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第十八話 ユウレスカ視点
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オーナーは意外にも仕事が早かった。シヴァンさんの素性を一日で突き止め、手紙を送ってくれた。
「わあ……」
私は今日、シヴァンさんの招待に応じてここにいる。クラウス様の屋敷も大きかったけれど、こちらも負けてはいない。いかめしい門番に気後れするが、シヴァンさんからの手紙を見せたら、あっさりと通された。
「お久しぶりです」
煌びやかな室内でシヴァンさんと対面する。見知った顔に肩の力が抜けた。リファナさんには宿屋で留守番をしてもらっているので、心細かったのだ。
「私の現状はご存知でしょうか」
そう尋ねると、シヴァンさんは首肯する。それならば話が早い。
「それでは、原因も把握されていますね。私に仕事を斡旋してください」
少しでも責任を感じているなら、断らないはずだ。
「君は自立するつもりなんだね。もちろん私も協力しよう。……それではちょっとしたテストをしてもらう。その結果で君に合った職業をあてがいたいんだ」
差し出されたのは七枚の問題用紙。その内容は多岐にわたった。動植物の生態や服飾の知識、目上の人との接し方や経営法など私には全く手が出ないことばかりが問われている。
せめて空白を埋めようと気合を入れたところで、思い出した。私は字がものすごく下手なのだ。……オーナーに「書けないことにしろ。それを見せるよりはマシだ」と言わしめた悪筆をここで披露せねばならないとは。
「……これは」
できるだけ丁寧に書いたけれど、駄目だったのか。それとも、回答の酷さへの驚愕だろうか。
「ここにはなんと書いている?これとこれは?」
シヴァンさんがいくつかの場所を指して、私に尋ねる。やっぱり私の字が読めなかったのか。
「『わかりません』と書きました。月光花なんて種類の植物は聞いたことがないので。そこで問われている変な鳴き声の鳥も知りません。あ、それは以前クラウス様にもらったお菓子がそんな名前だったなと思い出したのでそれを書きました」
そう言うと、シヴァンさんは沈黙した。回答用紙を凝視したまま、頭痛に耐えているような難しい顔をしている。数日前まで奴隷だったわけだし、その、そんな顔をしないでください……。
「……どれも習ったことがないんです。料理と計算なら少しはできるのですが……なんとかなりませんか」
公爵家でメイドをしていたリファナさんはすぐに就職できるだろう。だが、私はこの通りのスペックだ。ここでなんとかしてもらわなければならない。
「君はどこの出身だ?」
唐突だ。しかし、いつか聞かれるとは思っていた。
「記憶がないのでわかりません。オーナーによると、国境近くの森で倒れていたところをそのまま誘拐されて売られたそうです。捜索届け等が出ていないことから、身寄りがないだろうと」
記憶喪失に身元不明。これらは大きなマイナスだ。しかし、下手に嘘をついて後でバレては堪らない。その後もいくつかの質問を受け、こんなやりとりをした。
「どんな職種を希望する?」
「安全な仕事ならば何でも。だけど、犯罪には手を染めたくないですね」
「希望の収入額は?」
「生活に困らない程度はほしいです。住み込みであれば安くても大丈夫だと思います」
シヴァンさんの深く悩むような素振りに、やはり駄目かと落ち込む。こんなことなら、養ってくれと頼むべきだったかもしれない。そんなことを考える私に、シヴァンさんは言った。
「君に一つ仕事を頼みたい。その結果で君の今後が決まるだろう」
職場体験のようなものだろうか。精一杯取り組んで、採用してもらわなければ。
「分かりました。それはどのような仕事でしょうか」
よっぽどな内容でない限りは断りませんよ!そんな気持ちを込めてシヴァンさんを見つめる。その直後、とんでもない爆弾が投下された。
「病弱な妹のフリをして、私と共に社交界に行ってくれ」
それは一体、どういうことでしょうか。
「わあ……」
私は今日、シヴァンさんの招待に応じてここにいる。クラウス様の屋敷も大きかったけれど、こちらも負けてはいない。いかめしい門番に気後れするが、シヴァンさんからの手紙を見せたら、あっさりと通された。
「お久しぶりです」
煌びやかな室内でシヴァンさんと対面する。見知った顔に肩の力が抜けた。リファナさんには宿屋で留守番をしてもらっているので、心細かったのだ。
「私の現状はご存知でしょうか」
そう尋ねると、シヴァンさんは首肯する。それならば話が早い。
「それでは、原因も把握されていますね。私に仕事を斡旋してください」
少しでも責任を感じているなら、断らないはずだ。
「君は自立するつもりなんだね。もちろん私も協力しよう。……それではちょっとしたテストをしてもらう。その結果で君に合った職業をあてがいたいんだ」
差し出されたのは七枚の問題用紙。その内容は多岐にわたった。動植物の生態や服飾の知識、目上の人との接し方や経営法など私には全く手が出ないことばかりが問われている。
せめて空白を埋めようと気合を入れたところで、思い出した。私は字がものすごく下手なのだ。……オーナーに「書けないことにしろ。それを見せるよりはマシだ」と言わしめた悪筆をここで披露せねばならないとは。
「……これは」
できるだけ丁寧に書いたけれど、駄目だったのか。それとも、回答の酷さへの驚愕だろうか。
「ここにはなんと書いている?これとこれは?」
シヴァンさんがいくつかの場所を指して、私に尋ねる。やっぱり私の字が読めなかったのか。
「『わかりません』と書きました。月光花なんて種類の植物は聞いたことがないので。そこで問われている変な鳴き声の鳥も知りません。あ、それは以前クラウス様にもらったお菓子がそんな名前だったなと思い出したのでそれを書きました」
そう言うと、シヴァンさんは沈黙した。回答用紙を凝視したまま、頭痛に耐えているような難しい顔をしている。数日前まで奴隷だったわけだし、その、そんな顔をしないでください……。
「……どれも習ったことがないんです。料理と計算なら少しはできるのですが……なんとかなりませんか」
公爵家でメイドをしていたリファナさんはすぐに就職できるだろう。だが、私はこの通りのスペックだ。ここでなんとかしてもらわなければならない。
「君はどこの出身だ?」
唐突だ。しかし、いつか聞かれるとは思っていた。
「記憶がないのでわかりません。オーナーによると、国境近くの森で倒れていたところをそのまま誘拐されて売られたそうです。捜索届け等が出ていないことから、身寄りがないだろうと」
記憶喪失に身元不明。これらは大きなマイナスだ。しかし、下手に嘘をついて後でバレては堪らない。その後もいくつかの質問を受け、こんなやりとりをした。
「どんな職種を希望する?」
「安全な仕事ならば何でも。だけど、犯罪には手を染めたくないですね」
「希望の収入額は?」
「生活に困らない程度はほしいです。住み込みであれば安くても大丈夫だと思います」
シヴァンさんの深く悩むような素振りに、やはり駄目かと落ち込む。こんなことなら、養ってくれと頼むべきだったかもしれない。そんなことを考える私に、シヴァンさんは言った。
「君に一つ仕事を頼みたい。その結果で君の今後が決まるだろう」
職場体験のようなものだろうか。精一杯取り組んで、採用してもらわなければ。
「分かりました。それはどのような仕事でしょうか」
よっぽどな内容でない限りは断りませんよ!そんな気持ちを込めてシヴァンさんを見つめる。その直後、とんでもない爆弾が投下された。
「病弱な妹のフリをして、私と共に社交界に行ってくれ」
それは一体、どういうことでしょうか。
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