いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

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2 時空を超えて

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「剣術の稽古は久しぶりですが、少し間が空きすぎましたかね。まさか、ここまで錆びついているとは……」
「むうう」

 地面に転がる中細の剣は、女性が手にするには重く、男性が扱うには華奢な代物だ。
 剣を拾ったイースは膨れっ面で腰の鞘に収めた。それを見たミッチェルも剣をしまった。


 いつもは前髪を中央で分け、耳の前にゆるくうねった髪を一房垂らしているイースだが、今日はオールバックにして後頭部で一つに結んでいる。
 それでも青みがかった銀髪は、人目を引かずにはいられない美しさだ。

 早朝から馬を飛ばし、山の中腹で稽古をしているのも人目を避けるためだ。
 それでも、城を出て領地を走る間、イースはすれ違う領民を残らず振り返らせていたが。


「はあ。指南を請われるまで待っていた私が悪かったのかもしれません」
「くうう」

 イースは剣術の稽古のため、いつものコルセットドレスではなく白いシャツと黒のパンツを身につけていた。
 そのためイースの薄っぺらい胸と細い脚の線が露骨に現れている。

 そこに三十センチも高いところからミッチェルに見下ろされると、何だか屈辱が増す気がする。
 百五十センチしかない身長が恨めしい。

(イースは感情を表に出し過ぎますね――)

 ミッチェルは、老獪な王宮の人間たちの顔を思い出し不安に駆られた。

 サファイアアイズと称賛される紫に変わる手前の深い青色の瞳は、イースがしとやかに挨拶するときは澄んだ湖を思わせる。
 だが今は、打ち負かされた悔しさに怒りをたぎらせている。

「やれやれ」

 ミッチェルは十三歳の教え子のむき出しの感情を諫めるでもなく、ため息まじりにつぶやいた。

「剣術の稽古については、マルク様と今一度――」


 突然、太陽の光を凝縮して束にしたような閃光が走った。

 イースが空を見上げようと顔を上げたのを、ミッチェルがとっさに抱き寄せて頭を抱えた。
 次の瞬間、燃え尽きた太陽が落ちたのかと思うほどの轟音が響き、大地を震わせた。

 ドドドドーーッ! ドーーンッ! ズズズズズズーーッ!

 抱き合ってうずくまる二人から数十メートル離れたところで、粉塵が舞っている。

 何かが落下したようだが、いったい何が起こったのか。イースは事態を把握できず固まるしかなかった。

「いったい何が――?」
「私が見てきますので、イースはここにいてください」

 ハンカチで口元を押さえながら、ミッチェルが慎重に近づいていく。
 風はないが、徐々に視界が開けてきた。

 土煙の隙間からうっすらと塊が見える。巨大な鉛の塊のようだ。

(これほど大きなものが飛んできたのか? 岩――ではないな)

 ミッチェルは初めて見る物体をつぶさに観察したが正体が分からない。足元に転がっている石をその物体に投げてみた。
 石は近付くことを拒絶されたかのように、物体に当たる寸前、砕け散った。

 素手で触ることは何となくはばかられた。
 それでも背後で怯えている教え子のために、ここは覚悟を決めていくしかない。ミッチェルがそう決心した時だった。

 物体から、ウイーンという聞いたことのない音がした。そして物体の後方に筋が入ったかと思うと、木の皮がめくれるようにそれの一部が外側に開いた。

(なんだ? 何かの術か? ポリージャ国に魔術師の生き残りがいるという噂を聞いたことがあるが、まさかブーロン領に仕掛けてきたのか?)

 ミッチェルは腰の剣に手をかけた。
 めくれた岩の縁を内側から何かが掴んだ。それは人間の手だった。
 その手の主がひょこっと顔を出すと、物体から外へ出てきた。

 ミッチェルの前に降り立った人間は、イースとミッチェルの間くらいの歳格好の美少年だった。
 ダークブロンドの長い前髪が上まぶたギリギリにかかっている。瞳は澄んだ緑色。
 美しい生き物を見ると、人は見惚れてしまうものらしい。ミッチェルは剣に手をかけたまま、しげしげと少年に見入っていた。


「ミッチェル! 誰? そいつ、どうやって来たんだ?」

 いつの間にかイースが駆け寄ってきていた。

「イース! いけません。下がって!」


 少年はイースに目を止めると真っ直ぐ近付いた。歩くたびに艶やかな髪がハラリと頬をなでる。

「初めまして。リーニャン様」
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