鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ

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第十六話

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 翌朝、ミリエルが目覚めるとユーゴの姿が見当たらない。

「どこへ行ったのかしら?」

 ベッドから降りるとミリエルは小屋の中を、そして小屋の外を確認する。


 しかし、そのどちらにもいないため、ミリエルは隣に併設された作業小屋を覗くことにする。


「ん? あぁ、起きたのか。準備はできたぞ」

 ユーゴが作業をしている近くのテーブルには、ポーションが百個近く並んでいる。


「こ、こんなに!? 一体、いつから作ってたの?」

 自分が寝ている間に、これだけの数のポーションが作られるとは思ってもみなかったため、ミリエルは目を丸くして質問する。


「いや、少し前に起きて作ってただけさ。よく見てみるといい、前に納品したのとは別物だから」

 ユーゴは並んでいるポーションのうちの一本をミリエルに放り投げる。


「わ、わわわ、も、もう! 危ないじゃないの! それに、代わりなんて……あれ? もしかして、薄い?」

 なんとかキャッチしたそれをまじまじと眺めてみると、色が薄いことに気づく。


「そのとおり、効果が強すぎるからみんながこぞって買いにくる。だったら、効果を薄めたものだけ並べておけばいい」

 これで解決だろ? とドヤ顔のユーゴ。


「えっ? いやいや、そんなことをしたら使った時にばれちゃうじゃない? それに、効果が弱かったら最初に売ってたやつはどうした! って怒鳴りこまれるわよ……」

 大量の客が押し寄せてきた状況を思い出してミリエルは震える。


「その場合は、もともとこれでしたよ? 何か勘違いされてるんじゃ? って返事をする。もしくは、作成に必要な素材が手に入らないからもう作れない、作り方や必要な素材は企業秘密、と作った者に言われている。とでも言ってやればいい」

 ユーゴはここに至って、自分の存在を匂わせることを提案する。


「そんなこと言ってもいいの? もし、ユーゴが作ってるってばれたりしたら……」

 ミリエルはこれまで、ユーゴのことは一度も口にしたことがなく、ポーションに関しても別の人間が納品したものだとも口にしてこなかった。


「まあ、誰か作ってるやつはいると悟ったとしても、俺にまでたどり着けるやつもそうそういないだろ。それに、ミリエル……秘密は守れるか?」

 これまで頑なにユーゴの情報を漏らさなかったことから信頼はしていたが、あえて確認をする。


「もちろんよ。エルフは約束を守る種族よ――それこそ命をかけることもあるくらいに。ポーションに関しても言わないつもりだったし、これからユーゴが話すことも絶対に漏らさないわ」

 強い覚悟を持った目で約束するミリエル。彼女の雰囲気は真剣そのものだった。


「それじゃあ、よく見てろよ……」

 ユーゴは、たくさん並んだポーションに向けて手を掲げるとそれらを全て空間魔法で格納する。


「――えっ?」

 ミリエルの口から漏れたのは、その小さな驚きの声だけだった。


 しかし、これは状況がわかっていないだけであって、驚きの波はあとからやってくる。

「えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇええぇええ!?」

 ミリエルの声が作業小屋の中だけにとどまらず、小屋の外の森にまで響き渡る。


「……落ち着いたか?」

 大きな声を出したミリエルが徐々に状況を把握してきたため、ユーゴが問いかける。


「え、えぇ……今のって何をしたの?」

 手をかざしただけで目の前にある物体が消えるなどという現象は聞いたことがなかったため、ミリエルは何をやったのかを質問する。


「今のは、空間魔法だ。俺以外に使い手がいるのかは知らない」

 シンプルにそれだけ答えるユーゴは大したことはしていないといった様子だ。


「ちょ、ちょっと待って! 空間魔法? そんなの聞いたこと……あるけど、ずっと昔の文献で少し見たことがあるくらいよ?」

 あり得ない者を見たように混乱しているミリエルは記憶をたどる。


 彼女の故郷であるエルフの里には魔法に関する多くの文献が存在する。

 その中には一般的な魔法だけでなく、使われなくなった魔法や、既に使い手が存在しなくなった魔法などについて書いてある本もある。


 ミリエルが読んだ本はそんな本の一冊であり、空間魔法についての記述も数行あった。


「なるほど、この魔法はいまや失われた魔法ってことか」

 逆に知らないなら、使っても大丈夫なんじゃないか? などとユーゴは楽観的な考えを持つ。


「そ、そんな簡単に……でも、すごいわね。たしかにこれならユーゴが納品してるってばれないかもしれないわ。マジックバッグを持っているようにも見えないし」

 最初は驚いていたミリエルもユーゴのすごさに納得し始めている。


 納品するとなると、大量の商品をもって店を訪ねる必要がある。

 しかし、これだけの量を手ぶらで持ってくるとは誰も想像できないため、まさかユーゴが納品するとは気づかないはず。そんなことをミリエルが納得しているが、ユーゴは何かを考え込んでいた。


「マジックバッグは今でもあるのか」

 その呟きは独り言だったが、ミリエルの耳に届いていた。


「えぇ、そうは言ってもこれほどの量のポーションが入るとなるとなかなか手に入らないかもしれないわね」

「……もしかして、マジックバッグを作る職人っていないのか?」

 その言葉にミリエルが再び目を丸くする。


「……えっ? マジックバッグって作れるの? てっきり現存するものだけしかないと思ってたわ。あとは稀にダンジョンで見つかることがあるとかって噂を聞いたことが……」

 ミリエルは思い出すように口元に手をやりながらそう言った。

 長命である彼女であってもこれ以上マジックバッグに関して思い当たることはなかった。


 これもユーゴにとってはショッキングな情報だった。

 ユーゴが賢者だった頃からマジックバッグ職人は確かに少なかったが、それでも専門の職人は何人かいた。

 その技術が途絶えてしまったということはとても残念なことだった。


「……まあ、これだけの時間が経過すればそうもなるか。それよりも、とりあえずあのポーションを店で売ることでなんとかしのごう。三十本しか出回ってないから、噂レベルで止まってくれることを願おう」

「……えぇ、きっとたくさん来ると思うけど、ユーゴが協力してくれたんだからなんとか乗り切ってみせるわ」

 逃げまどっていた頃のミリエルの姿はなく、元気が戻っている様子だった。


 ユーゴが用意した朝食を食べてから二人はミリエルの店に向かった。


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