鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ

文字の大きさ
34 / 38

第三十四話

しおりを挟む
 数十分後


「ガア!?」

 その声と共にボスアイスウルフが慌てて飛び起きる。


「よう、起きたか」

 ユーゴが声をかけると、牙をむいて対峙する。

 対峙するが、ボスアイスウルフは周囲を見て徐々に力が抜けていく。


「状況、わかってくれたみたいだな。なあ、お前たち」

 今度は周囲の魔物たちへ声をかける。ユーゴが殴り飛ばし、衝撃波で吹き飛ばした魔物たちは笑顔でユーゴとボスアイスウルフを囲んでいる。


『怪我はお前のも含めて全員治しておいた。ついでに言うと氷の牙……俺たちはそう呼んでいるんだけど、それをもらった』

 氷の牙が何を指しているのかわかったらしく、ボスアイスウルフは慌てて氷の牙に顔を向ける。


「ガウ?」

 無くなっていると思われた氷の牙がそこに鎮座しているため、ボスアイスウルフは首を傾げ、視線をユーゴに戻す。


『あぁ、別にあのデカい氷の牙が全部必要なわけじゃないんだよ。少しだけわけてくれればいいんだ。知り合いの娘を助けるために薬を作りたい。その材料として、いくらか手に入れば十分なんだよ』

 知能の高そうなボスアイスウルフにユーゴは説明をして、理解を求める。


「ガ、ガウ……」

 そうだったのか……と少々落ち込んでいる様子のボスアイスウルフ。ユーゴが最初から好戦的な様子だったとはいえ、事情をきくことができれば仲間を失うことには……。そこまで考えたところで、大事なことに気づく。


「ガ、ガガウ! ガウガウ!」

 治したって、全員生きてるのか!? と今更ながら驚くボスアイスウルフ。


『俺は殺すつもりで戦ってないさ。目的は氷の牙だったし、こいつらには全員気絶してもらっていたんだよ。お前も致命的なダメージは受けてないだろ?』

「ガ、ガウ」

 そう言われればと自らのダメージを確認する。


「というわけで、これはもらっていくぞ」

 ユーゴは小さな小瓶に入った、氷の牙のかけらを魔物たちに見せる。

 そして、洞窟をあとにしようとする。


「アオーーーン!!」

 しかし、このままユーゴを帰すわけにはいかないと、ボスアイスウルフが洞窟内に響き渡るほどの大きな遠吠えをあげる。


 魔物たちは、ボスアイスウルフの命に従って動き出す。


「な、なんだ?」

 急に動き始めたため、ユーゴは驚き魔物たちを見回す。

 魔物たちはユーゴに再び襲い掛かろうと、したわけではなく綺麗に一列に整列していた。


「ガウ、ガウガウ!」

 そして、一斉に頭を下げた。

 戦う意思を持ってユーゴと相対したにも関わらず、一体の犠牲もなく戦いを終えることができた。加えて、全員の治療まで行ってくれた。


 そのことにボスアイスウルフたちは感謝をしており、頭を下げることでその気持ちを伝えていた。


『ははっ、いいんだよ。そもそも俺がお前たちの領域に入り込んで、お前たちが大事にしていたものをもらおうとしたんだからな。俺のほうこそ、悪かった。そしてありがとう』

 ユーゴも頭を下げ、謝罪と感謝の言葉を口にする。


「アオーン!」

 ボスアイスウルフの遠吠えと共に再び頭を下げる魔物たち。

 ユーゴは笑顔で右手を上げて返事として、その場を後にしようとする。


 しかし、そこでユーゴがふと足を止めた。

「帰り道、どっちだ?」

 キョロキョロとあたりを見ているユーゴを見て、帰り道がわからないのだろうと察したボスアイスウルフの配慮でアイスバットが案内役を担当してくれることとなった。



 案内は的確であり、すぐに洞窟から出られたユーゴはアイスバットに礼を言うと下山していく。

 魔物たちが全員目覚めて説明をすることで時間をかけてしまったため、魔倉庫から取り出した盾を使うことで一気に降りていく。


「ヒャッホー!」

 大学生の時にサークルの旅行で数回経験したことのあるスノーボード。その経験を生かして、急な斜面を下っていく。

 学生の頃は何度も転んだが、その経験が今の自分にフィードバックされているためスイスイと滑走していった。


 下山した頃にはだいぶ時間も経過しており、昼をとうに過ぎて、日が沈むのももうそろそろであった。

「思っていた以上に時間がかかったが、休んでいられないな……急ぐぞ」

 アーシャに飲ませたポーションの効果は持って数日。そして山で時間をかけた原因は自分にある。であるならば、帰りは夜であろうと急ぐしかない。


 それがユーゴの判断であり、夜間であるため人の目につきにくいと空を飛んで移動することで速度をあげていく。


 時折、夜目の聞く魔物などがユーゴを視界にとらえて驚くことがあったが、それ以外には特に問題も起こらずに街の近くまであっという間に到着する。

 到着したのは深夜、さすがにこの時間に領主の館へ向かうのは問題がある。かといって、自分の家で作業ができるかといえばそれも設備的に難しい。


「さて、どうしたものか……」

 街の北門を前にしてユーゴは腕を組んで悩む。

 すると、それに気づいた衛兵が声をかけてきた。


「どうかしましたか?」

 こんな時間に門の近くで立ち尽くしている男ともなれば、怪しさ爆発であり、声をかけざるをえない。


「あぁ、ちょっと出ていて、さっき戻って来たんだけど……どうしたものかと」

 どうしたものか、というアバウトな発言に衛兵も苦笑する。


「うーん、それでは質問をしましょう。街に戻ってきて何をしようと思っていましたか?」

 最初にやろうとしたこと、そこから考えていくのがいいとの衛兵からの助言。


「昼間だったら、そのまま領主の館に行こうと思っていたんだよ。ちょっと用事を頼まれていて、その品物を届けようと……」

 領主の館という言葉を聞いて、衛兵は目を丸くする。


「も、もしかして、あなたの名前は……」

「俺? 俺の名前はユーゴだけど」

「しょ、少々お待ち下さい!」

 名前を聞いた衛兵はバタバタと走って詰め所へと戻って行く。そこで、共に夜勤をしている別の衛兵に何かを確認しているようだった。


 時間にして数分程度すると、衛兵がもう一人を伴って戻ってきた。


「はあ、はあ、お待たせしました。話は聞いています。領主の館へ向かってもらって問題ありません」

「あんた、一体何者なんだ? こんな時間でも領主の館に入る許可が出てるなんて……」

 領主が各所に通達をしており、見かけたら領主の館に向かってもらっていいと、何時でも構わないと伝えていた。


「あぁ、そうなのか。さすがにこんな時間に行くのはまずいだろうなあって思って悩んでたんだけど……ディバドルもなかなか粋なことをしてくれるな」

 領主の名前を呼び捨てにしたことで、衛兵二人はビクンとして固まってしまう。


 こんな無茶な許可もおりてることから、恐らくは領主とは知っている仲であり、しかも呼び捨てにできるということは余程の権力者なのではないかと想像したためである。


「伝言ありがとうな。それじゃ、俺は中に入らせてもらうよ」

「「は、はい!」」

 ビシッと敬礼をする二人にユーゴは首を傾げながら街の中へと入っていった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

処理中です...