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5話 ナンバーゼロ
しおりを挟む「どうしたんですか? シャリオットさん。そんなに気を張らなくても、ここは大丈夫ですよ」
ベッドに腰をかけながら、リラックスした様子で、私へと声をかけてきたフォース。だけど、リラックスなんか出来るワケがない。だって、私はまだ彼の情報をほとんど何も知らないのだ。
「……フォースさん、お兄様からあなたのことは聞いています。そして、フォースさんに会って詳しい話を聞けと」
「シャリオットさん、お兄さんからどこまで聞きました?」
「ほとんど何も聞いていないわ。わかったのは、私が魔法使いであるってコト、それに、王宮が魔法使いを連れ去っているって言うコト……」
ほとんど何も知らぬまま、ただお兄様の『ここを離れろ』という言葉を信じて、家を抜け出してきた私。いつも優しいお兄様が、あれだけ真面目な様子でそう言うんだからただ事ではないことはわかるけど、詳しい事情なんて何もわかっていない。
「シャリオットさん、『アルカナ』の正体については聞きましたか?」
「聞いていないわ」
「じゃあまずそこから話しましょう。今から遡ること、百年以上前。この世界で突如として発見された『アルカナ』。人々に魔法の力を与える『アルカナ』は、人類最大の発見といっても過言ではないものでした」
そのくらいは私だって本で読んだから知っている。『アルカナ』が見つかってから、人々は『魔法』を使い出した。便利な魔法はすぐに人々の生活へと浸透していき、今や、軍事、生活、あるいは自衛、人々になくてはならない存在となっている。
「フォースさん、それで。その『アルカナ』の正体って?」
「シャリオットさん、無条件に皆に『魔法を与える』なんて都合のいい話、本当にあると思いますか?」
私の顔をのぞき込みながら、フォースは私を試すような口ぶりでそう言ってきた。そういえば今まで、そんな事なんて考えたことがない。だって、誰しもが当たり前のように『アルカナによって魔法を与えられてきた』のだから。それが普通のことだと思っていた。
「お兄さんから、あなたは大変聡明だと聞いています。だったら、あなたも気付くはずです。何か、訳があると。そして、どうして『王国が魔法使いを密かに集めているか』」
「……何が、何が言いたいのよ?」
何となく…… 何となくではあるが、フォースの言いたいことがわかってきた。そして、私の仮説の答え合わせをするかのように、フォースはその恐ろしい事実を口にしたのだった。
「『アルカナ』はあなたのような『生まれもっての魔法使いの力』を封じ込めたもの。それをただ皆に分け与えているだけの道具に過ぎません」
「だったら、王国が魔法使いを密かに集めているって……」
「……この事実は、国の中でも一部のものしか知らない。王宮に集められた魔法使い達は、強制的に魔力を搾取され、新たな『アルカナ』を生成させられる。それも死ぬまで。だから、あなたのお兄さんはあなたに『ここから離れろ』と言ったのです」
「……そんな……」
「僕もあなたの『魔法発現の儀式』は見ていました。あなたは間違いなく『オリジン』の魔法使い。生まれ持っての魔法使いです。だって、アルカナは空っぽの人間に魔法を入れる道具なんですから、元々魔力でみたされている『オリジン』が魔法が発現するワケなんてないんです」
「でも、私…… 今まで魔法なんて使えた試しはないわ! 炎も出ないし、水も…… それに雷や風だって!」
そう、生まれてこの方、魔法なんて使えた試しがないのに、いきなり私が『オリジン』かなんか知らないけど、『魔法使い』だなんて言われてもそう簡単に受け入れられるわけもない。
「あなたの魔法がどんな力なのかは僕も、そしてきっとあなたのお兄さんもわかっていません。だけど、あなたが『オリジン』である事は間違いない」
「……そこまでは良いとしましょう。じゃあ、あなたは一体何者なの!? それにお兄様も…… どうして、あなたやお兄様はそのことを知っているのよ!」
「僕もあなたと同じ、『オリジン』の魔法使いなんですよ。シャリオットさん」
フォースは、語気を荒げた私に対して、臆することなくそう言い切った。
「じゃあ……」
お兄様は…… お兄様も『オリジン』だっていうの? そう考えた私。フォースはそんな私の考えを見透かしたかのように、首を振った。
「あなたのお兄さんは違います。ですが、お兄さんも、またその事実に気付いてしまった。そして、僕達と一緒に密かに行動しているというわけです」
「あなたたちは一体……」
「僕達は『No.0《ナンバーゼロ》』。今や迫害されていると言っても過言ではない『魔法使い』達を守る為、活動している組織です」
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