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一章
成長過程
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それから姉弟は時が流れるごとに成長する。
その過程で姉、エゴは毎日のように教会を訪れる年上の男に恋をした。
「ちょっと出かけてくるわね」
教会の隣にあるシスターの家。ここで子どもたちは二~三人で一部屋を借りて過ごしている。
姉弟が一緒に使用している部屋で、やけにおめかしをしたエゴはベッドの上に横たわるライオットにそう告げた。
「僕も行く」
「ライオットはお留守番してて」
「なんで?姉ちゃんどこへ行くつもりなの?」
ライオットはまだ姉離れ出来ていない。どこへ行こうにもエゴの後を付いて回りたがる年頃だ。彼はベッドから飛び起き、すぐにタンスから外出用の服を取り出す。
「だめ!今日はついて来ないで!」
エゴは必死だった。
好意を寄せている男と密会するのに、弟はただ煩わしい対象でしかない。
逃げるように部屋を出て、強く部屋の扉を閉める。その大きな音にライオットは小さく悲鳴を上げた。
「……」
今までずっと一緒だった姉がどこか遠くへ行ってしまうような気がして、ライオットは酷く寂しい気持ちになる。
強く閉められた扉に手を伸ばしたが、先程のエゴの言葉を思い出して、その手をもう片方の手で抑えつけた。
「……だめ。今日は、ついて行っちゃだめ」
その場にしゃがみこんで、彼は自分自身に言い聞かせた。
確か、読みかけの本があったはず。
今日はそれを読んで過ごそう。
小さな本棚に敷き詰められたカラフルな児童書に目を向けるが、どれを眺めても全く読む気になれなかった。それでも、何もしないよりはマシだ。
教会の方から姉の声が聞こえる。
嬉しそうで、楽しそうな声。
ライオットが本棚に両手をついて小さな窓からその様子を覗き込んでいると、エゴは知らない男の名を呼びながら教会の方へ向かって行った。
ずきり、ずきり。
軋む胸を手で抑えながら、唯一血の繋がったエゴが奪われる様を黙って見ていた。
「……あぁ、いいなぁ。姉ちゃんだけ楽しそう」
羨望の眼差しを向けながら、ライオットは歪な形の自分の爪を噛む。
気がつけば深く噛みすぎて、爪と肉の境目から血がじわりと浮き出た。
すると突然、扉を叩く音が部屋に響く。
「エゴ、ライオット。ちょっといいかしら?」
扉の向こうからシスターの声がして、ライオットは咄嗟に噛んでいた爪を後ろへ隠した。
「な、なぁに?シスター」
扉が開き、初老のシスターが姿を現す。
彼女は部屋を見渡したあと、「エゴはどうしたの?」と尋ねた。
「姉ちゃんは教会で男の人と会ってるみたい」
ライオットは窓の外から見えた光景をそのまま口にする。
「教会で男の人と?……まさかあの子っ!」
シスターは鬼の形相で教会へ向かって行った。結局何の用だったんだろう?とライオットが開きっぱなしの扉を閉めようとしたその時、赤黒く汚れた自分の手を見て青筋を立てた。
まるで人を殺したみたいにべっとりと掌に付着した血。
咄嗟に親指を隠していたせいでそのまま汚れてしまったのだろう。
これらを舐めて綺麗にするのはヴァンパイアじみて嫌だったので、水道の水で落とすことにした。
「水道……」
部屋を出る。
その直後、すれ違いざまに目を赤く晴らしたエゴが勢いよく部屋の中へと戻って来た。
「あ、姉ちゃん。おかえり」
ライオットがそう声をかけても、エゴはベッドに突っ伏したまま涙目でぎろりと彼を睨む。
今まで見たことがないような姉の形相に怖いと感じたものの、特に何も言ってこないのでライオットは気にすることなく水道へ手を洗いに向かった。
血を洗い落とし、雫が落ちる手をタオルで拭いたあと、ライオットはシスターに呼ばれた。
ライオットを連れてキッチンに移動したシスターは今夜の夕食を作りながら彼と会話をする。
「一体どうしたの?シスター」
木製の丸く低い椅子に座っていたライオットは、野菜を切りながら困った顔をするシスターに問いかけた。
「ライオット、貴方のお姉さんを見張っていてほしいの」
「姉ちゃんを?」
「エゴったら毎日教会に祈りを捧げに来る男の人のことを好きになっちゃったみたいでね。さっきも会ってたみたいだけど、あの男の人は絶対に止めておいた方がいいわ」
「どうして?」
「まだ子どもの貴方にこんなことを言うのもあれだけど、教会を訪れているあの男は誠実なふりをして町では女性を騙していることで有名なの。野菜をおすそ分けしてくれるエミーさんの娘も一度騙されたみたいでね。その後酷く落ち込んだらしいわ」
そんな男とエゴが親しくなったら、エゴも騙されて捨てられて、その後酷く落ち込むかもしれない、とシスターは説明する。
「注意はしたけれど、恐らくあの子はまたあの男に会いに行くわ。だからそうならないように見張っていてほしいの。いざと言う時には私を呼んでね」
「うん」
ライオットはこくりと頷く。すると料理をしていたシスターの方からスパイシーな香りがして、思わずぐぅっとお腹が鳴った。
「あらあら。もうすぐ出来上がるからみんなの分のお皿を並べてくれる?」
「はーい」
食器棚から少しずつ皿を取って、ライオットは人数分を机に並べる。
そして料理が出来上がると、エゴを呼ぶために一度部屋へ戻って行った。
その過程で姉、エゴは毎日のように教会を訪れる年上の男に恋をした。
「ちょっと出かけてくるわね」
教会の隣にあるシスターの家。ここで子どもたちは二~三人で一部屋を借りて過ごしている。
姉弟が一緒に使用している部屋で、やけにおめかしをしたエゴはベッドの上に横たわるライオットにそう告げた。
「僕も行く」
「ライオットはお留守番してて」
「なんで?姉ちゃんどこへ行くつもりなの?」
ライオットはまだ姉離れ出来ていない。どこへ行こうにもエゴの後を付いて回りたがる年頃だ。彼はベッドから飛び起き、すぐにタンスから外出用の服を取り出す。
「だめ!今日はついて来ないで!」
エゴは必死だった。
好意を寄せている男と密会するのに、弟はただ煩わしい対象でしかない。
逃げるように部屋を出て、強く部屋の扉を閉める。その大きな音にライオットは小さく悲鳴を上げた。
「……」
今までずっと一緒だった姉がどこか遠くへ行ってしまうような気がして、ライオットは酷く寂しい気持ちになる。
強く閉められた扉に手を伸ばしたが、先程のエゴの言葉を思い出して、その手をもう片方の手で抑えつけた。
「……だめ。今日は、ついて行っちゃだめ」
その場にしゃがみこんで、彼は自分自身に言い聞かせた。
確か、読みかけの本があったはず。
今日はそれを読んで過ごそう。
小さな本棚に敷き詰められたカラフルな児童書に目を向けるが、どれを眺めても全く読む気になれなかった。それでも、何もしないよりはマシだ。
教会の方から姉の声が聞こえる。
嬉しそうで、楽しそうな声。
ライオットが本棚に両手をついて小さな窓からその様子を覗き込んでいると、エゴは知らない男の名を呼びながら教会の方へ向かって行った。
ずきり、ずきり。
軋む胸を手で抑えながら、唯一血の繋がったエゴが奪われる様を黙って見ていた。
「……あぁ、いいなぁ。姉ちゃんだけ楽しそう」
羨望の眼差しを向けながら、ライオットは歪な形の自分の爪を噛む。
気がつけば深く噛みすぎて、爪と肉の境目から血がじわりと浮き出た。
すると突然、扉を叩く音が部屋に響く。
「エゴ、ライオット。ちょっといいかしら?」
扉の向こうからシスターの声がして、ライオットは咄嗟に噛んでいた爪を後ろへ隠した。
「な、なぁに?シスター」
扉が開き、初老のシスターが姿を現す。
彼女は部屋を見渡したあと、「エゴはどうしたの?」と尋ねた。
「姉ちゃんは教会で男の人と会ってるみたい」
ライオットは窓の外から見えた光景をそのまま口にする。
「教会で男の人と?……まさかあの子っ!」
シスターは鬼の形相で教会へ向かって行った。結局何の用だったんだろう?とライオットが開きっぱなしの扉を閉めようとしたその時、赤黒く汚れた自分の手を見て青筋を立てた。
まるで人を殺したみたいにべっとりと掌に付着した血。
咄嗟に親指を隠していたせいでそのまま汚れてしまったのだろう。
これらを舐めて綺麗にするのはヴァンパイアじみて嫌だったので、水道の水で落とすことにした。
「水道……」
部屋を出る。
その直後、すれ違いざまに目を赤く晴らしたエゴが勢いよく部屋の中へと戻って来た。
「あ、姉ちゃん。おかえり」
ライオットがそう声をかけても、エゴはベッドに突っ伏したまま涙目でぎろりと彼を睨む。
今まで見たことがないような姉の形相に怖いと感じたものの、特に何も言ってこないのでライオットは気にすることなく水道へ手を洗いに向かった。
血を洗い落とし、雫が落ちる手をタオルで拭いたあと、ライオットはシスターに呼ばれた。
ライオットを連れてキッチンに移動したシスターは今夜の夕食を作りながら彼と会話をする。
「一体どうしたの?シスター」
木製の丸く低い椅子に座っていたライオットは、野菜を切りながら困った顔をするシスターに問いかけた。
「ライオット、貴方のお姉さんを見張っていてほしいの」
「姉ちゃんを?」
「エゴったら毎日教会に祈りを捧げに来る男の人のことを好きになっちゃったみたいでね。さっきも会ってたみたいだけど、あの男の人は絶対に止めておいた方がいいわ」
「どうして?」
「まだ子どもの貴方にこんなことを言うのもあれだけど、教会を訪れているあの男は誠実なふりをして町では女性を騙していることで有名なの。野菜をおすそ分けしてくれるエミーさんの娘も一度騙されたみたいでね。その後酷く落ち込んだらしいわ」
そんな男とエゴが親しくなったら、エゴも騙されて捨てられて、その後酷く落ち込むかもしれない、とシスターは説明する。
「注意はしたけれど、恐らくあの子はまたあの男に会いに行くわ。だからそうならないように見張っていてほしいの。いざと言う時には私を呼んでね」
「うん」
ライオットはこくりと頷く。すると料理をしていたシスターの方からスパイシーな香りがして、思わずぐぅっとお腹が鳴った。
「あらあら。もうすぐ出来上がるからみんなの分のお皿を並べてくれる?」
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