上 下
3 / 7

女神認定されました

しおりを挟む
 帰るあてのない私は、エドウィンさんのお家にお世話になることになった。
 メイドとして雇ってくれるんだって。

 やったね!私の魅力にやられたか?

  …ってそんなわけないよね。ただ私がエドウィンさんに無理言って頼んだけなんだよ、そんなに現実は甘くない。
 …だって森の出口もわからなかったし、街にもそんなに魅力を感じなかったし…。これはもうついていくしかないでしょ?

 森の出口には一台の馬車が待たせてあって、御者席にはダンディーなおじさまがいた。

「彼はギデオン。御者兼俺の護衛だ。口が硬い代わりになにも喋らない。喋れないわけではないらしいが。少なくとも俺は声を聞いたことがない」

 エドウィンさんはそう言っていたけど、あいさつくらいはしようっと。第一印象は大事だよね!

「今日からエドウィンさんのとこにお世話になります上田みどり、いや、ミドリ・ウエダです。よろしくお願いします」

「彼女は先代の王と同じ、ニホンの出らしい」

 ギデオンさんは私を見て、少し驚いたように目を見開いたようだけど、一言も喋らなかった。



 *

 メイドになって約一週間。
 エドウィンさんの屋敷のメイドには簡単になることができた。

 この屋敷の主人はレオナード・ローズベルト公爵様。一度話したけど優しい人だった。
 エドウィンさんは公爵様の息子なんだって。
 髪の色は違うけど、目は同じ色だしなんとなく似てるね。お母様は随分前にお亡くなりになったそう。
 …これはこの屋敷で働くメイドの先輩方から聞いたこと。

 メイドさんたちは新参者の私をすぐに受け入れてくれて優しい。

 …と思っていんだけど、3日前ぐらいから皆が冷たくなって、2日前には無視され始め…ついに今日は陰口まで叩かれています。何故でしょう?

 仕事に支障はないけれど、話の内容が聞こえない絶妙なラインで囁かれるそれはなんなの?

 気になるけれど誰に聞いても答えてくれないし。ギデオンさんは無口だから仕方ないけど、公爵様はお留守だし、エドウィンさんは屋敷にいるはずなのに見つからないし…。

 どうすればいいのでしょう?


 休憩時間になって一人庭に出ると、なんとそこには公爵様が。

「ちょっといいかい?」
 優しげな笑顔を浮かべる公爵様。


「あれ?お仕事でお城に行ったと聞いていたのですが?」
 私は思わず首を傾げる。

「まあね。ところで君、エドウィンに求婚したんだって?」
 公爵様は面白そうにこちらを見ている。

 あぁ、なんだかんだでうやむやになった告白の件。

「いえ、婚約を申し込んだのです。結婚を前提としたお付き合いをと」

 真面目にそう返すと、公爵様は大げさに驚きます。

「やはり本当だったのか!君は本当にエドウィンに婚約を!?」

 私が頷くと、公爵様は声をあげて笑った。
 なにがおかしいのよ!

「何がおかしいのですか!?」

 ムッとしてそう問うと、
「だって異世界から来た女神っていうだけでも信じられないのに、あのエドウィンに…?」と返された。

「女神?」
 それってまさか私のこと?

「ああ、君のことだよ。国王は神の国ニホンから来て、君もそう。だから女神。おかしいかい?」
 それは絶対におかしい。けどそれはおいといて…。

「エドウィンさんに婚約者は…?」

「いないよ」

 やったー!これからアタックだ~!

 表情は気をつけていたはずなのに、全力で喜ぶ私の心を見透かしてか、「君、脳天気だね」という公爵様。ニコニコ笑っているけど、それ絶対ほめてませんよね。むしろバカにしてますよね。

「君にはね、王からの伝言を預かってるんだ」

『王』という言葉に思わずピシッとしてしまう。そうか、公爵様は王様のもとへいっていたんだね。
 公爵様は姿勢を正した私を見てまた少し笑った。

「王はエドウィンとの婚約を認めるそうだよ。女神の優秀な遺伝子を是非に残してほしいそうだ」

 黙って聞いている私を見てニヤリと笑い、公爵様は続けて口を開く。

 あれ?…なんかイヤな予感。さっきと違って笑顔がこわいよ。

「…だが、私は認めていない」

「…っ!?」

 強敵だ。その笑みはまるで世界を滅ぼす魔王のようでもあり、落ちたお菓子に群がる蟻を踏み潰す、幼い子供のようでもあった。

「可愛い息子をそう簡単にやるとでも?」

 ──私の異世界での初恋は簡単には叶いそうにありません。

 うわーん!!助けてマイマザーーーー!!!

しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...