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3話 自慢の妹
しおりを挟むここを離れろ? どういうこと?
今確かに、お兄様はここを離れろって…… そう言ったわよね?
事態を全くもって理解できていない私は、もう一度お兄様に向かって聞き直す。
「お兄様、今なんて……?」
「すぐにここを離れるんだ、シャリオット」
兄のアルフレッドは真剣な表情を浮かべながら、もう一度その言葉を繰り返した。
「いくらお兄様でも、突然ここを離れろって…… だって、王宮の迎えが来るんでしょう? お兄様のお陰で、こんな私でも王宮で働けるというのに……」
私が魔法を使えないことが判明してなお、王宮で雇ってくれるというのは、全て王宮とのつながりがあるお兄様のお陰だろう。それなのに、今私がここを離れたら、間違いなくお兄様の顔に泥を塗ってしまう事態になる。そんな事なんて出来るはずがない。
「シャリオット、違うんだ。俺は、シャリオットを王宮で雇うように手引きはしていない」
「どういうこと?」
一層と小声になった兄アルフレッド。ドアの外を気にする素振りを見せたアルフレッドは、私に近づいて小さな声を発した。
「シャリオット、今から話すことは父も母も知らない。絶対に大きな声を上げるんじゃないぞ」
ただならぬ様子のお兄様に、私は黙ったまま頷くことしか出来なかった。聡明なお兄様はこういうときに茶化すような人じゃない。きっと、何か私に伝えなければならない事があるのだろうと言うことは、すぐに私も理解したのだ。
「シャリオット、お前は魔法が発現しなかった。そう思っているだろう? いや、シャリオットだけじゃない。父も母もそうだ」
私は再び言葉を発さないように頷いた。一体何を言っているんだろうか? あの場にいた誰もがそう思っていることなんてわかりきっているのに……
「だけど、それは違う。あのときアルカナの花が咲かなかったのは、シャリオットに魔法が発現しなかったからじゃない。シャリオット、お前は生まれもっての『魔法使い』だったんだ」
「……なにを!?」
「しずかに!」
つい声を上げてしまった私の口元を押さえるお兄様。私のことを茶化しにでも来たのだろうか? だって、突然、私が魔法使いだなんて言われたところで、納得なんて到底出来ない話なのだ。あのとき、アルカナの花は何も咲かなかったのだから。
「……ひとまずだ、お前に伝えたいことは三つある。一つは、お前は決して無能なんかじゃない。むしろ逆だ。お前は間違いなく選ばれた人間だった。そして、もう一つ、王宮は魔法使いを見つけ次第、密かに連れ去っている」
「見つけ次第連れ去っている? どうして……」
「詳しく話すと長くなる。先にもう一つの要件を言うぞ。この街には今、『フォース』という男が滞在している。そいつの所に合流しろ。詳しい話はそいつから聞けるだろう。できるな、シャリオット?」
「でも、お兄様は?」
「俺はここに残ってやるべき事がある。必ず後で俺も合流する。大丈夫だ。フォースという男は信用できる」
そう言ったお兄様は、以前と変わらない優しい笑顔を浮かべていた。そして、小さく折りたたまれた紙を手渡してきたお兄様。手書きで書かれた地図には、大きな丸印が描かれていた。おそらくここがお兄様の言っている『フォース』という人が居る場所なのだろう。
だけど……
いくらお兄様の言うこととは言え、はいと素直に従えるような話でもない。何せ、王との約束を反故にするという話となれば、間違いなくルシファーレンの家の名を墜とすことになるのは目に見えている。
「お兄様…… 私…… 」
「俺を信じてくれ、シャリオット」
真っ直ぐに私を見つめていたお兄様。その眼差しを見て、私は決心した。お父様は私をルシファーレンの家から追放した。今、私にとって唯一の家族とも言えるのは兄『アルフレッド』だけだった。
「わかりました。お兄様。私、お兄様を信じることにします」
「シャリオット……」
安堵の表情を浮かべた兄。そして、兄は再び、以前と変わらない優しい笑顔を浮かべ、私に向かって言葉をかけてくれたのだった。
「シャリオット、お前は俺の自慢の妹だ。お前は落ちこぼれなんかじゃない。誰よりも、才能を秘めていたんだ」
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