いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

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4 魔術師?

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 少年が自分を敬う様子を一向に見せないため、イースの頬は、はち切れる寸前まで膨らんでしまった。
 こうなったらイースは自分からは引かない。見かねたミッチェルが助け舟を出す。

「人目の少ないうちに戻った方がいいでしょう。さあ、君も」

 促された少年は、ミッチェルではなく大きな物体の方を見た。

「あの、単独ではいささか心許ないので、偵察用のドローン――ではなく、私専属の部下を連れていってもいいでしょうか?」
「部下? 一人じゃなかったのですか。どこに隠れているんです?」

 ミッチェルは警戒しながら周囲を見回したが、人影は見当たらない。

「これです」

 少年が右手を空に向けて伸ばした。

「いったい何を――」

 ミッチェルは、少年が指し示した上空に何かが飛んでいるのを見つけた。
 初めは、頭上に虫が集まっているのかと思った。

 だが違った。それらは少年に操られているかのように、手が示す方へ、右へ左へと動いている。
 少年が指先をくるりと回すと、同じように旋回するのだった。

 イースもいつの間にか口を開けたまま、惚けたように上を向いている。

「部下って、あの飛んでいるのが、そうなのですか? いったいあれは――」
「ええと。何と説明すれば……」

 ミッチェルに尋ねられ、少年は思案しながら手を下ろした。
 飛んでいたものの一つが、ゆっくりと下降し少年の手のひらの上に乗った。

「ん? 銅貨ですか? いや、違いますね。ヒイロ王妃の横顔がない」

 ミッチェルが手を伸ばして掴もうとすると、銅貨のような丸くて薄いものが急に飛び上がった。

「うわっ」

 思わずミッチェルがのけぞると、少年が困ったような顔で、

「部下というのは言い間違いでした。なんというか、私の道具です。鳥のように飛べる能力があるのです」

 と言い直した。

「それって魔術か?! お前は魔術師なのか?!」

 イースが興奮して、今にも少年につかみかからんばかりになっている。
 少年は、この文明下においては、これらのテクノロジーは魔術に見えるのかもしれないと思い至り、肯定することにした。

「はい、魔術師と理解いただいて結構です」

 イースは憧れの対象を崇めるような眼差しでくいついた。

「ま、ま、魔術師?! ほ、本物!? 本物!?」
「ええと。まあ、そうです。はい本物です」

 のぼせあがっているイースを少年から引き離し、ミッチェルが尋ねた。

「ちょっと待ってください。もしかして君は、ポリージャ国の者ですか?」
「ポリージャ? いいえ。そんな国は聞いたこともありません。私はこの世界ではどの国にも属していません」

 ミッチェルは、「この世界では」という部分が引っかかったが、この少年特有の言い回しなのだと判断して、ひとまずは脇へ置いておくことにした。

「どの国にも属していない魔術師ですか……」

 それまでの羽音のような小さな音とは別の、何かが唸るような音が聞こえた。ミッチェルは素早くイースを引き寄せ身構えた。

「すみません。偵察――小さい物だけでは頼りないので、一機だけ大きい物も連れていきたいのですが」

 少年は連れていくと言ったが、その大きな物も少年の頭上に浮かんでいた。

「な、な、な――」

 イースは驚きのあまり、指を差すだけで言葉が出てこない。

「もしかして、それも君の魔術なのですか?」

 ミッチェルの顔が強張った。

「とりあえず、この国で魔術を使うのはやめてください。誰も見たことがないのですから。そんなものを領民が見たら腰を抜かしてしまうでしょう。隣国から攻め込まれたと勘違いする輩まで出てくるおそれがあります」
「分かりました」

 そう言うと、少年は大きな物を両手で抱えた。
 その大きな物は、直径が七十センチほどあるため、人間が正面に持っていると盾を構えているように見える。

「とにかく、そういう物騒な物は馬に載せた方がいいでしょう。よこしなさい」

 少年は、ミッチェルの指示には従わず巨大な物体の方を向いた。

「ええと。人目を引くといけないのでしたね。それならば、あれも隠しておいた方がいいですね」

 少年はイタズラっぽい口調で付け加えた。

「それでは魔術をご覧あれ! そーれ!」

 少年の胸に抱えられていた大きな物が再び飛び立ち、物体の近くまで行くと宙に浮かんだまま停止した。

 バーン! バーン! ドドドド! ドドドドーッ!

 物体の手前に、それよりも大きな穴が空いた。
 そして信じられないことに、物体がふわりと浮き自ら穴に収まった。

 ミッチェルとイースがあっけに取られていると、空中の大きな物が、今度は大木の根元に近寄った。
 キューンと甲高い音を発したかと思うと、大木がなぎ倒された。
 斧やノコギリで切られた切り株と違い、切断面は真っ平だ。

 少年は自分の数倍もの大きさの木を軽々と両手で抱えると、ほうきのように扱って穴に土を被せて岩を埋めた。
 最後に仕上げとばかりに、更に二本の大木を切り、合計三本の大木を穴の上に置いた。
 とても人間技ではない。

「こんなものでしょうか。それでは出発しましょう。この道具たちを先行させても?」

 笑顔で許可を求める少年に、ミッチェルは反射的に頷いてしまった。
 それでも大きな物を馬に載せることだけは譲らなかった。
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