平和な世界に復讐を

清懺歌

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二章

バニラアイスとブラックコーヒー

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 カフェなのに『Restaurant』という店の店主、サンをテーブル席の向かい側に座らせ、ループスはライオットとの関係をコンパクトに話した。
 まず、ライオットは自身の子どもではないこと。
 そして彼には家族がいないようだから自分の元に置いていること。
 その間ライオットのお腹はずっと鳴っており、彼らの話が終わるまでずっとモーニングメニューを見続けていた。
「……終わった?」
 ループスの話が一通り終わったあと、僅かな沈黙を噛み締めてからライオットは注文のタイミングを伺う。
「はっ……!すまない今終わった。終わったから好きなものを注文していいぞ!」
「じゃあ、この、『虜になる魅惑のトーストセット』ください」
 ライオットが指差すメニューの写真には、蜂蜜や餡子など甘い物がとにかく凝縮されたボリュームのあるトースト。サイドメニューにはドリンクとデザートが付いている。
「……食べ切れるのか?」
「分からない。でも、こういうの食べた事ないから」
 教会での食事は健康を重視したものが多かった。トーストどころか、甘い物すら食べたことは無い。
 ライオットの注文を聞いて向かい側の椅子に座っていたサンは青いエプロンのポケットからメモを取り出し、店員らしく注文を繰り返す。
「はいはーい。『虜になる魅惑のトーストセット』ですねぇ!ドリンクは何にしますか?」
 サンの問いに、ライオットは再びメニューと睨めっこをする。
「おれんじ、じゅーす……?姉ちゃん、オレンジジュースって何?」
「果物のオレンジは分かるか?あれを絞って飲み物にしたものだ」
「じゃあそれで」
「はーい。ループスは?」
「私は以前と同じもので」
「ループスの以前の注文なんてアタイ覚えてないよぉ」
 サンは笑いながら困った顔をする。ループスは渋々テーブルの上に広げられたメニューを黙って指さした。
「あぁ、『失恋のようにほろ苦く甘いコーヒーセット』ね!分かったわ!」
 さらさらとメニューに注文の品を書き連ね、サンは黒髪のポニーテールと尻尾を揺らしながらカウンターの方で準備に取り掛かる。
 一方、サンに堂々と注文した品の名前を暴露されたループスは羞恥で微かに震えていた。
「勘違いするなよライオット!私は、し、失恋なんてしてないからなっ!名前はあれだがこれが一番美味しかったんだ!」
「あ、うん」
 特にそういったことを気にしていなかったライオットが再びメニューを眺めていると、一番最後のページに今まで記載されていた品々とは名前の雰囲気が違う品を見つけた。
 品の名前は『エスケープ』。
 一見ただのブラックコーヒーに見えたが、その中央には楕円形の白いものがひょっこりと顔を出している。まるでそこだけ雪が降った山の頂のように。
「姉ちゃん、これなんだろう?」
「ん?」
 ライオットはブラックコーヒーの真ん中に描かれた白いものを指差す。しかし答えが返ってきたのは隣にいたループスからではなく、注文の品を運びに来たサンからだった。
「それはバニラアイスなんですよー」
 注文の品をそれぞれの目の前に置きながら、サンは続けて商品名『エスケープ』を説明する。
「そこの坊やは知らないかもしれないけど、前のスピリゥス王国の王様が処刑されてから、その子どもが国を追放されたでしょ?王国から逃げる清くも哀れな子どもをイメージして作ったの!」
 そう言ってサンは得意げに話す。
 子どもをバニラアイスに見立て、国を熱々のブラックコーヒーに見立てる。普通に考えればバニラアイスはコーヒーに溶けてしまう(すなわち子どもは国に捕まってしまう)という何とも残酷な内容の品だが、この時のライオットは自分がそのバニラアイスであることを知らない。一つの商品としてサンの話を聞いていた。
「でも今の王様、その追放した子どもを探しているらしいの」
「追放したのに探しているのか?一体なぜ……」
 サンは周囲を警戒するよう見渡す。お客はライオットとループス以外誰もいないので警戒する必要は無いが、無意識にそうしてしまう程誰かに聞かれてはまずい内容らしい。
 気が済むまで周囲を確認してから、お客である二人にそっと耳打ちをした。
「ここだけの話、今のスピリゥス王国は色んな意味で余裕が無いのよ。王様の政治に国民の不満が高まってるって聞くし、だから彼らの気を逸らしたいんじゃない?
人間ってほら、自分を良く見せるために誰かを悪役にするの好きだからさ」
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