鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ

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第三十五話

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 領主の館の入り口で説明をすると、ここでも敬礼をされて中へと通される。

 さすがに領主やガンズは寝ているため、応対するのは執事長であった。


「それで、必要なものは集まったのでしょうか?」

 白髪交じりの髪は整えられており、顔に刻まれた皺は渋さを感じさせる。ユーゴと同じくらいの身長の彼は夜間にユーゴが戻った場合の担当を任されていた。


「あぁ、滞りなく。問題はその素材を調合する設備が俺にはないということだ。素材を加工するにも、超高温の窯が必要になる」

 素材が集まったその次は、特効薬の作成。


 それをできるのはこの街ではユーゴだけである。

 あるが、ユーゴにはそれを作るだけの設備がなかった。


「なるほど……」

 しばし考え込む執事長。


「心当たりがありますので、色々と確認をとってみます。今夜はもう遅いのでお休み下さい。部屋は用意してあります」

 いつユーゴが戻ってもいいように、執事長はベッドメイキングを行わせており宿泊の許可も取り付けていた。


「それはありがたい。できれば何か食事もできると嬉しいんだけど、実は昨日の朝からほとんど何も食べてないんだ……」

 早く戻らなければと集中していたため忘れていたが。ユーゴは、腹が減っていた。


「そ、それは大変です! すぐに用意をしますので、お待ち下さい。誰か、ユーゴさんをお部屋まで案内してくれ」

 執事長はメイドを呼ぶとユーゴの案内を託し、自分は厨房へと急いだ。


 ユーゴは案内された部屋でベッドに倒れこむ。

 夜中にも関わらず起こされたシェフが料理を作り、執事長が運んでくるのはこの数十分後の話であった。


 翌朝のユーゴはなかなか目覚めず、ようやく起きたのは昼前のことだった。

 寝ぼけたまま部屋を出ると、そこには執事長が待機していた。


「ユーゴ様お目覚めですか。おはようございます。水場にご案内します」

 執事長は穏やかな笑顔で挨拶をすると、今も眠そうなユーゴを案内する。

「ふわあ、おはよう。悪いな、頼むよ」


 案内された水場で顔を洗い、シャッキリとすると執事長は食堂へと案内をする。


「これはユーゴさん。おかえりなさい。話は聞いていますが、まずは食事をどうぞ」

 少し早めの食事をしていた領主とガンズは手を止めて、食事を促す。


「腹が減ってはなんとやら、か。そうだな、食いながら話をしよう」

 ユーゴが席に着くと、料理が運ばれてくる。


 食事を話しながら話をする。これからの行動について。

 問題はいくつかあった。


①氷の牙を加工するためには、高温の炉が必要である。

②調合のために、高度な調合設備が必要である。

③一人で行うのは難しい。


 これらの問題についての解決方法について、何か案がないかとユーゴから相談を持ちかける。


「孫娘のためです。できる限りのことはしようと思います。ガンズ」

 ディバドルが名前を呼ぶとガンズは大きく頷く。


「ユーゴさん、高温の炉とのことですがうちの設備を使って下さい。今は使っていませんが、以前ここに勤めていた鍛冶師が使っていたものがあります。調合設備に関しては、ミリエルさんの工房を使用して構わないとのことです。調合の手伝いですが……そちらもミリエルさんにお願いしようと思います」

 手伝うということは、このあたりでは誰も作ることのできない特効薬の作り方を知ることになる。


 であるならば、ユーゴと既知の人物であり、錬金術師のミリエルなら適した人物であるというのがガンズの判断だった。


「なるほど……わかった。ミリエルはエルフだし、作り方を知っておいて損はないだろ」

 ユーゴはこの先ミリエルや、他のエルフが罹患した時のことを考えて彼女に作り方を教えるは大事なことだと思っていた。


「それでは、食事が終わり次第すぐに手配します」

 ガンズの言葉を聞いていた執事長は既に動き出していた。

 それを横目で見ていたユーゴは仕事が早いことだと感心していた。


 食事を終える頃には全ての準備が整ったらしく、執事長とミリエルが食堂へとやってきていた。


「あら、お食事中だったのね。もう、そういうことなら言ってくれれば外で待っていたのに」

 ミリエルは食器が片付けられているのを見て、肩を竦める。


「気にしないでくれ。それより、俺の勝手な提案でミリエルを巻き込むことになったが構わないか?」

 彼女がいないところで進んだ話であるため、ユーゴは念のため確認をとる。


「えぇ、もちろん。あなたが言ったように私はエルフだから、是非こちらから手伝いを願いでたいくらいよ」

 笑顔でそう言うミリエルを見てユーゴも笑顔になる。


「よし、それじゃあ早速動こう。まずはここの鍛冶師が使っていたという炉に連れていってくれ」

 ユーゴは立ち上がるとすぐに部屋を出て行く。


「あ、案内します」

 執事長は雇い主に頭を下げて、ユーゴを案内していく。敷地内にある炉は、庭の端にある建物にあった。


 到着すると、そこには既に火の入った炉があった。

「これはいいな。熱くて暑い。これなら氷の牙を加工できる。ミリエル、暑いが少し我慢してくれ。これだけの温度じゃないとできない」

 ユーゴは小瓶にいれた氷の牙を取り出す。高温の部屋だったが、それでも小瓶は冷気を放っており、なおかつ融ける様子もない。


「これほどの温度でも融けないなんてすごいわね。ここから加工するのは……大変ね。ちょっと触ってみても……」

 氷の牙の特性を見ていると、自分がうまく加工できるか自信がなかった。


「他にも色々道具が必要になるけど、全部終わったら道具は譲るよ。専用の瓶もその中にある。何セットか道具は持ってるから気にしないでいい。まずは、その一つ目を見せよう」

 取り出したのは鍋。


「鍋?」

「鍋、ですか?」

 ミリエル、そして今も見学をしている執事長が首を傾げる。


「あぁ、鍋だ。ただ、マグマに浸しても溶けることのない特別性のだよ。これに氷の牙を入れて、こうやって……」

 ユーゴは鍋を炉にかける。すると、中に入った氷の牙がゆっくりと融けていく。

 氷の牙の大きさは十センチ程度。しかし、徐々に融けていくため時間がかかっている。


「こんなに少しずつ……これは大変ね」

 ミリエルも執事長も汗だくになりながら、氷の牙を見つめていた。

 しかし、ユーゴは汗一つかいていない。


「融けきったらすぐに外す必要があるから、ずっと確認してないといけない。そのまま放置しておくとすぐに蒸発してしまうからな。これが一番面倒な工程かもしれないな……しっかり鍋の中を見ていろよ」

 そこからは忍耐が必要となる作業で、終わる頃にはミリエルも執事長もカラカラになっていた。
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