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第二十五話
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「えっ、は、はい……わあっ……!」
急展開に驚いてばかりだったリザベルトは目の前に広がる光景に思わず息をのむ。
空高くから見える景色は、リザベルトのこれまでの人生の中でもトップレベルに美しい眺めであり、感動でそれ以上の言葉を失った。
「ほら、まだ遠いけど岩山が少し見えてきたよ」
テオドールが指をさす方向には地上からは見えなかった景色が眼下に広がっており、二人が目指す場所も目を凝らすと薄っすらと見えてきていた。
「ほんとですね! こう見ると結構近いように見えます!」
ここまで来ると慣れてきたのか、リザベルトは嬉しそうに笑う。
高度も速度も安定しているがゆえに早く動いているように感じないが、かなりの速度で進んでおり、岩山までの距離もどんどん近づいている。
「どう? すごいでしょ? ただ風魔法を使うだけだと細かい調整が難しいから、風の精霊にお願いして僕らを風で包み込んで移動させてもらっているんだよ。これだけの速さで進んでいたら、すごい向かい風になるんだけど……」
その先をリザベルトに促すように視線を向けたテオドールがそこで言葉を止める。
「あっ、確かに少し風を感じる程度ですね!」
「そうそう、これも精霊が風の流れを変えて、僕たちが向かい風を受けないようにしてくれているんだよ!」
「ふわあ……」
テオドールは簡単にそう言ってのけたが、リザベルトはこれまでそんな人物に出会ったことはなかった。
様々な属性に精霊が宿っているという話はリザベルトも聞いたことがあったが、テオドールのように自在に精霊の力を使いこなすという話は初耳だった。
精霊というのは気まぐれで自身のことを高位な存在だと思っているために人に仕えたり、力を貸したりするというのはとても珍しい。
改めてテオドールのすごさを感じながらリザベルトは下へと視線を下ろす。
地上には魔物や動物の姿、それに馬車で移動している冒険者などの姿が見える。
試しにテオドールが手を振ってみるが、距離があるのと上空に人がいると思わないため、気づく様子はなかった。
景色を楽しみながらの旅路、その所要時間はわずか半日。
「いやあ、ついたねえ。思ったより早くついてよかった」
地面に降り立ったテオドールは大きく伸びをしてから岩山を眺めて満足そうに頷いている。
「は、はい、確かに早く着きました……」
一方でリザベルトは慣れない飛空につかれたためか、うなだれながら、ぐったりとした様子でいる。
かなりの速度での移動だったが、それは彼女がこうなった原因ではなかった。
速度自体には徐々に慣れて、風景を楽しむ余裕すら出ていた。
「はは、ごめんね。ついつい調子にのって色々やらせちゃったよ」
そんな彼女を見たテオドールは少し悪いことをしたな、と軽く笑いながら謝る。
リザベルトがぐったりとした原因――楽しい空の旅の途中にテオドールからの指導が入っていたのだ。
「い、いえ、すごくいい練習になりましたので。実際の戦闘ともなれば、落ち着いた状況では行動できませんから」
移動中は揺れがあり、完全に落ち着ける状況ではなかったが、その状況でリザベルトは矢で離れた場所にいる魔物を倒していた。
自分の意志で動いている状況ではない。
その場にあって上空から、風の抵抗があるにも関わらず、動いている魔物を的確に倒す訓練は今後にも生きるものだと考えていた。
「うんうん、最初は外していたけどだんだん命中するようになっていたよね。木の棒への魔力通しも上手になったし」
魔物が見当たらない時には魔力を木の棒へ流す訓練を続けていた。
そのため、リザの習熟度は疲労度とともにかなり上がっていた。
「さて、とにもかくにも目的地についたから山の散策に行こうかな。リザは入り口のあたりで休んでいてもいいよ」
ここまで頑張ってくれた彼女を気遣ってテオドールは休憩を促す。
「いえ、ついて行きます!」
しかし、彼女はこの場所でテオドールが何をするのか、それを目に焼き付けておきたいと思っているため、力強く同行を希望する。
「そっか……うん、じゃあ少しゆっくりみていこう。色々と調査の必要もあるから、それくらいのほうがいいかもしれない。よし、じゃあ出発だ!」
テオドールは彼女の気持ちを尊重して進む。
しかし、疲労を考えて少しペースを落としている。
「ありがとうございます!」
その配慮を感じ取ったリザベルトは、笑顔になって礼を言いながら気合を入れ直していた。
岩山とあってあちこちに大小さまざまな形の石がゴロゴロと転がり、足場はあまりよくない。
「さて、それでは岩山の散策を……」
テオドールは歩みを進めながらも、複数の魔力を張り巡らせて周囲を探っていく。
足先から土の魔力を流して地中を探り、同時に風の魔力を張り巡らせて魔物の居場所などを探っていた。
「す、すごい」
ここまでの訓練で魔力の扱いの難しさを思い知ったリザベルトは、魔力を細かく使い分けている彼の魔力操作能力の高さに驚いている。
「うーん、まずはこれかな」
先行して歩くテオドールは周囲に警戒しながらある一つの岩に目を止めた。
まだ岩山の入り口から少し進んだ場所であり、何かがあるとも思えなかったが彼は足を止めて大きな岩に手をあてていた。
「この岩の中になにかあるんですか?」
鉱石など希少なものを発見したのかと、リザベルトは興味深そうに岩を眺めている。
「大したものじゃないけど、重要なものって感じかな。なんにしても、ここを採掘する道具が……まあ、これでいいか」
そう言ってテオが取り出したのは、草原で集めた木の棒だった。
「えっ? さすがにそれで岩を削るのは難しいのでは?」
強度で負けてしまうため、先に木がボロボロになることは子どもでも容易に想像できることである。
「まあまあ、見ててよ。リザが練習していた方法を少し応用して……」
くすっとほほ笑んだテオドールはそのまま木の棒の先端を岩に向かって思い切り突き当てる。
ゴリッという重い音とともに削れたのは、岩のほうだった。
「うんうん、これならしばらくはもつね」
テオドールはそのまま手を止めずに岩の表面を削り取っていく。
「???」
なぜただの木の棒がこのような結果をもたらすのか、リザベルトは首を傾げながら凝視していく。
「ふふっ」
笑いながらその視線を感じているテオだったが、あえて答えは教えずに彼女の観察力を鍛えていた。
賢者と勇者の記憶があるテオドールにとって、何でも答えてあげようとすれば簡単なことだが、それはリザベルトの考える力を育てることはできないからだ。
「あっ、わかりました!」
しばらく作業を続けていると、リザベルトは答えに気づいて大きな声を出す。
「これはあれですね、魔力を棒の中に循環させるだけじゃなく、外側を魔力で覆って外と内側から強度をあげているんですね!」
「正解!」
木の棒の内外に魔力を流して強度をあげて、それによって岩を削っている。
このことに気づくだけの目を持っているかをテストしていた。
そして、これができるということは他のものにも全て応用できるということでもあった。
その事実に気づき始めたリザベルトはワクワクしている自分がいることに気づいていた。
借金:3600万
所持金:約30万
急展開に驚いてばかりだったリザベルトは目の前に広がる光景に思わず息をのむ。
空高くから見える景色は、リザベルトのこれまでの人生の中でもトップレベルに美しい眺めであり、感動でそれ以上の言葉を失った。
「ほら、まだ遠いけど岩山が少し見えてきたよ」
テオドールが指をさす方向には地上からは見えなかった景色が眼下に広がっており、二人が目指す場所も目を凝らすと薄っすらと見えてきていた。
「ほんとですね! こう見ると結構近いように見えます!」
ここまで来ると慣れてきたのか、リザベルトは嬉しそうに笑う。
高度も速度も安定しているがゆえに早く動いているように感じないが、かなりの速度で進んでおり、岩山までの距離もどんどん近づいている。
「どう? すごいでしょ? ただ風魔法を使うだけだと細かい調整が難しいから、風の精霊にお願いして僕らを風で包み込んで移動させてもらっているんだよ。これだけの速さで進んでいたら、すごい向かい風になるんだけど……」
その先をリザベルトに促すように視線を向けたテオドールがそこで言葉を止める。
「あっ、確かに少し風を感じる程度ですね!」
「そうそう、これも精霊が風の流れを変えて、僕たちが向かい風を受けないようにしてくれているんだよ!」
「ふわあ……」
テオドールは簡単にそう言ってのけたが、リザベルトはこれまでそんな人物に出会ったことはなかった。
様々な属性に精霊が宿っているという話はリザベルトも聞いたことがあったが、テオドールのように自在に精霊の力を使いこなすという話は初耳だった。
精霊というのは気まぐれで自身のことを高位な存在だと思っているために人に仕えたり、力を貸したりするというのはとても珍しい。
改めてテオドールのすごさを感じながらリザベルトは下へと視線を下ろす。
地上には魔物や動物の姿、それに馬車で移動している冒険者などの姿が見える。
試しにテオドールが手を振ってみるが、距離があるのと上空に人がいると思わないため、気づく様子はなかった。
景色を楽しみながらの旅路、その所要時間はわずか半日。
「いやあ、ついたねえ。思ったより早くついてよかった」
地面に降り立ったテオドールは大きく伸びをしてから岩山を眺めて満足そうに頷いている。
「は、はい、確かに早く着きました……」
一方でリザベルトは慣れない飛空につかれたためか、うなだれながら、ぐったりとした様子でいる。
かなりの速度での移動だったが、それは彼女がこうなった原因ではなかった。
速度自体には徐々に慣れて、風景を楽しむ余裕すら出ていた。
「はは、ごめんね。ついつい調子にのって色々やらせちゃったよ」
そんな彼女を見たテオドールは少し悪いことをしたな、と軽く笑いながら謝る。
リザベルトがぐったりとした原因――楽しい空の旅の途中にテオドールからの指導が入っていたのだ。
「い、いえ、すごくいい練習になりましたので。実際の戦闘ともなれば、落ち着いた状況では行動できませんから」
移動中は揺れがあり、完全に落ち着ける状況ではなかったが、その状況でリザベルトは矢で離れた場所にいる魔物を倒していた。
自分の意志で動いている状況ではない。
その場にあって上空から、風の抵抗があるにも関わらず、動いている魔物を的確に倒す訓練は今後にも生きるものだと考えていた。
「うんうん、最初は外していたけどだんだん命中するようになっていたよね。木の棒への魔力通しも上手になったし」
魔物が見当たらない時には魔力を木の棒へ流す訓練を続けていた。
そのため、リザの習熟度は疲労度とともにかなり上がっていた。
「さて、とにもかくにも目的地についたから山の散策に行こうかな。リザは入り口のあたりで休んでいてもいいよ」
ここまで頑張ってくれた彼女を気遣ってテオドールは休憩を促す。
「いえ、ついて行きます!」
しかし、彼女はこの場所でテオドールが何をするのか、それを目に焼き付けておきたいと思っているため、力強く同行を希望する。
「そっか……うん、じゃあ少しゆっくりみていこう。色々と調査の必要もあるから、それくらいのほうがいいかもしれない。よし、じゃあ出発だ!」
テオドールは彼女の気持ちを尊重して進む。
しかし、疲労を考えて少しペースを落としている。
「ありがとうございます!」
その配慮を感じ取ったリザベルトは、笑顔になって礼を言いながら気合を入れ直していた。
岩山とあってあちこちに大小さまざまな形の石がゴロゴロと転がり、足場はあまりよくない。
「さて、それでは岩山の散策を……」
テオドールは歩みを進めながらも、複数の魔力を張り巡らせて周囲を探っていく。
足先から土の魔力を流して地中を探り、同時に風の魔力を張り巡らせて魔物の居場所などを探っていた。
「す、すごい」
ここまでの訓練で魔力の扱いの難しさを思い知ったリザベルトは、魔力を細かく使い分けている彼の魔力操作能力の高さに驚いている。
「うーん、まずはこれかな」
先行して歩くテオドールは周囲に警戒しながらある一つの岩に目を止めた。
まだ岩山の入り口から少し進んだ場所であり、何かがあるとも思えなかったが彼は足を止めて大きな岩に手をあてていた。
「この岩の中になにかあるんですか?」
鉱石など希少なものを発見したのかと、リザベルトは興味深そうに岩を眺めている。
「大したものじゃないけど、重要なものって感じかな。なんにしても、ここを採掘する道具が……まあ、これでいいか」
そう言ってテオが取り出したのは、草原で集めた木の棒だった。
「えっ? さすがにそれで岩を削るのは難しいのでは?」
強度で負けてしまうため、先に木がボロボロになることは子どもでも容易に想像できることである。
「まあまあ、見ててよ。リザが練習していた方法を少し応用して……」
くすっとほほ笑んだテオドールはそのまま木の棒の先端を岩に向かって思い切り突き当てる。
ゴリッという重い音とともに削れたのは、岩のほうだった。
「うんうん、これならしばらくはもつね」
テオドールはそのまま手を止めずに岩の表面を削り取っていく。
「???」
なぜただの木の棒がこのような結果をもたらすのか、リザベルトは首を傾げながら凝視していく。
「ふふっ」
笑いながらその視線を感じているテオだったが、あえて答えは教えずに彼女の観察力を鍛えていた。
賢者と勇者の記憶があるテオドールにとって、何でも答えてあげようとすれば簡単なことだが、それはリザベルトの考える力を育てることはできないからだ。
「あっ、わかりました!」
しばらく作業を続けていると、リザベルトは答えに気づいて大きな声を出す。
「これはあれですね、魔力を棒の中に循環させるだけじゃなく、外側を魔力で覆って外と内側から強度をあげているんですね!」
「正解!」
木の棒の内外に魔力を流して強度をあげて、それによって岩を削っている。
このことに気づくだけの目を持っているかをテストしていた。
そして、これができるということは他のものにも全て応用できるということでもあった。
その事実に気づき始めたリザベルトはワクワクしている自分がいることに気づいていた。
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