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異世界に飛ばされました

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 私は国語の問題が苦手だ。

『○○の気持ちを□文字以内で答えよ』

 って問題は必ず『お腹すいた』とか書いて先生に怒られてたし。
 気持ちを言葉に表すのって難しくない?

 さあ、そんな私に問題です。

 Q『あなたの今の気持ちを5文字以内で答えよ』

 ──A、ここどこ?

 ピポピポピンポーン♪

 大当たり~賞金一万えーん!って、そんなんで一万円が貰えたら苦労せんわ!



「──はっ!」
 現実逃避していたようだ。

 今の状況は迷子。これにつきる。齢18にもなって迷子とは…。
 これは家に帰ったら絶対マイマザーに笑われますね…。いやいや、でもさ?いくら方向音痴の私でもこれはないでしょ。
 だって今まで家の近所にいたのに、今、森の中だよ!?意味わかんないよ?経験上、戻れる気がしないよ?

 これは秘策を使うべきか!?私の得意技!いでよ!携帯電話~!

 って、圏外じゃん!!持ってる意味ないじゃん!マジでここどこよー!

「あわてなーい、あわてなーい。落ち着け私」

 とりあえず自分にそう言い聞かせる。

「これは夢だよ!目を覚ますんだ私!」

 現実のはずがない!と頬をつねるが、得られたのは痛みと受け入れられない現実。

 脳内マイマザーによると…
 迷子になったときはー動かずその場で助けを待つことー

 え?ここで待てと?ここ森の中よ?誰が助けに来てくれるの?
 いつもは頼れる母の言葉に今は疑問しかわかない。
 今は外が明るいからいいものの、出口も見えないここで一人きりというのは恐怖でしかない。

 現実逃避に逃げる自我を保つため、とりあえずいつもの口癖を言っとこう。

「私、ドンマイ!」




 *

 まずは持ち物確認をしよう。
 なんか使えそうなのはー♪…って携帯とカロリーメイトしかないし!
 水もないよ?これはやばいぞ!ねぇ、やばいよね!?

 そして再び落ち着け私。二度目だぞ。気をつけろ私。
 ほら、脳内マイマザーもあわててもいいことないって言ってる。
 まぁあわてるべき状況だけどね?
 あぁ、なんかマイマザーが頼りなく思えてきたよ…。

 待つんだ!まだその時じゃない!!的な?そういう意味なの?そうなんだよね!?マイマザー?そうだと言ってー!!


 頭の中がぐちゃぐちゃでよくわからなくなってきたので、とりあえず歩く。

 歩いてしばらくすると、私は川を発見することができた。

 我、発見せり《ユーレカ》!!天は私に味方した!水がある!水があるぞ!!
 私は見事自らの力で生を勝ち取ってみせたのだ!わーはっはっはー!

 謎の達成感に身を任せ、勝利に酔う。
 なんかホッとしたー。

 あれ?これって異世界転移ってやつじゃない!?
 落ち着いて考えてみると、これはよく親友に聞かされていた「ある日突然異世界に転移して~」という話に酷似している。

 ──帰れるのかな?

 一抹の不安が頭をよぎるが、すぐさま思考を切り替える。
 なんとかなる。なるようになる。
 なるようになれー!!

 その後私は川に沿って歩き、湖に行き着いた。
 だがそこには先客がいた。木々の影から様子をうかがう。

 顔を湖に突っ込んで…顔を洗っているのかな…?
 首まで水に突っ込むなんて、珍しい顔の洗い方!…いやいや、違うでしょ!あれは違うでしょ!

 やばい!あの人顔をあげないよ!何分顔つけてるの!?何なのホント?死にたいの!?

 どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしょう。どうしよう。どうしよう…。

 落ち着け私。きっと大丈夫。
 私のモットーを思い出せ!!

「なんとかなるさーーー!!」
 言葉を発すると同時に、飛び出した私は先客《死にたがり》の肩を掴んで思いっきり引っ張り上げた。



 *

 森の木々をかき分けていつもの湖にたどり着く。

 俺はエドウィン・ローズベルト。貴族だ。貴族様が湖になんの用かって?髪の染料を落としに来たんだよ。染めてんだ、この茶髪は。

 髪を洗うと見えてくるのは銀色。
 呪われた色。悪魔に祝福された証。
 俺はコレのせいで忌み嫌われ、息苦しい毎日を送ってきた。
 両親もご先祖様も綺麗な茶髪なのに、なんで俺だけ銀髪なんだ…。

 多分、世の中には同じ銀髪のやつもいるんだろうけど俺は知らない。いたとしてもどっかに幽閉されてるか、生まれてすぐに殺されているかのどっちかだろう。
 俺もきっとそうなるはずだったんだ。

 俺が今生きているのはいろいろな要因が重なったただの偶然だ。
 俺の両親がこんなでも俺を愛してくれる変な人だったから。俺が貴族で他に家の爵位を継ぐやつがいないから。そして俺の瞳の色が青色だから。きっとそれだけだ。
 俺をここまで育ててくれた両親や、恐れながらも世話してくれたメイドとか、俺のことを見守ってくれている王とその周りとかには感謝しているが、まあなんとも生きづらい。

「独り言がやばいな。これも友達がいないせいか」
 頭を水につけたままそんなことを考えていると…。

「あなた大丈夫!?」
 うわっ!、なんかすごい勢いで引っ張り上げられた!!…と思ったら相当な美人と目があった。

 え?あれ?意味わかんない?なぜ君のような美人が!?

 艶のある美しい黒髪を腰元まで伸ばし、俺を見て大きな黒い瞳を見開いた彼女はあわてたように喋りだす。あ、なんか可愛い。

 え~と、彼女が言うには、俺のような若者が目の前で死ぬのは見たくないから…?…助けないではいられなかった!?

 は?何言ってるんだ?死ぬ気は無かったぞ?いや、いつも死にたいとは思ってるけどな…。今は死のうと思ってなかったんだが!?

 …ってそういうことじゃなく!
 なんでこんな美人が森の中にいるのかってことだ!そうそう、それが聞きたかったんだ!!

 彼女に目を向けると、こちらをじっとを見つめていて…。


 *

 うはぁ~見事な銀髪だぁ~!
 これは、自殺未遂《じさつみすい》疑いの青年はとても美形な王子様でした!ってやつ!?
  もしかして、もしかして!?二人は結ばれて~祝福されて~永遠に幸せに~…ってオチ?
 いやいや、それはない。私がヒロインの異世界転移がハッピーエンドものだなんておかしい。そんなありきたりな展開はないはずだ。


 ぐるぐると自問自答を繰り返していると、彼と目があった。それは深い青色で、透き通っていて美しい。それは直視できないレベルの顔面偏差値で、思わず頬を染めてしまう。

「いや悪気があって止めたわけじゃないんだよ!生きるも死ぬも本人次第だしね!?」

 私はそんな感じのことをモゴモゴと早口で言って愛想笑いをする。

 彼は少し考え込んで、挑戦的な笑みを浮かべた。

「あなたはどこのまわし者ですか?美しい人」

 あ、笑いかけないで。その笑顔がまぶしいです。このイケメンどこの俳優?

 …は?今、なんて言ったの…?
  私が美しい?そう言った?自他共に認めるこのフツメンな私が美しい!?
 …頭やられちゃったのかな?さっきの自殺未遂で。酸欠で頭が回ってないのかも。いや、そういうわけでもなさそうですね。う~ん。


 ──今日はよくわからないことばっかりですが、ただ一つ確かなことは。

とりあえず私、彼に惚れてしまったようです。

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