鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ

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第二十九話

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「ちょ、ちょっと待って下さい」

 ユーゴがミリエルに説明を求めようとすると、ガンズが会話に割って入ってくる。


「私が無理を言って……」

 そして、代わりに説明を始めようとするが、それを厳しい表情のユーゴが手で止める。


「俺はミリエルに説明を求めたんだ。あんたの話は次に聞くから少し待っていてくれ」

 ユーゴが話を聞こうとしているのは、あくまでミリエルであるため、いくら領主の息子といえど割り込まないように強い視線を向ける。


「うっ、す、すみません……」

 ガンズは大人しく引き下がるが、その様子を見てマックは面白く思っておらず、眉をピクリと動かしていた。


「それで、どういうことだ?」

「うぅ……えっと、彼の名前はガンズドロー。さっき言っていたように領主の息子で、うちの店にも良く顔を出す常連さん。特別な眼を持っていて、私の本当の姿がわかるの……」

 言いにくそうにしながらもまずミリエルは彼のことから説明を始める。


 ユーゴがチラリとガンズに視線を送ると、通常の目の中に輝きがあるのが見える。

「……なるほど、『浄眼』か。魔力の罠などを見抜く眼だな」

 確信を持った口ぶりで正体を口にするユーゴに、ミリエルもガンズもマックも大きく目を見開き、驚いていた。


「それで? 続きを話してくれ」

「あ、ごめんなさい。私の店で売っていた例のポーション、えーっと最近納品されたほうね。アレを買っていったのだけど、それでは効果が弱かったらしいのよ」

 その説明にユーゴは無言でいる。

 暗にそれでは説明不足だと、目で訴えていた。


「あ、あの、発言よろしいですか……?」

 見かねてガンズが声をかけ、ユーゴは少し考えた後にゆっくりと頷く。


「ありがとうございます。ミリエルさんのお店で買ったポーションですが、使った先は私の娘です」

「娘に」

 娘と聞いて、ユーゴの表情が少し緩む。


「はい、娘は長らく高熱を出していまして、原因不明の奇病で医者も回復士もお手上げだったのです。しかし、ミリエルさんの店に効果の高いポーションが入荷したという噂を聞いて早速購入して娘に飲ませてみたのです」

 ガンズが娘を思いながら語るその姿は子を心から想う親の表情だ。


 ここでユーゴのポーションの話が出てくる。

 しかし、最初のポーションは一瞬でなくなり、ミリエルの話も総合すると恐らく薄めたポーションのことを指している。


「――すると、娘の熱が下がり症状が落ち着きました」

 ずっと調子が良くならずに誰もがお手上げだった娘の病状を落ち着けた時のことを思い出してガンズは優しく微笑む。

 ここまでを聞いて、ユーゴは色々と予想をたてていた。


「なるほど、しかしすぐに症状がぶり返して、もっとポーションを買おうと店に行ったけど在庫はなし。事情を説明すると、もっと効果の高いポーションを知っているとミリエルが話した。ミリエルが作ることはできないから、作成者である俺のことを話さざるを得ない」

 ここまでの話に、ミリエルの表情はどんどんと曇っていく。


「ミリエルは自分が話をしてくると言ったが、ガンズがどうしても連れて行って欲しいと頼んだ。領主の息子でもあるし、常連でもあるし、今回は娘のためという緊急事態――その申し出を受け入れて、俺の小屋まで案内した……そんなところか」

 全て言い当てられたため、ミリエルはがっくりと項垂れてしまう。


「す、全てお分かりとは、さすがの慧眼」

 驚きながらもガンズはユーゴを褒めたたえる。


「はあ……これくらいは簡単にわかるだろ。そもそも俺のことは明かさない約束だったんだ。それを連れてきたってことは、あんたが強引に頼んだんだろ? ことが事だけにというのは理解できるが、それでも約束を破らせたことにはかわりない」

 いくら領主の息子だからといって、おいそれとここまで連れてきてしまったことをユーゴは快く思っていなかった。

 腕を組んで硬い表情を崩さない。


「――おい、貴様! ガンズ様に対してその態度はなんだ!」

 ここにきてずっと黙っていたマックは我慢の限界を迎えたのか、いきなり声を荒げて苛立ちを露わにした。


「おい、マックやめるんだ」

「いえ、言わせて下さい!」

 ガンズが止めようとするが、マックの怒りを止めることはできない。


「アーシャ様はご病気なんだ! さっさと貴様が持っているポーションを出せ!」

 剣を抜き、ユーゴに向けるマック。一見すると魔導士にも見えるユーゴ相手ならば剣で脅しが効くと判断したようだった。


「やめるんだマック!」

「やめて!」

 そんなことをしては駄目だとガンズとミリエルが止めるが、ユーゴをギリッと睨むマックは剣を下ろすつもりはない。


 緊迫した空気が漂う中、危険を感じていないのはユーゴただ一人であり、彼はどうしたものかとのんきに考えていた。


「ピーピピー!」

「ガウガウ!」

「ブルルルル!」

 しかし、ユーゴの眷属の三匹はこれを主人の危機だと判断して飛び出し、マックに体当たりしようとする。


「くそっ! 魔物ふぜいが!」

 突如現れた魔物たちに向かって苛立ち紛れに剣を振り払うマック。


 素早い動きの狼ヴォルと猪ワルボはそれを避けるが、毛玉のポムはその攻撃を喰らってしまい、血を出して吹き飛んでしまう。


「ふん!! 見たか、生意気に俺にかかってくるからこんなことになるんだぞ! ……っ!」

 吹き飛んだポムに剣をむけて鼻を鳴らしながらそうのたまうマック。すっかり苛立ちに気が大きくなっているようだ。

 だが、次の瞬間、彼は眉一つ動かせないほどの威圧に襲われた。


「――何を、してる?」

 地の深くそこから響くような低音でそう呟いたユーゴはマックの剣を掴んでいる。

「……はっ? えっ?」

 いつの間にこんな状況になったのか理解できないマックは力の入らない体を震わせ、間抜けな声を出してしまう。

 それを認識したと同時にマックは身体から力が抜けてガクリと膝をついてしまう。


 近くにいるミリエルとガンズはなんとか立ったままでいられたが、背筋が凍り付くほどの寒気がするらしく身体をさすっている。


「ヴォル、ワルボこれを振りかけてやれ」

 冷めた目をして手を離したユーゴはどこからかポーションを取り出して二人に渡す。

 魔物たちはユーゴに怯えることなく器用に受け取ると協力してポムの身体に振りかけていた。


 彼がつかんでいたはずの剣は既に刀身がボロボロに崩れ去っていた。


「――おい、マックと言ったな。あいつらがお前にかかっていったのは、お前がうちに急に押し掛けたうえにろくに挨拶もせず、怒りに任せて剣を抜いて俺に向けたからだ。こいつらは俺が危険だと考えて助けにきたんだ。だが、あいつらはお前に体当たりをする程度の攻撃しかしようとしていなかった。そんなあいつらをお前は斬った」

 魔力がこめられたユーゴの言葉はまるで武器のようで、一言一言がマックの身体を打ち付けているかのようであり、マックは反応することすらできずにいる。


「……あ、あの、あの子たちはユーゴさんの?」

 威圧交じりの中、どういった関係なのかとミリエルがなんとか口を開く。


「俺の眷属だ。名を与え、魔力を与え、契約をした――つまりは俺の家族みたいなものだ。家族である俺を守ろうとしたあいつらを斬った。さて、マックはガンズのとこの騎士だったか……そいつに家族を斬られたわけだが、俺に何か頼みがあるんだったな?」

 目を細めながらのその言葉に魔力は込められてはいなかったが、強い怒りがこもっているのをミリエルもガンズも感じていた。


 ここで何を言うのが正解なのかと必死に考えながら、ガンズはごくりと息をのんだ。
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