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第三十一話

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 三人は毎週末、この魔法演習場で訓練を行うことにする。

 クラスでも三人は一緒に行動することが増えていた。


「おい! お前!」

 そんなある日、ユリアニックが委員会の仕事を終えて一人になった時に声をかけてくる生徒がいた。それはBクラスの生徒で、取り巻きを二人連れていた。


「はい、です?」

 普段かかわりのない生徒であるため、もちろん名前も知らず、ユリアニックはキョトンとした表情で首を傾げていた。


「貴様、獣人のくせしてAクラスに入りやがって! 前はおとなしくしていたから見逃してやったが、調子に乗りやがってゆるさんぞ!」

 彼は貴族である自分がBクラスだというのに、獣人のユリアニックが上のAクラスにいるのが気に食わなかった。


 それをこれまで言わずにいたのは、大抵の場合アレクシスかリーゼリアが一緒にいたためである。

 よくわからないアレクシスや、正義感が強そうなリーゼリアが知れば糾弾されてしまう可能性がある。だったら、おとなしいユリアニックが一人でいる時を狙うのが最善手だと判断していた。


「えっと、ユリアは純粋な獣人ではない、です」

 アレクシスとリーゼリアに自分のことについて説明した彼女は、今ではそのことを隠そうとはせず、聞かれれば話していた。


「ユリアはハーフビーストなの、です。だから、魔法も使えるし勉強も頑張ったのでAクラスに入った、です」

 Aクラスという結果は自分で出したものであるとユリアニックは胸を張っていた。リーゼリアと同い年とは思えない膨らんだ胸は彼女の存在を強く主張している。


「ハ、ハーフ?」

「確か、獣人と人との間に生まれた者をそう呼ぶと聞いたことがあります」

 取り巻きの一人がハーフビーストについての説明を耳打ちする。


「はん! そんな中途半端者がAクラスにいるなんてそれこそ生意気だ! 貴様のような者にAクラスは相応しくない! さっさと退学して、その席を俺に寄越せ!」

 Bクラスの貴族はユリアニックを睨みつけて恫喝する。取り巻きの二人もそうだそうだと、彼に賛同していた。


 今までのユリアニックを知っている者であれば、彼女がすごすごと引き下がって、ともすれば退学を選ぶとすら考えたかもしれない。


「退学、しません、です!」

 しかし、ユリアニックは琥珀色の瞳で男たちを強い意志を持って睨み返している。


「くっ、う、うるさい! お前たちやっちまえ!」

「おぉ!」

「くらえ!」

 さすがに学院の廊下で魔眼や武器を使うことはなく、ただ殴りかかろうとする。


「やめて下さい、です!」

 一人目の拳を左手で受け止め、もう一人の拳を右手で受け止める。


「ぐっ! くそ、離せ!」

「掴むんじゃねえ!」

 二人が思い切り振りほどこうとしたため、ユリアニックがその手を離すと、二人はそのまま尻もちをついてしまう。


「お、おい! 俺の父さんは伯爵だぞ! 逆らったらどうなるかわかっているんだろうな!」

「うぅ……ずるい、です」

 ユリアニックの父は商人であり、そのため学院に多くの寄付をしているが、貴族ではないため地位をちらつかせられては強気には出られなかった。


「おう、うちの生徒にそんな口を利くとは大した度胸だな」

 そこに現れたのはワズワース、そしてアレクシスとリーゼリアの三人だった。


「ふむ、良くこいつら相手に引かなかったな……ユリア、偉いぞ」

「さすがユリアだね!」

「ユリアを怖がらせるなんて!」

 ワズワースは優しく頭を撫で、アレクシスは笑顔で声をかけ、リーゼリアは男たちを睨みつけていた。


「うっ、せ、先生……」

 さすがに伯爵の息子といえでも、学院の教師を前にしては親の威光を振りかざすわけにはいかなかった。


「しかし、なるほどな。確かに他のクラスに対して不満を持つという考えはわかる……一つ確認だが、お前さんはうちのクラスの生徒たちよりも優れている。そう考えているんだな?」

 ワズワースがギロリと睨みつけながら質問する。


「あ、あぁ! も、もちろんだとも! なあ、お前たち!」

「そ、そうです!」

「俺たちのほうが優秀です!」

 勢いにのせられた部分はあったが、それでもBクラスの彼らは決してAクラスに劣っているとは思っていなかった。


「わかった……お前たちの不満も確かにわかる。学院が始まって一か月過ぎたところか。クラスによって実力が分けられて、実力がついても上のクラスに上がることができない。実力も身分も自分より劣る者が上のクラスにいることに納得できない。わかる。少しお前たちの担任と相談してみるから、まあ何日か待っていろ」

 ワズワースは彼らの言い分に理解を示し、何か考えがあるらしくそれを彼らの担任と話すようだった。


 なんでそんなわがままを許すんだ? とアレクシスが質問しようとしたが、その言葉は飲み込まれた。


「お前たちも用事が終わったらさっさと帰るんだぞ。あとは……俺に任せておけ」

 担任らしくアレクシスたちに声をかけたワズワース。その顔には悪い笑みが浮かんでいた。



 数日後、AクラスとBクラスは全員揃って屋内演習場へと呼び出されていた。


「ワズワース先生が何か企んでいたのはこれのことか……まさか休日に呼び出されるなんて」

 本日、生徒たちが呼び出された名目は二クラス合同の特別授業。詳しい内容は誰も知らされていないが、アレクシスたちはBクラスの伯爵の息子たちとの一件が関係しているのだろうと予想している。


「こら、そこ私語は慎め! これから、今日の授業についての説明をワズワース先生がされる。しっかりと聞くように!」

 アレクシスを注意したのはBクラスの担任で、真面目な堅物と評判のレイクだった。彼はエルフでも珍しい肉体派で、筋肉の鎧をまとっているワズワースのことを尊敬している。


「おう、レイク。ありがとうな。それじゃ、俺から説明をさせてもらおう。つい先日Bクラスの生徒から俺に不満が挙げられてきた。Aクラスよりも優れているのに、いつまでもBにいるのは耐えられないとな」

 ここまでを聞いて、A・B双方のクラスがざわつく。


 Aクラスはまさかそんなことを思われているとは欠片も気づかなかった。

 Bクラスはまさかそんなことを言いだす者がいるとは微塵も思っていなかった。


「で、だ。そういう不満というのは確かに毎年みんなが抱えている。それを払拭する機会っていうのは、まあちゃんと用意されるんだが……今年はわざわざ俺に言ってくるくらいに強い不満があるようだ。だから、AとBで対抗戦をやってみようと思っている。なあ、レイク!」

 ワズワースは隣に立つレイクの肩をバシンと叩く。


「はい、先生が担当されるクラスとうちの生徒たちが手合わせできるのは恐悦至極です!」

「そうかそうか、そいつはよかった! というわけで、お前たち……模擬戦だ!」

 急にそんなことを発表されたため、アレクシス以外は全員が驚いていた。


「えっと、発言してもいいですか?」

 そのため、アレクシスが質問をすることとなる。


「うむ、アレクシス。構わん、質問があるなら言ってみろ」

 ワズワースはニヤニヤ笑いながらアレクシスの発言を許可する。


「模擬戦ということですけど、一対一を人数分繰り返すんですか? もしくは勝ち抜き戦とか? それとも……」

 既に戦うことは決定しているため、アレクシスはそこに疑問を持っておらず、戦いのルールに意識が移っていた。


「ふむ、レイク……どうする?」

「はい! さすがに全員が戦うのは時間がかかりすぎてしまいます。代表者を三名選出して模擬戦を行うのが良いと思います!」

「なるほど、それはいいな」

 ワズワースは何も考えていなかったため、そのままレイクの案を採用することにする。


「というわけだ、各クラス話し合って代表を三人決めろ。そうだな、十分後に開始するからそれまでに決めるんだ」

 未だ状況を完全には飲み込めていない生徒たちだったが、それぞれのクラスに集まって代表を決めていく。


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