白き魔女と黄金の林檎

みみぞう

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第四章 原初の魔女

第51話 それぞれの最期

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    銃口から放たれた鉛の銃弾は──キーレイケラスの額の中心を、撃ち抜いた。

 両眼を見開いたまま、男の動きが止まる。
 腕が力を失い、アルヴィンに達する寸前で剣が床に落ちた。
 実に危うい賭けだった。
 だが、勝敗は決した。

 思わず安堵した直後、言い知れぬ悪寒が襲った。本能が、急速な危険の到来を告げる。  
 額を撃ち抜かれたはずのキーレイケラスの口許に……にやり、と笑みが浮かんだのだ。
 咄嗟に後ろに飛び退こうとし、それは叶わない。

 予告のない猛烈な衝撃が身体を襲い、数メートルの距離を飛ばされる。バウンドし、聖堂の柱に衝突して、ようやくアルヴィンの身体は止まった。
 口の中に鉄の味がにじみ、全身に激痛が走る。

 致命傷を与えたはずのキーレイケラスは……何事もなかったように立っていた。
 見る間に額の傷が癒えていくのを目の当たりにして、アルヴィンは声を震わせる。
 その光景には、見覚えがあった。
 そう、それはメアリーと同じ──

「──不死の、呪いか!?」
「加護、だ」 

 不快げに眉を寄せると、キーレイケラスは短く正した。陶酔したような声が、不気味に尾を引いた。

「これは強固な信仰心を持つ者だけが得られる、加護なのだ。出来損ないの不死と一緒にするな」
「……狂信者めっ」

 アルヴィンは吐き出したくなるような、嫌悪感が湧き上がるのを感じた。
 何と呼ぼうが、それは不死の呪いに他ならない。
 自身に呪いをかけるなど、狂気の沙汰としか言えない。
 キーレイケラスは、ゆっくりと間合いを詰める。

 戦意はまだ失っていない。アルヴィンは激痛に耐えながら拳銃を構え、発砲した。
 先ほどの打撃で、助骨の一本か二本は折れただろうが……銃を手放さなかったのは上出来だった。そしてなお、狙いは正確だ。

 急所を射貫き、常人であれば三度天に召され、まだお釣りがくる程の鉛玉を叩き込む。
 だが……キーレイケラスは平然としたまま、足を止めない。

 まったく不条理な戦いであると言わざるを得なかった。
 拳銃は、通用しない。
 呪いを解くシュレーディンガーもない。
 そんな状況で、この難局をどう打開すればいいのか──
 アルヴィンは絶望の淵に落ちそうになる気持ちを鼓舞し、男を睨みつけた。

「何故そこまでして、不死を求める!」
「──私を置いて、世界の済世者たるに相応しい者はおらぬ。それだけだ」
「……なんだって?」
「私が世界を救う。不死も聖都の老人たちも、所詮はその道具に過ぎぬ」

 信じがたいことに、キーレイケラスは傲慢な笑みをちらつかせながら、枢機卿らを侮蔑する。

「誰も、あなたの救いなんて必要としていない!」

 憤然として、アルヴィンは叫んだ。
 時間はもう、残されてはいなかった。
 キーレイケラスが眼前に立ち、冷笑する。

「好きに言うがいい。貴様はあの世で、父親に詫びてくることだ」

 両手剣が、大きく振り上げられた。




「嵐の魔女オラージュ!!」

 鐘塔の最上階で、クリスティーは声の限り叫んだ。
 欄干にしがみつき、アルビオの街に目を凝らす。
 河川が氾濫し、街に濁流が流れ込みつつあった。もはや猶予は残されていない。 

 顔に叩きつける雨粒が痛い。少しでも気を抜けば、暴風に身体ごとさらわれそうになる。
 もし落下すれば、待ち受ける結果は──死、しかない。
 それでもなお、彼女はひるまない。街の中心に立つ黒い巨人を、真っ直ぐに見据える。

「私は白き魔女の娘、クリスティーよ!」

 この猛烈な嵐の中で、声が届くかは……疑わしい。
 だが、クリスティーはハッとした。巨人が、自分に意識を注ぐ気配を感じたのだ。

(オ……ィー……ア…………リア……)

 頭の中に、声が響く。

 ──声? 違う、思念波だわ!

 それは断片的で、内容までは判然としない。

 ──私に話しかけてきている? だとしたら……話が通じるかも知れない!

 ゆらり、ゆらりと、巨人が教会へと近づく。
 その背丈は、鐘塔よりも僅かに高い。そして間近に見ると、黒い身体の表面が波打っていることに気づく。
 巨人自身が、巨大な水の塊なのだ。 
 と、顔が近づき、目が合った。……ような気がした。

(オフィ……ア…………リア……)

 ──オフィーリア? ……母の、名だわ! 

 もしかすると、説得する余地があるのかもしれない。
 一縷の望みを抱いて、クリスティーは声をあげる。 

「私はオフィーリアの娘よ!」

(……フィ……リア…オ…スメ……? ……)

「そうよ! 私は無事。あなたがここにいる理由はないわ。去りなさい!」

 しばらくの間があった。
 巨人は……静かに、頷いたように見える。

 ──通じた!?

 クリスティーは表情を明るくする。
 次の瞬間、巨人の拳が鐘塔に深々と突き刺さった。


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