11 / 18
第10話 味のしない夕食会
しおりを挟む
わたしの前に立ったのは、背の高い執事さんだ。
顔はいいんだけど……声と態度はなんというか無機質で、人形のよう。
わたしは返答に迷った。
「えーっと、ごめんなさい。後でもいいでしょうか? 弟がお手洗いに行っているんです」
「弟様でしたら、先にお待ちです」
「え?」
わたしは、目をしばたかせた。
ルイよ、姉を差し置いていつの間に……。
戻ってこないと思ったら、ちゃっかり自分だけ先に夕食にありつこうなんてズルいじゃない!
「分かりました、わたしも行きます!」
こうしてはいられないわ。
わたしは執事さんと共に、大股でダイニングホールへと向かった。
案内された部屋は、とても華やかな空間だった。
天井を見上げると、煌びやかなシャンデリアが輝いている。
大きなテーブルの上には、白い磁器のお皿と銀製のカトラリーが並んでいた。中央に燭台《しょくだい》が置かれ、細長い蝋燭《ろうそく》に火が灯されている。
今にも貴族の晩餐会《ばんさんかい》が催されそうな、素敵なお部屋だ。
ちらりと見回すと、数人の執事さんの姿があった。
でもアルヴィンさまはいなくて、わたしはがっかりした。
期待していたのにっ!
その代わり、別の先客がいた。
「レナ様、お待ちしておりましたわ」
妖艶な笑みを浮かべたのは、ローレルさんだ。
彼女は家令だと名乗ったけれど、今は主人の席に腰掛けている。
わたしは案内されて、真向かいに座った。
あれ……?
ふと気づいて、わたしは部屋を見回す。ルイの姿が、どこにもなかった。
「ローレルさん、弟はどこですか?」
「別室にいらっしゃいますわ」
「別室? どうしてです?」
わたしの問いに、ローレルさんは答えない。
無言のまま、意味ありげに見返してくる。
なんだか、すっごく落ち着かない。
そう、アーデルハイトの屋敷で、親戚一同を前に追放を言い渡された時のようだ。
妙に口が渇いて、わたしはグラスに注がれた水を口にした。
その時だ。
「ところでレナ様は、魔女でいらっしゃいますね?」
「!! ち、ちちちちがいますけどーーーっ!?」
危なかった。
なんとか平静を保って、わたしは返答した。
他の誰かだったら、口に含んだ水を噴き出した程度では済まなかっただろう。
「アルムに住むという、銀髪の魔女の一族。お噂はかねがねうかがっておりますわ」
ローレルさんは言いながら、目を光らせる。
わたしの胸は不安でひどくざわめいた。
どうして、わたしが魔女だと分かったのだろう?
昼間に出くわした偽審問官たちと違って、彼女の声は強い確信を帯びている。
──教会に、通報したのだろうか。
背中を、冷たい汗が伝った。
まさか既に極悪な審問官が、扉の向こうで待機しているとか……!?
に、逃げなきゃ!!
わたしは慌てて、立ち上がった。
アルヴィンさまに告白もせずに、駆逐されるだなんてイヤ。絶対にイヤ。
──まだ、キスだってしていないのにっ!!
「わ、わたし用事を思い出し……ふぎゃっ!?」
直後、バサッ、という羽音と共に衝撃が走った。視界が、黒一色になった。
な、ななな、なになになに!? 審問官が攻撃してきたの!?
いや、そうじゃなかった。
原因は審問官じゃなくて……鳥、だ。
夜だというのに、カラスがわたしの顔にぶつかったのだ。
地面に落下したそれは、翼をばたつかせると、再び宙を飛んだ。
わたしは目を疑った。
カラスはローレルさんの肩にとまると、耳元にクチバシを近づける。そして、なにか耳打ちしたのだ。
ややあって、スッと、まるで魔法のように消えてしまう。
ローレルさんは、怪しく微笑んだ。
「レナさま、ご心配には及びませんわ。わたくしどもも、魔女でございますので」
「へっ?」
思わず目が、点になった。
ローレルさんが、魔女っ!?
まさか旅の初日から同族に会うなんて……いや、そんなことよりも。
彼女の双眸には、なぜか陰湿な影がちらついてた。
わたしの心の中で、不安が大きく渦巻いた。
顔はいいんだけど……声と態度はなんというか無機質で、人形のよう。
わたしは返答に迷った。
「えーっと、ごめんなさい。後でもいいでしょうか? 弟がお手洗いに行っているんです」
「弟様でしたら、先にお待ちです」
「え?」
わたしは、目をしばたかせた。
ルイよ、姉を差し置いていつの間に……。
戻ってこないと思ったら、ちゃっかり自分だけ先に夕食にありつこうなんてズルいじゃない!
「分かりました、わたしも行きます!」
こうしてはいられないわ。
わたしは執事さんと共に、大股でダイニングホールへと向かった。
案内された部屋は、とても華やかな空間だった。
天井を見上げると、煌びやかなシャンデリアが輝いている。
大きなテーブルの上には、白い磁器のお皿と銀製のカトラリーが並んでいた。中央に燭台《しょくだい》が置かれ、細長い蝋燭《ろうそく》に火が灯されている。
今にも貴族の晩餐会《ばんさんかい》が催されそうな、素敵なお部屋だ。
ちらりと見回すと、数人の執事さんの姿があった。
でもアルヴィンさまはいなくて、わたしはがっかりした。
期待していたのにっ!
その代わり、別の先客がいた。
「レナ様、お待ちしておりましたわ」
妖艶な笑みを浮かべたのは、ローレルさんだ。
彼女は家令だと名乗ったけれど、今は主人の席に腰掛けている。
わたしは案内されて、真向かいに座った。
あれ……?
ふと気づいて、わたしは部屋を見回す。ルイの姿が、どこにもなかった。
「ローレルさん、弟はどこですか?」
「別室にいらっしゃいますわ」
「別室? どうしてです?」
わたしの問いに、ローレルさんは答えない。
無言のまま、意味ありげに見返してくる。
なんだか、すっごく落ち着かない。
そう、アーデルハイトの屋敷で、親戚一同を前に追放を言い渡された時のようだ。
妙に口が渇いて、わたしはグラスに注がれた水を口にした。
その時だ。
「ところでレナ様は、魔女でいらっしゃいますね?」
「!! ち、ちちちちがいますけどーーーっ!?」
危なかった。
なんとか平静を保って、わたしは返答した。
他の誰かだったら、口に含んだ水を噴き出した程度では済まなかっただろう。
「アルムに住むという、銀髪の魔女の一族。お噂はかねがねうかがっておりますわ」
ローレルさんは言いながら、目を光らせる。
わたしの胸は不安でひどくざわめいた。
どうして、わたしが魔女だと分かったのだろう?
昼間に出くわした偽審問官たちと違って、彼女の声は強い確信を帯びている。
──教会に、通報したのだろうか。
背中を、冷たい汗が伝った。
まさか既に極悪な審問官が、扉の向こうで待機しているとか……!?
に、逃げなきゃ!!
わたしは慌てて、立ち上がった。
アルヴィンさまに告白もせずに、駆逐されるだなんてイヤ。絶対にイヤ。
──まだ、キスだってしていないのにっ!!
「わ、わたし用事を思い出し……ふぎゃっ!?」
直後、バサッ、という羽音と共に衝撃が走った。視界が、黒一色になった。
な、ななな、なになになに!? 審問官が攻撃してきたの!?
いや、そうじゃなかった。
原因は審問官じゃなくて……鳥、だ。
夜だというのに、カラスがわたしの顔にぶつかったのだ。
地面に落下したそれは、翼をばたつかせると、再び宙を飛んだ。
わたしは目を疑った。
カラスはローレルさんの肩にとまると、耳元にクチバシを近づける。そして、なにか耳打ちしたのだ。
ややあって、スッと、まるで魔法のように消えてしまう。
ローレルさんは、怪しく微笑んだ。
「レナさま、ご心配には及びませんわ。わたくしどもも、魔女でございますので」
「へっ?」
思わず目が、点になった。
ローレルさんが、魔女っ!?
まさか旅の初日から同族に会うなんて……いや、そんなことよりも。
彼女の双眸には、なぜか陰湿な影がちらついてた。
わたしの心の中で、不安が大きく渦巻いた。
0
あなたにおすすめの小説
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした
黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。
地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。
魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。
これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。
「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」
無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?
黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。
古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。
これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。
その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。
隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。
彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。
一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。
痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる