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第八章 白き魔女
第98話 神殺し
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生きている……のだろう。
頭が酷く痛む。フェリシアに斬りつけられた、左腕もだ。
全身がボロボロだが、まだ死んではいない。痛みを感じるのが、何よりの証拠だ。
アルヴィンは上体を起こすと、頭を軽く振った。
地下に静寂が落ちていた。
世界の終わりを告げるかのような轟音は──止んでいる。代わりに聞こえたのは、腕の中に庇ったフェリシアの息づかいだ。
意識はまだ戻っていない。
「ほんとあなたって、一度決めたら止まらない人ね」
そこに、呆れ交じりの声がかけられる。
すぐ側に、苦笑を浮かべたクリスティーが立っていた。
その姿を見て、アルヴィンは思わず安堵の息を漏らす。
三人とも泥で汚れ、難民のような有様である。だが、致命傷は受けていない。生きている。
周囲の惨状からすれば、奇跡といってもいい。
クリスティーが差し出した手を握り、アルヴィンは立ち上がった。
土煙が収まった地下は、様変わりしていた。
家ほどの大きさがある巨岩が、いたるところに落下し、地底湖の半分は土砂に埋められている。
驚いたことだが、虚空に浮かぶ聖櫃と白き魔女は、崩壊の前と何ら変わりないように見える。
そして……ステファーナの姿はない。
崩壊に巻き込まれたのか。いや、底知れない力を持った、あの少女に限って、そんなドジは踏むまい。
──どこかに、いるはずだ。
アルヴィンは油断なく視線を走らせ──地面に、青白い月明りが落ちていることに気づく。
弾かれたように頭上を振り仰ぎ──
「──っ!」
アルヴィンは言葉を失った。
にわかには信じがたい光景だった。
天井に巨大な穴が、ぽっかりと口を開けていた。
そこから月と、不吉な輝きを放つオーロラが覗いている。
地上まで続く、巨大な穴が貫通していたのだ。
──だが……一体どうやって……?
視界の片隅に、こちらを見下ろす何かが映った。
穴の外縁に立つそれと、アルヴィンは目があったような気がした。
途端、心臓を鷲づかみにされたかのような、衝撃が走る。
人だ。人、なのだろう。
光り輝き、八翼を持つ巨人を、人の部類に含めてよいのであれば。
押しつぶされるような圧迫感に、アルヴィンは恐怖すら覚える。
「──神です」
響いたのは、落ち着いた少女の声だ。
「ステファーナ!」
巨岩の上にその姿を見出し、アルヴィンは身構えた。
やはり、というべきか──少女もまた、無事であったらしい。
その双眸は自信に満ち、いささかの動揺も感じさせない。
あたかも全てが予定通りであるとでもいいたげな、余裕で満たされている。
「いい機会です。大陸の滅びなど杞憂に過ぎないことを、証明してみせましょう」
さらりと宣言すると、ステファーナは槍先で岩を軽く突いた。
パン! と乾いた破裂音が生じ、小さな身体が宙を飛んだ。
重力の見えざる手が捕らえ直すよりも早く、新たな小爆発が空中に起きる。
爆発は立て続けに生じ、反動で高度と速度が見る間に増す。
瞬きをする間もない。
僅か数秒で少女は、地上へと飛び出した。
次の瞬間、その姿は聖都の上空にある。禍禍しい気を放つ、巨人の眼前にだ。
神が小さな刺客を覚知するよりも早く、ステファーナが動いた。
グングニルが一閃した。
恐ろしいほどの速度と正確さで、神の首筋を薙ぐ。
勝敗は一瞬で決した。
小爆発で落下の勢いを殺すと、ステファーナは天使のように、ひらりと聖都に舞い降りる。
「これがグングニルの真価です。神を屠ることなど、造作もありません」
勝ち誇った声は、誰の耳にも届かない。
周囲の区画全体が潰滅していたのだから、当然だ。
肩にかかった金髪を後ろに流すと、ステファーナは背後に立つ神を見あげた。
巨人の、頭部が──
ゆっくりと──まるでスローモーションを見るかのように、ゆっくりと──身体から、分離した。
それは地上へ落下し、新たな地響きを生み出す。
信じがたいことだが……ステファーナは、神の首を斬り落としてみせたのだ。
頭部を失った身体は、直立したまま動かなくなる。
「神を……神を、本当に殺した……のか?」
アルヴィンは、熱に浮かされたように、喉奥から声を絞り出す。
「まだよっ!」
否定の声をあげたのは、クリスティーだ。
「あれくらいで、どうにかなるほど甘い相手じゃないわっ!」
その叫びは──正しい。
神の首を、斬り落とした。
だが、何も終わってなどいなかった。
苛烈な変化が生じたのは、地表に落下した頭部だ。
輪郭がぼやけたように見えた直後、数千を超える光の粒子へと分裂し、弾けた。
それが……ただの光であろうはずがない。
「何てことだ──!!」
ひとつひとつが、人の大きさ程の神兵であることに気づき、アルヴィンは呻く。
背中に二翼を持ち、輝く槍を手にしている。
それらは神の使い──いや、滅びの尖兵とでも称すべきものだろう。
数千に増幅された殺意が、新たな焦点を合わせる。
光の槍が、全方位からステファーナへと殺到した。
頭が酷く痛む。フェリシアに斬りつけられた、左腕もだ。
全身がボロボロだが、まだ死んではいない。痛みを感じるのが、何よりの証拠だ。
アルヴィンは上体を起こすと、頭を軽く振った。
地下に静寂が落ちていた。
世界の終わりを告げるかのような轟音は──止んでいる。代わりに聞こえたのは、腕の中に庇ったフェリシアの息づかいだ。
意識はまだ戻っていない。
「ほんとあなたって、一度決めたら止まらない人ね」
そこに、呆れ交じりの声がかけられる。
すぐ側に、苦笑を浮かべたクリスティーが立っていた。
その姿を見て、アルヴィンは思わず安堵の息を漏らす。
三人とも泥で汚れ、難民のような有様である。だが、致命傷は受けていない。生きている。
周囲の惨状からすれば、奇跡といってもいい。
クリスティーが差し出した手を握り、アルヴィンは立ち上がった。
土煙が収まった地下は、様変わりしていた。
家ほどの大きさがある巨岩が、いたるところに落下し、地底湖の半分は土砂に埋められている。
驚いたことだが、虚空に浮かぶ聖櫃と白き魔女は、崩壊の前と何ら変わりないように見える。
そして……ステファーナの姿はない。
崩壊に巻き込まれたのか。いや、底知れない力を持った、あの少女に限って、そんなドジは踏むまい。
──どこかに、いるはずだ。
アルヴィンは油断なく視線を走らせ──地面に、青白い月明りが落ちていることに気づく。
弾かれたように頭上を振り仰ぎ──
「──っ!」
アルヴィンは言葉を失った。
にわかには信じがたい光景だった。
天井に巨大な穴が、ぽっかりと口を開けていた。
そこから月と、不吉な輝きを放つオーロラが覗いている。
地上まで続く、巨大な穴が貫通していたのだ。
──だが……一体どうやって……?
視界の片隅に、こちらを見下ろす何かが映った。
穴の外縁に立つそれと、アルヴィンは目があったような気がした。
途端、心臓を鷲づかみにされたかのような、衝撃が走る。
人だ。人、なのだろう。
光り輝き、八翼を持つ巨人を、人の部類に含めてよいのであれば。
押しつぶされるような圧迫感に、アルヴィンは恐怖すら覚える。
「──神です」
響いたのは、落ち着いた少女の声だ。
「ステファーナ!」
巨岩の上にその姿を見出し、アルヴィンは身構えた。
やはり、というべきか──少女もまた、無事であったらしい。
その双眸は自信に満ち、いささかの動揺も感じさせない。
あたかも全てが予定通りであるとでもいいたげな、余裕で満たされている。
「いい機会です。大陸の滅びなど杞憂に過ぎないことを、証明してみせましょう」
さらりと宣言すると、ステファーナは槍先で岩を軽く突いた。
パン! と乾いた破裂音が生じ、小さな身体が宙を飛んだ。
重力の見えざる手が捕らえ直すよりも早く、新たな小爆発が空中に起きる。
爆発は立て続けに生じ、反動で高度と速度が見る間に増す。
瞬きをする間もない。
僅か数秒で少女は、地上へと飛び出した。
次の瞬間、その姿は聖都の上空にある。禍禍しい気を放つ、巨人の眼前にだ。
神が小さな刺客を覚知するよりも早く、ステファーナが動いた。
グングニルが一閃した。
恐ろしいほどの速度と正確さで、神の首筋を薙ぐ。
勝敗は一瞬で決した。
小爆発で落下の勢いを殺すと、ステファーナは天使のように、ひらりと聖都に舞い降りる。
「これがグングニルの真価です。神を屠ることなど、造作もありません」
勝ち誇った声は、誰の耳にも届かない。
周囲の区画全体が潰滅していたのだから、当然だ。
肩にかかった金髪を後ろに流すと、ステファーナは背後に立つ神を見あげた。
巨人の、頭部が──
ゆっくりと──まるでスローモーションを見るかのように、ゆっくりと──身体から、分離した。
それは地上へ落下し、新たな地響きを生み出す。
信じがたいことだが……ステファーナは、神の首を斬り落としてみせたのだ。
頭部を失った身体は、直立したまま動かなくなる。
「神を……神を、本当に殺した……のか?」
アルヴィンは、熱に浮かされたように、喉奥から声を絞り出す。
「まだよっ!」
否定の声をあげたのは、クリスティーだ。
「あれくらいで、どうにかなるほど甘い相手じゃないわっ!」
その叫びは──正しい。
神の首を、斬り落とした。
だが、何も終わってなどいなかった。
苛烈な変化が生じたのは、地表に落下した頭部だ。
輪郭がぼやけたように見えた直後、数千を超える光の粒子へと分裂し、弾けた。
それが……ただの光であろうはずがない。
「何てことだ──!!」
ひとつひとつが、人の大きさ程の神兵であることに気づき、アルヴィンは呻く。
背中に二翼を持ち、輝く槍を手にしている。
それらは神の使い──いや、滅びの尖兵とでも称すべきものだろう。
数千に増幅された殺意が、新たな焦点を合わせる。
光の槍が、全方位からステファーナへと殺到した。
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