白き魔女と黄金の林檎

みみぞう

文字の大きさ
87 / 197
第五章 幻惑の魔女

第14話 赤毛の少女とオルガナ

しおりを挟む
 メアリーとは、三年前に別れたきりだ。
 枢機卿らを告発する証人となるため、彼女は聖都へ赴いた。
 どこか抜けているところもあったが……自分の犯した罪に向き合う、芯の強さを持った少女だった。 

 聖都へ向かった後の消息を、アルヴィンは知らない。便りもない。
 枢機卿達に刃向かったメアリーは、いまどうしているのか──

「あの喧しい小娘が聖都にいれば、三日と経たずに消されるだろうな」
「まさか……」

 ウルベルトの返答に、アルヴィンは悲痛な色が浮かべる。

「そんな顔をするな。あの娘ならオルガナにいる。勿論無事だ」
「学院に……ですか!?」

 意外すぎる場所に、アルヴィンの声は調子外れなものとなった。
 オルガナは、審問官の養成学校である。
 あの天真爛漫な少女が、審問官メアリーに……いや、全く想像できない。 

 そもそも厳格な規則で知られるオルガナで、うまくやっていけるのだろうか。
 座学など、あの娘はとことん苦手そうである。

「枢機卿派の連中も、学院には手出しを控えておる。あそこにいれば、命の心配はない」

 アルヴィンと同じ思いだったのだろうか……ウルベルトは一言付け加える。

「卒業できるかは知らんがな」

 とにかく彼女が無事であるのなら、どこにいてもいい。
 アルヴィンは心からの謝辞を口にする。 

「ご配慮に感謝します、枢機卿ウルベルト」
「おいおい、しおらしく礼など言うな。足手まといがいては、俺の身まで危うくなる、それだけだ。それより学院を卒業したら、お前を指導官に指名すると息巻いておったからな、覚悟しておけ」

 アルヴィンは苦笑するしかない。
 無事に卒業できれば、だが……新たな教え子は、ベネット以上に手のかかるじゃじゃ馬となるに違いない。

「よしてください、僕は指導官に向いてないんで──」
「誰かいるの?」

 咄嗟にアルヴィンは口をつぐんだ。 
 フェリシアが、背後に立っていた。

「いや……書を探していただけさ」 

 そう言うと、手にしていた書を書架に戻す。
 ウルベルトの気配は消えていた。

 ──訊かれていただろうか?

 平静を装ってアルヴィンは振り返る。
 そして……彼女の装いに、うめき声が漏れた。
 着替えたのだろう。

 活動的な出で立ちの、颯爽とした美人が立っていた。
 ダークブルーのジャケットを着て、乗馬用のキュロットとブーツを履いている。
 艶やかな銀髪は、ポニーテールでまとめている。
 まるでハンティングに行くかのような装いだ。

「さあアルヴィン、行こうか!」

 にこやかに宣言すると、フェリシアが腕を組んでくる。

「ちょっと待ってくれ!」
「あ、仕事なら大丈夫だから! 館長にお願いして、まとまったお休みをもらってきたからね♪」
「そうじゃない!」

 アルヴィンは邪険に腕を振り払う。
 彼女は鍵探しを、キツネ狩りかピクニックと勘違いをしているようだ。
 フェリシアに向けられた語気は強いものになった。

「君まで来なくていいんだ! 命の危険がある。手がかりを教えてくれれば、僕が探す」
「無理に連れて行けとは言わないけど。でもさ、キミは古言語が読めるの?」
「それは……」
「禁書庫はね、古言語の法則に則って造られているんだ。鍵を探すのなら、理解できる人間が同行した方がいいと思うよ。キミは疑問にぶち当たる度にここに来て質問するのかな? そんな迂遠なやり方で、目的にたどり着けるのかな?」

 矢継ぎ早に、フェリシアは畳み掛けてくる。
 正論、ではある。正鵠を射た指摘に反駁できない。
 げっそりとした顔で、アルヴィンは頭を垂れた。

「……分かった。一緒に来てくれ」

 暗黒のクリスマス・イヴから数年が経過している。
 だが……お互いの立場が変わった今でも、彼女のペースで物事が進むのは変わらないらしい。

「心配しなくてもいいから♪ 手がかりはあるんだから」

 その声に、ハッとしてフェリシアの顔を見やる。
 彼女はアルヴィンの耳元に唇を近づけると、こう囁いた。 

「──禁書庫の鍵はね、灰色の枢機卿が持つんだ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...