鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ

文字の大きさ
22 / 38

第二十二話

しおりを挟む
 二体分の素材だったが、皮膚は全て綺麗に剥がしており傷もほとんどない。

また、鉱石を含んだ身体の部分も置かれているため、これだけでもボリュームはある。


「しかも、全て品質がいいですね。剥がし方も完璧で、傷も恐らくは自然についたものだけのようです。こんなに見事なものは見たことがありませんよ!」

 グレイは興奮気味に素材鑑定を行っている。


「これなら買取してもらえるか?」

 外からは依頼の説明を行っている声が聞こえてくる。


 ユーゴは早くこの場を立ち去りたいと思っていた。

 説明を終えてメタルロックデーモンの討伐に出発して、現地に冒険者がたどり着いたら……――そう考えると、落ち着かない気分になる。 


「えぇ、もちろんです。これなら最高評価での買取になりますよ。さすがに表に持っていくわけにはいかないので、ここで買取手続きをしましょう。少々お待ち下さい」

 そう言うとグレイは部屋を出て行く。恐らくは手続きに必要な書類か、金か、魔道具かを取りに行ったものと思われる。


 その間ユーゴは椅子に座ってグレイが戻るのを待つことにする。

 時間に数分経過したところで再び扉が開かれる。


「やっと来たか……」

 そう言いながら扉へと視線を向けると、そこにはグレイの姿ではなく見覚えのない女性の姿があった。

 背はユーゴよりもだいぶ低い、恐らくは150cm程度。

 深い青い髪で肩のあたりで切りそろえられている。耳の形から察するに獣人であることがわかる。


 ユーゴは戸惑いながら軽く頭を下げる。この場所に来たということは恐らく冒険者ギルドの職員であることが予想できた。


「えっと、グレイ、さんかと思って勘違いを……」

 間違えて声をかけたことを説明するユーゴだったが、彼女は軽く頷いて返す。わかっているとでも言いたげな表情だった。


「急に来てごめんなさい。私の名前はレスティナ。グレイさんの、同僚になります。耳の形でわかりますかね? 犬の獣人です」

 自己紹介をするレスティナは、再度ニコリと笑顔を見せる。


 その柔らかい笑顔を見てユーゴは思う。


(この人、油断ならないな……)


「俺の名前はユーゴ。今日はちょっと買取をしてもらいたくて、グレイさんに査定をしてもらってます」

 ちなみに机の上に出ていた素材は、扉が開いた瞬間にカバンの中にしまっている。

 この部屋にやってくるのがグレイだけではない可能性を考慮にいれているがゆえの素早い判断だった。


「なるほど、机の上には何もないようですが一体なんの買取なんでしょうか?」

「それは……」

 素直に答えるかどうか逡巡すると、レスティナの後ろからグレイがやってくる。


「あぁ、先にいらっしゃっていたんですね。こちらがユーゴさんで、今回」

「メタルロックデーモンの素材を持ち込んだ方ですね」

 グレイの言葉の続きをレスティナが先回りして口にする。


 諦めに似たなにかを感じながらユーゴはやはりと心の中でつぶやく。


「なんだ、知ってたんですね。あんな質問をするから、てっきり知らないものだと思いましたよ」

 笑顔で、さわやかな口調でレスティナを口撃する。知っていたのに、あんな演技をしたのか? と。


「うふふ、先に聞いていたのをついつい忘れてしまいました。ごめんなさい」

 レスティナは含みのある笑顔でユーゴに謝罪する。


 どこか不穏な空気が流れていることに気づいたグレイ。

 なぜなのか考えた彼がとった行動。


「ユーゴさんは初めてですね。こちらは当ギルドのギルドマスターのレスティナと言います」

 それはレスティナをユーゴに紹介することだった。


「――なっ!?」

 驚いたのはユーゴではなくレスティナ。彼女はユーゴに自己紹介をした際に、あえて肩書を隠していた。

 ギルドマスターが相手となれば、硬くなってしまいちゃんとしたやりとりができないかもしれない。

 また、タイミングを考えて正体を明かせば効果的に言動を引き出せるかもしれない――レスティナはそんな風に考えていた。


「ははっ、グレイにはかなわないな。腹のうちを探りあっていたっていうのに、一気に場の空気を持っていかれたよ」

 驚くレスティナとは対照的にユーゴは笑みをこぼしていた。


 グレイは買取の話を進めたいだけである。

 そして、レスティナもユーゴを詰問したいわけではなく、メタルロックデーモンの素材を持ってきた彼に興味を持っただけであった。


「いつもの口調に戻そう。俺はユーゴ、今回メタルロックデーモンの素材を手に入れたから買い取ってもらいにきただけだ。ちなみに、メタルロックデーモンの討伐依頼交付のタイミングと被ったのは全くの偶然だ。まさかそんな騒ぎになっているとは思わなかったからな」

 ユーゴは砕けた口調で改めて状況を説明する。


 グレイが相槌として大きく頷いたことで、レスティナもユーゴの言葉を信じることにする。


「なるほど、そうでしたか。よければもう少し込み入った話をさせてもらってもいいですか?」

 これまでのやりとり、部屋を包んでいる魔法。ユーゴの態度。彼から薄っすらと感じる、うちに秘めている力。

 それらから判断して、ユーゴがただものではないとレスティナは判断する。


「わかった、場所を移すか?」

 誰でも出入りできるようなこの部屋で話を続けるのか? とユーゴが確認をする。


「そう、ですね。上の私の部屋に行きましょう。グレイさん、申し訳ありませんが買取の手続きはあとにして下さい」

 グレイは頷き二人に軽く頭を下げると、レスティナの指示に従って部屋をあとにした。


「さあ、こちらです。ギルドホールは盛り上がっているようですが、あまり見られないように上に行きましょう」

 ギルドマスターの部屋に招かれるともなると、特別な誰かなのか? と職員からも冒険者からも邪推されてしまうがゆえの提案だった。


「承知した」

 返事をして、ユーゴは先に部屋を出たレスティナのあとをついていく。

 気配遮断、そして魔法により認識阻害を使って周囲に気取られないように移動する様はまるで忍者のようであった。


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...