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第三章 凶音の魔女
第27話 無礼な来訪者、再び 2
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診察室の扉に背を預けて、白衣を着た女医が立っていた。
──やはり、逃げていなかったか。
彼女の姿を見て、アルヴィンは陰鬱な気分に襲われる。まさか訣別をした翌朝に、こうして顔をあわすことになるとは……悪魔の導きとしか思えない。
クリスティーの顔を認めて、隻眼の上級審問官は歓喜に似た声を上げる。
「凶音の魔女! 診療所は完全に包囲した。もはや逃げ隠れできんぞ!」
「凶音? 生憎だけれど、人違いじゃないかしら」
退路はなく、目の前に立つのは歴戦の上級審問官だ。
普通に考えれば絶体絶命の状況なのだろうが……クリスティーは動揺した気配も見せず、ぬけぬけと惚けてみせた。
だが、審問官を動員し診療所を包囲した以上、キーレイケラスには確信があるに違いない。
どこまで、言い逃れができるのか……。
「素直に認めろ。協力すれば、寛大に処遇すると枢機卿は仰せだ」
「それはそれは、お優しいことね」
言葉とは裏腹に、クリスティーの口調は感情のこもらぬものだ。嫌悪感を、隠しもしない。
「それで。どう処遇してくださるのかしらね」
「駆逐せず、特別に地下牢に幽閉してやる」
「……」
「さあ、どうなのだ」
「今答えないといけないのかしら?」
「当然だ。さあ、認めろ!」
キーレイケラスは、居丈高な語勢で迫る。彼女は小さくため息をついた。
「残念だけど、あなたは私の専門外のようだわ」
「なんだと?」
痛烈な嘲弄が、クリスティーの顔に浮かぶ。
「市民を銃で脅すような輩は、人の言葉を話す猿でしょうから。お猿さんは、動物病院に行ってくださる?」
「……しらを切るのなら、審問するまでだ!」
こけにされた、と気づいて、キーレイケラスはどす黒い憤怒をみなぎらせた。
診療所内を一瞥する。そして隻眼に、獲物を見つけた肉食獣のような光を宿した。
「名前を言え!」
「え、あのっ……」
戸惑いの声が漏れた。
当然だ。キーレイケラスが審問を始めた相手は、クリスティーではない。
エレン、だったのだ。
「これは審問だ。市民は正当な理由なく拒否できない。偽りなく答えろ。名前は?」
「……エ、エレンです」
少女は、声を絞り出すようにして答える。
なぜ自分が審問されるのか、エレンは戸惑いを隠しきれない。
「貴様は、魔女か?」
「ち、違いますっ!」
「では、魔女が身近にいるか?」
「……」
「なぜ黙る?」
キーレイケラスが放つ威圧感が増した。
エレンは顔を蒼白にし、肩を小刻みに震わせる。
「何を知っている?」
「何も知りませんっ!」
「言わないのなら、教会で詳しく訊かせてもらぞ」
「嫌っ! 離してっ」
キーレイケラスは、エレンの細腕を捻り上げた。少女が顔を引きつらせ、悲鳴を上げる。
診療所内の空気が、帯電したように張りつめた。緊張が、破局の一歩手前まで跳ね上がる。
「待ちなさい」
それを止めたのは、聴いた者の心を凍り付かせるような、冷え切った声だった。静かな怒りに満ちている。
「私が魔女よ。連れて行きなさい」
「先生っ!!」
「凶音の魔女であると、認めるのだな?」
「認めるわ」
キーレイケラスは、悪意に満ちた笑みを浮かべた。
「よかろう」
その審問術は、悪辣という他ない。
だが、あのクリスティーから、いともあっさり言質を引き出した手腕に、アルヴィンは驚嘆した。目的までの最短距離を、一瞬で見極めた洞察力に舌を巻く。
男はクリスティーを見やり、片眸に辛辣な光を宿した。
「それでは、凶音の魔女クリスティー。教会まで、ご同行をいただこうか」
──やはり、逃げていなかったか。
彼女の姿を見て、アルヴィンは陰鬱な気分に襲われる。まさか訣別をした翌朝に、こうして顔をあわすことになるとは……悪魔の導きとしか思えない。
クリスティーの顔を認めて、隻眼の上級審問官は歓喜に似た声を上げる。
「凶音の魔女! 診療所は完全に包囲した。もはや逃げ隠れできんぞ!」
「凶音? 生憎だけれど、人違いじゃないかしら」
退路はなく、目の前に立つのは歴戦の上級審問官だ。
普通に考えれば絶体絶命の状況なのだろうが……クリスティーは動揺した気配も見せず、ぬけぬけと惚けてみせた。
だが、審問官を動員し診療所を包囲した以上、キーレイケラスには確信があるに違いない。
どこまで、言い逃れができるのか……。
「素直に認めろ。協力すれば、寛大に処遇すると枢機卿は仰せだ」
「それはそれは、お優しいことね」
言葉とは裏腹に、クリスティーの口調は感情のこもらぬものだ。嫌悪感を、隠しもしない。
「それで。どう処遇してくださるのかしらね」
「駆逐せず、特別に地下牢に幽閉してやる」
「……」
「さあ、どうなのだ」
「今答えないといけないのかしら?」
「当然だ。さあ、認めろ!」
キーレイケラスは、居丈高な語勢で迫る。彼女は小さくため息をついた。
「残念だけど、あなたは私の専門外のようだわ」
「なんだと?」
痛烈な嘲弄が、クリスティーの顔に浮かぶ。
「市民を銃で脅すような輩は、人の言葉を話す猿でしょうから。お猿さんは、動物病院に行ってくださる?」
「……しらを切るのなら、審問するまでだ!」
こけにされた、と気づいて、キーレイケラスはどす黒い憤怒をみなぎらせた。
診療所内を一瞥する。そして隻眼に、獲物を見つけた肉食獣のような光を宿した。
「名前を言え!」
「え、あのっ……」
戸惑いの声が漏れた。
当然だ。キーレイケラスが審問を始めた相手は、クリスティーではない。
エレン、だったのだ。
「これは審問だ。市民は正当な理由なく拒否できない。偽りなく答えろ。名前は?」
「……エ、エレンです」
少女は、声を絞り出すようにして答える。
なぜ自分が審問されるのか、エレンは戸惑いを隠しきれない。
「貴様は、魔女か?」
「ち、違いますっ!」
「では、魔女が身近にいるか?」
「……」
「なぜ黙る?」
キーレイケラスが放つ威圧感が増した。
エレンは顔を蒼白にし、肩を小刻みに震わせる。
「何を知っている?」
「何も知りませんっ!」
「言わないのなら、教会で詳しく訊かせてもらぞ」
「嫌っ! 離してっ」
キーレイケラスは、エレンの細腕を捻り上げた。少女が顔を引きつらせ、悲鳴を上げる。
診療所内の空気が、帯電したように張りつめた。緊張が、破局の一歩手前まで跳ね上がる。
「待ちなさい」
それを止めたのは、聴いた者の心を凍り付かせるような、冷え切った声だった。静かな怒りに満ちている。
「私が魔女よ。連れて行きなさい」
「先生っ!!」
「凶音の魔女であると、認めるのだな?」
「認めるわ」
キーレイケラスは、悪意に満ちた笑みを浮かべた。
「よかろう」
その審問術は、悪辣という他ない。
だが、あのクリスティーから、いともあっさり言質を引き出した手腕に、アルヴィンは驚嘆した。目的までの最短距離を、一瞬で見極めた洞察力に舌を巻く。
男はクリスティーを見やり、片眸に辛辣な光を宿した。
「それでは、凶音の魔女クリスティー。教会まで、ご同行をいただこうか」
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