24 / 38
第二十四話
しおりを挟む
「えっと、グレイさん。その、査定をお願いできますか?」
レスティナはあまりの量の素材を見て、言いづらそうにグレイに質問する。
「……やります」
静かに、しかし力強い返事をするグレイ。その視線は周囲で働いていた素材担当職員を見ていた。
「みんな、やれますか?」
今度はグレイが問いかける。グレイは素材担当職員の中でもベテランにあたり、彼に仕事を仕込まれた職員も少なくない。
「もちろんです!」
「やります!」
「ほら、いそぐぞ!」
他の作業の手を止めて、わらわらと職員が集まってくる。
「ギルマス、ユーゴさん。少し時間がかかりますが、お任せ下さい。さあ、みんな取り掛かるぞ! まずは作業を説明します!」
グレイは真剣な表情で作業の説明を始めていく。
「ユーゴさん、ここは彼らに任せましょう。あれだけの量ですと、今日中にはちょっと……」
レスティナがそこまで言ったところで、グレイが話を止めて振り返る。
「明日までには全て終わらせます!」
その力強い宣言に職員全員の表情がさらに引き締まっていた。
「ということですので、明日寄って頂ければ査定額をお伝えできると思います。ちなみに購入額にご納得できない場合は、査定料としていくらか頂くことになりますのでご承知下さい」
これだけの量となれば、それくらいもらわれなければ見合わないだろうとユーゴは納得して頷く。
「それじゃあ、頼んだ」
ギルドを後にしたユーゴは、家に戻ることにする。
錬金術師のミリエル、鍛冶師のバームの店に寄ろうという考えもよぎったが、冒険者ギルドでのやりとりを誰かが見ていたかもしれないと考えると、街に残るのは得策ではないと帰宅を急ぐことにする。
冒険者ギルドを出るまでに探るような視線をいくつか感じるが、あえて人の多い場所を移動しながら徐々に気配を消すことで追跡を避けていく。
「中には勘のいいやつもいるみたいだな。それでも、俺を追跡するには実力不足だ」
ユーゴが街を出る頃には、全ての視線を振り払っておりいつもどおり誰にも気づかれることなく家に戻ることとなった。
家に戻ったユーゴは作業部屋に入って、残った素材の加工に取り掛かっていく。
素材の処理は綺麗に行ったものの、これをそのまま材料として使うことができるわけではないため 色々と処理が必要だった。
「まずはこれからだ」
メタルロックデーモンの皮膚。強固な素材であり、防具などにも使うことができるがさすがにそのまま使うのは難しい。
そのため、まずは使いやすいようにいくつかの小さなパーツに切り分けていく。
大きな一枚で使うことはほとんどしないので、こうやっておくことで必要な部位にだけ取り付けることができる。
黙々と切り分けの作業を行うユーゴ。
二体分だけだったので、作業は一時間もしない頃には終了する。
「続いて、こっちか……。あぁ、でもこっちをやるには炉が必要になるか」
簡易的に作った作業場では、小さな火をおこすくらいはできたが、高温の炉を用意するのはさすがに難しかった。
「仕方ない、明日バームに作業場を借りることにして今日は休むか」
明日は査定の結果を聞くという用事もあるため、もともと街には行く予定だった。そのことを考えると、もののついでにいいと思い片づけを始めていく。
切り分けた素材を魔倉庫に格納。使った道具の手入れをして、ひと通り片付け終わると簡単な食事をする。
それを終えたらいつもの通り、外に出て魔力の放出を行う。昨日作った結界の上に重ねて結界を張ることで厚くしていく。
魔力量の底上げは効果をあげており、結界を張ってもまだ余裕があった。
「こいつはすごいな」
ユーゴは改めて魔力増強の効果に驚いていた。
前回は結界を張って、温度を調節して完全に意識を失っていた。
だが、今はこのままひと戦闘しても十分戦えるほどの魔力が体内に存在しているのを感じる。
ユーゴは空気中の魔素を体内に取り込んで魔力を生成することができる。こちらの能力も効率化がなされていた。自分では意識していなかったが、魔力を枯渇させたことで身体が順応するようにと自然と魔力生成能力を高めていた。
「なんか、大したことしていないのに強くなれたな」
昔の記憶では、自分は世界でも最高峰の魔法の使い手であり。大賢者と呼ばれていた。自身でも、自分の力はこれ以上ないほどに鍛え上げられたと考えていた。
「井の中の蛙、大海を知らずとはこのことだな」
まだまだ自分の力には上限がないと知ったことで、そんな故事成語を思い出していた。
「されど空の深さを知る」
更にその続きを口にして、まさに今の自分だなと口元には笑みが浮かんでいた。
地力をあげるためにも、まだまだ魔法を使わないといけない。さて、どんな魔法を使う? 結界は張った。それを厚くもした。
「さあ、次はどうするか?」
あまり結界を強くしすぎても、もともと森に生息している生物にまで影響が出ても困る。かといって、強力な攻撃魔法を使うのも危険すぎる。
何か助けになるものがないかと、ユーゴは魔倉庫を起動して一覧を表示させる。
「魔力を消費するのにいいものは何かないものか……」
ジャンル別にしてあるため、確認しやすくなっているそれを順番に見ていくユーゴ。
スクロールさせていく中で、ふと指を止めた。
「魔石……」
呟いた言葉は、一覧に載っている昔手に入れた魔石を示していた。
レスティナはあまりの量の素材を見て、言いづらそうにグレイに質問する。
「……やります」
静かに、しかし力強い返事をするグレイ。その視線は周囲で働いていた素材担当職員を見ていた。
「みんな、やれますか?」
今度はグレイが問いかける。グレイは素材担当職員の中でもベテランにあたり、彼に仕事を仕込まれた職員も少なくない。
「もちろんです!」
「やります!」
「ほら、いそぐぞ!」
他の作業の手を止めて、わらわらと職員が集まってくる。
「ギルマス、ユーゴさん。少し時間がかかりますが、お任せ下さい。さあ、みんな取り掛かるぞ! まずは作業を説明します!」
グレイは真剣な表情で作業の説明を始めていく。
「ユーゴさん、ここは彼らに任せましょう。あれだけの量ですと、今日中にはちょっと……」
レスティナがそこまで言ったところで、グレイが話を止めて振り返る。
「明日までには全て終わらせます!」
その力強い宣言に職員全員の表情がさらに引き締まっていた。
「ということですので、明日寄って頂ければ査定額をお伝えできると思います。ちなみに購入額にご納得できない場合は、査定料としていくらか頂くことになりますのでご承知下さい」
これだけの量となれば、それくらいもらわれなければ見合わないだろうとユーゴは納得して頷く。
「それじゃあ、頼んだ」
ギルドを後にしたユーゴは、家に戻ることにする。
錬金術師のミリエル、鍛冶師のバームの店に寄ろうという考えもよぎったが、冒険者ギルドでのやりとりを誰かが見ていたかもしれないと考えると、街に残るのは得策ではないと帰宅を急ぐことにする。
冒険者ギルドを出るまでに探るような視線をいくつか感じるが、あえて人の多い場所を移動しながら徐々に気配を消すことで追跡を避けていく。
「中には勘のいいやつもいるみたいだな。それでも、俺を追跡するには実力不足だ」
ユーゴが街を出る頃には、全ての視線を振り払っておりいつもどおり誰にも気づかれることなく家に戻ることとなった。
家に戻ったユーゴは作業部屋に入って、残った素材の加工に取り掛かっていく。
素材の処理は綺麗に行ったものの、これをそのまま材料として使うことができるわけではないため 色々と処理が必要だった。
「まずはこれからだ」
メタルロックデーモンの皮膚。強固な素材であり、防具などにも使うことができるがさすがにそのまま使うのは難しい。
そのため、まずは使いやすいようにいくつかの小さなパーツに切り分けていく。
大きな一枚で使うことはほとんどしないので、こうやっておくことで必要な部位にだけ取り付けることができる。
黙々と切り分けの作業を行うユーゴ。
二体分だけだったので、作業は一時間もしない頃には終了する。
「続いて、こっちか……。あぁ、でもこっちをやるには炉が必要になるか」
簡易的に作った作業場では、小さな火をおこすくらいはできたが、高温の炉を用意するのはさすがに難しかった。
「仕方ない、明日バームに作業場を借りることにして今日は休むか」
明日は査定の結果を聞くという用事もあるため、もともと街には行く予定だった。そのことを考えると、もののついでにいいと思い片づけを始めていく。
切り分けた素材を魔倉庫に格納。使った道具の手入れをして、ひと通り片付け終わると簡単な食事をする。
それを終えたらいつもの通り、外に出て魔力の放出を行う。昨日作った結界の上に重ねて結界を張ることで厚くしていく。
魔力量の底上げは効果をあげており、結界を張ってもまだ余裕があった。
「こいつはすごいな」
ユーゴは改めて魔力増強の効果に驚いていた。
前回は結界を張って、温度を調節して完全に意識を失っていた。
だが、今はこのままひと戦闘しても十分戦えるほどの魔力が体内に存在しているのを感じる。
ユーゴは空気中の魔素を体内に取り込んで魔力を生成することができる。こちらの能力も効率化がなされていた。自分では意識していなかったが、魔力を枯渇させたことで身体が順応するようにと自然と魔力生成能力を高めていた。
「なんか、大したことしていないのに強くなれたな」
昔の記憶では、自分は世界でも最高峰の魔法の使い手であり。大賢者と呼ばれていた。自身でも、自分の力はこれ以上ないほどに鍛え上げられたと考えていた。
「井の中の蛙、大海を知らずとはこのことだな」
まだまだ自分の力には上限がないと知ったことで、そんな故事成語を思い出していた。
「されど空の深さを知る」
更にその続きを口にして、まさに今の自分だなと口元には笑みが浮かんでいた。
地力をあげるためにも、まだまだ魔法を使わないといけない。さて、どんな魔法を使う? 結界は張った。それを厚くもした。
「さあ、次はどうするか?」
あまり結界を強くしすぎても、もともと森に生息している生物にまで影響が出ても困る。かといって、強力な攻撃魔法を使うのも危険すぎる。
何か助けになるものがないかと、ユーゴは魔倉庫を起動して一覧を表示させる。
「魔力を消費するのにいいものは何かないものか……」
ジャンル別にしてあるため、確認しやすくなっているそれを順番に見ていくユーゴ。
スクロールさせていく中で、ふと指を止めた。
「魔石……」
呟いた言葉は、一覧に載っている昔手に入れた魔石を示していた。
1
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる