、なかなか面白いのが出て来たもんだ」
 これまでの魔物では手ごたえがなかったため、リツはニヤリと笑みを浮かべていた。

 ゴブリンソルジャーがCランクならばゴブリンキングはAランクに指定される。

「あ、あの、さすがに、あれは、きついのでは……」
 明らかに格上の敵の登場に少し困った様子のセシリアはここまでの戦いで疲れてきており、更にあの数の魔物を倒すとなると最後まで立っていられる自信がなかった。

「ポーションはさっき飲んだばかりだから、セシリアは後ろで休んでいてくれ。ただ、いつでも攻撃に対応できるようにはしていてくれると助かる」
「リツさんはどうするんですか……?」
 そう聞きながらもセシリアは指示されたとおり、じりじりと後方に下がっていく。

「俺か? ――俺はこいつらを全部ぶっ倒す!」
 ふっと笑ってそう宣言したリツの手には、いつの間にとりだしたのか、一本の武器が腰に装備されていた。

種別:刀
名前:黒刀
特徴:この世界にはない異世界の武器。
   勇者リツ=マサカドと鍛冶師クラウス=ラックフィールドの二人の協力によって作られたものである。
   折れず、曲がらず、良く切れる。
   魔物を倒せば倒すほどに切れ味が増していく。
   魔力を流すことで刃こぼれを修正し、汚れを除去することができる。
   製作者二人のいずれかの魔力でなければその効果は発揮されない。

「それじゃ、行くぞ! アースランス!」
 先手必勝といわんばかりに飛び出していったリツは足から地面に魔力を流し、地属性の魔法を放つ。

 魔力が伝わっていき、ゴブリンたちの手前で地面が隆起すると強固な岩の槍が次々と生み出され、ゴブリンたちを貫いていく。

 この結果を確認するまでもなく走りだしていたリツは、既に次の魔法の準備に入っていた。

「アイスレイン!」
 今度は氷柱の雨を降らせる魔法である。
 狙いすましたように約一メートル前後の氷柱が上空から勢いよく降り注いで、ゴブリンたちを貫いていく。

 この二つの魔法だけで、下っ端のゴブリンのほとんどが倒されていた。

『あの者、なかなか強いな。だが、お前たちなら倒せるだろう……いけ!』
「「「「「ギャギャッ!」」」」」
 すぐにリツの存在に気づいたゴブリンキングは唸るような声で部下たちへ指示を出す。
 ゴブリンキングの周囲に待機していたゴブリンソルジャー五体がひとつ頷くと指示を受けて動き出す。

「……魔物が人の言葉をしゃべるなんて!」
 魔物が人語を話すのを始めて聞いたセシリアは離れた場所で驚いていた。

「あぁ、キングクラスにもなると、かなり知性があるから俺らが使う言葉くらい普通に使うんだよ」
 リツは向かってくるゴブリンソルジャーを見て黒刀を構えながらも、独り言のようにセシリアの疑問に答えていた。

 彼にとっては、まだそれくらいの余裕がある戦場である。

「さて、ゴブリンソルジャーと戦うのも久しぶりだ。いくぞ!」
 五百年前のゴブリンソルジャーのことを脳裏に浮かべながら、戦闘を楽しんでいる様子のリツは身体に流す魔力量を少し多めにして、地面を蹴る。

「「「ギャギャギャッ!?」」」
 ゴブリンソルジャーたちにはリツの動きが目で追えず、一瞬で距離を詰められてしまう。

「初めまして、さようなら」
 そう口にした時にはゴブリンソルジャーの身体は五体とも、黒刀によって真っ二つになっていた。

 いつ刀を抜いたのか、この場にいる誰も気づくことはなかった。

「さて、残りのゴブリンソルジャーも俺の相手をしてくれるのかな?」
 ニヤリと笑みを見せると、リツはゴブリンキングに向かってゆっくりと歩みを進める。

 先ほどまでの一瞬の動きも脅威だったが、あれだけの力を持つ人間が近づいてくる威圧感に、ゴブリンキングを守るように配置していたゴブリンソルジャーたちは気圧されている。

「それじゃ、お前たちも……さような、ら!」
 反応がないことを肯定とみなしたリツは先ほどと同じように地面を蹴って一瞬で間合いを詰め、次の三体を一刀のもとに伏す。

 そして、残りの二体に刀を振り下ろそうとしたところで、攻撃は受け止められてしまった。

「ははっ、ここで王様登場か」
『貴様の相手をするのはあやつらでは荷が重いようだ……私自ら相手をしよう』
 リツの攻撃をあっさりと受け止めたゴブリンキングは不敵に笑って見せた。
 
「俺の攻撃を受け止めるとは、なかなかの槍みたいだな」
『ふむ、お前のその見たことのない曲がった剣もなかなかのようだ』

 リツの攻撃を止めた槍。
 ゴブリンソルジャーをまるでバターをきるかのように両断した刀。

 体格差のある双方が互いの武器を褒めあい、そしてここから死闘が始まる。
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