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1話 婚約破棄されましたけど何か?
しおりを挟む「シャルロット、本日を持ってそなたとの婚約を破棄する!」
そう、高らかに叫んだのは、私の婚約者である『アレン・カルミナ』。カルミナ地方の領主であるカルミナ家の嫡男である。
この世界では『契約』というのが優先される。あらゆる約束において、お互いに記名した契約書を必要とする。もちろん、婚約だってそうだ。現に私の手元にだって、アレンと私、両名が記名した婚約の書類がある。
「どうしてですか? アレン様! 私を愛してくれると約束して下さったではないですか! 見てください、ここに……」
私はアレンに向けて、その『婚約の証』を見せつけた。かつて、二人で笑いながらサインをした契約書。だが、アレンはちらりと契約書を見た後に、顔色一つ変えずに、再び口を開く。
「そうだ、それは確かに私とそなたの婚約の証」
「だったら……」
「そなたは心より愛していない者と、一生を添い遂げたいと思うのか?」
アレンはまるで、家畜でも見るかのような眼差しで私に向かってそう言ってきた。かつて、熱烈にアプローチをしてくれていた、アレンの眼差しではない。もはや全くの別人と言っても良いほどに、その目は冷徹で残酷だった。
突然のアレンの裏切りに頭が真っ白になり、呆然と立ちすくむことしか出来なかった私に向かって、更にアレンは言葉を続ける。
「俺を真に愛してくれるのは、フィーナ嬢。俺はフィーナ・シュトラール嬢と結婚する、来てくれフィーナ」
アレンの呼びかけに、部屋の奥から姿を現したのは、フィーナ・シュトラール。彼女の家シュトラール家もまた、この国の有力貴族の一つである。
そして、フィーナは勝ち誇ったような表情で、私に向かって吐き捨てるように、勝利宣言を口にしたのだ。
「シャルロット様には申し訳ございませんが、私とアレン様が愛し合っていることは紛れもない事実なのです。ねえ…… アレン様?」
私の家、アストルフィア家が治めるのは、このカスタリナ国でも辺境の地。今回の私達の婚約は、我がアストルフィア家にとって重要な話であった。何せ、カルミナ家は王都に近い地域を治める貴族であり、同じ貴族でも私達アストルフィアとは明確に立場が違っていたのだ。
そして、アレンの新たな婚約相手であるフィーナもまた、私とは身分が違う。フィーナが私の家、アストルフィア家よりも階級が上である以上、私にはこれ以上何も言い返せない。
そう、確かにこの世界では契約が全て。それは間違いのない話だ。契約を破棄するためにはお互いの同意が必要となる。だが、それを覆せるものが一つだけあるのだ。
それが身分。相手がカルミナ家やシュトラール家である以上、身分が遙かに下である私には、もう泣き寝入りしか出来ないと言うわけだ。
「シャルロットよ、わかっているな? そなたの言うように契約は何よりも優先される。だからこそ、こうしてそなたに頼んでいるのだ。契約を破棄するためには互いの同意が必要……」
わかっている。ここで私が引き下がらなかったら、話は私だけのものではなくなってしまう。辺境の地の弱小領主であるアストルフィア家をつぶすことなんて、彼らにすればそう難しい話ではない。
それにアレンの言うことも、まさしくその通りなのである。もはや、彼が私を愛していないと言うことは、彼の態度で丸わかりであった。そんな彼と結婚して、一生を添い遂げるだなんて、無理な話であるのだ。
「はい……」
もはや、どうしようもないことなのだ。
こうして、私、シャルロット・アストルフィアは婚約者であるアレン・カルミナから、『婚約を破棄された』のである。
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