ダメ魔女の王子さま探し 〜追放されたので、シスコン銀髪弟と旅に出ます!〜

みみぞう

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第11話 魔女たちの晩餐

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「レナ様、魔女のネットワークを侮られないことですわ」

 ローレルさんは、薄い笑みを浮かべる。

「今朝アーデルハイトのご息女が、アルムを旅立たれたとのこと。あなたが大陸でもっとも高名で高慢な魔女の一族、アーデルハイトのレナ様で、間違いありませんわね?」

 わたしがどこの誰なのか、全てお見通しらしい。
 だとしたら、下手に隠しても無意味だ。小さくため息をつくと、わたしは正直に告げた。

「えーっと。たしかにアーデルハイトのレナです。それと、うちの親戚連中がイヤミでコーマンなのは否定しませんけれど……わたしがダメ魔女すぎて、一族から追い出されたんです」
「これはこれは、お戯《たわむ》れを」
「本当のことですけどっ!?」

 口許を隠して笑うローレルさんに、わたしは訴える。
 でも彼女は、軽く首を振っただけだ。

「次期当主と目されるレナ様は、初代アーデルハイトにも匹敵する魔力をお持ちだと伺っておりますわ」
「へ?」

 なになに!?
 今、次期当主で、初代アーデルハイトに匹敵する魔力とか、言った?

 ──わたしがっ!?

 そんなこと、あり得ない。だって魔法を使う素質が、一切ないのだ。 
 この人、とんでもない勘違いをしている。

「あのーですね。とっても言いにくいんですけれど……。それ、誤解です。そもそもわたし、魔法なんて使えませんし」
「こうして当家にお迎えできて、誠に光栄でございますわ」

 ローレルさんは、都合の悪い話は無視することに決めたらしい。
 ワイングラスを手に取ると、真紅の液体を口に運ぶ。  
 そして獲物を狙う蛇のように、目を細めた。

「──反言魔法《はんごんまほう》」
「へ?」
「レナ様、ご存じでいらっしゃいますね?」

 ハンゴンマホウ?
 そんなの知らない。断じて知らない。
 でもローレルさんは、わたしの困惑なんておかまいなしに続ける。

「反言、転じて反魂とも。原初の十三魔女の長姉、アーデルハイトが生み出したとされる、究極の魔法ですわ。不死を得ることすら可能だとか」
「ゲンショ……ノマジョ?」

 ハンゴンだとかゲンショだとか。
 知らない単語が立て続けに飛び出して、わたしの頭はオーバーヒート気味だ。
 それを見て、ローレルさんは口許を押さえて笑った。

「レナ様は、ご冗談がお好きでいらっしゃいますね。千年前に実在したとされる、わたくしたち魔女の始祖ですわ。アーデルハイトの末裔であるあなた様は、当然ご存じでいらっしゃいますでしょうけれど」

 いえ、すみません、知りません。
 というか、誤解したまま話をどんどん進めないで欲しい。

「初代アーデルハイトが生み出した魔法は、あなた様の一族によって、代々厳重に秘匿され続けてきた」

 ローレルさんは立ち上がると、わたしに深々と頭を下げた。

「その使い手が当家を訪れるなんて、運命に他なりませんわ。レナ様、我が主のためにぜひお力添えを」
「……だから、できませんってば」
「不死を与える、と一言おっしゃってくださればいいのです」

 魔法が使えない、って言っているのに、この人もなかなか頑固だ。
 わたしは苛立った。

「とにかく、できないものはできません。弟を呼んでください!」
「穢れた血は、あなた様の側にはふさわしくありません」

 ローレルさんの美しく整った顔に、黒々とした蔑《さげす》みの感情が横切った。
 穢れた血とは、魔女の家に生まれた男子を、見下した言葉だ。
 なんだか……すっごく、感じが悪い!

「ルイは口も態度も悪いけれど、大事な弟です! ……あと、性格も悪いですけどっ。あ、それに姉への敬意がないところも大いに減点です!」

 ……とにかく、一言でまとめると大事な弟なのだ! 間違いなくそう。
 わたしは席を立つと、扉へと向かった。
 今夜は野宿でいい。夕食だって、なくてもいい。
 弟を侮辱されたのだ。
 豪華な食事をいただいて温かいベッドに入るよりも、冷たい地面の上で寝る方がずっとマシだ。

「──それがお返事ですか?」

 ローレルさんの声が、不穏な響きを帯びた。
 わたしは構わずに出口へ向かう。

「お世話になりました! 美味しいお水もありがとうございましたっ」
「残念でございますわ」

 次の瞬間、燭台の炎が揺らめいた。
 わたしは足を止めて、振り返る。
 ローレルさんの背後で、何かがうごめいたように見えた。
 それは──影だ。 

 彼女から伸びた影が、まるで意志を持ったかのように、触手を伸ばした。
 ローレルさんが、腕を振る。
 身構える暇なんてなかった。
 影が悪意の奔流となって、わたしを襲った。

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