平和な世界に復讐を

清懺歌

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一章

すれ違い

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「姉ちゃん、ご飯だよ」
 未だベッドに突っ伏したままのエゴにライオットは話しかける。
 折角おめかしをして整えた髪が無残な姿になったエゴは、ゆらりと起き上がった。それを確認し、ライオットがキッチンへ向かおうとするも彼女がそれを許さない。
「……ねぇ、ライオットでしょ?シスターにあたしが教会にいるって言ったの」
「姉ちゃん?」
 涙で濡れた頬を拭いながら、エゴは早足でライオットの元へ向かい、利き手で彼の頭を強く叩いた。いきなり叩かれたライオットは何事かと困惑していたが、エゴが涙を堪えている姿を見て自分が何か悪いことをしたのかと察する。
「なんでっ……なんでシスターに言ったの!ライオットのバカっ!」
 ドンッと強く押されたライオットは華奢ゆえにバランスが取れず、その場で尻もちをついた。
「バカっ!バカっ!どうして分かってくれないのよ!」
 エゴの憤りは治まらず、ライオットに馬乗りになって更に手を上げる。
 騒ぎを聞いた隣の部屋の子どもがシスターを呼び、何とかその場は鎮まったがエゴは再びシスターから叱られた。
 その度に泣く。エゴはエゴなりの主張があるようだったが、まだ世間を知らないだけだと反論出来ない言葉で言いくるめられた。

 その夜、毛布を握りしめていたライオットは向かい側で背中を向けて眠るエゴに声をかける。
「……姉ちゃん、ごめん」
 何が悪かったのかライオットには分からない。それでも、エゴを泣かせてしまったことに彼は大きな罪悪感を抱いた。
「もうシスターに言わないから。僕、今度はちゃんと黙ってるから」
 しかし、エゴから返ってきた言葉は「嘘つき」の一言だけだった。
 その言葉に悲しくなって、辛くなって、ライオットは毛布を頭まで被って朝を静かに待った。
 いつもは気にならない森にいる梟の声や獣の声が今夜はやけにうるさく聞こえる。耳を塞いでみても、「じー」っという耳鳴りが聞こえてライオットの眠りを妨げた。
 エゴに叩かれた頭が痛い。頬が痛い。胸が痛い。
 いろんな感情が入り交じって、気がつけば彼も涙を流していた。何度擦っても何度拭いても溢れ出る涙。エゴに聞こえないように嗚咽は頑張って我慢した。

 静寂だった夜は、やがて輝かしい朝を迎える。
 結局彼がその日迎えた朝は、涙で濡れた毛布を片手に持った、とても気持ちが良いとは言えない朝だった。
 いつもライオットが起きるまで待ってくれるエゴの姿はない。きっと先に朝食を食べに向かったのだろう。
 エゴがまだ怒っていると悟ったライオットはきゅっと胸が締め付けられる。
 しばらくして顔を洗い、キッチンへ向かうと、朝食を終え皿洗いをするエゴを見つけた。
「姉ちゃ……」
「遅いわよライオット。先に食べちゃったじゃない」
 会話は無事成立した。
 しかし、エゴの声はまだどこか怒りを含んでいる。
「……今日もあの人のところへ行くの?」
 とにかく会話を長引かせたくて、ライオットは咄嗟に思いついた疑問を恐る恐る尋ねてみた。
「もう行かないわよ。早くご飯食べなさい」
 テーブルに置かれた朝食を指差し、エゴはさっさと部屋へ戻って行った。残された彼は低い椅子に座り、誰もいないテーブルに向かって「いただきます」と呟く。
 食事は一日交代制で、シスターと当番の子が毎日食事を作っている。たまにその役割を忘れる子がいるが、今日はきちんと当番の子が来たのかとスープの中に入った不規則な形の人参を見て察した。
 一口、まだ湯気が立ち込めるスープを口にする。しかしどういうことだろう。全く味がしなかった。ほかの料理も手をつけてみたが、どれ一つ美味と言えるものは無く、半分だけ食べて残りの半分は残してしまった。
 ……あぁ、朝食ってこんなに美味しくなかったっけ?
 今日の朝食の当番の味付けが悪かったのかとか、シスターが疲れていて今朝の朝ごはんは手を抜いたのかとか色々考えてみたが、きっとそういうことではないのだろう。
 作ってくれた子には悪いと思いながら、生ゴミの用の袋の中に残した食べ物を捨てる。
 お腹はぎゅるるっと音を鳴らして食べ物を求めていた。
 それでも喉を通らなければ意味が無い。
 この日、ライオットが朝昼晩の食事を完食することはなかった。
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