4 / 18
一章
すれ違い
しおりを挟む
「姉ちゃん、ご飯だよ」
未だベッドに突っ伏したままのエゴにライオットは話しかける。
折角おめかしをして整えた髪が無残な姿になったエゴは、ゆらりと起き上がった。それを確認し、ライオットがキッチンへ向かおうとするも彼女がそれを許さない。
「……ねぇ、ライオットでしょ?シスターにあたしが教会にいるって言ったの」
「姉ちゃん?」
涙で濡れた頬を拭いながら、エゴは早足でライオットの元へ向かい、利き手で彼の頭を強く叩いた。いきなり叩かれたライオットは何事かと困惑していたが、エゴが涙を堪えている姿を見て自分が何か悪いことをしたのかと察する。
「なんでっ……なんでシスターに言ったの!ライオットのバカっ!」
ドンッと強く押されたライオットは華奢ゆえにバランスが取れず、その場で尻もちをついた。
「バカっ!バカっ!どうして分かってくれないのよ!」
エゴの憤りは治まらず、ライオットに馬乗りになって更に手を上げる。
騒ぎを聞いた隣の部屋の子どもがシスターを呼び、何とかその場は鎮まったがエゴは再びシスターから叱られた。
その度に泣く。エゴはエゴなりの主張があるようだったが、まだ世間を知らないだけだと反論出来ない言葉で言いくるめられた。
その夜、毛布を握りしめていたライオットは向かい側で背中を向けて眠るエゴに声をかける。
「……姉ちゃん、ごめん」
何が悪かったのかライオットには分からない。それでも、エゴを泣かせてしまったことに彼は大きな罪悪感を抱いた。
「もうシスターに言わないから。僕、今度はちゃんと黙ってるから」
しかし、エゴから返ってきた言葉は「嘘つき」の一言だけだった。
その言葉に悲しくなって、辛くなって、ライオットは毛布を頭まで被って朝を静かに待った。
いつもは気にならない森にいる梟の声や獣の声が今夜はやけにうるさく聞こえる。耳を塞いでみても、「じー」っという耳鳴りが聞こえてライオットの眠りを妨げた。
エゴに叩かれた頭が痛い。頬が痛い。胸が痛い。
いろんな感情が入り交じって、気がつけば彼も涙を流していた。何度擦っても何度拭いても溢れ出る涙。エゴに聞こえないように嗚咽は頑張って我慢した。
静寂だった夜は、やがて輝かしい朝を迎える。
結局彼がその日迎えた朝は、涙で濡れた毛布を片手に持った、とても気持ちが良いとは言えない朝だった。
いつもライオットが起きるまで待ってくれるエゴの姿はない。きっと先に朝食を食べに向かったのだろう。
エゴがまだ怒っていると悟ったライオットはきゅっと胸が締め付けられる。
しばらくして顔を洗い、キッチンへ向かうと、朝食を終え皿洗いをするエゴを見つけた。
「姉ちゃ……」
「遅いわよライオット。先に食べちゃったじゃない」
会話は無事成立した。
しかし、エゴの声はまだどこか怒りを含んでいる。
「……今日もあの人のところへ行くの?」
とにかく会話を長引かせたくて、ライオットは咄嗟に思いついた疑問を恐る恐る尋ねてみた。
「もう行かないわよ。早くご飯食べなさい」
テーブルに置かれた朝食を指差し、エゴはさっさと部屋へ戻って行った。残された彼は低い椅子に座り、誰もいないテーブルに向かって「いただきます」と呟く。
食事は一日交代制で、シスターと当番の子が毎日食事を作っている。たまにその役割を忘れる子がいるが、今日はきちんと当番の子が来たのかとスープの中に入った不規則な形の人参を見て察した。
一口、まだ湯気が立ち込めるスープを口にする。しかしどういうことだろう。全く味がしなかった。ほかの料理も手をつけてみたが、どれ一つ美味と言えるものは無く、半分だけ食べて残りの半分は残してしまった。
……あぁ、朝食ってこんなに美味しくなかったっけ?
今日の朝食の当番の味付けが悪かったのかとか、シスターが疲れていて今朝の朝ごはんは手を抜いたのかとか色々考えてみたが、きっとそういうことではないのだろう。
作ってくれた子には悪いと思いながら、生ゴミの用の袋の中に残した食べ物を捨てる。
お腹はぎゅるるっと音を鳴らして食べ物を求めていた。
それでも喉を通らなければ意味が無い。
この日、ライオットが朝昼晩の食事を完食することはなかった。
未だベッドに突っ伏したままのエゴにライオットは話しかける。
折角おめかしをして整えた髪が無残な姿になったエゴは、ゆらりと起き上がった。それを確認し、ライオットがキッチンへ向かおうとするも彼女がそれを許さない。
「……ねぇ、ライオットでしょ?シスターにあたしが教会にいるって言ったの」
「姉ちゃん?」
涙で濡れた頬を拭いながら、エゴは早足でライオットの元へ向かい、利き手で彼の頭を強く叩いた。いきなり叩かれたライオットは何事かと困惑していたが、エゴが涙を堪えている姿を見て自分が何か悪いことをしたのかと察する。
「なんでっ……なんでシスターに言ったの!ライオットのバカっ!」
ドンッと強く押されたライオットは華奢ゆえにバランスが取れず、その場で尻もちをついた。
「バカっ!バカっ!どうして分かってくれないのよ!」
エゴの憤りは治まらず、ライオットに馬乗りになって更に手を上げる。
騒ぎを聞いた隣の部屋の子どもがシスターを呼び、何とかその場は鎮まったがエゴは再びシスターから叱られた。
その度に泣く。エゴはエゴなりの主張があるようだったが、まだ世間を知らないだけだと反論出来ない言葉で言いくるめられた。
その夜、毛布を握りしめていたライオットは向かい側で背中を向けて眠るエゴに声をかける。
「……姉ちゃん、ごめん」
何が悪かったのかライオットには分からない。それでも、エゴを泣かせてしまったことに彼は大きな罪悪感を抱いた。
「もうシスターに言わないから。僕、今度はちゃんと黙ってるから」
しかし、エゴから返ってきた言葉は「嘘つき」の一言だけだった。
その言葉に悲しくなって、辛くなって、ライオットは毛布を頭まで被って朝を静かに待った。
いつもは気にならない森にいる梟の声や獣の声が今夜はやけにうるさく聞こえる。耳を塞いでみても、「じー」っという耳鳴りが聞こえてライオットの眠りを妨げた。
エゴに叩かれた頭が痛い。頬が痛い。胸が痛い。
いろんな感情が入り交じって、気がつけば彼も涙を流していた。何度擦っても何度拭いても溢れ出る涙。エゴに聞こえないように嗚咽は頑張って我慢した。
静寂だった夜は、やがて輝かしい朝を迎える。
結局彼がその日迎えた朝は、涙で濡れた毛布を片手に持った、とても気持ちが良いとは言えない朝だった。
いつもライオットが起きるまで待ってくれるエゴの姿はない。きっと先に朝食を食べに向かったのだろう。
エゴがまだ怒っていると悟ったライオットはきゅっと胸が締め付けられる。
しばらくして顔を洗い、キッチンへ向かうと、朝食を終え皿洗いをするエゴを見つけた。
「姉ちゃ……」
「遅いわよライオット。先に食べちゃったじゃない」
会話は無事成立した。
しかし、エゴの声はまだどこか怒りを含んでいる。
「……今日もあの人のところへ行くの?」
とにかく会話を長引かせたくて、ライオットは咄嗟に思いついた疑問を恐る恐る尋ねてみた。
「もう行かないわよ。早くご飯食べなさい」
テーブルに置かれた朝食を指差し、エゴはさっさと部屋へ戻って行った。残された彼は低い椅子に座り、誰もいないテーブルに向かって「いただきます」と呟く。
食事は一日交代制で、シスターと当番の子が毎日食事を作っている。たまにその役割を忘れる子がいるが、今日はきちんと当番の子が来たのかとスープの中に入った不規則な形の人参を見て察した。
一口、まだ湯気が立ち込めるスープを口にする。しかしどういうことだろう。全く味がしなかった。ほかの料理も手をつけてみたが、どれ一つ美味と言えるものは無く、半分だけ食べて残りの半分は残してしまった。
……あぁ、朝食ってこんなに美味しくなかったっけ?
今日の朝食の当番の味付けが悪かったのかとか、シスターが疲れていて今朝の朝ごはんは手を抜いたのかとか色々考えてみたが、きっとそういうことではないのだろう。
作ってくれた子には悪いと思いながら、生ゴミの用の袋の中に残した食べ物を捨てる。
お腹はぎゅるるっと音を鳴らして食べ物を求めていた。
それでも喉を通らなければ意味が無い。
この日、ライオットが朝昼晩の食事を完食することはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~
RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。
試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。
「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」
枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる