五百年後に再召喚された勇者 ~一度世界を救ったから今度は俺の好きにさせてくれ~

かたなかじ

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第二十六話

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 冒険者ギルドでの諸々の登録を終えた二人は、手ごろな討伐依頼を受けて南の森の入り口へとやってきていた。

「さて、それじゃ依頼に入る前にまずは訓練といこうか。武器はとりあえずこれを使ってもらおうかな」
 リツは少し小ぶりの片手剣を取り出してセシリアへと渡す。

「は、はい!」
 緊張の面持ちでセシリアは慌てて受け取ると、早速剣を引き抜いて刀身を確認する。
 それは特別な力を持っていない、一般的な剣である。

「はじめに、腕輪の効果を発動させるから、魔力を流していってね。前にもやったから覚えているとは思うけど、一定量の魔力を流さないと重くなって、魔力を流しすぎると疲れる――魔力量の調整や強化を図っていく訓練になる。それじゃ、いくよ」
 確認するようにそう言ったリツは、セシリアの腕輪に触れて、その効果を発動させていく。

「うっ、お、重い……魔力を……」
 ずしんとのしかかるような腕輪の重さを感じると、セシリアはすぐに魔力を流していく。
 昨日の練習時間は短かったが、夢の中にもこの訓練が出てきていたため、なんとなくだがコツをつかみはじめていた。

「おぉ、いいじゃないか。その感じだ」
 最低魔力ピッタリとまではいかないが、以前とは異なり、魔力消費量を抑えた状態で維持することができている。

「なん、とか――難しいですが、できてます……」
 かなり集中が必要であるらしく、じわりと汗をにじませたセシリアはリツの声掛けにもやっとのことで返事をしている。

「次は、その状態のまま剣の素振りをするんだ。最初はゆっくりでいい、十回からいこう」
 彼女の上達を感じながら次のステップに進むべく指示を出したリツは、少し離れた位置に移動する。

「い、いきます――せいっ! せいっ!」
 なんとか振り絞るような表情で剣を手にしたセシリアは素振りの構えをとる。
 震えるような腕で一回、二回と振っていき、そして三回目。

「せいっ――あっ!」
 剣を振ることに集中してしまったため、魔力調整が疎かになったセシリアの腕には急激に重みが襲いかかり、衝撃から剣がすっぽ抜けてしまった。

「――ま、そうなるよな」
 これを予想していたため、リツは彼女から距離をとっていた。
 そして、飛んでいった剣を拾い上げると彼女のもとへと持っていく。

「魔力の操作、それとシンプルな素振り。この二つを同時にやるのはなかなか難しいんだ。でも、これができると魔力を体内に流して動きを良くしたり、剣に流して威力をあげたりすることができる。とっさに防御に魔力を回すなんてこともね」
「ありがとうございます……頑張ります!」
 先ほどは失敗した。
 しかし、それでも最初の二回はかなり良い感覚だったのをセシリアは覚えている。
 目的を定めて訓練するということがモチベーション向上につながっているようで、セシリアの表情はやる気に満ちていた。

(目を閉じて、魔力の流れを感じる。それを維持したまま……)
 再び剣を握ったセシリアは深く集中して身体の中の魔力の流れを感じ、その量を調整、維持する。
 拡散しているように見えたセシリアの魔力が研ぎ澄まされて集束していくのがリツの目には見えていた。

「……やあっ!」
 そして、集中力が高まって頂点を迎えた瞬間、目を開くと同時に剣を振っていく。

 一回、二回、三回、四回と素振りの回数を重ねていくが、魔力の乱れはなく、腕輪の重さを感じない状態で振ることができている。

「おー、すごい。いいじゃないか!」
 少しアドバイスしただけでこれだけの成果を発揮したセシリアに感動したリツが嬉しそうに声をかけるが、集中している彼女にその声は届いておらず、それに反応することなく無心で剣を振っていた。

 そして、リツに見守られながら剣を素振りし続け、五十回を超えたところでゆっくりと剣を降ろしていく。

「セシリア、いい感じだったよ。腕輪に魔力を流し続けたまま素振りができたね!」
 たった一日でここまでの進歩があるとは思っていなかったため、リツは感動を覚えながら彼女に声をかけていく。

「はあっ、はあっ、はあっ、ふうっ……は、はい、なんとかできました」
 魔力操作と同時に素振りを行ったため、汗だくになったセシリアは全身に疲労を感じていた。

「ははっ、いやあすごいよ。まさかこんなにすぐにできるようになるなんて……そうそう、これ飲んでおいて。魔力を回復するポーションだから、今の疲れも楽になると思うよ」
 そう言ってリツが取り出したのは、薄い紫色の液体が入った小瓶だった。

「は、はい……って、えっ? これ、マジックポーションですか?」
 きょとんとした表情で受け取った小瓶の中を確認しながら、セシリアは見たことのない液体に恐る恐る蓋をあけていく。

 この理由が、マジックポーションとは通常濃い紫色であり、派手な液体である。
 しかしながら、リツが渡してくれたのは透明感のある液体であったのだ。

(マジックポーションを薄めるという話は聞いたことがありますが、かなり効果が薄いと聞いたような……)
 そんな風に疑問を持ちながらも、リツがそんな無駄なことをするとは思えず、彼女はゆっくりとそれを飲んでいく。

 最初はおっかなびっくり飲んでいたセシリアだったが、全て飲み終わったところで、自分の身体に起きている変化に驚いている。

「か、軽いです……」
 先ほどまでの疲労はどこかに消えて、むしろ身体の調子がいいと感じるほどに回復している。

「だろ? それはマジックポーションじゃないんだよ。フルヒールポーションっていって、怪我と体力と魔力を回復する特別性なんだ」
「……えっ?」
 それを聞いたセシリアは固まって動かなくなってしまう。

 彼女が驚いている理由――それはフルヒールポーションとは腕が切れてもくっつけることができ、目が見えなくなっても見えるようにまで回復すると言われている伝説級の回復薬である。

 もし、今現在買おうとしたら、それこそ城が買えるほどの値段である。

 それを一気に飲んでしまった衝撃にセシリアは愕然といていた。

「………………えええええええええっ!?」
 硬直が解けたセシリアは、それこそ周囲に響き渡るほどの大きな声で盛大に驚いていた。
 森の木々に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立つ。

「な、なに!?」
 想定外の反応に、リツは耳を塞ぎながらセシリアを訝しげに見ている。

「い、いやいやい、だって、だってですよ? 訓練で疲れたからって、そんなとんでもない薬を私にくれたんですか? えええっ? だって、フルヒールポーションって今では作れる人がいなくて、世界に現存している数十本が最後だとか……えええええっ!?」
 混乱しきっているセシリアはリツに問い詰めるように迫りながらそうまくしたてる。
 そこまでの貴重なものを、こんな簡単なことで使うリツの判断が信じられなかった。

「え、今ってそんなことになってるのか……」
 今の常識を知らないリツは収納空間の中にあるフルヒールポーションの数を思い出して、ポリポリと頬を掻いている。

 そこには、およそ数百のフルヒールポーションが収納してあり、素材さえあればリツでも簡単に調合することができるため、現在のフルヒールポーションがあまりに希少すぎることに驚いていた。

「まあ、気にしなくていいし、気を遣うなら今後は別のものを渡すよ。ひとまずできるようになったのが確認できたんだし、次は実戦と行こう……ほら、あそこ、森に入ってすぐのところでゴブリンたちがこっちを見てる。あいつらを倒そうか」
 セシリアを励ましながら森のほうを指し示すリツ。
 少し奥の方にはこちらにまだ気づいていないゴブリンたちがうろついている様子が見て取れた。

 今回受けた依頼は森のゴブリン討伐依頼。
 最低十体、多ければ多いほど報酬は増える。
 この森のゴブリンたちは森に入った人を襲ってみぐるみを剥いでいるらしく、危険な存在だった。
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