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第十五話

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 ユーゴは冒険者ギルドを出ると、ぶらぶらと街を歩いていく。

 すると、前方から走ってくる女性の姿があった。


「ミリエル?」

 まだまだ距離が離れているが、ユーゴは走ってくるのが錬金術師のミリエルだと把握する。


「いたああああ!」

 そして、やってくる彼女もユーゴのことが見えていた。


 距離が縮まるが、いっこうに速度を落とす様子がないミリエルにユーゴは首を傾げる。

しかし、その理由は彼女の後方を見ることで明らかとなる。


「っ……逃げて!」

 そのままの勢いでユーゴの腕をとると、ユーゴを引っ張りながら走っていく。

「おいおい、一体何があったんだ?」

 現状に対する説明を求めつつも、彼女の速度に合わせて並走するユーゴ。


「話はあとで! 今はあの人たちから逃げないと!」

 逃亡していることは見てわかっていたが、追いかけている者たちは男性も女性も、人も獣人も、鎧を身に着けている者も、ローブを纏っている者もいる。

 統一感がないため、一体どんな集団に追いかけられているのかとユーゴは走りながらも再度首を傾げる。


「とりあえず逃げてるのはわかった……少し急ぐぞ」

「きゃっ」

 ユーゴはミリエルをひょいっと抱きかかえると、身体強化の魔法を発動し前方へ跳躍する。

 強く蹴られた地面はユーゴの足の形に陥没して、二人は一気に集団との距離を引き離す。


 それを数度繰り返したところで、右に飛んで別の道に入って相手の視界から姿を消した。


「しゅ、しゅごい!」

 ものすごい勢いであるため、感想を口にするミリエルはうまく舌が回っていない様子だった。


「もうワンアクション加えておこう。しっかり掴まっていろよ!」

 ユーゴは更に移動して狭い路地に入り、壁を駆け上がって屋根の上へと登っていく。

「きゃああ!」

 悲鳴をあげるミリエル。しかし、自分が追われている立場だと理解しているため、やめてとは言わずに、必死にしがみついてそれに耐える。


 更にそこから街を囲む外壁を飛び越えて地面に着地した。


「ふう、ここまでくれば大丈夫だろ。――ミリエル、大丈夫か?」

 ユーゴは声をかけながらミリエルを下ろす。


「う、うぅ、まだちょっとぐるぐるするけど、なんとか大丈夫よ……」

 先ほどまでの移動速度はこれまでにミリエルが経験したことのないものであり、身体に負担がかかって少しヨロヨロしていた。


「悪かった。でも、あいつらすごい勢いだったからこれくらいしないと逃げられないと思ってな。それにしても、ここじゃ落ち着いて話ができない……一旦俺の家に行こう」

「えっ!? ユーゴの家ってこのあたりにあるの?」

 ここ最近になってユーゴを知ったミリエル。そのため、ユーゴは宿などに滞在している冒険者なのかと思っていた。


「あっ、でもそうよね。そうでもなきゃポーション作れる場所がないわよね。それじゃ、申し訳ないけど連れて行ってもらえるかしら? ……って、わわわ! ま、また抱っこするの!?」

 近くにあるものだと思ったミリエルが何気なく言うが、実際はかなり距離があるため、ユーゴが再び彼女を抱きかかえる。


「あぁ、のんびり歩いていたら時間がかかってしかたないからな。さあ、行くぞ!」

 ユーゴはいつも自分が街にやってくるの同じように低空飛行で街を離れて、自分の家がある森へと飛んでいく。


「わああああ! な、なによこれえええ! こんな魔法知らないわよ!」

 魔法が得意と言われるエルフ族のミリエルだったが、見たことのない魔法を使うユーゴに驚いていた。


「とりあえず、お互いの疑問は俺の家についてからにしよう。今は喋らないほうがいい、舌を噛むぞ」

 それだけ言うと更に速度をあげて、自分のうちを目指していく。


 小屋に到着した頃には、ミリエルはぜーぜーと呼吸を乱していた。


「お疲れ、ほらこの水でも飲むといい」

 ミリエルは木のカップを受け取ると、注がれた水を一気に飲んでいく。


「おぉ、いい飲みっぷりだな……もう一杯飲むか?」

「お願い」

 勢いよく飲み干し、空になったカップへとユーゴは水を注いでいく。


「はあ、やっと落ち着いたわ……」

 そして、それをも飲み干すとミリエルは少し落ち着いた様子で、椅子の背もたれに体重を預ける。


「それはよかった。それで、一体何があったんだ?」

 互いに質問を抱えている中、ユーゴが先手をとる。


「ふう、そうね。ちゃんと説明しないと……ユーゴが持ち込んだポーションなんだけど、あれ全部売れたのよ」

「全部!?」

 まさか、それほどの勢いで売れると思っていなかったためユーゴは大きな声を出してしまう。


「えぇ、実際に使った人が何人かいて、その効果についての噂が一気に広まったらしいの。それで、店にたくさんの冒険者が押しかけてきて、もっと出せって言われて……」

 そんな反応になってしまうほど、ユーゴの作ったポーションは優秀なものだった。


「なるほど……でも、断ったんだろ? 大量納品はしないことになったし……」

 その問いかけに、ミリエルは神妙な面持ちで頷く。


「そう言ったし、入荷もいつになるかわからないって言ったのよ? でも、信じてくれなくてどんどん詰めかけてきて、更には領主さんのとこの騎士団までやってきて、ポーションを譲ってほしいって……」

 徐々に声がトーンダウンしていき、うつむき加減で語るミリエルを見て、ユーゴは大きくため息つきながら顔を手で覆う。


 可能性はあったが、そこまで酷いことになるとは二人とも予想していなかった。


「それで、どうやって逃げ出してきたんだ?」

 大勢に囲まれた中、ミリエルがどうやって脱出してきたのか? ユーゴにはそれが疑問だった。


「えぇっとね、外にストックのポーションがあるって言って店を出て、最初はゆっくり歩いて、そこから思い切り走って逃げたの」

 他の場所にあるといえば、それはミリエルを通さないわけにはいかない。


「なるほどな。それにしても、たかだかポーションから大きな騒ぎになったもんだなあ。なんにせよ、それじゃあ仕事にならなくて困るだろ」

 ユーゴに問いにミリエルは声なく、ただこくんと頷く。


「だったら、俺に考えがある。とりあえず今日は寝よう」

 自信のあるユーゴの言葉を聞いてミリエルはがばっと顔をあげる。そこには明日が楽しみだと笑うユーゴの姿があった。
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