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第八章 白き魔女
第96話 審判の刻
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教皇ミスル・ミレイにとっては、我が家のようなものだ。
大陸で最も神聖で、壮麗な街。
ここで生を受け、今は主でもある。
その聖都の惨状を目の当たりにして──無言で、片眉をつりあげる。
街のいたるところで火の手があがっている。
それは教皇庁や、大聖堂とて例外ではない。
造営に心血を注いだ職人らが目にすれば、たちまち卒倒することだろう。
報告のとおり、魔女の攻撃は止んでいた。
散発的に、銃声が木霊するだけだ。
つまり、それ、は間もなく起きる──
「ウルベルト」
「はっ!!」
教皇に呼ばれ、ウルベルトが直立不動の姿勢を取った。
普段、”欲が祭服を着て歩いている”と揶揄されるこの男にしては、引き締まった顔をしている。
もっとも表情以上に、自己主張の強すぎる腹が存在感を誇示したが……真剣であることには違いない。
街を睨んだまま、教皇は下命する。
「動ける者を二手に分けよ。武器を持つ者は魔女に加勢を。持たざる者は市民を聖都から退避させよ」
「し……しかしですな猊下、聖都を放棄せずとも、他に手は……」
聖都を放棄する──その命令に、ウルベルトは未練たっぷりな様子で食い下がる。
「あれを見よ」
教皇が外を指差す。
「!!」
それが何であるかを理解して、ウルベルトの顔が硬直した。
窓の外、紅く燃える聖都の街並みよりも、遙か遠く。大地と空の境界線だ。
その縁を、緑色に輝く帯が流れた。
非現実的な美しさと妖しさを伴い、輝きを増す。たちまちそれは、全天を覆い尽くすように広がっていく。
「オーロラ……?」
傷の痛みも忘れ、ベネットは呆然は呟いた。
実際に目にしたことはない。知識として知っているだけだ。
そもそも聖都は、観測できる地方から遠く離れているはずだ……
聖都の上空に達した帯は、やがて緑と青が混ざり合った円環を生み出す。
ベネットの背筋を、ゾワリとした悪寒が走った。
それは何の根拠もない、輪郭すらはっきりとしない、漠然とした不安に過ぎない。
だが……分かる。
本能が告げていた。
これは予兆だ。滅びの予兆だ。
「あれは……何……?」
メアリーが、ぽかんと口を開け、夜空の一点を見あげる。
ベネットの喉奥から、呻きが漏れた。目が釘付けとなる。
円環から、眩い光が聖都へと落ちてくる。
それは──人の形をしていた。
光の巨人だ。
「神だ」
言ったのは、おそらく教皇か。
いや、誰が言ったかなど、どうでもいい。
空気が震えている。
白い光の尾を引いて、巨人が地表へと達する。途端、猛烈な衝撃波が地面を這った。
堅牢な石造りの建物が、積み木でも崩すかのように崩壊する。
ほんの一瞬で、一区画が潰滅した。魔女の魔法すらちっぽけに感じさせる、信じられない力だ。
ベネットは身体を震わせ、戦慄した。
聖都に降り立ったのは、八翼を持つ光の巨人。
それは──神、と呼ぶには禍禍し過ぎる。
「急げ! 躊躇すれば、全てが手遅れとなるぞ」
教皇の声が緊迫の度を増す。
聖櫃が開かれ、神が現出する。
大陸に審判の刻が訪れた。
大陸で最も神聖で、壮麗な街。
ここで生を受け、今は主でもある。
その聖都の惨状を目の当たりにして──無言で、片眉をつりあげる。
街のいたるところで火の手があがっている。
それは教皇庁や、大聖堂とて例外ではない。
造営に心血を注いだ職人らが目にすれば、たちまち卒倒することだろう。
報告のとおり、魔女の攻撃は止んでいた。
散発的に、銃声が木霊するだけだ。
つまり、それ、は間もなく起きる──
「ウルベルト」
「はっ!!」
教皇に呼ばれ、ウルベルトが直立不動の姿勢を取った。
普段、”欲が祭服を着て歩いている”と揶揄されるこの男にしては、引き締まった顔をしている。
もっとも表情以上に、自己主張の強すぎる腹が存在感を誇示したが……真剣であることには違いない。
街を睨んだまま、教皇は下命する。
「動ける者を二手に分けよ。武器を持つ者は魔女に加勢を。持たざる者は市民を聖都から退避させよ」
「し……しかしですな猊下、聖都を放棄せずとも、他に手は……」
聖都を放棄する──その命令に、ウルベルトは未練たっぷりな様子で食い下がる。
「あれを見よ」
教皇が外を指差す。
「!!」
それが何であるかを理解して、ウルベルトの顔が硬直した。
窓の外、紅く燃える聖都の街並みよりも、遙か遠く。大地と空の境界線だ。
その縁を、緑色に輝く帯が流れた。
非現実的な美しさと妖しさを伴い、輝きを増す。たちまちそれは、全天を覆い尽くすように広がっていく。
「オーロラ……?」
傷の痛みも忘れ、ベネットは呆然は呟いた。
実際に目にしたことはない。知識として知っているだけだ。
そもそも聖都は、観測できる地方から遠く離れているはずだ……
聖都の上空に達した帯は、やがて緑と青が混ざり合った円環を生み出す。
ベネットの背筋を、ゾワリとした悪寒が走った。
それは何の根拠もない、輪郭すらはっきりとしない、漠然とした不安に過ぎない。
だが……分かる。
本能が告げていた。
これは予兆だ。滅びの予兆だ。
「あれは……何……?」
メアリーが、ぽかんと口を開け、夜空の一点を見あげる。
ベネットの喉奥から、呻きが漏れた。目が釘付けとなる。
円環から、眩い光が聖都へと落ちてくる。
それは──人の形をしていた。
光の巨人だ。
「神だ」
言ったのは、おそらく教皇か。
いや、誰が言ったかなど、どうでもいい。
空気が震えている。
白い光の尾を引いて、巨人が地表へと達する。途端、猛烈な衝撃波が地面を這った。
堅牢な石造りの建物が、積み木でも崩すかのように崩壊する。
ほんの一瞬で、一区画が潰滅した。魔女の魔法すらちっぽけに感じさせる、信じられない力だ。
ベネットは身体を震わせ、戦慄した。
聖都に降り立ったのは、八翼を持つ光の巨人。
それは──神、と呼ぶには禍禍し過ぎる。
「急げ! 躊躇すれば、全てが手遅れとなるぞ」
教皇の声が緊迫の度を増す。
聖櫃が開かれ、神が現出する。
大陸に審判の刻が訪れた。
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