15 / 26
第十五話
しおりを挟む「実はとっておきの片手剣があって、それもよかったら見てもらえたらと……よいしょ」
言いながら、テオドールはバッグから例の片手剣を取り出していく。
「こ、これは……」
エイレムはその剣がテーブルに乗せられたと同時に声を失う。剣が放つ強い力を感じ取っていた。
「『魔剣バルムンク』、それがこの剣の名前になります。元々は呪われていた武器でした」
その名前をリザベルトが口にする。
「……」
名前を聞いたことはなかったが、その剣が発する力をエイレムは感じ取っていた。
「魔剣バルムンクが呪われた理由は、昔邪竜を斬った時にその血を浴びたせいで、持ち主もその剣も呪われてしまったんです。ただ、持ち主の家族が剣に聖水を長年かけ続けたことで呪いはかなり薄まっていました……まあ、だから比較的簡単に解呪できたんですが」
テオドールはまるで見てきたことであるかのように語る。
「……なぜそこまで?」
知っているのか。当然の疑問をエイレムは口にする。
「それは……、極秘です!」
テオドールは冗談めかしたように言うが、実際のところは過去の記憶であるため、それをここで明かすわけにはいかなかった。
「なるほど、明かせないほどの秘密ということですか。わかりました……が、さすがにこれを買うわけにはいきませんね」
エイレムは厳しい表情でバルムンクを見ている。
「えっ? それは、この剣について知っている情報を言わなかったからでしょうか?」
テオドールは思い当たることがそれしかなかったため、質問する。
「ふふっ、さすがに言えないことを強要するようなことはしませんよ。そうではなくてですね……」
「――値段と需要だろ」
答えたのは、ずっと黙っていたジャーノだった。
「そのとおり」
「まあ、そうだろうな。この剣は他の武器と比較して、格が違いすぎる。これほどの剣を買うとしたら、百万じゃきかない。それに、この剣をエイレムが持っていても有効活用できないだろ。騎士団を持っている領主や、それこそ実力のある冒険者に売るのがいいだろうな」
ジャーノの説明にエイレムは何度も頷いている。
「なるほど……確かにそうですね。誰かアテがあるといいんですけど……」
肩を落としながら、テオドールはチラリとエイレムのことを見る。
冒険者ギルドのギルドマスターともなれば、様々な人脈を持っているはずであり、そこを引き出そうとテオドールは演技をする。
「……アテはなくもないですが」
「本当ですか!」
「え、えぇ……」
食い気味なテオドールの反応に、エイレムは少し引きながら答える。
「是非、ご紹介下さい!」
テオドールは深々と頭を下げる。
人脈は商売にとって大事なものであり、それを手に入れられるなら頭を下げるくらい安いものだった。
「いやいや、頭をあげて下さい! はあ、これだけ色々と珍しい武器を持ちこんでくれて、その若い見た目で頭を下げられたら断れないじゃないですか……」
その反応に頭を下げたままのテオドールはニヤリと笑い、頭をあげたところで今にも泣きそうな表情を作っている。
テオドールは自分が子ども扱いされる年齢であることを理解しており、その見た目すらも有効に使おうと考えていた。
「ふう、なにかテオドールさんの手のひらで踊らされているような気がしますが……それでも、ジャーノが認めた相手で、相当な目利きのようですからね。私としても繋がりを持っておいて損はしないと判断したうえですよ」
流されているだけではないことをエイレムは強調する。
ただただ流されていると思われるのは、さすがにギルドマスターとして看過できるものではなかった。
「えぇ、もちろんですよ。それで、この剣を買ってもらえるかもしれないというアテはどなたになるのでしょうか?」
テオドールの質問にエイレムは腕組みをして何やら考え込んでいる。
「……最初に一人思い浮かんだのですが、その人じゃないほうがいいような気がしています」
「その一人っていうのは、この街の領主か?」
ジャーノの問いに、エイレムは頷く。
「なるほどな……俺もあいつはやめておいたほうがいいと思うぞ」
「やっぱり! そうだよねえ、あの人はテオドールさんとは合わない気がする。ただ……お金だけは持っているし、しかも美術品や価値のある武器防具の収集なんかもしているから、きっとこの剣にも興味を持つはずなんだ……なんだけど」
テオドールはげんなりした様子の二人の会話を聞いて首を傾げる。その人物の条件を聞く限りでは願ってもない相手である。
「何か問題でもあるんですか?」
当然の質問を投げかけたのはリザベルトだった。
「うーん、あんまり人のことを悪くは言いたくないんですが……」
「その剣に興味を持ったら、なにがなんでも手に入れようとしてくる、と思う。条件に折り合いがつかなかったとしてもな。それに、さっきエイレムが言ったが、あいつは収集することが目的だから、その剣が有効に使われることはない」
テオドールが商人として頑張りたいという気持ちを聞いているジャーノは、武器を売って、そこから評判が広がるほうがいいのではないかと考えていた。
「なるほど、確かにその人に売ったのでは、そこからの広がりがないですね……その人を避けた場合、別の人を紹介してもらうことはできますか?」
テオドール自身も領主にこだわりがないため、別の人物でも問題なかった。
「そうですね、ちょっと遠くになりますが王都の……」
エイレムがそこまで言ったところで、扉がバタンと大きな音をたてて開かれた。
「失礼するぞ!」
大きな声、大きな足音で部屋の中に入ってきた人物は、身なりのいい、およそ高級の部類に属する貴族服を身に着けている。
人族の男性で恐らく年齢は三十過ぎ、サラサラの金髪ロングヘア―をたなびかせている。
「何やら、ジャーノが誰かを連れ立ってエイレムのところに行ったと下で聞いたぞ! む、そこのお前たちがその同行者だな! 何を俺のいないところで面白そうな話をしているんだ!」
その人物はデカイ声で四人に声をかけてくる。
彼の登場に対して、ジャーノとエイレムはがっくりとうなだれながら手で顔を覆っていた。
「やっぱり嗅ぎつけてきましたか……」
「あぁ、もっと早く話を進めればよかったな……」
「おいおい、私がいないと始まらないだろ? 今の話題はなんだったのだ……おぉ! もしかしなくても、この剣のことだな!」
沈痛な面持ちのジャーノ、エイレムの両名に反して金髪の男性は快活そうな笑顔で、テーブルの上にのっているバルムンクを指さしている。
「お前のことだから食いつくとは思っていたが、どうせまたコレクションにしたいだけだろ?」
ジャーノは剣のことを早速話題に出した相手に対して、呆れた表情になっている。
「い、いやいや、最近はそのへんは控えているんだぞ? なにせ妻がな……」
金髪の男性は暗い表情で顔を落としている。
「えっと、そろそろ紹介してもらってもいいでしょうか? まあ、やりとりから予想はついていますが……」
会話の流れが止まった瞬間を見計らって、なんとかテオドールが割り込んだ。
「あぁ、すみません。彼は……」
「私の名前はマルコ、マルコ=アルフレッソ。この街の領主をやっている!」
紹介しようとしてくれたエイレムの言葉を遮って、マルコが力強く自己紹介をする。彼がエイレムが最初に挙げたアテだった。
借金:4000万
所持金:400万+約30万
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる