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第五話
しおりを挟む人生のほろ苦さを知ったクライブだったが、ガルムとプルルという心強い味方を得たことで、心を強く持って冒険者ギルドへ向かうことにした。
「俺は回復魔術しか使えないから、二人の活躍が重要になる。だから、頼んだぞ?」
クライブは隣を歩くガルムと、その背中に乗っているプルルに声をかける。
「ガウ(任せて)」
「きゅー(りょーかい)」
二人は周囲から注目されない程度に返事をする。
ただでさえ魔物と一緒にいると注目されるため、街中ではなるべく小さな声で話すことにしていた。
「さてさて、なにかいい依頼があるといいんだけど……」
冒険者ギルドに足を踏み入れると、クライブたちに注目が集まる。
これはクライブも覚悟していたことだった。
パーティをクビになったクライブが、なぜか魔物を連れてギルドへとやってきた。
それは、冒険者やギルド職員の興味を引くには十分な材料だった。
「さあ、掲示板を見てみよう」
しかし、その視線に負けないようにクライブは真っすぐ前を向いて掲示板へと移動していく。
ギルド内にいた冒険者は左右にわかれて、クライブが向かう先に通路を作っていた。
それほどまでに、魔物を連れ歩くというのは今では珍しいことになっていた。
「さて、どの依頼を受けるかな……って他の魔物と戦うことになるかもしれないけど、大丈夫か?」
魔物同士での戦いに抵抗がないか、クライブが改めて質問する。
「ガウ(うん)」
「きゅー(うんー)」
その返事を聞いてクライブは安心して、再度掲示板に視線を戻していく。
そこには薬草などの採集依頼から、魔物の討伐依頼、魔物の素材収集依頼などなど様々な依頼が掲示されている。
「とりあえず、確実にこなせる依頼と二人の力を確認したいから、まずは薬草の採集。それから、ホーンドッグの角五本でいいかな。じゃあ、これを剥がして……」
クライブは二枚の依頼書を持って受付へと向かって行く。
受付はいくつかのカウンターに別れており、そのうちの一つ、以前話したことのある人族の女性職員のカウンターを選んだ。
「あの、この依頼を受けたいんですけど……俺一人、とこいつらで。ええっと、一応こいつらは獣魔契約してあります」
クライブはガルムとプルルを紹介しながら依頼の受領申請をする。
「え、ええっと、クライブさんですよね。確かパーティを抜けられたと聞きましたが、その、魔物と一緒に戦うのですか?」
魔物使い、モンスターテイマーと呼ばれる職業は世の中に存在するが、テイマーギルドの現状からわかるように現存する者はほとんどいない。ゆえに受付嬢の反応は不安と心配が入り混じっているように見えた。
「はい、なにか問題ありますか? 回復魔術士で登録してますけど、そちらと並行してこいつらとも一緒に戦うつもりなんですが……」
魔物は使い捨て、魔物が死ねば主が襲われる。
治療効果の低い回復魔術しか使えないクライブがここまで生き残ってきたのはパーティに参加していたからこそである。
それがパーティに参加せずに一人となると、受付嬢も心配になっていた。
「へへっ、いいんじゃねえか? どうせどこのパーティにもいれてもらえないんじゃ一人でやるしかねえだろう。そのちんちくりんな魔物と一緒によう!」
そうあざ笑うように声をかけてくるのは、以前クライブが参加したことのあるパーティのメンバーだった。
彼の職業は剣士で、前線で戦ってクライブに回復魔術をかけてもらったことがあった。
だが人相手になると本来の効果を発揮できないのがクライブの回復魔術。
それで痛い目を見たことがある剣士の男の反応はクライブを馬鹿にしていた。
「あぁ、こいつか。俺の怪我を治そうとして、少しだけ血を止めてくれたやつだったな。結局ポーションぶっかけたほうが早かったんだよなあ。結局足手まといだったんだよ」
その時の悔しさからか男たちは今の仲間や周囲にいる冒険者にクライブのいかに使えなかったかを広めていく。
「ガルルル」
「きゅーきゅー!」
だがクライブの回復魔術で直してもらった経験のあるガルムとプルルの二人はクライブの前に立って、男たちから守るように構える。
「なんだこいつらは? 魔物と一緒とかふざけてるのか? モンスターテイマーとか魔物使いとか、はやんねえんだよ! お前みたいなよええやつが冒険者を名乗るとか恥ずかしいぜ! さっさと引退して田舎にでも帰っちまえよ!」
ガルムとプルルににらまれて苛立った剣士の男がクライブのことを恫喝する。
周囲にいる冒険者たちもクライブの力を知っているため、頷いて同意するか、視線を合わせずに関わらないようにしている。
「その節は迷惑をかけたね。でも、それはそれ。俺はこれからこいつらと一緒に頑張っていく。それは誰にも邪魔させない!」
以前までパーティの影に隠れるようにしてついてまわっていた彼とはちがう。
自信のある表情のクライブはガルムとプルルの前に移動して力強く宣言する。
彼が言い放った相手は目の前の男たちだけでなく、周囲の冒険者やギルドの職員にも向けていた。
役にたたない回復魔術しか使えないクライブが、真剣な表情で強い意志を持って言う。
そんな姿を見ては誰も馬鹿にするようなことは言えず、ホール内に沈黙が生まれた。
「もう、いいかな? それじゃあ、手続きをお願いします。はい、冒険者カードです」
「は、はい!」
クライブの強い思いを聞いて呆気に取られていた受付嬢は、急に業務に引き戻されたため慌てた様子で依頼受付を進めていく。
受付嬢は受け取った冒険者カードを受付用の魔道具に通して、依頼の登録をしていく。
「はい、これで完了となります。細かい説明はいらないと思いますが……気をつけて下さい」
彼女はクライブが前のパーティからクビを宣告されたのをたまたま見ていた。
更に過去にさかのぼるとその前のパーティから追い出された時も、先ほど難癖をつけてきた男たちのパーティから切り捨てられた時、これは三つ前になるがその時も、全てたまたま偶然だったが見てしまっていた。
それでも心折れずに依頼を受けに来たのを見て、そして先ほどの宣言を聞いて、応援したいと強く思っていた。
だからこそ、自然とクライブの身を案じる言葉が出ていた。
「ありがとうございます。頑張ります!」
クライブは笑顔で彼女に返事をするとガルムとプルルを伴ってギルドの入り口に向かう。
その行く手を遮る者はおらず、入り口まで道ができていた。
外に出て、しばらく歩いてギルドから離れたところでクライブが足を止める。
「ぷはあああああ! なんだよ、急に突っかかってきて! ビックリしたあ……いやあ、ガルムとプルルが一緒にいてくれてよかったよ。二人が俺の前に立ってくれたから勇気が湧いてきたんだ。ありがとうな」
先ほどまでのキリッとした様子はどこかへ消え、急に砕けた様子になるとクライブはその場にしゃがみ込む。
しかし、ガルムもプルルもそんな彼のことをかっこ悪いとは思わず、やるときはやってくれる彼のことを頼もしく思っていた。
しばらくして気持ちが落ち着いてきたのか、クライブは一つ息を吐いて立ち上がる。
「ふう……さて、気を取り直して薬草採集とホーンドッグの角集めに行こう!」
「ガウ!(うん!)」
「きゅー(おー)」
そう宣言をして三人は街を出て行く。
街からしばらく歩いたところにある西の森に到着したところで、地面を移動していたプルルが動きを止める。
「きゅー、きゅきゅーっきゅー?(そういえば、やくそうってどんなの?)」
プルルは一般的な人の知識を持っていないため、そんな質問をしてきた。ガルムも見たことがないと首を傾げている。
「あぁ、そういえば……あったあった。これだよ。これが薬草」
クライブはカバンの中に入っていた薬草を一枚取り出して二人に見せる。
しばらくじっと見ていたプルルだったが、急にぷるぷる震えだす。
「きゅー!」
そして声を出すとポンっと身体の中から何かが出てくる。
「これは……薬草? えっ? どういうこと? なんでプルルが薬草を召喚したんだ? スライムってそういう能力あったっけ?」
突然のことにクライブは混乱する。それは隣にいたガルムも同様だった。
「きゅー、きゅきゅー、きゅーきゅきゅきゅー(えっと、まえにとったやつ、からだのなかにのこしてた)」
あたかも普通のことのように言うプルルだったが、クライブは口を開けて驚いていた。
「……えーっと、その、なんだ。プルルは身体の中にものを保管しておく力があるのか?」
もしそれが本当であれば、保管庫代わりになるためとんでもない能力である。
「きゅー、きゅきゅー、きゅきゅっきゅー(できるけど、りょうはすくないかな)」
そう言うと、プルルは数枚の薬草をとりだして。身体を横に振る。これで全部だということを身体で表していた。
「なるほど……でもすごいな。これで薬草採集の依頼は完了だ。根元から綺麗に採集されているから問題ない。プルルありがとうな。一つ楽ができるよ。それにその格納の力もきっと何かに役立つはずだよ」
クライブがそう言いながらプルルの頭を撫でる。
それを見ていたガルムは、ステップを刻んで準備運動をしている。
プルルに手柄をたてられてしまったため、次の依頼では自分が活躍を見せるぞと気合を入れていた。
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