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第4章 侵攻
逃れられない絶望③
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「い、一体何が起きているのだ・・・?」
スクリーン越しにそれを見ていたのは聖十字国の大司教の一人。フェロー枢機卿の腹心の部下であり最も重要な任務を言い渡された男レンブラント・バルデック大司教である。
発掘された魔導具の一つ、『千里の鏡』と名付けられたそれは指定した場所の光景を任意の場所に浮かび上がらせ、更には画面を通じて会話を可能とする通信用の魔導具であった。
そしてそれを見ていたもう一つの一団。
「父上!あいつはっ!!」
「うむ。間違いない。あの時の吸血鬼じゃな・・・」
ユーテリア王国の国王アンドリュー、王太子エデワードを始めとした国の重鎮達である。
事の起こりは約2時間程前。
ユーテリア王国の王都レインフォードにある王城の中庭に突如半透明なスクリーンのようなものが出現した。不審に思い調査しようにも、王城にいた魔術師達では何も分からなかった。
そんな中、突如浮かび上がったのは見た事も無い荒野の光景である。そして同時に映った男こそレンブラント・バルデック大司教であった。
彼はスクリーン越しにこう言い放つ。「聖十字国の神具の力により、こちらの様子が映っているはずだ。こちらもお前達が見えている。」そう話し始めるレンブラントは自分が今居る場所の説明を始めた。ユーテリア王国の王太子達が隠れるように身を寄せ合う小さな村が見える丘に居ると。
そしてアンドリュー達が見ていたそのスクリーンにはもう一つ別のスクリーンがレンブラントの肩越しに映し出されていた。それには今まさに蹂躙されんとする自国の軍の様子が映し出されていたのである。
レンブラントがフェローに命じられたもの、それは降伏勧告であった。
一方でユーテリア軍を殲滅して戦意を挫き、もう一方では国王の子供達を人質に降伏を迫る。
それを成し遂げるため、彼は自分達の背後にスクリーンを用意し戦場の光景を映し出した。そしてアンドリュー達が戦場での様子を見れるようにユーテリア王国の王城に出現させたスクリーンにその様子を映り込ませたのである。
本音を言うと聖十字国はトント村に攻め入りたくは無かった。未確認であるものの、王都が特別視する戦力が存在する可能性が高いのだから。そのため一定の距離を取った上で実際に攻め入る事が可能な事を強調しつつ脅迫の材料にしたのだ。
レンブラントに与えられた戦力は非常に強力であった。聖魔兵の内、権力者数名は自分達専用の聖魔兵部隊を作り力の象徴としたのである。レンブラントに貸し与えられたのはフェローが作った聖魔兵部隊であり翼竜兵団と呼ばれるワイバーン50体からなる部隊である。
アンドリュー達はつい今しがたまで一糸乱れぬ動きで整列していたワイバーンの群れの姿を見せつけられ、更には兵士や騎士達が皆殺しに合う様を見せられようとしていたのである。
しかし結局はそれは失敗に終わる。戦況は不利、敗戦濃厚であるとの報せが連日舞い込んでいた王城。にも拘わらず、今回聖十字国が取った手段は戦場の異変をユーテリア王国側にも知らせる結果となっていた。
「どうやら敵の指揮官を倒したようだな。しかしおかしい、それであいつが何故ああも喜んでいるんだ?少なくとも我々に手を貸すような奴では無かったはずだが・・・」
エドワードが口にした言葉はその場にいる全員が持つ疑問であるがその答えを持っているものは誰一人として居ないのであった。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「くふふふ。やった、やったぞー!」
戦場ではオウルが満面の笑みで声を上げている。その手にはついさっきまで居丈高に振舞っていた男の生首が握られていた。地面に伏したバダックが顔だけを上げて問いかける。
「お、お前は確かクラウド殿と一緒にトント村に来ていた吸血鬼だろう・・・?」
しかし返事は返ってこなかった。オウルにしてみればバダックは自分よりも弱い。つまり相手にする必要が無いということだ。
彼が此処に来た理由は実に簡単。オウル自身の望みのためである。
その出来事は約1年前に遡る。
より詳しく言うならバダックが下級吸血鬼と化したハンクに襲われた時の話し。自身が眷属化した下級吸血鬼にはルーク達の護衛であるナーガやペガサスでは勝てないと言った時、自身に勝利した男はこう言った。
「分からないのか?お前にも出来る事だぞ?」と。
そして話しを聞いた時オウルはある確信を持ち、そして歓喜したのだ。クラウドが言っていたことを理解した。それは自分が1100年もの間望み続けた何よりの願い、その答えだったのだから。
話しを聞いたオウルは今こそ自分の選択が間違ってなかったと確信出来た。それは|堕落(フォールダウン)の禁術により吸血鬼に転生したこと。
吸血鬼が持つ特殊スキル『エナジードレイン』
それが答えであった。自身を遥かな高みへと導く|存在進化(ランクアップ)。それには強大な生命力を身体に宿さなければならない。
通常ならそんなことは不可能。
しかしそれが奇跡と呼ばれながらも過去確された事実だとクラウドは言った。
そして奇跡的な確率で存在進化する魔物達がいた中で、唯一自分の意志でそれを可能とする種族があることも。
それが『エナジードレイン』のスキルを持つ吸血鬼の一族である。強力な敵からエネルギーをかき集めることが出来ればいつかは自分も可能なのだ。自分に敵う者など居ないと思って今まではまともに使ったことも無い<死にスキル>。それがまさかこんな使い道があるとは。
力こそが全てであるオウルにとってそれはまさに神からの福音であった。自分が強くなる道を示して貰ったのだから。オウルは喜びに打ち震えることになる。
しかし、その日からオウルは辛い現実を目の当たりにする。
エネルギーを吸い上げるに値する敵が居なかったのだ。強い力を持つ魔物は良くも悪くも狡猾だ。オウルが自身の縄張りに入って来た事を察知した途端逃げ出す魔物が続出した。それはドラゴンでさえ例外では無かった。
毎日狩りに出かけては襲ってくるのは知能の低い低級な魔物ばかり。仮に何十万匹と狩り続けたところで、とてもでは無いが自分の存在進化の足しになるとは思えなかったのだ。
今までは敵対する相手を叩き伏せては来たが、逃げる相手を追いかけたことなど無い。弱者には何の興味も持たなかった。しかし今は話しが違う。上位の魔物のエネルギーが必要なのだ。
何とか自分と戦ってくれる相手は居ないものか?
オウルはこの一年間そんな相手を渇望し探し続けてきたのである。そしてそんなある日、突如として告げられた言葉があった。
それは王城からの使いがクラウドへ助力を頼みに来ていた時の話し。使者が帰ってからクラウドが言ったことは、
「お前エネルギーを集めたいんだろう?行ってくるか?魔物は洗脳されているから指揮官を潰せば話しは早い。指示する者が居なければ魔物達は逃げ出すことも出来なくなる。狩り放題だぞ。」
自分の力を隠す技術がどうしようも無く下手であったオウル。彼にとってそれはまさに天啓。しかも話しによるとそこにはドラゴン種を含めた上位の魔物の存在も確認されているとのことだ。
気づけばオウルの目からは涙が溢れていた。止めようも無い大量の涙を流しながら、額を地面に擦りつけるようにして頭を下げていた。無力な自分へ強者がこれ程気を使ってくれる。心からの感謝を何度も何度も告げながら。
そして今、敵の指揮官の首を引きちぎったオウルは辺りを見渡していた。キョロキョロと慎重に。
逃げ出す魔物は居なかった。ただの一体もだ。オウルの感情は喜びで爆発する。
「くふふふ。はーっはっはっは!きーひっひっひっひ!!!やった!やったぞ!もう一匹たりとも逃がさんぞ!お前達は全て俺のものだ!貴様らのエネルギーを全て我に差し出すがいいーっ!」
その刹那、オウルの姿が消えた。
「なっ!?何処に・・・」
一番近くに居たバダックでさえ分からない。そして、離れた所で音がした。
ボシュウゥ
見れば最後方に居た筈のドラゴンの首が力任せに引きちぎられていた。吹き出る鮮血を身体中に浴びながらオウルが浮かべる表情は愉悦に満ちている。
そして血が吹き出ている不細工な断面にそのまま齧りついた。ぶしゅうぶしゅうと吹き上がる血をものともせず思いのままに咀嚼していく。食べ進んで行くその姿はいつしか首から下半身が生えているように見えていた。
そして大きな首に身体が丸々入ってしまったかのように見えた時であった。
「エナジードレイン!」
こもった声が上がったかと思えばドラゴンの身体は爆散し血煙へと姿を変えた。そのままその血煙は血まみれのオウルへと吸い込まれていく。
「くぅっくぅっくぅっ!美味い!美味いぞ!これが力へと繋がる味かっ!」
例えこの世のものとは思えない程の不味さであろうとオウルが口から吐き出すことは無かっただろう。オウルは今まさに至福の真っただ中にいた。エナジードレインはその性質上ある程度敵を弱らさなければ|抵抗(レジスト)されてしまう。
敵を痛めつけてからエネルギーを吸い上げる。しかもその数は万を超すのだ。手間は尋常では無い。
しかし今のオウルはそれを辛いとは思わない。心が弾んで仕方が無いのだ。
「次だぁー!じゃんっじゃん持って来い~っ!!」
それから先はまさに圧巻。
レッドドラゴンがどれだけ暴れようと頑丈な身体を素手でぶち抜き
フレイムドラゴンが襲い掛かろうと嬉々として牙を突き立て
ウインドドラゴンが風を操ろうとものともせず首を捩じ切って
ストームドラゴンは尻尾を掴まれハンマー替わりに振り回された。
「はーっはっは!入って来る!入って来るぞーー!!喜べ喜べ!!この私の血肉となれるのだ!!」
強力な魔物から順に襲い掛かるその吸血鬼はドラゴンの次は一大勢力を築いている狼族へと飛び掛かった。その爪は最強のキングウルフも街の近くを走るシャドウウルフも皆一様に命を刈り取っていく。
遂には周囲の魔物達がガタガタと震え出した。自分達の指揮官がいなくなり命令を与えられるものがこの場に居ないため逃げる事が出来ない。しかし、本能が聖魔兵達を恐怖に染めていた。
殺されてなるものかと襲い掛かるが唯の一体も敵わない。そもそも動きを見切ることが出来ないのである。
最もそれは既にこの戦場に張り巡らされたオウルの結界によるものだが。
絶好の餌場と判断したオウルはこの戦場を既に結界で覆っている。その為、魔法術式無しで転移を繰り返すオウルを誰一人として止められなかったのである。
聖十字国へ降り注いだ絶望は戦場に巨大な血だまりを作る事でようやく終わりを告げる。ユーテリア軍が敗北してから僅か1時間。万を超す程の上位魔物は粗方狩り尽くされることとなる。
殺戮の限りを尽くしたその吸血鬼は後に残ったゴブリン等の雑魚を横目に何の興味も無い様子で歩いていく。満足気に歩を進めるその姿は驚く程に絵になったという。
こうして大方の予想通り、本日をもって戦争に決着が付くこととなる。不可避の絶望を聖鬼兵にまき散らした一匹の吸血鬼によって。
スクリーン越しにそれを見ていたのは聖十字国の大司教の一人。フェロー枢機卿の腹心の部下であり最も重要な任務を言い渡された男レンブラント・バルデック大司教である。
発掘された魔導具の一つ、『千里の鏡』と名付けられたそれは指定した場所の光景を任意の場所に浮かび上がらせ、更には画面を通じて会話を可能とする通信用の魔導具であった。
そしてそれを見ていたもう一つの一団。
「父上!あいつはっ!!」
「うむ。間違いない。あの時の吸血鬼じゃな・・・」
ユーテリア王国の国王アンドリュー、王太子エデワードを始めとした国の重鎮達である。
事の起こりは約2時間程前。
ユーテリア王国の王都レインフォードにある王城の中庭に突如半透明なスクリーンのようなものが出現した。不審に思い調査しようにも、王城にいた魔術師達では何も分からなかった。
そんな中、突如浮かび上がったのは見た事も無い荒野の光景である。そして同時に映った男こそレンブラント・バルデック大司教であった。
彼はスクリーン越しにこう言い放つ。「聖十字国の神具の力により、こちらの様子が映っているはずだ。こちらもお前達が見えている。」そう話し始めるレンブラントは自分が今居る場所の説明を始めた。ユーテリア王国の王太子達が隠れるように身を寄せ合う小さな村が見える丘に居ると。
そしてアンドリュー達が見ていたそのスクリーンにはもう一つ別のスクリーンがレンブラントの肩越しに映し出されていた。それには今まさに蹂躙されんとする自国の軍の様子が映し出されていたのである。
レンブラントがフェローに命じられたもの、それは降伏勧告であった。
一方でユーテリア軍を殲滅して戦意を挫き、もう一方では国王の子供達を人質に降伏を迫る。
それを成し遂げるため、彼は自分達の背後にスクリーンを用意し戦場の光景を映し出した。そしてアンドリュー達が戦場での様子を見れるようにユーテリア王国の王城に出現させたスクリーンにその様子を映り込ませたのである。
本音を言うと聖十字国はトント村に攻め入りたくは無かった。未確認であるものの、王都が特別視する戦力が存在する可能性が高いのだから。そのため一定の距離を取った上で実際に攻め入る事が可能な事を強調しつつ脅迫の材料にしたのだ。
レンブラントに与えられた戦力は非常に強力であった。聖魔兵の内、権力者数名は自分達専用の聖魔兵部隊を作り力の象徴としたのである。レンブラントに貸し与えられたのはフェローが作った聖魔兵部隊であり翼竜兵団と呼ばれるワイバーン50体からなる部隊である。
アンドリュー達はつい今しがたまで一糸乱れぬ動きで整列していたワイバーンの群れの姿を見せつけられ、更には兵士や騎士達が皆殺しに合う様を見せられようとしていたのである。
しかし結局はそれは失敗に終わる。戦況は不利、敗戦濃厚であるとの報せが連日舞い込んでいた王城。にも拘わらず、今回聖十字国が取った手段は戦場の異変をユーテリア王国側にも知らせる結果となっていた。
「どうやら敵の指揮官を倒したようだな。しかしおかしい、それであいつが何故ああも喜んでいるんだ?少なくとも我々に手を貸すような奴では無かったはずだが・・・」
エドワードが口にした言葉はその場にいる全員が持つ疑問であるがその答えを持っているものは誰一人として居ないのであった。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「くふふふ。やった、やったぞー!」
戦場ではオウルが満面の笑みで声を上げている。その手にはついさっきまで居丈高に振舞っていた男の生首が握られていた。地面に伏したバダックが顔だけを上げて問いかける。
「お、お前は確かクラウド殿と一緒にトント村に来ていた吸血鬼だろう・・・?」
しかし返事は返ってこなかった。オウルにしてみればバダックは自分よりも弱い。つまり相手にする必要が無いということだ。
彼が此処に来た理由は実に簡単。オウル自身の望みのためである。
その出来事は約1年前に遡る。
より詳しく言うならバダックが下級吸血鬼と化したハンクに襲われた時の話し。自身が眷属化した下級吸血鬼にはルーク達の護衛であるナーガやペガサスでは勝てないと言った時、自身に勝利した男はこう言った。
「分からないのか?お前にも出来る事だぞ?」と。
そして話しを聞いた時オウルはある確信を持ち、そして歓喜したのだ。クラウドが言っていたことを理解した。それは自分が1100年もの間望み続けた何よりの願い、その答えだったのだから。
話しを聞いたオウルは今こそ自分の選択が間違ってなかったと確信出来た。それは|堕落(フォールダウン)の禁術により吸血鬼に転生したこと。
吸血鬼が持つ特殊スキル『エナジードレイン』
それが答えであった。自身を遥かな高みへと導く|存在進化(ランクアップ)。それには強大な生命力を身体に宿さなければならない。
通常ならそんなことは不可能。
しかしそれが奇跡と呼ばれながらも過去確された事実だとクラウドは言った。
そして奇跡的な確率で存在進化する魔物達がいた中で、唯一自分の意志でそれを可能とする種族があることも。
それが『エナジードレイン』のスキルを持つ吸血鬼の一族である。強力な敵からエネルギーをかき集めることが出来ればいつかは自分も可能なのだ。自分に敵う者など居ないと思って今まではまともに使ったことも無い<死にスキル>。それがまさかこんな使い道があるとは。
力こそが全てであるオウルにとってそれはまさに神からの福音であった。自分が強くなる道を示して貰ったのだから。オウルは喜びに打ち震えることになる。
しかし、その日からオウルは辛い現実を目の当たりにする。
エネルギーを吸い上げるに値する敵が居なかったのだ。強い力を持つ魔物は良くも悪くも狡猾だ。オウルが自身の縄張りに入って来た事を察知した途端逃げ出す魔物が続出した。それはドラゴンでさえ例外では無かった。
毎日狩りに出かけては襲ってくるのは知能の低い低級な魔物ばかり。仮に何十万匹と狩り続けたところで、とてもでは無いが自分の存在進化の足しになるとは思えなかったのだ。
今までは敵対する相手を叩き伏せては来たが、逃げる相手を追いかけたことなど無い。弱者には何の興味も持たなかった。しかし今は話しが違う。上位の魔物のエネルギーが必要なのだ。
何とか自分と戦ってくれる相手は居ないものか?
オウルはこの一年間そんな相手を渇望し探し続けてきたのである。そしてそんなある日、突如として告げられた言葉があった。
それは王城からの使いがクラウドへ助力を頼みに来ていた時の話し。使者が帰ってからクラウドが言ったことは、
「お前エネルギーを集めたいんだろう?行ってくるか?魔物は洗脳されているから指揮官を潰せば話しは早い。指示する者が居なければ魔物達は逃げ出すことも出来なくなる。狩り放題だぞ。」
自分の力を隠す技術がどうしようも無く下手であったオウル。彼にとってそれはまさに天啓。しかも話しによるとそこにはドラゴン種を含めた上位の魔物の存在も確認されているとのことだ。
気づけばオウルの目からは涙が溢れていた。止めようも無い大量の涙を流しながら、額を地面に擦りつけるようにして頭を下げていた。無力な自分へ強者がこれ程気を使ってくれる。心からの感謝を何度も何度も告げながら。
そして今、敵の指揮官の首を引きちぎったオウルは辺りを見渡していた。キョロキョロと慎重に。
逃げ出す魔物は居なかった。ただの一体もだ。オウルの感情は喜びで爆発する。
「くふふふ。はーっはっはっは!きーひっひっひっひ!!!やった!やったぞ!もう一匹たりとも逃がさんぞ!お前達は全て俺のものだ!貴様らのエネルギーを全て我に差し出すがいいーっ!」
その刹那、オウルの姿が消えた。
「なっ!?何処に・・・」
一番近くに居たバダックでさえ分からない。そして、離れた所で音がした。
ボシュウゥ
見れば最後方に居た筈のドラゴンの首が力任せに引きちぎられていた。吹き出る鮮血を身体中に浴びながらオウルが浮かべる表情は愉悦に満ちている。
そして血が吹き出ている不細工な断面にそのまま齧りついた。ぶしゅうぶしゅうと吹き上がる血をものともせず思いのままに咀嚼していく。食べ進んで行くその姿はいつしか首から下半身が生えているように見えていた。
そして大きな首に身体が丸々入ってしまったかのように見えた時であった。
「エナジードレイン!」
こもった声が上がったかと思えばドラゴンの身体は爆散し血煙へと姿を変えた。そのままその血煙は血まみれのオウルへと吸い込まれていく。
「くぅっくぅっくぅっ!美味い!美味いぞ!これが力へと繋がる味かっ!」
例えこの世のものとは思えない程の不味さであろうとオウルが口から吐き出すことは無かっただろう。オウルは今まさに至福の真っただ中にいた。エナジードレインはその性質上ある程度敵を弱らさなければ|抵抗(レジスト)されてしまう。
敵を痛めつけてからエネルギーを吸い上げる。しかもその数は万を超すのだ。手間は尋常では無い。
しかし今のオウルはそれを辛いとは思わない。心が弾んで仕方が無いのだ。
「次だぁー!じゃんっじゃん持って来い~っ!!」
それから先はまさに圧巻。
レッドドラゴンがどれだけ暴れようと頑丈な身体を素手でぶち抜き
フレイムドラゴンが襲い掛かろうと嬉々として牙を突き立て
ウインドドラゴンが風を操ろうとものともせず首を捩じ切って
ストームドラゴンは尻尾を掴まれハンマー替わりに振り回された。
「はーっはっは!入って来る!入って来るぞーー!!喜べ喜べ!!この私の血肉となれるのだ!!」
強力な魔物から順に襲い掛かるその吸血鬼はドラゴンの次は一大勢力を築いている狼族へと飛び掛かった。その爪は最強のキングウルフも街の近くを走るシャドウウルフも皆一様に命を刈り取っていく。
遂には周囲の魔物達がガタガタと震え出した。自分達の指揮官がいなくなり命令を与えられるものがこの場に居ないため逃げる事が出来ない。しかし、本能が聖魔兵達を恐怖に染めていた。
殺されてなるものかと襲い掛かるが唯の一体も敵わない。そもそも動きを見切ることが出来ないのである。
最もそれは既にこの戦場に張り巡らされたオウルの結界によるものだが。
絶好の餌場と判断したオウルはこの戦場を既に結界で覆っている。その為、魔法術式無しで転移を繰り返すオウルを誰一人として止められなかったのである。
聖十字国へ降り注いだ絶望は戦場に巨大な血だまりを作る事でようやく終わりを告げる。ユーテリア軍が敗北してから僅か1時間。万を超す程の上位魔物は粗方狩り尽くされることとなる。
殺戮の限りを尽くしたその吸血鬼は後に残ったゴブリン等の雑魚を横目に何の興味も無い様子で歩いていく。満足気に歩を進めるその姿は驚く程に絵になったという。
こうして大方の予想通り、本日をもって戦争に決着が付くこととなる。不可避の絶望を聖鬼兵にまき散らした一匹の吸血鬼によって。
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