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第三十話

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「申し訳ありません!」

 考えた結果、ガンズが選択したのは思い切り、全力で謝ることだった。


「おい」

 頭を下げたのを見て、それくらいで俺の怒りが収まるとでもと言おうと思ったユーゴだったが、ガンズの行動に驚くこととなる。


「マックの、部下の不始末は私の責です。本当に申し訳ありませんでした!」

 ガンズがとったのは、いわゆる土下座スタイル。額は地面にめり込まんかというほどに強くこすりつけられている。


 勢いだけで乗り切ろうとしているのではなく、彼は心の底から謝罪しようとしている。

「あなたの家族だとは知らず傷つけ、いえ知らなかったら許されるというものでもありません。本当に、申し訳ありませんでした!」

 気勢をそがれたユーゴはどうしたものかと腕を組む。


 すると、ポーションで傷が治ったポムがガンズのもとへと近づいてきた。


「無事だったか。よかった」

 ユーゴはその様子に安心する。


「ピーピピー」

 ポムが何か言ったため、ガンズは顔を上げる。


「えっと、なんとおっしゃっているのか……」

 わからないのですが、とガンズは視線をユーゴに向ける。


「そこまで謝るなら許すってさ」

 ユーゴが通訳をすると、次の言葉をポムが口にする。


「ピピーピ、ピーピピー」

「でも次に俺に手を出したら許さないとさ」

 ぶっきらぼうに通訳をするユーゴ。


「あ、ありがとうございます! 本当に申し訳ありませんでした!」

 ガンズは再度頭を下げてから、ゆっくりと立ち上がる。


「あんたとポムに免じてこいつのことは許すことにするよ。おい、よかったないい上役で」

 ユーゴがジロリと睨むとマックは座り込んだまま、何度も縦に首を振っていた。


「領主の息子だというから、ふざけたやつが来たかと思ったけどあんたなかなか面白いな。あんなに勢いのある土下座を見たのは初めてだ……ポーションを分けてやるよ」

 終始真剣な様子のガンズを見て、ユーゴも心を動かされていた。


「あ、ありがとうございます! 助かります! これで娘も……」

「ただし、俺も連れていくことが条件だ」

 この申し出は予想外であったため、ミリエルもガンズもどう反応していいものか止まってしまう。


「効果の高いポーションっていうのは恐らく最初にミリエルのところに納品したものだ。だが、俺の手元にはそれよりも更に効果の高いポーションがある。だけど、これは預けるわけにはいかない。どう使うか最後まで見届けないとな」

 これは口実だったが、最もらしい話であり二人とも反対する理由はなかった。


「わかりました。それではご足労ですが、うちまで同行よろしくお願いします。マック、もう動けるね?」

 話をしている間に立ち上がっていたマックに確認をとる。

「は、はい! す、すみませんでした!」

 声をかけられたマックは返事と謝罪をすると、急いで馬車に乗り込んでいく。


「出発前に汚れを落とそう”汚れを正常に、クリーン”」

 ガンズの顔や服についてしまった汚れをユーゴは魔法で綺麗にしていく。


「こ、これはすごい。ありがとうございます!」

 本日何度目かの礼をいうガンズはユーゴの魔法に驚いていた。


「それじゃ、街に戻るか。ちなみに言っておくがこの森で見たことや俺がすることは他言無用だからな。特に、ミリエル」

「うっ、了解よ」

 ミリエルに釘をさすとユーゴは馬車に乗らずに、そのまま通り過ぎていく。


「あ、あの、ユーゴさんも馬車にどうぞ」

 馬車への同乗を促すガンズ。


「いや、俺は先に行って待ってる。あのデカい建物が領主の館だよな?」

 しかし、ユーゴは一人で先に向かうと宣言し、ガンズの頷きを確認すると走り出す。


 あっという間に姿が見えなくなったユーゴが向かった方向を見て、ミリエル、ガンズ、マックは口を開けて呆然としていた。

 彼らが我を取り戻して出発するまで、数分の時間を要すこととなる。



 数時間後


「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」

 先に領主の館前に到着していたユーゴは、串にささった肉を焼いたものを食べていた。


「ユ、ユーゴさんが早すぎるんです。これでもだいぶ急いでもらったんですよ?」

 失敗を挽回しようと、なるべく急いだマックだったがそれでもこれだけの時間がかかってしまった。


「さて、門番が俺のことを怪しく思ってるみたいだから早く説明して中にいれてくれるか?」

「わ、わかりました。こちらへどうぞ」

 馬車はマックに任せて、ガンズの案内でユーゴとミリエルは領主の館へと招き入れられる。


 本来なら客であるユーゴとミリエルををもてなしたりするところだったが、最優先は娘アーシャを助けることであるため、真っすぐアーシャの部屋へと向かう。


「アーシャ、入るよ」

 ガンズが先頭で部屋に入っていく。すると中には既に人の姿があった。


「ガンズ、帰ったか。そちらが例の?」

 ガンズと同じく金髪の男性、しかしその顔には彼の歴史が皺になってあらわれている。

「あぁ、父さん来ていたんだね。そうだよ、こちらが錬金術師のミリエルさんと、ポーションを作られたユーゴさん。僕が前に使ったポーションよりも効果の高いポーションを持ってきてくれたんだ」

 ユーゴはポーションを取り出すと、アーシャのそばに近づく。


「このポーションは少々効果が強すぎる。だから、まずは少し元気を取り戻してもらおう」

 ユーゴは手のひらにポーションを出すとそれをアーシャに振りかけていく。

 食事もとれていないであろう彼女はやせ細っている。そこに強力なポーションを飲ませては内臓に負担をかけてしまう可能性があった。


 何度かそれを繰り返すと、彼女頬の赤みが落ち着きを見せていく。

「これで少しは落ち着いたな。あとはこれを飲んでもらおう」

 そう言って取り出したのは別のポーションだった。薄めたものと、振りかけたものの中間にあたるポーション。つまり最初にミリエルのところに納品したものだった。


「アーシャ、ゆっくりでいい。この薬を飲んでくれ」

 ユーゴが優しく声をかけると、薄っすら目をあけたアーシャは頷きコクコクとポーションを飲んでいく。

 半分ほど飲んだところでユーゴが口元から離す。彼女の身体の状態を考えると、これが限度であると判断したがゆえだった。


「う、ううん……」

 すると、彼女は目を大きく開いていき、更にゆっくりと身体を起こす。


「アーシャ!」

「治ったのか!」

「……しっ!」

 領主とガンズが大きな声をあげるが、ユーゴが静かにするように指を口元にあてる。


「アーシャ、初めまして。俺の名前はユーゴ、君のお父さんの知り合いだ。身体はどうだい?」

 目線を合わせて、ゆっくりと質問するユーゴにアーシャは目覚めたばかり独特のゆったりとした動きで手を動かしたりして自分の身体の状態を調べていく。


「ずっと寝ていた時より、だいぶ楽です。でも、まだ身体がだるい気がします。熱も、まだ上がりそうな、そんな感じがします」

 ゆっくりと、感じたことを口にするアーシャ。


「やっぱりか。ガンズ、身体に負担の少ない食べ物を用意して食べさせてやってくれ。領主さん、どこか話せる部屋はあるか?」

「あ、あぁ、それはありますが、今はアーシャの回復を……」

 祝ってあげたい――そう言おうとするが、ユーゴの目が真剣なものであると気づき、言葉を飲み込む。


「……わかりました、こちらへどうぞ」

 孫娘の救いの主であるユーゴの指示に従って、別の部屋へと案内する。
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