暗黒騎士と女奴隷 〜最低身分で見つけた幸せ〜

桜庭 依代(さくらば いよ)

文字の大きさ
17 / 25

第十七話 シヴァン視点

しおりを挟む
 モンスター出現。直ぐさま伝令が走り、騎士団第二部隊の出撃が決まった。隊列を組んでモンスターの攻撃を分散し、森の奥に追いやりながら討伐する作戦だった。

 兎のような熊のようなそれは、白い毛皮と大きな角を持っていた。無差別に殺気を振りまく様はまさにモンスター。すばしっこく跳ね回り、縦横無尽に刺突する。その速くて重い攻撃に、隊列が徐々に崩れてくる。距離をとって立て直さねば瓦解してしまう。モンスターとの戦闘を想定した訓練は皆積んでいたが……。恐怖ゆえか、他の隊員より数歩下がりきれなかったのだろう。

 モンスターが大きく跳躍する──。

「ぐっ!」

 血を流したのは、逃げ遅れた隊員ではなく……クラウスだった。そして、次の一振でモンスターを切り捨てる。

 惚れ惚れするような見事な一撃だ。

「クラウスっ!!」

 急所は外れていた。しかし、血が止まらない。クラウスは苦しげに膝をつき、そのまま地面に倒れた。止血して、救護の者に見せなければ……!!





 クラウスが目覚めた翌日。やつは騎士団の詰所にやってきた。

「……何故来た。まだ安静にすべきだろう?」

 いくらなんでも早すぎる。まだ傷も塞がっていないだろう。無理に動いて怪我が悪化したらどうするんだ。

「屋敷にいてもすることが無いからな」

 こいつは生死を彷徨った自覚がないのか?

「あの子に止められたはずだ。それを振りほどいて来たのか?」

 クラウスが買った奴隷。あの少女はこいつのことを必死で看病していた。意識の戻ったこいつに甲斐甲斐しく世話を焼き、こいつも満更ではなく、二人はいい感じになるのでは。近いうちにこいつの口から惚気話でも聞けるのではないか。そう思っていたのだが。

「ユウレスカは昨日、屋敷から出て行った」

 ……なんだって?

「まさか。お前が出て行けと言ったのか?」

 クラウスは黙って頷いた。嘘だろう。予想外の事態だ。

「シヴァンだって、彼女のことを解放しろと言っていただろう。今後は上手くいかないと」

 似たようなことは言ったが、それはお前が倒れる以前の話で……!ちょっと待て。私はこうも言ったはずだ。

「昨日、あの子はお前のことが好きだと、教えてやっただろう!それなのに何故……」

 確かにお前にとっては信じ難い話だったろう。もっと言い含めるべきだったのかもしれない。……しかし、部外者が余計な口出しすることではないし、あの子との約束もあった。お前の怪我が癒えるまでの時間が二人を結ぶはずだ、と早めに退散したのは間違いだったのか?

「……これで良かったんだ。彼女は俺の手を離れて幸せになれる」

 本当にそうだろうか。こいつはいつも自分に自信が無さすぎる。彼女を思いやれるお前の元が一番安全だと思うが。……なにより、あの子がお前にしてくれたことを、私は知っている。

「行き先は聞いているのか?」

 まだ取り返しが着くかもしれない。一刻も早く連れ戻そう。

「……いいや、知らない」

 自分で追い出したくせに、落ち込んでいるようだ。こいつの代わりに私が捜索するしかないな。……まだ遠くへ行っていなければいいのだが。



 決意を胸に屋敷に帰ると、一通の手紙が届いていた。

「差出人は……!」

 中身を確認し、驚く。渡りに船とはこのことか。早速返事をしたためて、使いを出す。

 私の屋敷を訪ねて来てくれ。こちらにはすぐにでも君を保護する用意がある。時間帯も金銭も身なりも気にしなくていい。

 そういったことを書いた。形式は整えたがそれだけだ。あまり婉曲的に書くと伝わらないかもしれないから。それは困る。

 あの子がクラウスの元で幸せになるためにはどうすればいいか。私の頭の中には一つの計画があった。本人たちに断られればそれまでだが、上手くいけば──。そのためにも、今できることはやっておこう。私は再びペンを持ち、何通かの手紙を書いた後、速やかに然るべき場所へ送った。



不定期更新につき、ご迷惑をおかけしております。
続話は鋭意執筆中です。皆様に楽しんでいただけますよう、じっくりと執筆させていただいています。
あたたかい紅茶でも飲みながら、次の更新をお待ちください。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...