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9話 王宮魔道士団隊長
しおりを挟む「居たぞ! あいつらだ!」
相変わらず、逃避行を続けていた私とフォース。フォースの力、『魔術師 ―Magician―』の力で、迫り来る魔道士達は撃退こそ出来ていたものの、このままではキリがない。
「フォースさん!」
「どうしたんですか、シャリオットさん?」
「逃げるのは良いけど! この後はどうするんですか?」
「……正直、ここでばれるのは想定外でしたからね…… 一応、味方は既に待機はしてくれているはずですが…… 馬車で悠長にと言うわけには行かないですから、馬で逃げる形になりますね」
「馬なら私だって少しは乗れます!」
貴族のたしなみの一つとして、乗馬がある。現に私だって、小さい頃から家族と一緒に乗馬はしてきた。全速力で駆ける馬を卸せるかと言われれば、自信は無いけど、こんな状況だし、そう文句を言っていられるはずもない。
「流石、アルフレッドさんの妹さん、頼もしい限りです」
「こうなってしまったのは私のせいですから!」
「わかりました。ではこのまま街の外れまで駆け抜けましょう!」
更に速度を上げたフォース。着いていくので精一杯だけど、ここで私が捕まってしまっては、彼やお兄様がここまでやってきた事を全て無駄にしてしまう。だからこそ、私は全力で足を動かし続けた。
その時だった。私達の前に一人の男が立ちはだかる。厳つい風貌に、山のように大きく見える巨体。明らかに、今までの魔道士達とはレベルが違う。
「止まれ」
男の声に足を止めたフォース。フォースは今までになく真剣な表情で、目の前の彼を見つめていた。そして、相変わらず丁寧な口ぶりで、男に向かって言葉を返したフォースだったが、その額には初めて汗が浮いていた。凄まじい力を持ったフォースが動揺していると言うのだから、相手もやはり、尋常ならざる男なのだろう。
「あらら、まさか貴方まで来ているとは…… お初にお目にかかります。『王宮魔道士団 第4隊隊長 ザルエル』さん」
『王宮魔導士団』の隊長!?
思わず驚いてしまった私。兄の『アルフレッド』はそれこそ、王宮魔道士団の隊長まで上り詰めた天才だが、つまりは目の前に居る男もまた、兄と同じ立場の人間だと言うことである。要は兄と同じくらいの魔法の天才。そんな奴が、私達の目の前へと立ちはだかっていたのだ。
「ご託はいい。貴様わかっているのか? 王宮魔道士に逆らうと言うことがどういうことを意味するのか」
「わかってますよ。全てわかってこうしていますから」
「そうか、貴様…… No.0《ナンバーゼロ》だな」
「そこまで伝わっていたのですか、光栄なことです」
「だったら、なおさらその女を連れて行かせるわけにはいかん」
今までに無い緊張感が場を包む。フォースとザルエル。相対する二人。ぴりっとひりつく空気の中、小さく私に向かって言葉を漏らしたのはフォース。
「シャリオットさん、あいつは僕が引きつけます。戦いが始まったら、一気に駆け抜けて、馬車を用意している味方と合流して下さい。『リュカ』という女です」
「でも、フォースさんは……」
「大丈夫です。僕も必ず後から合流しますから」
大丈夫。そんな言葉信じられるわけがなかった。いくらフォースが、『オリジン』のすごい魔法使いとはいえ、相手はそれこそ『王宮魔道士団の隊長 』となれば、そう簡単にはいかないだろう。
「だけど……!」
「行ってください。じゃないと、僕、あなたのお兄さんに合わせる顔がないので……」
苦笑いを浮かべるフォース。そして、私達と相対していたザルエルが、こちらに向かって声を上げる。
「その女を逃がすつもりか? すっかり王宮魔道士団も舐められたもんだな」
「当たり前です。このまま『アルカナ』の…… 王国の好きにはさせません」
「オリジンが…… 調子に乗りおって!」
声を荒げたザルエル。同時に、先制攻撃を仕掛けようと動いたフォース。
「ファイヤーボール!」
フォースの放った炎の魔法が、凄まじい速度でザルエルへと襲いかかる。だが、ザルエルもまた炎の魔法で、フォースへと対抗を試みたようだった。
「フレアシールド!」
炎と炎がぶつかり合い、爆音が周囲へと響く。白煙が一気に舞い上がり、私達の視界を遮る。
――これが魔法の戦い……!?
目の前で繰り広げられる、凄まじい魔法の打ち合いに、思わず目を奪われてしまった私は、そのまま身動きが取れなかった。
逃げろって言われたって…… こんなの…… 逃げられるわけが……
「シャリオットさん! 早く!」
フォースの叫び声が私の耳へと届く。初めて聞くようなフォースの荒ぶった声。そして、初めて見るような、フォースの焦ったような表情。
慌てて、私は駆け出した。逃げられるかどうかなんてわからない。でも、今私は走らなければならないのだ。彼のためにも。
「貴様! 逃がすか!」
「しまっ……!」
フォースの隙をつき、私へと標的を変えたザルエル。ザルエルの放った炎の魔法が、逃げようとしていた私の前へと立ちはだかる。炎は瞬く間に壁のようにせり上がり、気が付けば、私は逃げ道を塞がれてしまったのだ。
「これで、貴様も逃げられまい。さて……」
そして、余裕そうな様子でフォースの方を向き直ったザルエル。一方のフォースは、ここまでの逃走の影響もあったのか、既に息は切れているようだった。実力の差は歴然、いかに強力な魔法を使いこなす『オリジン』のフォースとは言えど、相手は兄と同じ『魔導士団隊長』。一気に私達は窮地へと追い込まれてしまったわけだ。
「その女は、王宮へと連れて行く。そしてお前もだ『オリジン』」
一歩、また一歩とフォースへと迫るザルエル。もはや、これまでと、私も、おそらくフォースも思ったであろうその時だった。
「……っ! きさ……!」
ザルエルの声と共に、『ずん』と、大きな音が響き渡る。重く、低い音。そして、ザルエルの大きな身体がぐらつき、そのままゆっくりと沈み込んでいった。崩れ落ちたザルエルの身体の奥に見えたのは、私の最も大切な家族である、兄『アルフレッド』の姿だった。
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