五百年後に再召喚された勇者 ~一度世界を救ったから今度は俺の好きにさせてくれ~

かたなかじ

文字の大きさ
27 / 49

第二十七話

しおりを挟む
「わかりました!」
 リツの指示を受けて剣を強く握るセシリアは気合十分だった。
 魔物との戦闘は初めてではないが、リツと組んでからの初戦闘は彼女の緊張を高めている。

「――はい、ストップ。それじゃ、きっと大きな怪我をしちゃうし、すぐにばてちゃうよ」
「……えっ?」
 リツに止められたセシリアは、きょとんとした顔で振り返ると、自分の身体を確認していく。
 自然と気合が入りすぎて緊張で身体がこわばっており、肩もガチガチになっている。
 腕輪には魔力を流せているが、明らかに必要量を大きく上回っていた。

 それを自覚したとたん、セシリアの身体に疲労感が押し寄せた。

「さっきの素振り、あの時みたいに落ち着いて、一定量の魔力を腕輪に流して、相手の動きをよく見ながら戦うんだ……いいね?」
 目と目を合わせて、ゆっくりと言い聞かせるように改めてリツが説明する。

「は、はい」
 セシリアはといえば、リツとばっちり目が合っていることで、緊張が走り、顔が赤くなっている。
 しかし、その緊張で上塗りされたおかげか、肩の力は抜けていた。

「”風の加護がありますように”……さ、これで大丈夫。今度は落ち着いていってみよう」
 リツはぽつりとつぶやくようにそっとなにかの魔法を彼女にかけて、背中を軽くとんっと押して送り出す。

「いきます!」
 しっかりと地面を蹴って走りだすセシリア。
 手前の一体しか視界に入っていなかった先ほどまでとは違い、その奥に数体いるのをしっかりと視認できていた。

(私を奥に引き込んで、一斉に襲ってくるつもりですね……でも!)
 それがわかっていれば、対処することができる。
 しかも、先ほどフルヒールポーションを飲んだことで身体が軽くなっている。

「やああっ!」
 いつもよりも素早い動きで距離を詰めると、セシリアは手前のゴブリンの首をすぱっと切り落とした。

「「「ぎゃぎゃぎゃっ!」」」
 そのタイミングに合わせて隠れていた三体のゴブリンがとびかかってくるが、予想していた彼女は後方に跳躍することでその攻撃を見事に回避する。

「せやああああ!」
 そのまま地面に攻撃してしまったことで一瞬動きが止まったゴブリン三体に対して、剣を横凪ぎに一閃することで一度に三体を撃破する。

「……ふう、我ながらちゃんと動けた気がします」
 あっという間に四体のゴブリンを倒せたことに満足したセシリアは、剣についた血を払って鞘に収めようとした。

「ギャギャ!」
 その瞬間、伏兵として木の上に隠れていたゴブリンアーチャーが矢を放つ。

「――えっ!?」
 倒した四体で終わりだと思っていたセシリアは、矢の方向に視線を向けるが剣は半分以上鞘に入っており、今からでは対応できない。

 リツも、少し離れた場所にいるため援護も期待できない。

(もう、ダメ!)
 身がすくんで固まってしまったセシリアは思わず目を瞑ってしまう。
 思えば、街の防衛戦で命を失うはずだった自分がここまで生きてこられたのは奇跡である。
 だから、ここで人生が終わっても仕方ない、とこの一瞬でそこまで考えていた。

「…………あれ?」
 しかし、いつまでたっても矢が飛んでこないため、彼女は恐る恐る目を開いていく。

 すると、そこにはセシリアまでは届かず、空中で止まっている矢があった。
 セシリアと矢の間には緑色の風の障壁が貼られていたのだ。
 一本目でダメだとわかったゴブリンアーチャーは二の矢、三の矢と立て続けに打っていたが、どれも風の障壁によって遮られていた。

「油断大敵ってね」
 セシリアの耳元で優しく笑うリツの声がする。

「リツさん」
 声に振り向こうとした瞬間には、ゴブリンアーチャーはリツの魔法で倒されて木の上から落下していた。

「はい、これで完了。セシリア、ゴブリンは集団戦を好むから目の前の数体を倒せても油断したらダメだよ。まあ、今回は結構うまく隠れてるやつだったから仕方ないけどさ」
「ご、ごめんなさい……」
 自分の失敗に気づき、それを見越してリツが防御壁を張ってくれたことを理解して、セシリアはがっくりと肩を落としてしまう。

「ははっ、いいよ。別に今回は練習だし、俺もゴブリンアーチャーがいるのをわかっていてあえて黙っていたから」
 そう言うと、リツは彼女の頭を軽くポンポンと撫でる。
 これで落ち込みが解消されるわけではないが、セシリアは頬を赤く染めて少しだけ気持ちが軽くなるのを感じていた。

「今回の戦闘は、腕輪に流す魔力量を維持したままゴブリンを倒すというものだった。でもって、最初の一体が囮なのをわかったうえで攻撃して、すぐに後ろに下がってから再度残りを倒した。この一連の動きの中で魔力は常に一定にできていたのがよかったよ」
 リツは失敗を責めるのではなく、今回できた成功を褒めていく。
 実際のところ、最後のゴブリンアーチャー以外のセシリアの動きはとても良かったのだ。

「しばらくは腕輪をつけたままで、魔力操作の練習を続けてもらうことになるけど、それが完璧にできるようになれば攻撃に魔力を使うこともできるし、周囲の感知に魔力を使うこともできる。そうすれば……」
 ここまで言ってリツはニヤリと笑った。

「先ほどのように隠れている魔物に気づくこともできるってことですね!」
 今やっていることが自分の力を伸ばし、先ほどの失敗を補うことができるとわかったセシリアは満面の笑みになっていた。

「そういうこと。つまり、今の魔力コントロールが上達すれば、更に上のこともできるようになるってわけだ。俺も昔はそれやらされたからなあ……」

 この腕輪を作ってくれたのは勇者パーティがお世話になったドワーフの職人で、竜人の仲間による説明で作っていた。
 腕輪をつけて修業をしたことで、リツも格段に強くなることができ、勇者としての力も自在に使えるまでになっていた。

「リツさんもこれをつけていたんですか?」
 小首を傾げて質問するセシリアに、リツはくすっと笑ってしまう。

「なかなか可愛い反応をするもんだなあ。そう、それは俺のお古なんだよ。本当な五つくらい作ってもらうはずだったんだけど、魔物が街を襲ってきてそれどころじゃなくなってさ……」
 その時の戦いを思い出したリツの表情には悲しみがにじんでいる。

「ま、でも一つだけでも残っててよかった。あ、ちゃんと洗ってあるから安心して」
「ふふっ、ありがとうございます。でも、リツさんのお古って聞いてちょっと嬉しいです!」
 リツがむりやり話を明るい方向に切り替えたことに気づいたセシリアは、その話題にあえてノることで雰囲気をそちらにシフトさせていった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...