188 / 197
第八章 白き魔女
第101話 大陸か、彼女か
しおりを挟む
クリスティーは、落ち着いた口調で続ける。
「三年前、アルビオに原初の十三魔女オラージュが現れた時、話したわよね? 母が不死を達成した時、姉たちとある契約を交わしたわ。それは、母の身に危機が訪れた時、守護をすること。契約は、私にも引き継がれて──」
「ダメだ!」
叫び声が、クリスティーの言葉を遮った。
何を言わんとしているか──アルヴィンは不意に悟った。
彼女のやろうとすること、それを決して認めてはいけない。そう直感する。
クリスティーは静かに、どこまでも淡々と宣告する。
「──アルヴィン、私を撃ちなさい」
絶望的な響きが、アルヴィンの心を揺らした。
クリスティーは、覚悟を込めた眼差しを向けてくる。
「私が瀕死になれば、原初の十三魔女を喚び出すことができる。伯母たちの力があれば、神を封じられるわ」
「ダメだ! 原初の魔女に理性など残っていないのだろう? 喚び出したところで、事態を悪化させるだけだ!」
「でも今は、母がいる」
閃光が、背後で瞬いた。
クリスティーは神と対峙する白き魔女を見やり、目を細める。
「三年前、わたしの声は伯母に届かなかったわ。でも、母になら従うかもしれない」
「そうだとしても……君が、そこまでする必要がどこにあるんだ!?」
「私は、白き魔女の娘ですもの」
彼女は、さも当然のことのように断言すると、再び視線を聖櫃へと注いだ。
神は既に、白き魔女の眼前にまで迫っていた。
光熱波が通じないのなら、握りつぶそうというのだろう。腕が伸び、光り輝く掌が迫る。
その刹那。
防戦一方だった白き魔女が、初めて攻勢に転じた。指が虚空に、白く輝く軌跡を描く。
生み出されたのは、小さな光輪だ。
それは海を漂うクラゲのようで、神と渡り合うには、あまりにも頼りなく見える。ゆっくりと巨人へと近づき……触れるや、泡のように弾けた。
一瞬の、静寂。
これまでで、最大規模の爆発が生じた。
光が光を塗りつぶし、轟音が轟音を上書きする。
猛烈な震動は、聖都ばかりか、地軸さえも揺るがしたように思えた。
アルヴィンとクリスティーは身を伏せ、ただ爆風に耐えるしかない。
やがて閃光が消え去り、世界が色を取り戻す。
アルヴィンは目を開け……呻いた。
神は未だ、聖櫃の前にいた。あれほどの爆発を受けたにもかかわらず、健在だ。
僅かに後ずさった程度の変化しか見いだせない……
白き魔女が、さらに光輪を生み出す。
結果は同じだ。再び起きた大爆発は、神に何の痛痒も与えたように見えない。
「──アルヴィン」
クリスティーが、アルヴィンに顔を近づける。
「母が押し返そうとしている……でも力が足りないわ。時間がない、チャンスは一度きりよ」
彼女の双眸には、揺るぎない決意の光がある。それは──死を覚悟した者の目だ。
立ち上がり、アルヴィンに向かって両手を広げる。
「一体だけじゃダメ。できるだけ、多くの原初の魔女を喚び出す必要があるわ。殺す気で撃ちなさい」
「馬鹿を言うな!」
「馬鹿くらい言うわよ」
アルヴィンが堪らず叫ぶが、クリスティーは一歩も譲らない。二人は睨みあう。
内心で、アルヴィンは歯ぎしりする。
なぜ彼女なのか。なぜ彼女が犠牲にならなくてはいけないのか。
そしてその運命を、当然のように受け入れている彼女にも、腹が立つ。
血が滲むほどに、拳を握りしめる。
「ダメだ! 他に……他に、手があるはずだ!」
「ないわ。これが唯一、大陸を救う手段よ。私たちがやらなくちゃ、大陸は滅ぶ」
「そうだとしても──ダメだ! 君を撃つことなどできない!」
そう叫んだ、刹那。
視界が激しくぶれた。
意識が一瞬飛び、泥の中に転倒する。死角から飛んだ水の鞭が、アルヴィンを打ち据えたのだ。
「……意気地なし…………」
小さな呟きが聞こえたような気がした。
彼女はアルヴィンの祭服から、黒く光る何かを取り上げた。
それは──拳銃だ。
銃口を自らの胸に当てる。
「よせ! よすんだ、クリスティ-!!」
アルヴィンは絶叫した。
泥に足を取られながら立ち上がる。伸ばした手は、空を切った。
遅かった。全てが手遅れだった。
銃声と共に、クリスティーの身体が崩れ落ちた。
「三年前、アルビオに原初の十三魔女オラージュが現れた時、話したわよね? 母が不死を達成した時、姉たちとある契約を交わしたわ。それは、母の身に危機が訪れた時、守護をすること。契約は、私にも引き継がれて──」
「ダメだ!」
叫び声が、クリスティーの言葉を遮った。
何を言わんとしているか──アルヴィンは不意に悟った。
彼女のやろうとすること、それを決して認めてはいけない。そう直感する。
クリスティーは静かに、どこまでも淡々と宣告する。
「──アルヴィン、私を撃ちなさい」
絶望的な響きが、アルヴィンの心を揺らした。
クリスティーは、覚悟を込めた眼差しを向けてくる。
「私が瀕死になれば、原初の十三魔女を喚び出すことができる。伯母たちの力があれば、神を封じられるわ」
「ダメだ! 原初の魔女に理性など残っていないのだろう? 喚び出したところで、事態を悪化させるだけだ!」
「でも今は、母がいる」
閃光が、背後で瞬いた。
クリスティーは神と対峙する白き魔女を見やり、目を細める。
「三年前、わたしの声は伯母に届かなかったわ。でも、母になら従うかもしれない」
「そうだとしても……君が、そこまでする必要がどこにあるんだ!?」
「私は、白き魔女の娘ですもの」
彼女は、さも当然のことのように断言すると、再び視線を聖櫃へと注いだ。
神は既に、白き魔女の眼前にまで迫っていた。
光熱波が通じないのなら、握りつぶそうというのだろう。腕が伸び、光り輝く掌が迫る。
その刹那。
防戦一方だった白き魔女が、初めて攻勢に転じた。指が虚空に、白く輝く軌跡を描く。
生み出されたのは、小さな光輪だ。
それは海を漂うクラゲのようで、神と渡り合うには、あまりにも頼りなく見える。ゆっくりと巨人へと近づき……触れるや、泡のように弾けた。
一瞬の、静寂。
これまでで、最大規模の爆発が生じた。
光が光を塗りつぶし、轟音が轟音を上書きする。
猛烈な震動は、聖都ばかりか、地軸さえも揺るがしたように思えた。
アルヴィンとクリスティーは身を伏せ、ただ爆風に耐えるしかない。
やがて閃光が消え去り、世界が色を取り戻す。
アルヴィンは目を開け……呻いた。
神は未だ、聖櫃の前にいた。あれほどの爆発を受けたにもかかわらず、健在だ。
僅かに後ずさった程度の変化しか見いだせない……
白き魔女が、さらに光輪を生み出す。
結果は同じだ。再び起きた大爆発は、神に何の痛痒も与えたように見えない。
「──アルヴィン」
クリスティーが、アルヴィンに顔を近づける。
「母が押し返そうとしている……でも力が足りないわ。時間がない、チャンスは一度きりよ」
彼女の双眸には、揺るぎない決意の光がある。それは──死を覚悟した者の目だ。
立ち上がり、アルヴィンに向かって両手を広げる。
「一体だけじゃダメ。できるだけ、多くの原初の魔女を喚び出す必要があるわ。殺す気で撃ちなさい」
「馬鹿を言うな!」
「馬鹿くらい言うわよ」
アルヴィンが堪らず叫ぶが、クリスティーは一歩も譲らない。二人は睨みあう。
内心で、アルヴィンは歯ぎしりする。
なぜ彼女なのか。なぜ彼女が犠牲にならなくてはいけないのか。
そしてその運命を、当然のように受け入れている彼女にも、腹が立つ。
血が滲むほどに、拳を握りしめる。
「ダメだ! 他に……他に、手があるはずだ!」
「ないわ。これが唯一、大陸を救う手段よ。私たちがやらなくちゃ、大陸は滅ぶ」
「そうだとしても──ダメだ! 君を撃つことなどできない!」
そう叫んだ、刹那。
視界が激しくぶれた。
意識が一瞬飛び、泥の中に転倒する。死角から飛んだ水の鞭が、アルヴィンを打ち据えたのだ。
「……意気地なし…………」
小さな呟きが聞こえたような気がした。
彼女はアルヴィンの祭服から、黒く光る何かを取り上げた。
それは──拳銃だ。
銃口を自らの胸に当てる。
「よせ! よすんだ、クリスティ-!!」
アルヴィンは絶叫した。
泥に足を取られながら立ち上がる。伸ばした手は、空を切った。
遅かった。全てが手遅れだった。
銃声と共に、クリスティーの身体が崩れ落ちた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる