追放された聖女は立ち上がる【完結】

池田 瑛

文字の大きさ
10 / 25

10.石灰石ってなんだろう?

しおりを挟む
 ドットさんの容態も落ち着いてきた。
 食欲も出てきて、顔色もよくなった。素人目に見ても、回復に向かっていることがわかる。

 だが、レベッカさんは相変わらずの状態であるということだ。動くと骨が痛いと言って、ベッドで寝たきりの状態である。
 レベッカさんに関しては、回復に向かっているのか、悪化しているのかも分からない。 肌は黒ずんでいるし、アカンベーをしてみると、白い。貧血ということなのだろう。

 卵とか、完全食と呼ばれる、健康を維持するのに必要な栄養素を含んだものを食べてもらった方がいいのだろうか。
 貧血なら鉄分が不足しているのだろうけど、鉄分を多く含んだ食品……ヘム鉄などは、お肉やお魚に入っているけど……当然、それらは高価だ。

 コゼット家の家計では、お肉を買うことは難しい。
 卵もびっくりするくらいに高い値段で売られている。卵一個と、コゼットさん、ロバートさん、セト君、ドットさん、レベッカさん、そして私の、六人が一日に食べる小麦が、同じ値段である。

 卵なんてニワトリが毎日産むものだから安いだろうと思ったけど、なんと、この世界のニワトリは毎日卵を産まないらしい。元の世界の人類の品種改良の賜物でということなのだろう。

 私の状況はというと、ロバートさんという働き手が増え、ドットさんの容態も落ち着いてきたので、時間的な余裕ができた。

 だから、ここ数日で、ドットさんやレベッカさんが寝ている部屋だけでなく、他の部屋やいままで手を付けられなかった場所を掃除している。

「なんだか、こう綺麗だと気持ちがいいね」とコゼットさんも褒めてくれた。

 そうなのだ。綺麗だと気持ちがいいのだ。
 言葉を換えれば、衛生的だと気持ちが良いのだ。
 腐敗したもの、汚物、アンモニア臭、それらは本能的に危険だと分かるのだ。動物なら逃げ出すか近寄らない。でも、人間は、本能を理性で抑えてしまう。いや、理性というか、我慢してしまう。そして、慣れてしまう。非衛生的な環境に慣れてしまう。

 でも、やっぱり、綺麗は気持ちがいいのだ。

 衛生的であるということは気持ちがいいのだ。 やっぱり、私のやっていることは間違っていないのかな、と思える。役に立てると思える。

 ひたすら、掃除あるのみ。今日も頑張るぞー!!

 そして、掃除していて気付いたのは、かまどの灰が万能であるということだ。

 作り方は簡単。
 灰と桶に溜まった水を混ぜます。
 出来た灰汁を 床に撒けば、ノミやシラミ予防に使える。それに、どうも消臭効果もあるようだ。
 
 それに、灰汁の中に衣服を浸けておけば、頑固な油汚れもとれやすくなる。洗剤代わりに重宝している。 さらに言えば、お鍋の底のコゲ。

 洗って落とすのって、大変だ。乾燥させた藁でゴシゴシ拭き取ってもなかなかとれない。

 元の世界でも、鍋の底のコゲは厄介だったからこの世界でもそうなのだ。 重曹を入れて、コゲを浮かせて、タワシで擦る。重曹って便利だった。 でも、なんと、どうやら灰汁は、重曹と同じ働きをしているようである。鍋底のコゲもバッチリ浮いてくる。 さらにいえば、灰の細かな砂粒がクレンザーのような役割をしてくれている。油汚れも落としてくれる。

 灰汁! まるで万能洗剤だ。

 デメリットは、掃除をしたあとに、床とかがザラザラすることだろうか。
 だけど、この世界の床なんて、砂だらけ、泥だらけだから、灰のザラザラが気にならない。

 あと、長く使っていると手が荒れる、カサカサになるということだろうか。手が荒れていて分かったことがある。つまり、灰汁は、アルカリ性なのだ。そういえば、『灰』って、アラビア語でアルカリって言うんだっけ。

 原理的に、洗剤、重曹、クレンザーと同じなのだろう。

 まぁ、元の世界の洗剤のように、手荒れ防止の成分などが配合されていないから荒れやすい。冬などは、あかぎれとなってしまうかもしれない。前の世界のとでは、性能は格段に落ちる。けれど、私は、灰汁を万能洗剤だと認定した。
  弱アルカリ性で、油と中和して汚れを落とす、界面活性剤の機能を有しているということだけど、それでいまは十分だ。
 
 この勢いで、石鹸を作れないだろうか?
 石鹸の材料は…… 天然素材で石鹸を作るというオーガニック教室に参加したことがある。そのとき、石鹸の材料は……苛性ソーダ、オリーブ油、水だった。

 油は、この世界でも使われているから手に入れられる。問題は苛性ソーダだ。どうやって手に入れるのだろうか。オーガニック教室では、混ぜる際に、目に入ったら危険だからゴーグルを着用していた。

 あと、強いアルカリ性、苛性なので、鉄やアルミに触れさせると腐食すると注意事項を聞いた気がする。もちろん、濡れた手で触っても危険ということだ。劇薬。

 竃の灰は、そこまで強いアルカリということではないのだろう。『苛性』があるとまでは言えない。
 竃の灰では無理っぽいか~。う~ん、やっぱり、石灰とかじゃないと無理なのかな。でも、石灰石があるのは王都から離れた山だと工事の人が言っていたし……。

 何かで代用できないだろうか?

 そもそも、石灰ってなんだろう?

 けっこう、ありふれたものだった気がする。
 元の世界で、私が住んでいた国は、島国で日本という名前の国だった。
 資源が乏しい国だった。だけど、国産の石灰石がホームセンターに売っていた。

 鉄鉱石とか石油とかは輸入に頼っていたけど、なぜか石灰石の国内自給率は百パーセントだった。

 学校のテストのひっかけ問題としても、好んで使われていた。資源がない、とだけ暗記していると、石灰石も輸入していると思って、間違った回答をしてしまう。私もテストで間違ってしまった。

 なんでだっけ?
 鍾乳洞もたしか石灰が固まったものだ。
元の世界では、鍾乳洞とかも各地にあって、観光名所となっていた。氷柱つららみたいな鍾乳石が天上からぶら下がっている洞窟。

 鍾乳石は、長い年月をかけて水に含まれる石灰が水滴とともに固まったとか、ガイドさんが説明していた。

 なんだったっけ?

『鍾乳洞は、数千万年をかけて石灰石が地下水によって浸食された地形なのです』

 ガイドさんがそんなことを言っていた。

 問題は、どうして、石灰石だらけの場所ということだ。地下水で浸食される……浸食されてつくして、跡形も残っていないのは何故だろう?

 けっこう鍾乳洞の中って、地下水がじゃんじゃん流れていたような……。岩石などに比べて石灰は雨水弱くて削られやすいから、逆に水の通り道になったと聞いた気がする。

 『数千万年をかけて浸食された』ってことは、数千万年前にはなんだった?

 なんで石灰石が集まる地層が出来たのか。

 地層……あっ。堆積して、地層になって、それが数億年以上かけて盛り上がって……つまり隆起してきて……。
 あぁ、昔は海で長い年月をかけて隆起して……。

 島国。はるか海は、日本は海だった。

 海だったから、元の世界の私の国は、石灰石の産出が多かったのだ。
 珊瑚礁や貝などの死骸が固まったのが石灰石だ。そうだ、要は、サンゴとか貝殻などが固まったものだ。

 ネットがあれば一発で調べられるのに、思い出すのに時間がかかってしまった。相当思考が回り道した。

 要は、石灰は、サンゴとか貝殻の化石だ。

 ん? 貝殻なら、王都の船着き場の川辺にたくさん捨ててあったけど……。あれも使えるのでは?

 貝殻の中身だけが必要で貝殻は捨てて、まるで貝塚のようになっていた。

 石灰がサンゴや貝殻の死骸なら、貝殻も成分としては同じか似ているのではないだろうか?

 もしかしたら、石灰が無料で手に入るかもしれない。

「セト君、私、掃除もだいぶ終わったし、ちょっと私、出かけてくるね」

 私は、桶を持っていく。最初は実験ということで、桶一杯分くらいの貝殻を拾ってくればよいだろう。

 無料で手に入る。『無料』、なんて素敵な言葉なのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...