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第二十三話
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部屋に入るとレスティナはお茶を用意し始める。
ユーゴはソファに座るよう言われたため、腰かけてレスティナのことを待っていた。
「お待たせしました。どうぞ」
そう言ってレスティナはテーブルに二人分の紅茶を並べると、自らも対面のソファに座る。
「ありがとう。それで何が聞きたいんだ?」
お茶に手をつけず、ユーゴは質問をする。
「単刀直入ですね。でも、話が早くて助かります。ユーゴさんは今回メタルロックデーモンの素材を持ちこまれましたね。どこで倒したんですか?」
素材の出所について尋ねるレスティナ。ユーゴが魔物を倒して手に入れたというのを確信しているようだった。
「……はあ、いいさ。正直に話すよ。この街の北東にある山の頂上であいつらに出くわして、倒して、そして素材を剥ぎ取った――以上だ」
ユーゴの言葉を受けてレスティナは神妙な顔つきになる。
「……あいつら、つまり複数倒されたということですね」
グレイにも二体分の素材を見せているため『あいつら』と複数形になったのは問題はない。
しかし、レスティナは更に一歩踏み込んで考えていた。
「ユーゴさんは何体のメタルロックデーモンを倒したんですか? ……あ、隠さないで下さい。あなたが相当な実力者であることはわかっています。さっきの部屋を覆っていた魔法。それに、私はこの部屋に入ってからずっとあなたのことを威圧していますが、涼しい顔をしています」
笑顔でレスティナに言われてからユーゴは自分が威圧されていることに気づく。
そして、これは失敗したなと顔をしかめる。
「わかったよ、降参。俺がうかつでした。俺はそれなりに魔法が使えるし、強い魔物とも戦ってきた。だから、少し威圧されたくらいだと受け流しちゃうんだよ。それで、俺が倒したメタルロックデーモンの数だったよな。正確な数はわからないが、数十は倒したと思う」
魔倉庫のデータを確認すればわかるが、レスティナが求めている答えは正確な数ではなく、ユーゴの実力の確認であるため、ざっくりとした数値を口にした。
「すうじゅっ……!」
思っていた以上の数であるため、レスティナは驚き立ち上がっていた。
「素材もその数だけある。いくつかは手元に残しておくとして、それ以外を買い取ってくれると助かる」
いつでも取り出せるとユーゴは自らのカバンをパンパンと軽くたたく。
「その、買取は是非お願いします。それだけの数があれば様々な用途に使えるのこちらとしてもすごく助かります」
驚きつつもギルドマスターとして、素材の入手は最優先事項であるため買取には前向きであることを話す。
しかし、彼女にはもう一つ確認しなければならないことがあった。
「それで、その、山のメタルロックデーモンですが……まだ残ってましたか?」
レスティナの予想では、ユーゴが倒した数は五以上十未満。聞きたかった情報は、山にはどれだけのメタルロックデーモンがいるのか? だった。
だが、ユーゴが倒した数を聞いた今となっては、今でもメタルロックデーモンは山に存在するのか? そちらが気にかかっていた。
「あー、どうだろうなあ。あいつらは山頂にいたんだが、一掃したからなあ……少なくとも山頂にはいないと思う。それから、山の登り、下りのどちらでも見かけなかった。それ以外の場所にいるなら、それはわからない」
つまるところ、ユーゴは山にメタルロックデーモンがいる可能性は少ないといっていた。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい! すぐ戻りますし、買取もさせてもらいますので、待っていて下さい!」
そう言い残してレスティナは部屋を飛び出して階下に走って行った。
それから数十分ののち、息をきらせたレスティナが戻ってくる。
「はあはあ、お、お待たせしました。買取の、はあはあ……お話をしましょう」
ユーゴはお茶のお代わりを注いで、レスティナに渡す。
少しぬるくなったそれを一気に飲み干すと、レスティナは一息ついてソファの背もたれに身体を預ける。
「ふう、落ち着きました。すみませんでした、メタルロックデーモンの存在が怪しいので依頼内容を訂正してきました。出発前にユーゴさんに会えてよかったです」
かなりの数を倒したユーゴ、そして倒したもの以外には見かけていない。この情報は最新のものであり、ギルドとしても、重要な情報だった。
「役にたったならよかった。それで、買い取ってくれるって話だけど……どこにだせばいい?」
ユーゴは本来の用事を果たしたいため、話を先に進めようとする。
「そうですねえ、かなりの数なんですよね?」
レスティナの確認に、ユーゴはゆっくりと深く頷く。
ごくりと息を呑むレスティナ。
「わかりました、下の倉庫に行きましょう。グレイさんも連れていきます」
先ほどまでの疲れは既にどこかに消えており、元気よく立ち上がると部屋を出て階段を下りていく。
「決めてからの動きが早いな……」
ユーゴも慌てて立ち上がると、レスティナに置いていかれまいとすぐに後を追いかけた。
下に行くと、グレイがいまかいまかと待ち構えており、落ち着かない様子だった。
「あっ、ギルマス」
そして、レスティナに気づき、声をかける。
「グレイさん、買取の査定をしてもらいたいのですが、倉庫にお願いします」
レスティナは返事を待たずにグレイの腕を引っ張って、倉庫へと向かって行く。倉庫はギルドの奥にある扉を出た先。つまり冒険者ギルドの裏手に建てられていた。
ガラガラと大きな音をたてて開かれる扉。
中に入ると、中央には大きなテーブルがいくつもあり、職員がそのうえで作業をしている。
室温は低く保たれており、素材が劣化しないように環境設定がなされていた。
「ユーゴさん、こちらの空いているテーブルに素材を出して下さい。買取対象のもの全てお願いします」
言われたユーゴは、一つ、二つ、三つ……と次々にメタルロックデーモンの素材を取り出してテーブルに並べていく。
二体分の素材はカバンに残し、それ以外を全て取り出した。
ユーゴの目の前にあるテーブルの上には素材の山ができ上がっていた。
ユーゴはソファに座るよう言われたため、腰かけてレスティナのことを待っていた。
「お待たせしました。どうぞ」
そう言ってレスティナはテーブルに二人分の紅茶を並べると、自らも対面のソファに座る。
「ありがとう。それで何が聞きたいんだ?」
お茶に手をつけず、ユーゴは質問をする。
「単刀直入ですね。でも、話が早くて助かります。ユーゴさんは今回メタルロックデーモンの素材を持ちこまれましたね。どこで倒したんですか?」
素材の出所について尋ねるレスティナ。ユーゴが魔物を倒して手に入れたというのを確信しているようだった。
「……はあ、いいさ。正直に話すよ。この街の北東にある山の頂上であいつらに出くわして、倒して、そして素材を剥ぎ取った――以上だ」
ユーゴの言葉を受けてレスティナは神妙な顔つきになる。
「……あいつら、つまり複数倒されたということですね」
グレイにも二体分の素材を見せているため『あいつら』と複数形になったのは問題はない。
しかし、レスティナは更に一歩踏み込んで考えていた。
「ユーゴさんは何体のメタルロックデーモンを倒したんですか? ……あ、隠さないで下さい。あなたが相当な実力者であることはわかっています。さっきの部屋を覆っていた魔法。それに、私はこの部屋に入ってからずっとあなたのことを威圧していますが、涼しい顔をしています」
笑顔でレスティナに言われてからユーゴは自分が威圧されていることに気づく。
そして、これは失敗したなと顔をしかめる。
「わかったよ、降参。俺がうかつでした。俺はそれなりに魔法が使えるし、強い魔物とも戦ってきた。だから、少し威圧されたくらいだと受け流しちゃうんだよ。それで、俺が倒したメタルロックデーモンの数だったよな。正確な数はわからないが、数十は倒したと思う」
魔倉庫のデータを確認すればわかるが、レスティナが求めている答えは正確な数ではなく、ユーゴの実力の確認であるため、ざっくりとした数値を口にした。
「すうじゅっ……!」
思っていた以上の数であるため、レスティナは驚き立ち上がっていた。
「素材もその数だけある。いくつかは手元に残しておくとして、それ以外を買い取ってくれると助かる」
いつでも取り出せるとユーゴは自らのカバンをパンパンと軽くたたく。
「その、買取は是非お願いします。それだけの数があれば様々な用途に使えるのこちらとしてもすごく助かります」
驚きつつもギルドマスターとして、素材の入手は最優先事項であるため買取には前向きであることを話す。
しかし、彼女にはもう一つ確認しなければならないことがあった。
「それで、その、山のメタルロックデーモンですが……まだ残ってましたか?」
レスティナの予想では、ユーゴが倒した数は五以上十未満。聞きたかった情報は、山にはどれだけのメタルロックデーモンがいるのか? だった。
だが、ユーゴが倒した数を聞いた今となっては、今でもメタルロックデーモンは山に存在するのか? そちらが気にかかっていた。
「あー、どうだろうなあ。あいつらは山頂にいたんだが、一掃したからなあ……少なくとも山頂にはいないと思う。それから、山の登り、下りのどちらでも見かけなかった。それ以外の場所にいるなら、それはわからない」
つまるところ、ユーゴは山にメタルロックデーモンがいる可能性は少ないといっていた。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい! すぐ戻りますし、買取もさせてもらいますので、待っていて下さい!」
そう言い残してレスティナは部屋を飛び出して階下に走って行った。
それから数十分ののち、息をきらせたレスティナが戻ってくる。
「はあはあ、お、お待たせしました。買取の、はあはあ……お話をしましょう」
ユーゴはお茶のお代わりを注いで、レスティナに渡す。
少しぬるくなったそれを一気に飲み干すと、レスティナは一息ついてソファの背もたれに身体を預ける。
「ふう、落ち着きました。すみませんでした、メタルロックデーモンの存在が怪しいので依頼内容を訂正してきました。出発前にユーゴさんに会えてよかったです」
かなりの数を倒したユーゴ、そして倒したもの以外には見かけていない。この情報は最新のものであり、ギルドとしても、重要な情報だった。
「役にたったならよかった。それで、買い取ってくれるって話だけど……どこにだせばいい?」
ユーゴは本来の用事を果たしたいため、話を先に進めようとする。
「そうですねえ、かなりの数なんですよね?」
レスティナの確認に、ユーゴはゆっくりと深く頷く。
ごくりと息を呑むレスティナ。
「わかりました、下の倉庫に行きましょう。グレイさんも連れていきます」
先ほどまでの疲れは既にどこかに消えており、元気よく立ち上がると部屋を出て階段を下りていく。
「決めてからの動きが早いな……」
ユーゴも慌てて立ち上がると、レスティナに置いていかれまいとすぐに後を追いかけた。
下に行くと、グレイがいまかいまかと待ち構えており、落ち着かない様子だった。
「あっ、ギルマス」
そして、レスティナに気づき、声をかける。
「グレイさん、買取の査定をしてもらいたいのですが、倉庫にお願いします」
レスティナは返事を待たずにグレイの腕を引っ張って、倉庫へと向かって行く。倉庫はギルドの奥にある扉を出た先。つまり冒険者ギルドの裏手に建てられていた。
ガラガラと大きな音をたてて開かれる扉。
中に入ると、中央には大きなテーブルがいくつもあり、職員がそのうえで作業をしている。
室温は低く保たれており、素材が劣化しないように環境設定がなされていた。
「ユーゴさん、こちらの空いているテーブルに素材を出して下さい。買取対象のもの全てお願いします」
言われたユーゴは、一つ、二つ、三つ……と次々にメタルロックデーモンの素材を取り出してテーブルに並べていく。
二体分の素材はカバンに残し、それ以外を全て取り出した。
ユーゴの目の前にあるテーブルの上には素材の山ができ上がっていた。
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