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第十七話

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 店を離れた場所で監視している人物の姿があったため、ミリエルが用意しておいた隠し通路を通って店に戻って行く。


「こんな通路があるとはなあ」

 ユーゴは感心八割、呆れ二割でそんなことをつぶやく。


「姿を変えないといけないくらいには自分が危険な状況にあると思っているから、これくらいの準備はしておかないとなのよ。よいしょっと」

 店につながる扉を開けて入っていく。


「ポーションはどこに置けばいい?」

 扉がつながっていた先は倉庫であり、大量の物資が所狭しと置いてあるためどうしたものかと周囲を見ていた。


「そうねえ、ここじゃ置き場所がないから……あっちにいきましょう」

 ミリエルが案内したのは、店舗手前だった。


「ここの棚にポーション置いてもらっていいかな? お店のほうは……外から見えちゃうから」

 姿が見えないように、ゆっくりと外に目を向けると窓の外から中を伺っている者がいる。恐らくはこの店の出入りを確認するためである。


「なら、少しちょいちょいっと」

 ユーゴは店を魔力で包んでいく。使う魔法は認識阻害魔法。


「これで大丈夫だ、外からは中が見えないようになっている」

 使っているのはミリエルが老婆に見えるようにしているものと系統は同じだったが、規模があきらかに違うため、ミリエルは何も聞かないことにする。


「……じゃあ、静かに並べてみましょう」

 ユーゴが取り出したポーション(薄)を店舗に陳列していく。並べ終わった頃にはちょうどいつものオープン時間が近づいていた。


「ふう、ユーゴのおかげでなんとか陳列が終わったわ。名前と値札をつけて、あとはオープンするだけね」

 やや緊張した表情のミリエルの肩にユーゴがポンッと手を置く。


「ミリエル、大丈夫だ。他にも手は打っておくから、ミリエルは毅然とした態度でいつものように接客すればいいさ。それじゃ俺は隠し通路から出て行く。俺が出て、少ししたら店をあけてくれ」

 軽い調子で言うと、ユーゴは先ほど通ってきた道を戻って行く。


「あっ……うん、私は私の仕事を頑張ろう」

 素早い動きで行ってしまったユーゴの背中を一瞬追いすがろうとするが、彼の言葉を思い出して気合を入れると開店の準備を進めていく。


 ユーゴが店を出て数分してから、ミリエルは店の扉を開けて札をかけ替える。

 それを確認すると、周囲で伺っていた者たちが慌てて店に詰めかけてくる。


「そうなるわよね……いつものように、いつものように」

 ユーゴに言われた言葉を繰り返し呟いて、平静を取り戻しいつもの老婆の自分をイメージして、深呼吸をする。


「ミリエル婆さん! 例のポーションを売ってくれ! 全部買う!」

「いや、私が買う!」

「俺に売ってくれ!」

 次々に声をかけてくる男たちにミリエルは落ち着いて一つ息を吐き出す。


「ふう、ポーションならそこの棚に置いてあるから欲しいだけカウンターに持ってくるとええよ」

 老婆の姿、老婆の言葉で対応するミリエル。


 棚に集合する男たち。

 名前も値札も確認せずに大量にかき集めて、それをカウンターに持ってくる。

 ミリエルは特に大きな反応はせずに、本数から値段を計算して精算をする。


 動揺はせずに、ただ彼らに対応する。心の中でいつものようにと呟きながら、ただ黙々と仕事を行っていく。


 男たちは満足した顔で店を出て行く。全てを独占というわけにはいかないが、それでも効果の高いポーションを多く手に入れることができたと喜んでいるようだった。

 命令で買い物に来た者も、これで上の者を納得させられるだろうと踏んでいるようだった。


 しかし、それでも客は次々に訪れ、ポーションを求めてくる。

 最初のうちは口頭で説明していたミリエルだったが、紙にポーション売り切れを記入して店の入り口に張り付ける。


 その後はそれを見た者が項垂れて店をあとにしていく。


「ふう、これで何とかなったわね。それにしてもだんだん店を訪れる人が少なくなったようだけど、売り切れが広まったのかしら?」

 ミリエルは入り口で首を傾げながら外の様子を伺う。


 オープンしてすぐは人が殺到したが、昼どきになった頃にはほとんど客が来なくなっていた。


「少し落ち着いたみたいだな」

 隠し通路を通ってから姿を消していたユーゴがミリエルに声をかける。


「あら、ユーゴ。おかげでなんとかなったわ。数があったおかげで最初に来たお客は満足していったし、それ以降は徐々に来店する客が少なくなってきたのよ」

 ユーゴが何かしてくれたんでしょ? と笑顔のミリエル。


「それはよかった。実は数本だけポーションを確保しておいて、それを持って冒険者ギルドに行ってきたんだよ。そこで少し噂を流してきた」

 ポーションを買ってみたけど、聞いていたのと違う。確かに効果は高いが、そこまで特別じゃない。噂を信じて馬鹿を見た。

 そんな話をユーゴは流してきた。


 もちろんただ噂を流しただけではなく、極弱い魅了の魔法を使いながら信じられるように。

 それによって、話を聞いた者はユーゴの話を信じて、その噂を仲間や友達や知り合いに流していった。その結果、少人数が言うとんでもない効果のポーションという噂は消えていき、ユーゴの話に上書きされた。


「やっぱりユーゴってすごいわね。ポーションもそうだけど、見せてもらった色々、それに今回の噂操作に関しても……一体何者なの?」

 エルフの自分が知らない魔法を使うユーゴ。


 ただの冒険者でも、ただの魔法使いでも、ただの錬金術師でもない。

 そんなユーゴの正体は一体なんなのか? ミリエルはそれが気になっていた。


「あー、まあそれはいつか話す機会があったらな」

 今はそれを言う段階じゃない。それがユーゴの考え。

 しばしの沈黙。


「……わかった、聞かないわ。でも、言える時になったら話してね。エルフは長生きだから、ずっと待つわよ」

 ミリエルはウインクをして、茶目っ気のある笑顔でそう言うと店の中に戻って行った。
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