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イケメンに告白しました

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   目の前のイケメンは得意げに笑う。

「なぜわかったのかって顔だな?あなたのような人がこんなところに一人でいるはずがない。考えればすぐにわかることだ」

 何を言っているのか全くわからない。彼はきっと、なにか勘違いをしている。
  何も言えない私に気を良くしたのか、さらに熱く語りだす彼。なんだか、身振り手振りが大げさだ。

 ただ、それもたまらなくカッコイイんだよなぁ。美形だからだろうけど。きっと普通の人がやったらマヌケだ。でも彼はカッコイイ。ほんとにカッコイイ。
  あ、たぶんコレ、恋愛フィルターかかってんな。私重症だわ。


 フッ。何やってんだろうねホント。あきれて笑うしかないよ。今、異世界転移して森の中よ?
 なんで急に初恋《はつこい》芽生えさせてんの?馬鹿なの私?

 ──この18年。短いようで長かった。周りでイチャつくカップルを横目にアホだアホだと思っていたのに…。
  ああ、恋をするってこんな気持ちなんだね…!

 よし!人生一度きり!!
 初恋は叶わないというけれど、叶えてみせようじゃない!


 覚悟は決まったので、目の前でまだなんか言ってるイケメンさんに近づいて一言。

「好きです。私と付き合ってください」

 イケメンさんはピタリと動きを止めた。
 ほんとに音がしそうなくらいピタッと。


 その場に沈黙が流れる…。

「うぇっ!?」

 いきなり挙動不審になり、後ずさりするイケメンさん。なんか可愛い。さっきまでの様子が信じられないくらいのうろたえっぷりだ。

 今のうちに自己紹介しとこーっと。

「私、上田《うえだ》みどり。みどりって呼んで。異世界?の日本から来たんだけど。よろしくね。」
 ニコッと笑うと、イケメンさんは目をぱちくり。

「異世界…?ニホンとはこの国を建国したとされる王の故郷のはず…。だがそんな国は実際に確認されていないし…。うーん、わからない…。どういうことだ…?」
 思考の海に沈んでいくイケメンさん。

「あなたの名前は?」
 おーい、聞いてる?聞いてないな。どうしようかな~?

 すると、いきなりバッと顔を上げるイケメンさん。

「私は王に仕える貴族の一人。名はエドウィン。姓は言わずともわかるだろう?有名だからな」

 へ~エドウィンさんかー。名前もカッコイイ。姓?いや全然わかりませんよ?だから私はこの世界の人間じゃないって!

 エドウィンさん、なんか堂々としている。いろいろ迷いを断ち切った、みたいな。実際なんかもういいやっていう表情だ。やっぱりカッコイイ。
 …だが、少し残念なことに、今の彼にはさっきのような可愛さがみじんも感じられない。

「ここでは髪を洗っていただけだ。自殺願望はない。心配をかけた。それでは失礼する」

 それだけ言うと、綺麗な礼をして歩き去っていくエドウィンさん。なんか紳士っぽい。後ろ姿もいいなぁ。

 ──あれ?私、なんか大事なこと忘れてない?

「ちょっと待ったあ!私、あなたに好きって言ったよね!返事とかないの!?」

 あわてて声を張り上げる。美形だからってなにも言わずに去っていくのはひどくない!?女の子には困ってないんだろうけど!

 そ~っと振り向いたエドウィンさんは私と目が合うと少し頬を染める。

「聞き間違いじゃないのか?マジで言ってたのか!?」

 なんかすごく驚かれた。紳士モードが崩れてる。やっぱりそっちが素なんですね。よく見るとちょっと涙目で可愛いです。



 *

 目の前の女性は本気らしい。みどりさん?だったか?普段俺に話しかけてくる人なんていないし、他国のスパイかと疑っていたんだが、それにしてはどうも様子がおかしい。

 まぁとりあえず関わらないのが一番だろう。

 そう思っていたんだが…。

 …それが、俺のことを好きだと言ってきやがった。
 言われなれない言葉に顔が熱くなりうろたえてしまったが、幸いすぐにとりつくろうことができた。

 彼女は「ニホンから来た」と言った。
  …そこは言い伝えによると、神の住む国だ。

  この国は「ニホン」から舞い降りた神がお造りなったといわれていて、初代の王は名を「ニホンマル」というらしい。しかしそれはおとぎ話のようなもので、本当かどうかは定かではない。そんなの迷信だろうと学者たちは言う。ただの言い伝えだろう、と。

 …これは、彼女の頭がおかしいのか、俺の聞き間違い──つまり俺の頭がおかしい──のかの2択だろう。

 目の前の美人の中身がアホだとは思いたくなかったので、俺の出した結論は、あれは聞き間違い。この美人はそんなことは言ってない。彼女もどこかのお貴族様で、噂に聞く醜い俺を嘲笑いに来たんだ。きっとそうだ…。と思っていた。

  そう、ついさっきまでは──。


「ちょっと待ったあ!私あなたに好きって言ったよね!返事とかないの!?」

 歩き去ろうとした俺に彼女はそう言った。

 本気だったのか!?聞き間違いじゃないのか!?

 まさか俺のことを本当に好き?
 …いやいやいや、ないないない…。それはない。
 初対面で好きだなんて、一目惚れくらいしかありえないだろう。それはない。絶対にない!

 好かれるはずがない。この見た目で…。

「君は目が悪いのか?この銀髪が見えないのか?」
 俺は髪をつまんで持ち上げ、彼女の目の前まで歩いていく。俺のことを好きだなんて嘘だろうけど、この髪を間近で見せればもうそんな嘘はつけないだろう。

「私はすっごく綺麗な髪だと思うけど」

 俺はまだそんなことを言うのかと彼女の目を覗き込む。

「この目をよく見ろ!この碧眼は王族の証。王の血を引くものが悪魔の祝福を受けているんだぞ!?」

 彼女はそれでも首を傾げる。
 かつて俺が出会った人は、大小差はあれどもみんな嫌悪感を現したというのに。

「なにそれ?悪魔の祝福ってなんのこと?…っていうか、悪魔なのに祝福するとか矛盾してるよ?悪魔の専売特許は『呪《のろ》い』でしょ?」

「呪い?呪いは天使がするもんだろ?」
 そう言うと、彼女は勢い良く首を横にふる。

「いやいやいや、天使は『祝福』でしょ!?天使の祝福、悪魔の呪《のろ》いってよく言うじゃない!!」

 ──彼女の言うことは意味がさっぱりわからないが…。ただ、一つわかったことは…。

とりあえず、俺はそんな彼女に嫌悪感を抱いていないようだ。

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