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第八十九話

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「それじゃあ、同じものとまでは言いませんが、期待してますね」
 にっこりと笑ったヤマトはアムスにそう言うと店をあとにした。
 そのアムスは工房に籠ると、何をどうしたら再現できるかひたすらに頭を悩ませた。



「――さて、二人も装備を買えたみたいだし、そろそろこの街を出てもいいかな」
「うん!」
「はいっ」
 手をあげたそれぞれが必要な装備を揃えることができたようで、いよいよ次の目的地に迎えるという状態になった。武器屋をあとにし、街を出ようと歩き出す三人。

「とりあえずはあれだね――太陽の宝玉の復活!」
 次の目的を確認するように弾けるような笑顔でユイナはそう言うと、その瞬間、ヤマトの身体はビクッと動く。
 そして前を向いていた首がギギギギと音をたてるかのように鈍い動きでユイナへと振り返った。何か問題があっただろうかとユイナはきょとんと首を傾げる。

「わ……」
「わ?」
 焦ったようなヤマトぼそりと呟いた言葉を、ユイナがオウム返しで聞き返す。

「――忘れてたああああ!」
 いつも冷静で落ち着いているヤマトが取り乱す姿はとても珍しく、ユイナもルクスも目を丸くして彼のことを見ていた。普段はしっかりしているヤマトだけに、二人は呆然と立ち尽くすだけだ。周囲の森林の民は何事かと冷ややかな目つきで彼らを遠巻きに見ている。

「……やばいやばい、家に戻ってアイテムを探してこないと……でも、あったかな? あー、あれがないと無理だと……」
「――ヤマト、ヤマトってば」
 あれこれとぶつぶつ呟きながら、頭を抱えて取り乱すヤマトの肩にぽんぽんと手を置いたユイナが心配そうに声をかける。

「っ、な、なに!?」
「大丈夫だってば、太陽の宝玉を復活させるアイテムならちゃーんと! ここにあるから」
 びくっと驚いて顔を上げたヤマトを安心させるようにユイナは二カッと笑い、自分のアイテム欄を彼に確認させる。そこにはヤマトが取りに帰ろうとしていたアイテムがしっかりと入っていた。

「こ、これは……これならいけるよ、ユイナ!」
 がしっと彼女の肩を掴んで嬉しそうに笑うヤマト。彼の喜びようにユイナはとても嬉しくなって同じように笑った。

 収集癖のあるユイナは倉庫で必要なアイテムを収納している時に、これらのアイテムがあるのを確認しており、これがあれば太陽の宝玉の復活も可能であると考えていた。
 他にも色々と役立ちそうなアイテムは彼女のアイテムボックスに多数収納されている。

「よかったあ。さすがはユイナ、ありがとうっ!」
 ほっとしたような笑顔で息を吐くヤマトは嬉しさのあまり、沸き立つ興奮そのままにユイナのことをガバッと抱きしめた。
「……わわっ! も、もうヤマトったらあ、昼間から大胆なんだからあ……」
 突然の力強い抱擁にユイナは頬を赤くしながらも、久しぶりのヤマトとふれあいを憎からず思っていた。

「ご、ごほん、お二人とも、ここは大通りですよ。その、少し、そういうことは、おうちの中で……」
 いけないものを見てしまっているのではないかと顔を覆うルクスも頬を赤くし、視線をちらちらと逸らしながら注意をしてくる。

「……おっと、ごめんごめん。ついね。――でもよかったよ。おかげでミノスに面目がたつ」
 太陽の宝玉のことがすっかり抜け落ちていたヤマトは、ユイナへの感謝の気持ちでいっぱいだった。復活させるという約束で彼らから太陽の宝玉をもらい受けた以上、その責任は果たしたいと思っていたからだ。

「う、うん。まー、たまたま片づけてる時にあったから覚えてたんだけどね! これならきっと復活できるぞーって」
 彼の甘い笑顔を直視したユイナは照れを隠すようにわざと大きな動作をしながら説明をしていく。

「では確認になりますが、ということは雪の都フリージアナに向かうということでよろしいのでしょうか?」
 ルクスの問いかけにヤマトが頷く。
「あぁ、ここに来るまでに使った船が大陸の端にあるはずだから、それに乗っていこう」
 船の方へ向けて大通りを進みながら、ヤマトは、この言葉がフラグにならないことだけを祈っていた。





 一行は最後に雑貨屋で買い物をしてか、ら森林都市を抜けることにする。

 関所も問題なく通過することができた。
 出発前にはいなかったルクスが加わっているため、怪訝な表情でみられたが、認定証を持つ彼らにあえてそれを口にする者はいなかった。

「さて、船があるといいんだけど……」
 ヤマトが船を停めた場所を恐る恐る確認していく。すると、そこには傷一つない船が停められていた。

「はあ、完全に杞憂だったよ……」
「もー、ヤマトは心配性だなあ」
 ため息をつきながらほっとしたように脱力するヤマトにユイナはおかしそうにクスクスと笑う。
 その間にルクスが先行して、船の中へ入り、状態を確認する。そして、腕でオッケーマークを作った。

「よかった、それじゃあ早速行こうか」
 全員が船に乗ったのを確認すると、ヤマトは魔道具を起動していく。
 彼の魔力に反応した魔道具は滑らかに海をすべるように進みだした。



 やってきた時のルートを反対に戻っていくだけであるため、航行は行きよりもスムーズに行われていく。
 道中では海のモンスターとの戦闘が何回かあったが、ユイナの矢によって近づく前に一発で貫かれていた。

 その間、ヤマトは運転を、ルクスは許可を得ていたため、呼び出した精霊と戯れていた。
 精霊との親交度をあげることで、意思疎通が上手にいくようになるためだった。



「さあ、そろそろ見えてくるぞ。二人とも防寒具を着ておいてね」
 事前に用意してあったそれを三人は着用していく。既に息が白くなるところまで周囲の気温は下がっていた。

 ヤマトたちは西の大陸での大半の時間を森林都市の中で過ごしていたため、外ではほとんど時間が経っておらず、街は未だ復興の只中にあった。

「……こ、これはどうしたんですか?」
 遠目に見える傷ついたボロボロのフリージアナの街を見てルクスが戸惑うようにおろおろと二人に問いかけた。

「あー、それを説明するには例の魔道具の話からしないとか。ちょっと外に出すことはできないんだけど、ゲームの頃にはなかった特別な魔道具が各地に設置されていた――その一つがこの街にもあったんだ」
 船を操作し続けるヤマトの言葉に聞き入るルクスは、色々聞きたいことはあったが、話の邪魔をしないようにただ相槌だけをうつ。

「それは、モンスターを誘引する魔道具で、そのせいで色々な場所にモンスターが大量に現れたんだよ。俺たちはそのいくつかを破壊し、いくつかをマジックバッグの中に収納してあるんだ。ちなみに、この街にあった魔道具は魔族が持っていた」
「――ま、魔族!?」
 まだ海上にいるため、ルクスの驚愕の声は誰にも聞こえなかったが、街中で言っていたらおかしなものを見る目でみられたことは間違いなかった。

「そのとおり。恐らく、っていう前提つきになるけど、他の場所にあったものも魔族が関わっているかもしれない。――だから、俺たちには戦う力が必要なんだ」
 これまでに戦ったような魔物や魔族であれば問題ないが、更に上のものが出てくることを考えると、力はいくらあっても足りないくらいだった。ヤマトの表情はどこまでも上を目指すような力強さがあった。

「……なるほど、それでですか。ならば私も気を引き締めていかないとですね!」
 ふんと息巻くルクスは決意を新たにし、その頃ちょうど一行の船はフリージアナの港に接岸するところだった。







ヤマト:剣聖LV207、大魔導士LV203、聖銃剣士LV10
ユイナ:弓聖LV204、聖女LV193、聖強化士LV67、銃士LV17、森の巫女LV16
エクリプス:聖馬LV133
ルクス:聖槍士LV13、サモナーLV21
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