3 / 26
第三話
しおりを挟む
「少々お待ち下さい。今、準備しますね……」
倉庫に到着すると、受付嬢は近くにあった棚から持ってきた大きなシートを床に敷いていく。
「……はい、こちらの上にお願いします」
「了解です!」
テオドールはその上に毒草、麻痺草、沈黙草を取り出していく。
薬草に比べれば量は幾分か少なかったが、それでもおよそ一人で持ってくる量ではないため、受付嬢は驚きを隠せない。
「一応、これで全部になります。多少は自分用にとってありますけどね」
テオドールは今回、売る目的で持ってきた分の全てをシートの上に取り出し終えていた。
「は、はい、取り出している段階から質に関しては問題ないと確認できていますので、恐らくは満額の買取になります。なるのですが……お客様は一体何者なのでしょうか?」
顔立ちにはまだ幼さの残る、大人へと成長している段階の男の子。
そんな彼が一人前の冒険者でも取って来られないほどの大量の薬草類を、しかも高い品質で持ちこんでいる。
それほどの人物と相対しておいて、何者であるか聞かないという選択肢が彼女にはなかった。
「あー、そういえば自己紹介していませんでしたね。僕の名前はテオドール、テオドール=ホワイトです。商人目指して色々動いている感じですね。まずは当座の資金が必要なので、薬草を集めてきました」
彼女が求めている答えは能力面についてのものだったが、テオドールは自らの名前と今回の行動の理由について説明していく。
馬鹿正直に真実を話しても信じてもらうことはできないし、前世の話も絡んでくるとなれば頭がおかしいと思われてしまうため、少し話をずらすことでお茶を濁した。
「な、なるほどです。そういえば私も名乗っていませんでした! 申し訳ありません、私は当ギルドの受付をしておりますリザベルトと申します。以後、よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀とともに改めて自己紹介をするリザベルト。
これだけの大量買取を申し込んでくる人物であれば、今後も様々なものを持ち込んでくれると判断して、最後の言葉を付け加えていた。
「はい、よろしくお願いします。それで、全ての買取をお願いしたいのですが、構いませんか?」
量が量であるだけに、念のため再度確認をする。
一回にこれだけ大量に納品しては、いらないといわれる可能性がある。少しでも金が欲しいテオドールにとってそれは死活問題だった。
「も、もちろんです! むしろこちらからお願いしたいほどです! 先ほども言いましたが、冒険者の方に頼むことはあるのですが、粗雑に扱われる方が多いですし、これほどキチンと種類を分けて持ってくるなんて初めてですよ! しかも、これだけの量をだなんて! テオドールさんはギルドにとって救いの神様です!」
リザベルトは飛び切りの笑顔を見せてテオドールの手をとり、飛び跳ねんばかりの勢いで喜んでいる。
「そこまで言ってくれるなら、とっておきもだしましょうか。結構珍しいから出さずに持っていようかと思いましたが、これも買ってもらえますか?」
テオドールが取り出したのは、一凛の花。
水色の美しい花で、茎の部分から手折ってきている。
しかも、その花の部分は水に覆われていた。
もちろんテオドールの魔法によるものだったが、こうしないと持ってこられない特別なものである。
彼は湖の中に咲いているのを見つけていたため、これも一緒に回収していた。
「こ、ここ、これって、もしかして、水中花ですか!?」
その問いかけにテオドールはニコリと笑いながら頷く。
水中花とは文字通り水の中に咲く花だが、花を水から出してしまうと数秒で萎れてしまうという特殊採集素材である。
その難易度だけあり、色々な薬の素材として使えるレア素材。
採集するには大きな水槽のようなものを用意して、そこに花をいれる。もしくは専用の魔道具を使うのが一般的である。
しかし、どちらの方法もコストがかかりすぎてしまうため、実際に採集する者はほとんどいない。
テオドールのように、魔法で解決できるのが極々特殊な礼だった。
「は、初めて見ました……しかも、こんな方法での採集だなんて……」
驚きと感動に包まれたリザベルトが呆然としたようにそっと受け取っても、花は水に包み込まれたままそこにある。
「そうそう、そのまま持ってるわけにもいかないと思うので、器を用意しておきますね」
テオドールは岩魔法で小さな器を作成、そこに土魔法で土を創り出して花を植える。
「えっ? 今どうやったんですか? 器が空中に?」
水中花を渡しながらも、リザベルトはどうやって器ができたのか理解できずに首を傾げていた。
「あー、まあそれは秘密ということで。それで、この花も合わせて買い取ってもらえますか?」
「もちろんです! この花があれば、様々な薬を作ることができますから!」
まるで手品でも見たかのように驚きながらもリザベルトは水中花のレア度を知っているため、そちらの方に意識が向く。
その反応を見てテオドールは笑顔で、更にカバンに手を入れていく。
「それなら、これも、これも、これも……お願いします!」
取り出したのは先ほどと同じ水中花。しかも、今度は最初から器ありの状態で十個のそれがテーブルに並べられた。
リザベルトと話している間に密かに器の用意を済ませていたのだ。
「こ、こんなにあるんですか? いえ、とてもありがたいのですが……さっきの薬草も毒草もそうですけど、水中花までこんなにたくさんなんて……テオドールさんって一体……」
リザベルトは改めて、まじまじとテオドールの顔を見る。
「ははっ、僕はちょっと器用な商人希望の子どもですよ。それより、清算をお願いしてもいいですかね? 少しここで買い物もしていきたいので」
錬金術師ギルドでは買取以外にも、調合などに使われる器具や容器などが販売されているため、テオドールはそれを今回の買取金で買って次につなげようと考えていた。
「あぁ、そうでした! 薬草のほうはどうなったかな?」
レイクのもとへ行こうとすると、彼ではなく一人の女性がやってきた。
「あんたが大量の薬草を持ってきたってガキかい? しかも、水中花まで大量に持ってくるだなんて……あんた何者だい?」
倉庫の入り口から声をかけて来たのは、人族の女性で恐らく年齢は七十は超えている老婆。
しかし、背中は曲がっておらずシャッキリしており鋭い眼差しでテオドールのことを射貫いていた。
「リザベルトさんにも言いましたが、僕の名前はテオドール。商人志望の、ただの子どもですよ」
明らかに挑発されているのを感じ取ったテオドールだが、表情を崩すことはない。
ガキと言われたため、あくまで自分は子どもだと言い切る。この程度の挑発であれば前世でいくらでも経験していた。
二人の表情は双方ともに笑顔だったが、視線がバチバチとぶつかりあっている。
しかし、それも数秒。引き下がったのは老婆のほうだった。
借金:3000万
所持金:約30万(調合道具購入後)
倉庫に到着すると、受付嬢は近くにあった棚から持ってきた大きなシートを床に敷いていく。
「……はい、こちらの上にお願いします」
「了解です!」
テオドールはその上に毒草、麻痺草、沈黙草を取り出していく。
薬草に比べれば量は幾分か少なかったが、それでもおよそ一人で持ってくる量ではないため、受付嬢は驚きを隠せない。
「一応、これで全部になります。多少は自分用にとってありますけどね」
テオドールは今回、売る目的で持ってきた分の全てをシートの上に取り出し終えていた。
「は、はい、取り出している段階から質に関しては問題ないと確認できていますので、恐らくは満額の買取になります。なるのですが……お客様は一体何者なのでしょうか?」
顔立ちにはまだ幼さの残る、大人へと成長している段階の男の子。
そんな彼が一人前の冒険者でも取って来られないほどの大量の薬草類を、しかも高い品質で持ちこんでいる。
それほどの人物と相対しておいて、何者であるか聞かないという選択肢が彼女にはなかった。
「あー、そういえば自己紹介していませんでしたね。僕の名前はテオドール、テオドール=ホワイトです。商人目指して色々動いている感じですね。まずは当座の資金が必要なので、薬草を集めてきました」
彼女が求めている答えは能力面についてのものだったが、テオドールは自らの名前と今回の行動の理由について説明していく。
馬鹿正直に真実を話しても信じてもらうことはできないし、前世の話も絡んでくるとなれば頭がおかしいと思われてしまうため、少し話をずらすことでお茶を濁した。
「な、なるほどです。そういえば私も名乗っていませんでした! 申し訳ありません、私は当ギルドの受付をしておりますリザベルトと申します。以後、よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀とともに改めて自己紹介をするリザベルト。
これだけの大量買取を申し込んでくる人物であれば、今後も様々なものを持ち込んでくれると判断して、最後の言葉を付け加えていた。
「はい、よろしくお願いします。それで、全ての買取をお願いしたいのですが、構いませんか?」
量が量であるだけに、念のため再度確認をする。
一回にこれだけ大量に納品しては、いらないといわれる可能性がある。少しでも金が欲しいテオドールにとってそれは死活問題だった。
「も、もちろんです! むしろこちらからお願いしたいほどです! 先ほども言いましたが、冒険者の方に頼むことはあるのですが、粗雑に扱われる方が多いですし、これほどキチンと種類を分けて持ってくるなんて初めてですよ! しかも、これだけの量をだなんて! テオドールさんはギルドにとって救いの神様です!」
リザベルトは飛び切りの笑顔を見せてテオドールの手をとり、飛び跳ねんばかりの勢いで喜んでいる。
「そこまで言ってくれるなら、とっておきもだしましょうか。結構珍しいから出さずに持っていようかと思いましたが、これも買ってもらえますか?」
テオドールが取り出したのは、一凛の花。
水色の美しい花で、茎の部分から手折ってきている。
しかも、その花の部分は水に覆われていた。
もちろんテオドールの魔法によるものだったが、こうしないと持ってこられない特別なものである。
彼は湖の中に咲いているのを見つけていたため、これも一緒に回収していた。
「こ、ここ、これって、もしかして、水中花ですか!?」
その問いかけにテオドールはニコリと笑いながら頷く。
水中花とは文字通り水の中に咲く花だが、花を水から出してしまうと数秒で萎れてしまうという特殊採集素材である。
その難易度だけあり、色々な薬の素材として使えるレア素材。
採集するには大きな水槽のようなものを用意して、そこに花をいれる。もしくは専用の魔道具を使うのが一般的である。
しかし、どちらの方法もコストがかかりすぎてしまうため、実際に採集する者はほとんどいない。
テオドールのように、魔法で解決できるのが極々特殊な礼だった。
「は、初めて見ました……しかも、こんな方法での採集だなんて……」
驚きと感動に包まれたリザベルトが呆然としたようにそっと受け取っても、花は水に包み込まれたままそこにある。
「そうそう、そのまま持ってるわけにもいかないと思うので、器を用意しておきますね」
テオドールは岩魔法で小さな器を作成、そこに土魔法で土を創り出して花を植える。
「えっ? 今どうやったんですか? 器が空中に?」
水中花を渡しながらも、リザベルトはどうやって器ができたのか理解できずに首を傾げていた。
「あー、まあそれは秘密ということで。それで、この花も合わせて買い取ってもらえますか?」
「もちろんです! この花があれば、様々な薬を作ることができますから!」
まるで手品でも見たかのように驚きながらもリザベルトは水中花のレア度を知っているため、そちらの方に意識が向く。
その反応を見てテオドールは笑顔で、更にカバンに手を入れていく。
「それなら、これも、これも、これも……お願いします!」
取り出したのは先ほどと同じ水中花。しかも、今度は最初から器ありの状態で十個のそれがテーブルに並べられた。
リザベルトと話している間に密かに器の用意を済ませていたのだ。
「こ、こんなにあるんですか? いえ、とてもありがたいのですが……さっきの薬草も毒草もそうですけど、水中花までこんなにたくさんなんて……テオドールさんって一体……」
リザベルトは改めて、まじまじとテオドールの顔を見る。
「ははっ、僕はちょっと器用な商人希望の子どもですよ。それより、清算をお願いしてもいいですかね? 少しここで買い物もしていきたいので」
錬金術師ギルドでは買取以外にも、調合などに使われる器具や容器などが販売されているため、テオドールはそれを今回の買取金で買って次につなげようと考えていた。
「あぁ、そうでした! 薬草のほうはどうなったかな?」
レイクのもとへ行こうとすると、彼ではなく一人の女性がやってきた。
「あんたが大量の薬草を持ってきたってガキかい? しかも、水中花まで大量に持ってくるだなんて……あんた何者だい?」
倉庫の入り口から声をかけて来たのは、人族の女性で恐らく年齢は七十は超えている老婆。
しかし、背中は曲がっておらずシャッキリしており鋭い眼差しでテオドールのことを射貫いていた。
「リザベルトさんにも言いましたが、僕の名前はテオドール。商人志望の、ただの子どもですよ」
明らかに挑発されているのを感じ取ったテオドールだが、表情を崩すことはない。
ガキと言われたため、あくまで自分は子どもだと言い切る。この程度の挑発であれば前世でいくらでも経験していた。
二人の表情は双方ともに笑顔だったが、視線がバチバチとぶつかりあっている。
しかし、それも数秒。引き下がったのは老婆のほうだった。
借金:3000万
所持金:約30万(調合道具購入後)
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる