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#54 ハイリー 裏切りと呪縛
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靴下だけの無防備さは、いくら私だって怯む。アンデルはきつく目を閉じている。そうわかっているのに、こみ上げた羞恥心で、背中の産毛が逆立つよう。体を隠したくてもそれはできない。
クラウシフを睨みつけてやったが、奴は面白がるわけでもなく、ただじっとこちらを見ているだけだ。他人の交接を見て興奮している様子もない。
「こんなやり方になって悪いな。せめて苦痛が減るように配慮するから許せよ」
ふざけるな。こんな侮辱をしておいて、慈父のような顔をするな。
視線で殺せるなら。そう願いながら、またも私の体は勝手に動き、アンデルをまたいで背を向けた。抵抗虚しく、四つん這いになって姿勢を低くする。自分の秘部がアンデルの顔の前にある。不吉な予感で呼吸が荒くなった。私の顔の前には、反り立つ陰茎がある。
「んっ!」
柔らかいものが秘所の粘膜を擦り上げた。ぞく、と寒気が背筋を走る。振り返ろうにもその自由はなく、舌を伸ばして、眼前の凶器を舐めあげる。手を突いたアンデルの太ももが緊張する。
「やめっ……! あうっ」
「ハイリー、怯えなくていいから、快感を拾うのに集中しろ。少しは楽になれるはずだ」
クラウシフの声が聞こえたが、意味を理解する余裕はなかった。声を我慢するので精一杯だ。
舐められている。アンデルに。自分でだって、体を洗う時くらいしか触れないところなのに。
柔らかいものがぺちゃぺちゃと音を立て、粘膜をすりあげていく。痛みはないが、そのたびに鳥肌が立つような寒気が背骨から首筋に走り抜けていった。腰が重くだるい熱を抱える。
なんだこれは、こんなの、知らない。太ももに力が入るのに、今にも腰が砕けそう。気を逸らそうとしても、そこに集中する違和感を無視できない。
「あっ……あぁっ……いやぁ……っ」
我慢しきれず口から飛び出した声は、弱々しい抗議ともとれぬもの。耳をふさぎたくなる。媚びる女の声。テリウスに貫かれたときの、イズベルのような。
痛みだったら耐えられる。でもそうではなくて、月の障りの痛みとも違う熱っぽさが下腹でじくじく疼いている。これをどう処理したらいい? 粘膜が痺れている。熱い。苦しい。
逃げたい、と思うのに私はアンデルの陰茎をぺろぺろネコのように舌先で舐めるだけ。
不浄の部分をアンデルに舐められ、それをクラウシフなんかに観察されている。今までだって恥ずかしい思いはたくさんしてきたけれど、こんな、涙がこみ上げるほどの恥辱はなかった。
言うことを聞かない体が、鈴口から滲み出るアンデルの体液を舐め取る。そして亀頭をぱくりと口に含んだ。思っていたより体積が大きい。嘔吐く。不用意に噛み締めたらアンデルを怪我させてしまうという不安から、唾液がこぼれるのに口を閉じようと試みることもできない。
「ふうっ! んぅっ……んっあっ……!」
開きっぱなしの口から、苦しくて声が漏れる。呼吸がしづらい。
ところが、かすかに苦味のあるアンデルの体液が、慣れるほどに美味しくなってきて、いつの間にか必死にその雁首を舐め回していた。
もっとほしい。しびれた頭の片隅でそう思う。
ひとしずくでも多くこの苦く甘いものを舐め取りたくて、他のことは、すぐにどうでもよくなってしまった。こんなに美味しいものを、今まで味わったことなどない。ただの味覚の情報だけにとどまらず、腹の奥がそれを欲して疼いている。ずきずきと。
苦しげに張り詰めている部分を手で刺激したら、アンデルはもっと心地よくなって、この美味しいものを私に与えてくれるだろうか。タコのない、掌の柔らかな部分を使うようにして、そっと雄茎をすりあげてみる。
「っ……」
秘所に当たる吐息の熱が、舌の温度があがった。滲み出る苦いものがじわりと味を濃くした気がして、嬉しくなってその鈴口に口づけてちゅうっと吸った。
「っあ!?」
どぷり、音をたてる勢いで、熱い飛沫があふれでて頬にかかった。一度でそのほとばしりはおさまらず、数度、雄茎の震えにあわせて、繰り返し吹き上がる。さきほどよりさらに苦味とえぐみのつよい粘度あるものが口の中にも広がる。アンデルの呻きが、背後から聞こえた。
アンデルが達してくれた。嬉しくて、愛おしくて、まだ硬度を保っているその男根の先についた白濁を舌で舐め取る。自分の頬に跳んだものも、指先ですくって口にした。
「そうだハイリー、好きなだけ舐めていい。いい顔になってきた。アンデルにも見せてやれよ」
「あん、……でる……? あっ……」
ぐいと臀部を掴まれて体を横倒しにされた。さきほどまで口中を満たしていた熱くて質量のあるものが離れていき、物欲しげな声が出てしまう。私の唾液で濡れた陰茎はぬらりとして、さっきよりもまた一回り大きくなっている気がする。舌を出して肉の槍を追いかけようとしたが、それよりさきにベッドに仰向けにひっくり返されてしまった。
体勢を変えたアンデルが、私の膝を掴んで割り開く。彼は辛そうな顔で唇を血が出るほど噛み締めている。涙を浮かべて。
どうしてそんなに険しい顔をしてるんだ。私とこういうことをするのは嫌なんだろうか。私は嬉しいのに。もっとたくさん、アンデルに触れたいし、触れてほしい。
言い出せなかっただけで、本当はずっとそうしたかった。
さっきの口づけだって、もう一度してほしい。
でもアンデルがそんな顔をしていると、胸が痛む。どうしたの、なにが辛い?
アンデルが私の太ももを抱えるように押し上げた。
さすがにこの体勢は困る。丸見えじゃないか。焦ったが私の腕は従順に自分の膝を抱えてしまう。
――そもそも私はこんなことを望んでいたのか?
唐突に頭の霞が晴れていく。
「あ、アンデル、見ないで……やっ!?」
敏感な部分を指で左右に拡げられて、刺激で脚が跳ねた。そこに再びぬるりとしたものが触れる。自分の脚の間に、アンデルの頭がある。
先程より明確に、私の体はそれを快感として受け止めていた。腹の奥がそわそわする。いてもたってもいられない。追い詰められる。
「はっ、あ……! やめ……だ、めぇ……」
酸素の回りが悪いせいか、頭がぼんやりして、一層、腰が孕む熱が大きくなった。ヘソの下に凝った熱の塊は、どんどん膨れ上がる。
この熱が破裂したら……破裂、したら? 私はどうなる?
急に恐ろしくなって、逃げたいのに、私の口は媚びた悲鳴をこぼすだけで、制止の言葉を形にできない。
アンデルお願いだから舐めるのをやめて。やめて、やめて。やめて、やめてやめて――
「……ひうっ……ぁああっ!」
熱がぐっと収縮し、膨張し、破裂して全身に波になって散り広がっていく。ちりちりと甘い余韻を従えて。脳髄がさあっと白く染まる。
だらしなく脚を開いて投げ出し、荒い息を繰り返していた。全身にぐっしょり汗を掻いている。脚の間は汗ではないものでぬるついていた。
「あ……うぐ……っ、うぅ」
まだ余韻に打ち震えている粘膜を硬いものが無遠慮にこする。ぞわぞわした熱い寒気を伴って、私のそこに、アンデルの長くてしなやかな指が挿入されていく。ゆっくり。止めようと、骨っぽい手首を掴んだけれど、指に力が入らない。熱病にでもかかったかのように、震えてしまう。
「あっ……あう……っあ」
彼が指を動かすたびに、ぬち、と音がたつ。脚が跳ねる。
はじめにあった違和感は、指が二本になり、三本になり、ゆっくり中を探られて、不思議な充足感にすり替わってしまった。下腹部がじくじくと疼く。全身がだるく熱っぽい。解放されたい。
「あん、でる……っ」
返事はない。前髪がカーテンのように邪魔をして、アンデルの顔は見えない。
「頃合いだ。アンデル、仕上げをしろ」
視線を横にやれば、変わらずクラウシフが椅子に腰をかけていた。脚を組み、腕を組んで、冷え冷えした目をこちらに向けている。
アンデルが私の脚をさらに大きく開かせた。逃げられないまま、自分のそこに肉の槍が当てられる様をただ見つめる。
私の体内から溢れたもので、アンデルのものがぬるりと滑る。そこがまた官能の熱を孕んだ。
アンデルと目が合った。傷ついて困惑している。私のもので口の周りを汚しているのだと思うと、いたたまれなかった。なにか言ってほしいと思うのに、彼はまた唇を噛んでいた。そうだ、クラウシフに言葉を封じられていたんだ。
「あ、ぐ」
覚悟していたのに、声が漏れてしまった。槍で刺されるのとは少し違う。侵攻が遅く、まるで道を身体に作られているよう。生まれつきそこにあるはずの道なのに、はじめてその存在を意識させられる。鈍痛が渦巻いて、息がつまる。痛みの大きさで言えば大したことないはずが、初めて刺される場所だから、痛みの逃し方が思いつかない。凶器が刺さったまま抜けていかないせいで再生できない、のか。
じわじわ、脇や背中に嫌な汗が浮かぶ。それでも最初の衝撃が去り、目を開けられた。
私の顔の横に両手を突き、覗き込む体勢になったアンデルの顔が間近にある。涙の膜が張った黒い目。しずくが、ぽたぽた、頬に落ちてきた。温かい。
「こんな……こんな風に、あなたと、……傷つけたくなかった、のに。ごめん、……ごめんねハイリー……」
「……あ、ふ……泣かな、くていい、そんなに痛くない。ねえアンデル、私は、大丈夫だから」
安心させたくて、できる限り優しい声音で語りかけた。
噛み締められていたアンデルの唇は歯型に鬱血して、傷ついた部分からは出血している。その血を指先でぬぐう。
こんなにまでアンデルが呪縛に抵抗していたのに、私は欲望に負けていた。すっかり操られて、それを受け入れてしまった。
謝らなけばならないのは私だ。泣かせた。罪悪感が涙になって視界を曇らせる。
本当は、アンデルを抱きしめて慰めたいのに、まだ自由に動けない。そうしたいわけじゃないのに、指に付着した血を舌が舐めとる。
しっかりしろ、ハイリー・ユーバシャール。お前がアンデルを助けなくてどうする。
なんとか現状を打破しろ。クラウシフの呪縛に抵抗するすべは――。
はた、と気づく。
アンデルが言葉を取り戻したのは、クラウシフの呪縛が緩んだから? 時間経過で効果を失ってきた? ならば、活路が――。
「アンデル、やり方はわかるな。子種を注ぐのと同時にしっかり念じろ。泣いてる暇があるか?
……いいさ、お前が役目を果たせぬなら、俺がそうさせるだけだ。さあ、完遂させて、俺が安心して死ねるようにしてくれ」
クラウシフの命令で、ぎり、とアンデルの槍が後ずさりし、また奥に打ち込まれた。
焼けるような痛みと違和感で、うめき声が漏れた。こんな行為、なにが楽しくてイズベルは……。
思考が千千に乱れる。なにかできるような余裕はない。揺さぶられるままに、アンデルの背中にただしがみつく。痛い。とにかく、痛いのだ。
「やめ……! ……にい、さんっ! も、やめてくれ……っ! ハイリーを、傷つけないで」
「っぐ、……う、ク、ラウシ、フ、お前、なにを……したい」
「ハイリー、悪いが、お前にはアンデルの妻になってもらう。こんなやり方になっちまって申し訳ないとは思ってるが、最後の頼みだと諦めてくれ」
なにが最後の頼みだ、実力行使しておいて。姑息に人の自由を奪っておいて。アンデルを痛めつけて私を辱めて、これが頼みだと?
「お前を殺してやる……あっ」
「それは楽しみだな。アンデルの子種を受け止めてお前がそれを覚えていられればの話だが。
どうだアンデル、……まだ抵抗するのか、意地ばかり張って。お前だって望んでいたんだろう、ハイリーを自分の妻にしたいと。ちょっと形が違うからといって子供みたいにダダをこねるな」
私の臀部を掴んで、腰を突き上げてくるアンデルは、熱い吐息をこぼしながらも、首を左右に振っていやいやしている。噛み締めた歯の隙間から唸り声をあげて。
「たとえ傀儡でも、好いた女と一緒になれるお前は幸せだろうよ」
クラウシフの声が低く澱んだ。
「ちがう!」
ナイトテーブルにあった薬さじが、きしんだ音を立て、錆びついた。近くの窓の枠もだ。
目に見えぬ、肌を撫でる熱風のようなものがアンデルを中心に放射状に吹き抜けた。それがなにか、戦場で魔族と相対してきた私は、わかる。魔力だ。それも肌で感じられるほどの、濃厚な。
「……そんな、こと、するくらいなら……ッ、ぼくは……死んだ方が、いいっ」
アンデルがきつく眉間にシワを寄せ、歯を食いしばる。体が震えだした。こめかみのあたりでぱちぱちと青白い光がまばゆく弾けたかと思えば、形の良い鼻腔からたらりと血がこぼれた。続いて口の端からあぶくが吹き出し、白目になる。
彼の身体は今や激しく痙攣しており、繋がっていたものも私の身体から抜け落ちていた。
「アンデル?! アンデル、しっかり!」
自分の上でひきつけを起こしているアンデルが舌を噛まないように、無理やり口の中に指を突っ込んだ。咬傷の鋭い痛みが走る。
なにがどうなっている? アンデルはなにをしようとした?
「おいクラウシフっ! お前どうにかしろ! くそっ……」
動かず片目を眇めたクラウシフに見切りをつけ、私はアンデルを横たわらせる。食いしばられた歯が指にめり込むが、彼がベッドから転げ落ちて頭を打たないようにそのまま耐えた。
ふつりと、アンデルの身体の緊張が解けた。
呼吸は乱れ、心拍も異常に速いがどちらも止まってはいない。
「俺の拘束を抜けるために、自分の意識を操作しようとしたのか。それで守ったつもりか? 馬鹿なやつ」
嘲りというよりは呆れた様子でクラウシフは深いため息をついた。失意のそれに見えた。
ベッドを一挙動で飛び降り、座るクラウシフの襟を掴んで床に引き倒す。そのまま右手で彼のこめかみをつかみ、左手で襟を締め上げる。わずかに右手を動かせば目を潰しそのまま脳を抉ってやれる。
クラウシフは受け身もとらず、されるがままだ。
「言い訳は考えてあるんだろうな。お前を殺さない理由がない。どういうつもりでこんなことをしたか全部吐かせて、そのあと気が済むまでいたぶって惨めに殺してやる」
「命乞いしたところで数日の延命に過ぎないだろうよ」
苦笑された。アンデルと同じ色の目は、言葉とは裏腹に余裕がない。
「では死ね」
「ハイリー、俺は……は……」
クラウシフの声の調子が変わったと思えば、胸を押さえ苦しげに息を乱した。額に汗がぷつぷつと沸いてくる。低い唸り声を上げ、手足をつっぱらせ歯をくいしばる。
呪いの発作か。このタイミングで。
いっそ死んでしまえ。
だが、この顛末の説明を聞かないことには、という気持ちもあって、すがりつくように握りしめられた手を振り払うだけで、追い打ちはかけなかった。苦悶するクラウシフは助けを求めているのか、復讐におびえているのか、かっと目を見開いて私から視線をはずさない。睨み返す。勝手に苦しめ。
発作が終わるとがくりとクラウシフが床に伸びた。今になって意識を失ったようだ。
「……どうしたことだか」
ベッドと床でこの屋敷の主たちは昏倒している。裸の私は深いため息をついて立ち上がった。
クラウシフを睨みつけてやったが、奴は面白がるわけでもなく、ただじっとこちらを見ているだけだ。他人の交接を見て興奮している様子もない。
「こんなやり方になって悪いな。せめて苦痛が減るように配慮するから許せよ」
ふざけるな。こんな侮辱をしておいて、慈父のような顔をするな。
視線で殺せるなら。そう願いながら、またも私の体は勝手に動き、アンデルをまたいで背を向けた。抵抗虚しく、四つん這いになって姿勢を低くする。自分の秘部がアンデルの顔の前にある。不吉な予感で呼吸が荒くなった。私の顔の前には、反り立つ陰茎がある。
「んっ!」
柔らかいものが秘所の粘膜を擦り上げた。ぞく、と寒気が背筋を走る。振り返ろうにもその自由はなく、舌を伸ばして、眼前の凶器を舐めあげる。手を突いたアンデルの太ももが緊張する。
「やめっ……! あうっ」
「ハイリー、怯えなくていいから、快感を拾うのに集中しろ。少しは楽になれるはずだ」
クラウシフの声が聞こえたが、意味を理解する余裕はなかった。声を我慢するので精一杯だ。
舐められている。アンデルに。自分でだって、体を洗う時くらいしか触れないところなのに。
柔らかいものがぺちゃぺちゃと音を立て、粘膜をすりあげていく。痛みはないが、そのたびに鳥肌が立つような寒気が背骨から首筋に走り抜けていった。腰が重くだるい熱を抱える。
なんだこれは、こんなの、知らない。太ももに力が入るのに、今にも腰が砕けそう。気を逸らそうとしても、そこに集中する違和感を無視できない。
「あっ……あぁっ……いやぁ……っ」
我慢しきれず口から飛び出した声は、弱々しい抗議ともとれぬもの。耳をふさぎたくなる。媚びる女の声。テリウスに貫かれたときの、イズベルのような。
痛みだったら耐えられる。でもそうではなくて、月の障りの痛みとも違う熱っぽさが下腹でじくじく疼いている。これをどう処理したらいい? 粘膜が痺れている。熱い。苦しい。
逃げたい、と思うのに私はアンデルの陰茎をぺろぺろネコのように舌先で舐めるだけ。
不浄の部分をアンデルに舐められ、それをクラウシフなんかに観察されている。今までだって恥ずかしい思いはたくさんしてきたけれど、こんな、涙がこみ上げるほどの恥辱はなかった。
言うことを聞かない体が、鈴口から滲み出るアンデルの体液を舐め取る。そして亀頭をぱくりと口に含んだ。思っていたより体積が大きい。嘔吐く。不用意に噛み締めたらアンデルを怪我させてしまうという不安から、唾液がこぼれるのに口を閉じようと試みることもできない。
「ふうっ! んぅっ……んっあっ……!」
開きっぱなしの口から、苦しくて声が漏れる。呼吸がしづらい。
ところが、かすかに苦味のあるアンデルの体液が、慣れるほどに美味しくなってきて、いつの間にか必死にその雁首を舐め回していた。
もっとほしい。しびれた頭の片隅でそう思う。
ひとしずくでも多くこの苦く甘いものを舐め取りたくて、他のことは、すぐにどうでもよくなってしまった。こんなに美味しいものを、今まで味わったことなどない。ただの味覚の情報だけにとどまらず、腹の奥がそれを欲して疼いている。ずきずきと。
苦しげに張り詰めている部分を手で刺激したら、アンデルはもっと心地よくなって、この美味しいものを私に与えてくれるだろうか。タコのない、掌の柔らかな部分を使うようにして、そっと雄茎をすりあげてみる。
「っ……」
秘所に当たる吐息の熱が、舌の温度があがった。滲み出る苦いものがじわりと味を濃くした気がして、嬉しくなってその鈴口に口づけてちゅうっと吸った。
「っあ!?」
どぷり、音をたてる勢いで、熱い飛沫があふれでて頬にかかった。一度でそのほとばしりはおさまらず、数度、雄茎の震えにあわせて、繰り返し吹き上がる。さきほどよりさらに苦味とえぐみのつよい粘度あるものが口の中にも広がる。アンデルの呻きが、背後から聞こえた。
アンデルが達してくれた。嬉しくて、愛おしくて、まだ硬度を保っているその男根の先についた白濁を舌で舐め取る。自分の頬に跳んだものも、指先ですくって口にした。
「そうだハイリー、好きなだけ舐めていい。いい顔になってきた。アンデルにも見せてやれよ」
「あん、……でる……? あっ……」
ぐいと臀部を掴まれて体を横倒しにされた。さきほどまで口中を満たしていた熱くて質量のあるものが離れていき、物欲しげな声が出てしまう。私の唾液で濡れた陰茎はぬらりとして、さっきよりもまた一回り大きくなっている気がする。舌を出して肉の槍を追いかけようとしたが、それよりさきにベッドに仰向けにひっくり返されてしまった。
体勢を変えたアンデルが、私の膝を掴んで割り開く。彼は辛そうな顔で唇を血が出るほど噛み締めている。涙を浮かべて。
どうしてそんなに険しい顔をしてるんだ。私とこういうことをするのは嫌なんだろうか。私は嬉しいのに。もっとたくさん、アンデルに触れたいし、触れてほしい。
言い出せなかっただけで、本当はずっとそうしたかった。
さっきの口づけだって、もう一度してほしい。
でもアンデルがそんな顔をしていると、胸が痛む。どうしたの、なにが辛い?
アンデルが私の太ももを抱えるように押し上げた。
さすがにこの体勢は困る。丸見えじゃないか。焦ったが私の腕は従順に自分の膝を抱えてしまう。
――そもそも私はこんなことを望んでいたのか?
唐突に頭の霞が晴れていく。
「あ、アンデル、見ないで……やっ!?」
敏感な部分を指で左右に拡げられて、刺激で脚が跳ねた。そこに再びぬるりとしたものが触れる。自分の脚の間に、アンデルの頭がある。
先程より明確に、私の体はそれを快感として受け止めていた。腹の奥がそわそわする。いてもたってもいられない。追い詰められる。
「はっ、あ……! やめ……だ、めぇ……」
酸素の回りが悪いせいか、頭がぼんやりして、一層、腰が孕む熱が大きくなった。ヘソの下に凝った熱の塊は、どんどん膨れ上がる。
この熱が破裂したら……破裂、したら? 私はどうなる?
急に恐ろしくなって、逃げたいのに、私の口は媚びた悲鳴をこぼすだけで、制止の言葉を形にできない。
アンデルお願いだから舐めるのをやめて。やめて、やめて。やめて、やめてやめて――
「……ひうっ……ぁああっ!」
熱がぐっと収縮し、膨張し、破裂して全身に波になって散り広がっていく。ちりちりと甘い余韻を従えて。脳髄がさあっと白く染まる。
だらしなく脚を開いて投げ出し、荒い息を繰り返していた。全身にぐっしょり汗を掻いている。脚の間は汗ではないものでぬるついていた。
「あ……うぐ……っ、うぅ」
まだ余韻に打ち震えている粘膜を硬いものが無遠慮にこする。ぞわぞわした熱い寒気を伴って、私のそこに、アンデルの長くてしなやかな指が挿入されていく。ゆっくり。止めようと、骨っぽい手首を掴んだけれど、指に力が入らない。熱病にでもかかったかのように、震えてしまう。
「あっ……あう……っあ」
彼が指を動かすたびに、ぬち、と音がたつ。脚が跳ねる。
はじめにあった違和感は、指が二本になり、三本になり、ゆっくり中を探られて、不思議な充足感にすり替わってしまった。下腹部がじくじくと疼く。全身がだるく熱っぽい。解放されたい。
「あん、でる……っ」
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「あ、ぐ」
覚悟していたのに、声が漏れてしまった。槍で刺されるのとは少し違う。侵攻が遅く、まるで道を身体に作られているよう。生まれつきそこにあるはずの道なのに、はじめてその存在を意識させられる。鈍痛が渦巻いて、息がつまる。痛みの大きさで言えば大したことないはずが、初めて刺される場所だから、痛みの逃し方が思いつかない。凶器が刺さったまま抜けていかないせいで再生できない、のか。
じわじわ、脇や背中に嫌な汗が浮かぶ。それでも最初の衝撃が去り、目を開けられた。
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「こんな……こんな風に、あなたと、……傷つけたくなかった、のに。ごめん、……ごめんねハイリー……」
「……あ、ふ……泣かな、くていい、そんなに痛くない。ねえアンデル、私は、大丈夫だから」
安心させたくて、できる限り優しい声音で語りかけた。
噛み締められていたアンデルの唇は歯型に鬱血して、傷ついた部分からは出血している。その血を指先でぬぐう。
こんなにまでアンデルが呪縛に抵抗していたのに、私は欲望に負けていた。すっかり操られて、それを受け入れてしまった。
謝らなけばならないのは私だ。泣かせた。罪悪感が涙になって視界を曇らせる。
本当は、アンデルを抱きしめて慰めたいのに、まだ自由に動けない。そうしたいわけじゃないのに、指に付着した血を舌が舐めとる。
しっかりしろ、ハイリー・ユーバシャール。お前がアンデルを助けなくてどうする。
なんとか現状を打破しろ。クラウシフの呪縛に抵抗するすべは――。
はた、と気づく。
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焼けるような痛みと違和感で、うめき声が漏れた。こんな行為、なにが楽しくてイズベルは……。
思考が千千に乱れる。なにかできるような余裕はない。揺さぶられるままに、アンデルの背中にただしがみつく。痛い。とにかく、痛いのだ。
「やめ……! ……にい、さんっ! も、やめてくれ……っ! ハイリーを、傷つけないで」
「っぐ、……う、ク、ラウシ、フ、お前、なにを……したい」
「ハイリー、悪いが、お前にはアンデルの妻になってもらう。こんなやり方になっちまって申し訳ないとは思ってるが、最後の頼みだと諦めてくれ」
なにが最後の頼みだ、実力行使しておいて。姑息に人の自由を奪っておいて。アンデルを痛めつけて私を辱めて、これが頼みだと?
「お前を殺してやる……あっ」
「それは楽しみだな。アンデルの子種を受け止めてお前がそれを覚えていられればの話だが。
どうだアンデル、……まだ抵抗するのか、意地ばかり張って。お前だって望んでいたんだろう、ハイリーを自分の妻にしたいと。ちょっと形が違うからといって子供みたいにダダをこねるな」
私の臀部を掴んで、腰を突き上げてくるアンデルは、熱い吐息をこぼしながらも、首を左右に振っていやいやしている。噛み締めた歯の隙間から唸り声をあげて。
「たとえ傀儡でも、好いた女と一緒になれるお前は幸せだろうよ」
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「……そんな、こと、するくらいなら……ッ、ぼくは……死んだ方が、いいっ」
アンデルがきつく眉間にシワを寄せ、歯を食いしばる。体が震えだした。こめかみのあたりでぱちぱちと青白い光がまばゆく弾けたかと思えば、形の良い鼻腔からたらりと血がこぼれた。続いて口の端からあぶくが吹き出し、白目になる。
彼の身体は今や激しく痙攣しており、繋がっていたものも私の身体から抜け落ちていた。
「アンデル?! アンデル、しっかり!」
自分の上でひきつけを起こしているアンデルが舌を噛まないように、無理やり口の中に指を突っ込んだ。咬傷の鋭い痛みが走る。
なにがどうなっている? アンデルはなにをしようとした?
「おいクラウシフっ! お前どうにかしろ! くそっ……」
動かず片目を眇めたクラウシフに見切りをつけ、私はアンデルを横たわらせる。食いしばられた歯が指にめり込むが、彼がベッドから転げ落ちて頭を打たないようにそのまま耐えた。
ふつりと、アンデルの身体の緊張が解けた。
呼吸は乱れ、心拍も異常に速いがどちらも止まってはいない。
「俺の拘束を抜けるために、自分の意識を操作しようとしたのか。それで守ったつもりか? 馬鹿なやつ」
嘲りというよりは呆れた様子でクラウシフは深いため息をついた。失意のそれに見えた。
ベッドを一挙動で飛び降り、座るクラウシフの襟を掴んで床に引き倒す。そのまま右手で彼のこめかみをつかみ、左手で襟を締め上げる。わずかに右手を動かせば目を潰しそのまま脳を抉ってやれる。
クラウシフは受け身もとらず、されるがままだ。
「言い訳は考えてあるんだろうな。お前を殺さない理由がない。どういうつもりでこんなことをしたか全部吐かせて、そのあと気が済むまでいたぶって惨めに殺してやる」
「命乞いしたところで数日の延命に過ぎないだろうよ」
苦笑された。アンデルと同じ色の目は、言葉とは裏腹に余裕がない。
「では死ね」
「ハイリー、俺は……は……」
クラウシフの声の調子が変わったと思えば、胸を押さえ苦しげに息を乱した。額に汗がぷつぷつと沸いてくる。低い唸り声を上げ、手足をつっぱらせ歯をくいしばる。
呪いの発作か。このタイミングで。
いっそ死んでしまえ。
だが、この顛末の説明を聞かないことには、という気持ちもあって、すがりつくように握りしめられた手を振り払うだけで、追い打ちはかけなかった。苦悶するクラウシフは助けを求めているのか、復讐におびえているのか、かっと目を見開いて私から視線をはずさない。睨み返す。勝手に苦しめ。
発作が終わるとがくりとクラウシフが床に伸びた。今になって意識を失ったようだ。
「……どうしたことだか」
ベッドと床でこの屋敷の主たちは昏倒している。裸の私は深いため息をついて立ち上がった。
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※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
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