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2話 婚約解消、そして追放
しおりを挟むあの魔法発現の儀式以来、父と母の私への態度は一気に変わった。『私が魔法を発現しなかった』と言う話は瞬く間に広がったのだ。あれ以来、私は一歩も家の外に出してもらえていない。まあ、そもそも外に出たところで、民達の注目の的になる事なんてわかりきっていたから、出るつもりもなかった。
噂はルシファーレンの領地だけの話では留まらなかった。私との婚約相手であった『シュトラール家』にも、その話はすぐに伝わり、私の元に来たのは『婚約解消』の知らせであった。
魔法が当たり前のこの世界。魔法が発現しなかった者は、人としての尊厳を失ってしまうと言うことを、私はこの身で思い知ったというわけだ。
「シャリオット」
そして、父に呼び出しを食らった私。重苦しい空気の中、父との面会に挑んだ私に告げられたのは、私に更に絶望を与えるような、そんな言葉だった。
「そなたには期待していた。だが、そなたは魔法を発現できなかった。魔法が発現できなかった者をこのルシファーレンの家に置いておくわけにはいかない……」
「お父様…… それって……」
「この家を出て行ってもらうと言うことだ」
「お父様!」
父はまるで腫れ物にでも触れるかのような眼差しで私の方を見ていた。それも仕方の無いことではある。現に、私のせいで、『シュトラール家との婚約はなかった』ことになり、さらに、領民にも動揺を与えてしまったのだ。ルシファーレンの名を汚してしまったことは言うまでもない。
「シャリオット、そなたには王宮に向かってもらう。魔法が発現しなかったという報告をしたところ、王宮から、そなたを召使いで雇いたいという話が来た。兄に感謝するように」
兄は今や王宮でも名を知られているような、有名な魔道師となっていた。魔法も使えない私が、王宮で働けるのも、間違いなく兄のお陰なんだろう。
「……ありがとうございます」
感謝をした方が良いんだろうが、納得は行っていない。なんで、魔法が発現しなかったと言うだけで、こんな惨めな思いをしなければならないのか、あんな植物一つのせいで、ここまで人生が変わるモノなのか、今まで過ごしてきた私の時間は何だったのか、そんな思いが私の頭の中を駆け巡る。
「用件は以上だ、明後日王宮からの迎えが来る。用意をしておくように」
そして、冷たく言い放った父。ルシファーレン家の繁栄を第一と考えてきた父にとって、私は到底許されないような存在なのだろう。
それからの時間、私は自らの部屋で呆然と過ごしていた。家族と笑顔で過ごした日々が、蘇ってくる。私に向けていた父や母の笑顔、そして、兄との楽しかった時間。もう、全てが私の手からこぼれ落ちていってしまった。たった、あの一瞬の出来事で。
誰を恨めば良いのかなんてわからない。
気が付けば、辺りはすっかり暗くなっていた。この部屋で過ごすのも、後1日と少し。そう思っていった矢先のことである。
こんこん、と部屋をノックする音が響く。直後、ドアの向こうより優しい声が聞こえてきた。兄の声だった。
「シャリオット、入るぞ」
静かに扉が開き、兄が部屋へと入ってくる。
「お兄様…… 私、王宮に向かうことに……」
「ああ、知っている」
あれ以来、兄とも気まずくて、あまり話せていなかった。だけど、話し方だけでわかった。以前と変わらない優しい兄の声。兄はあんなコトがあっても、私に変わらず接してくれていた。
だから、きっと、私の仕事を用意してくれたのも、兄の口添えのお陰なのだろう。私は兄に向かって笑顔を作りながら、言葉を返した。
「でも、感謝しないといけないわね。こんな私でも雇ってくれるだなんて…… これも、お兄様のお陰なんでしょ?」
その言葉に、兄は複雑そうな表情を浮かべた。そして、意を決した様に真面目な表情へと変わった兄。兄の今までに無い真剣な声が響く。
「シャリオット、少し話がしたい。いいか?」
私は黙ったまま頷いた。私の頷きに一瞬、笑顔を浮かべた兄は、チラチラと辺りを気にするような素振りを見せる。
――どうしたんだろう?
何か、誰かに聞かれたくない話でもあるのだろうか? と考えていた私に向かって、兄は小さな声で呟いたのだった。
「シャリオット、今すぐここを離れなさい」
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