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第十七話 シヴァン視点
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モンスター出現。直ぐさま伝令が走り、騎士団第二部隊の出撃が決まった。隊列を組んでモンスターの攻撃を分散し、森の奥に追いやりながら討伐する作戦だった。
兎のような熊のようなそれは、白い毛皮と大きな角を持っていた。無差別に殺気を振りまく様はまさにモンスター。すばしっこく跳ね回り、縦横無尽に刺突する。その速くて重い攻撃に、隊列が徐々に崩れてくる。距離をとって立て直さねば瓦解してしまう。モンスターとの戦闘を想定した訓練は皆積んでいたが……。恐怖ゆえか、他の隊員より数歩下がりきれなかったのだろう。
モンスターが大きく跳躍する──。
「ぐっ!」
血を流したのは、逃げ遅れた隊員ではなく……クラウスだった。そして、次の一振でモンスターを切り捨てる。
惚れ惚れするような見事な一撃だ。
「クラウスっ!!」
急所は外れていた。しかし、血が止まらない。クラウスは苦しげに膝をつき、そのまま地面に倒れた。止血して、救護の者に見せなければ……!!
クラウスが目覚めた翌日。やつは騎士団の詰所にやってきた。
「……何故来た。まだ安静にすべきだろう?」
いくらなんでも早すぎる。まだ傷も塞がっていないだろう。無理に動いて怪我が悪化したらどうするんだ。
「屋敷にいてもすることが無いからな」
こいつは生死を彷徨った自覚がないのか?
「あの子に止められたはずだ。それを振りほどいて来たのか?」
クラウスが買った奴隷。あの少女はこいつのことを必死で看病していた。意識の戻ったこいつに甲斐甲斐しく世話を焼き、こいつも満更ではなく、二人はいい感じになるのでは。近いうちにこいつの口から惚気話でも聞けるのではないか。そう思っていたのだが。
「ユウレスカは昨日、屋敷から出て行った」
……なんだって?
「まさか。お前が出て行けと言ったのか?」
クラウスは黙って頷いた。嘘だろう。予想外の事態だ。
「シヴァンだって、彼女のことを解放しろと言っていただろう。今後は上手くいかないと」
似たようなことは言ったが、それはお前が倒れる以前の話で……!ちょっと待て。私はこうも言ったはずだ。
「昨日、あの子はお前のことが好きだと、教えてやっただろう!それなのに何故……」
確かにお前にとっては信じ難い話だったろう。もっと言い含めるべきだったのかもしれない。……しかし、部外者が余計な口出しすることではないし、あの子との約束もあった。お前の怪我が癒えるまでの時間が二人を結ぶはずだ、と早めに退散したのは間違いだったのか?
「……これで良かったんだ。彼女は俺の手を離れて幸せになれる」
本当にそうだろうか。こいつはいつも自分に自信が無さすぎる。彼女を思いやれるお前の元が一番安全だと思うが。……なにより、あの子がお前にしてくれたことを、私は知っている。
「行き先は聞いているのか?」
まだ取り返しが着くかもしれない。一刻も早く連れ戻そう。
「……いいや、知らない」
自分で追い出したくせに、落ち込んでいるようだ。こいつの代わりに私が捜索するしかないな。……まだ遠くへ行っていなければいいのだが。
決意を胸に屋敷に帰ると、一通の手紙が届いていた。
「差出人は……!」
中身を確認し、驚く。渡りに船とはこのことか。早速返事をしたためて、使いを出す。
私の屋敷を訪ねて来てくれ。こちらにはすぐにでも君を保護する用意がある。時間帯も金銭も身なりも気にしなくていい。
そういったことを書いた。形式は整えたがそれだけだ。あまり婉曲的に書くと伝わらないかもしれないから。それは困る。
あの子がクラウスの元で幸せになるためにはどうすればいいか。私の頭の中には一つの計画があった。本人たちに断られればそれまでだが、上手くいけば──。そのためにも、今できることはやっておこう。私は再びペンを持ち、何通かの手紙を書いた後、速やかに然るべき場所へ送った。
不定期更新につき、ご迷惑をおかけしております。
続話は鋭意執筆中です。皆様に楽しんでいただけますよう、じっくりと執筆させていただいています。
あたたかい紅茶でも飲みながら、次の更新をお待ちください。
兎のような熊のようなそれは、白い毛皮と大きな角を持っていた。無差別に殺気を振りまく様はまさにモンスター。すばしっこく跳ね回り、縦横無尽に刺突する。その速くて重い攻撃に、隊列が徐々に崩れてくる。距離をとって立て直さねば瓦解してしまう。モンスターとの戦闘を想定した訓練は皆積んでいたが……。恐怖ゆえか、他の隊員より数歩下がりきれなかったのだろう。
モンスターが大きく跳躍する──。
「ぐっ!」
血を流したのは、逃げ遅れた隊員ではなく……クラウスだった。そして、次の一振でモンスターを切り捨てる。
惚れ惚れするような見事な一撃だ。
「クラウスっ!!」
急所は外れていた。しかし、血が止まらない。クラウスは苦しげに膝をつき、そのまま地面に倒れた。止血して、救護の者に見せなければ……!!
クラウスが目覚めた翌日。やつは騎士団の詰所にやってきた。
「……何故来た。まだ安静にすべきだろう?」
いくらなんでも早すぎる。まだ傷も塞がっていないだろう。無理に動いて怪我が悪化したらどうするんだ。
「屋敷にいてもすることが無いからな」
こいつは生死を彷徨った自覚がないのか?
「あの子に止められたはずだ。それを振りほどいて来たのか?」
クラウスが買った奴隷。あの少女はこいつのことを必死で看病していた。意識の戻ったこいつに甲斐甲斐しく世話を焼き、こいつも満更ではなく、二人はいい感じになるのでは。近いうちにこいつの口から惚気話でも聞けるのではないか。そう思っていたのだが。
「ユウレスカは昨日、屋敷から出て行った」
……なんだって?
「まさか。お前が出て行けと言ったのか?」
クラウスは黙って頷いた。嘘だろう。予想外の事態だ。
「シヴァンだって、彼女のことを解放しろと言っていただろう。今後は上手くいかないと」
似たようなことは言ったが、それはお前が倒れる以前の話で……!ちょっと待て。私はこうも言ったはずだ。
「昨日、あの子はお前のことが好きだと、教えてやっただろう!それなのに何故……」
確かにお前にとっては信じ難い話だったろう。もっと言い含めるべきだったのかもしれない。……しかし、部外者が余計な口出しすることではないし、あの子との約束もあった。お前の怪我が癒えるまでの時間が二人を結ぶはずだ、と早めに退散したのは間違いだったのか?
「……これで良かったんだ。彼女は俺の手を離れて幸せになれる」
本当にそうだろうか。こいつはいつも自分に自信が無さすぎる。彼女を思いやれるお前の元が一番安全だと思うが。……なにより、あの子がお前にしてくれたことを、私は知っている。
「行き先は聞いているのか?」
まだ取り返しが着くかもしれない。一刻も早く連れ戻そう。
「……いいや、知らない」
自分で追い出したくせに、落ち込んでいるようだ。こいつの代わりに私が捜索するしかないな。……まだ遠くへ行っていなければいいのだが。
決意を胸に屋敷に帰ると、一通の手紙が届いていた。
「差出人は……!」
中身を確認し、驚く。渡りに船とはこのことか。早速返事をしたためて、使いを出す。
私の屋敷を訪ねて来てくれ。こちらにはすぐにでも君を保護する用意がある。時間帯も金銭も身なりも気にしなくていい。
そういったことを書いた。形式は整えたがそれだけだ。あまり婉曲的に書くと伝わらないかもしれないから。それは困る。
あの子がクラウスの元で幸せになるためにはどうすればいいか。私の頭の中には一つの計画があった。本人たちに断られればそれまでだが、上手くいけば──。そのためにも、今できることはやっておこう。私は再びペンを持ち、何通かの手紙を書いた後、速やかに然るべき場所へ送った。
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