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第二十三話
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矢は真っすぐ飛んでいき、ゴブリンの右耳の上あたりにずぶりと突き刺さった。
「ギ! ギギギ……ギイ……」
いきなりの衝撃に驚いたゴブリンは目をひん剥いたまま、攻撃された方向に一度目を向けるが、頭部への一撃は致命傷であり、そのまま倒れて絶命した。
「おー、すごい。この距離でも見事に命中だね」
周りに仲間がいないことを確認したテオドールがパチパチと手を叩いて称賛する。
「まだまだです……」
しかし、当のリザベルトは満足していないようで首を横に振っている。
「命中はしましたが、最後こっちを向くだけの余力が残っていました。ゴブリンだから倒せましたが、もう少し強力な相手だったら反撃に移られたかもしれません……」
リザベルトは倒れたゴブリンを見ながら難しい表情になっている。
「うーん、そうだなあ、いくつか提案があるんだけど聞く?」
「お願いします!」
テオドールの質問に即答するリザベルト。
賢者で勇者だった彼ならきっと何かいい案を提示してくれるという期待を持っている。
「それじゃあ、まず一つ目、魔物を攻撃する時は一撃でとどめを刺そうと思わないこと」
「ふむふむ」
リザベルトはどこかから取り出したメモ帳にテオドールの言葉を書いていく。
「じゃあ、どうやって倒すかというと、倒しきれないと最初から想定しておくんだ。つまり……」
「ニの矢を撃つのは前提、ということですか?」
テオドールの言葉の続きを先読みしたリザベルトが答えを口にする。
「正解! ただ、念のための二発目を準備するんじゃなく、もう二発撃つのは確定で、二発必殺くらいの意識でいこうか」
テオドールの言葉は、リザベルトの想像の一歩先をいっていた。
彼女は元々戦い慣れていないのもあったが、いい武器を手に入れたことで少し気持ちが浮ついていたため、そこまで考えが至らなかったようだ。
「なるほど、二発必殺……確かに! 同じ場所を狙ってもいいですし、少しずらして狙ってもいいですし、別の急所を狙ってもいいですね! それに、二発でダメなら三発、四発と増やせば!」
リザベルトも柔軟な考えを持っており、先ほどの助言をきっかけとして矢の数を増やすという結論にいたる。
「そうそう、いいね。僕が二発と言ったからって、その数を越えてはいけないなんてことないんだ」
その考えを聞いて、テオドールは満足そうに笑顔になっている。
「あと、その弓だったら一度に複数の矢を同時に放てるんじゃないかな」
魔力で矢を作り出す弓だからこそ、そういった特殊な使い方もできるのではないかとテオドールは予想していた。
「同時に複数……」
アドバイスを受けて、リザベルトは弓を構えてみる。すると先ほどと同じように魔力で作られた矢が一本だけ生み出される。
「うん、そこまではさっきと同じだね。今度は、二本の矢が同時に手元にあるのをイメージしながら魔力を流してみよう」
「は、はい……!」
言われるままに、矢が二本あるように強くイメージしながら弓へと魔力を流し込む。
最初はおぼろげなイメージだったが、それはしっかりと形となり、二本の矢が生成された。
「いいね、できてきたよ」
テオドールはこの結果を予想していたため、予想どおりだと満足そうに頷いている。
「ほ、本当です……」
リザベルトは手元に生み出された二本の矢を見て、半ば信じられないものを見るような心境だった。
普通なら一本ずつ打つのが当たり前だと思っていただけに、二本作り出せる自信が彼女にはなかったようだ。
「それじゃ、あっちにいるゴブリンにそれを発射してみようか。時間差でもいいし、同時にでもいいよ」
今度は先ほどより更に離れた場所にいるゴブリンを指さす。
せっかくイメージできた二本の矢を失わないように、彼女の想像力を優先するように促す。
「やってみます……」
返事をするとリザベルトは集中する。彼女の目には遠くのゴブリンしか映っていない。
そして、右手が放されると同時に矢が二本同時にゴブリンの頭部へと向かっていき、そのまま見事に命中した。
「ギ……ギギ……」
威力は先ほどとは変わっていないが、同時に攻撃されたことで二倍の衝撃に襲われた今度のゴブリンは振り返ることもできずに、その場にドサリと倒れこんだ。
「やりました!」
威力の弱さを気にかけていたリザベルトだったが、ゴブリン相手とはいえ十分な結果が出たため、その場で何度か飛び跳ねながら喜んでいる。
「うんうん、それじゃもう一段階上に行こうか」
「……えっ?」
しかし、テオドールはまだまだできると考えており、ニヤリと笑みを浮かべながら次の課題を提示する。
限界を安易に定めず、先を目指してみようと促す。
「最初は普通に矢をイメージした。次は二本同時に矢が出るようにイメージした。今度は一本でもいいからもっと強く、込める魔力量を増やしてみてくれるかな?」
「こう、ですかね?」
最初は戸惑っていたリザベルトは期待を感じ取って気合を入れ直すと、テオドールの指導を実現しようと一本の矢に魔力を強く込めていく。
「もっと強く、大きな矢になるイメージで……そう!」
「た、確かにこれはすごいです……!」
魔力を練りこむのに時間がかかりはしたが、最初の矢よりも強力であることは見た目でもわかる。
その矢の大きさは最初の二回よりも三回りほど大きくなっている。魔法矢であるために淡くも力強い魔力の流れを感じさせる。
「じゃあ、それをあっちにいる別のゴブリンに撃ってみようか。ただ、威力が強いだろうから反動でぶれないように注意してね」
「はい!」
テオドールの指示を反芻しながら、三十メートルほど離れた位置にいるゴブリンの頭を狙う。
「せい!」
練り上げた魔力を少しでも逃がさないといわんばかりに気合をいれた声とともに矢が発射される。
今回も一直線にゴブリンの頭部めがけて飛んでいく。それはこれまでの二回と同様で精度が高い。
そして、大きく異なるのは矢がもたらした結果である。
「うんうん」
「……」
その結果に、テオドールは頷いており、リザベルトは言葉を失った。
ゴブリンの頭は吹き飛び、身体だけ残って、重心がずれてぐらぐらと揺れるその身体も今から倒れようとしている。
「やっぱり魔力を込めたら、それだけ威力があがるみたいだね。これも予想どおり。次は……と言いたいところだけど、今は同時に複数の矢を射出することと、一撃の威力の高い攻撃を繰り出すこと。この二つを頑張っていこうか」
普通に矢を撃つだけでなく、今回新しいことを二つ覚えた。
改善点は他にも色々あるが、まずはこの二つを集中して鍛え上げていくのがいいだろうとテオドールは考えていた。
「わ、わかりました! 数を撃てることと、威力をあげることですね……魔力をスムーズに流して、イメージもしっかり持って……」
自分にこんなふうな実力があったことを初めて知ったリザベルトはテオドールの助言を活かすためにどうすればいいかを考えていく。
「そうそう、魔力の流れをスムーズにするってことなら、こんな練習方法があるよ」
ふと思いついたようにテオドールは足元に落ちていた小さな木の棒を手に取る。
借金:3600万
所持金:約30万
「ギ! ギギギ……ギイ……」
いきなりの衝撃に驚いたゴブリンは目をひん剥いたまま、攻撃された方向に一度目を向けるが、頭部への一撃は致命傷であり、そのまま倒れて絶命した。
「おー、すごい。この距離でも見事に命中だね」
周りに仲間がいないことを確認したテオドールがパチパチと手を叩いて称賛する。
「まだまだです……」
しかし、当のリザベルトは満足していないようで首を横に振っている。
「命中はしましたが、最後こっちを向くだけの余力が残っていました。ゴブリンだから倒せましたが、もう少し強力な相手だったら反撃に移られたかもしれません……」
リザベルトは倒れたゴブリンを見ながら難しい表情になっている。
「うーん、そうだなあ、いくつか提案があるんだけど聞く?」
「お願いします!」
テオドールの質問に即答するリザベルト。
賢者で勇者だった彼ならきっと何かいい案を提示してくれるという期待を持っている。
「それじゃあ、まず一つ目、魔物を攻撃する時は一撃でとどめを刺そうと思わないこと」
「ふむふむ」
リザベルトはどこかから取り出したメモ帳にテオドールの言葉を書いていく。
「じゃあ、どうやって倒すかというと、倒しきれないと最初から想定しておくんだ。つまり……」
「ニの矢を撃つのは前提、ということですか?」
テオドールの言葉の続きを先読みしたリザベルトが答えを口にする。
「正解! ただ、念のための二発目を準備するんじゃなく、もう二発撃つのは確定で、二発必殺くらいの意識でいこうか」
テオドールの言葉は、リザベルトの想像の一歩先をいっていた。
彼女は元々戦い慣れていないのもあったが、いい武器を手に入れたことで少し気持ちが浮ついていたため、そこまで考えが至らなかったようだ。
「なるほど、二発必殺……確かに! 同じ場所を狙ってもいいですし、少しずらして狙ってもいいですし、別の急所を狙ってもいいですね! それに、二発でダメなら三発、四発と増やせば!」
リザベルトも柔軟な考えを持っており、先ほどの助言をきっかけとして矢の数を増やすという結論にいたる。
「そうそう、いいね。僕が二発と言ったからって、その数を越えてはいけないなんてことないんだ」
その考えを聞いて、テオドールは満足そうに笑顔になっている。
「あと、その弓だったら一度に複数の矢を同時に放てるんじゃないかな」
魔力で矢を作り出す弓だからこそ、そういった特殊な使い方もできるのではないかとテオドールは予想していた。
「同時に複数……」
アドバイスを受けて、リザベルトは弓を構えてみる。すると先ほどと同じように魔力で作られた矢が一本だけ生み出される。
「うん、そこまではさっきと同じだね。今度は、二本の矢が同時に手元にあるのをイメージしながら魔力を流してみよう」
「は、はい……!」
言われるままに、矢が二本あるように強くイメージしながら弓へと魔力を流し込む。
最初はおぼろげなイメージだったが、それはしっかりと形となり、二本の矢が生成された。
「いいね、できてきたよ」
テオドールはこの結果を予想していたため、予想どおりだと満足そうに頷いている。
「ほ、本当です……」
リザベルトは手元に生み出された二本の矢を見て、半ば信じられないものを見るような心境だった。
普通なら一本ずつ打つのが当たり前だと思っていただけに、二本作り出せる自信が彼女にはなかったようだ。
「それじゃ、あっちにいるゴブリンにそれを発射してみようか。時間差でもいいし、同時にでもいいよ」
今度は先ほどより更に離れた場所にいるゴブリンを指さす。
せっかくイメージできた二本の矢を失わないように、彼女の想像力を優先するように促す。
「やってみます……」
返事をするとリザベルトは集中する。彼女の目には遠くのゴブリンしか映っていない。
そして、右手が放されると同時に矢が二本同時にゴブリンの頭部へと向かっていき、そのまま見事に命中した。
「ギ……ギギ……」
威力は先ほどとは変わっていないが、同時に攻撃されたことで二倍の衝撃に襲われた今度のゴブリンは振り返ることもできずに、その場にドサリと倒れこんだ。
「やりました!」
威力の弱さを気にかけていたリザベルトだったが、ゴブリン相手とはいえ十分な結果が出たため、その場で何度か飛び跳ねながら喜んでいる。
「うんうん、それじゃもう一段階上に行こうか」
「……えっ?」
しかし、テオドールはまだまだできると考えており、ニヤリと笑みを浮かべながら次の課題を提示する。
限界を安易に定めず、先を目指してみようと促す。
「最初は普通に矢をイメージした。次は二本同時に矢が出るようにイメージした。今度は一本でもいいからもっと強く、込める魔力量を増やしてみてくれるかな?」
「こう、ですかね?」
最初は戸惑っていたリザベルトは期待を感じ取って気合を入れ直すと、テオドールの指導を実現しようと一本の矢に魔力を強く込めていく。
「もっと強く、大きな矢になるイメージで……そう!」
「た、確かにこれはすごいです……!」
魔力を練りこむのに時間がかかりはしたが、最初の矢よりも強力であることは見た目でもわかる。
その矢の大きさは最初の二回よりも三回りほど大きくなっている。魔法矢であるために淡くも力強い魔力の流れを感じさせる。
「じゃあ、それをあっちにいる別のゴブリンに撃ってみようか。ただ、威力が強いだろうから反動でぶれないように注意してね」
「はい!」
テオドールの指示を反芻しながら、三十メートルほど離れた位置にいるゴブリンの頭を狙う。
「せい!」
練り上げた魔力を少しでも逃がさないといわんばかりに気合をいれた声とともに矢が発射される。
今回も一直線にゴブリンの頭部めがけて飛んでいく。それはこれまでの二回と同様で精度が高い。
そして、大きく異なるのは矢がもたらした結果である。
「うんうん」
「……」
その結果に、テオドールは頷いており、リザベルトは言葉を失った。
ゴブリンの頭は吹き飛び、身体だけ残って、重心がずれてぐらぐらと揺れるその身体も今から倒れようとしている。
「やっぱり魔力を込めたら、それだけ威力があがるみたいだね。これも予想どおり。次は……と言いたいところだけど、今は同時に複数の矢を射出することと、一撃の威力の高い攻撃を繰り出すこと。この二つを頑張っていこうか」
普通に矢を撃つだけでなく、今回新しいことを二つ覚えた。
改善点は他にも色々あるが、まずはこの二つを集中して鍛え上げていくのがいいだろうとテオドールは考えていた。
「わ、わかりました! 数を撃てることと、威力をあげることですね……魔力をスムーズに流して、イメージもしっかり持って……」
自分にこんなふうな実力があったことを初めて知ったリザベルトはテオドールの助言を活かすためにどうすればいいかを考えていく。
「そうそう、魔力の流れをスムーズにするってことなら、こんな練習方法があるよ」
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