いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

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26 ロイドの毒殺未遂

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 五月十三日。ロイドたちが王都に到着した翌日。
 マルクの温情で、この日一日はロイドとイースの王都見学に当てられていた。

 朝食後、ロイドが部屋に戻ると、トントントンとドアをノックする音が聞こえた。
 ドアを開けると、ゴテゴテとした装飾の上着を着た従者風の男が水差しを持って立っていた。

「私は王宮から参りました。これは王族にも献上する特別な湧き水です。お妃候補の皆様とそのお連れ様に差し上げるよう、スペンサー第一王子殿下から仰せつかりましたゆえ、こちらのお屋敷までお持ちいたしました。さあどうぞ。ちゃんとお飲みいただきましたことを報告しなければなりませんので、召し上がってください」

(おやおや。なんですかそれは)

 ロイドは、「どうも」と言って、男が水を注いだコップを受け取ると一気に飲み干した。

(王宮の使用人ですって? 何を言っているのです。あなたは未詳Zじゃないですか。今日は農場へ行かなくてよいのですか)

 ロイドは飲み終えてコップを男に戻した途端、苦しそうに顔をしかめてお腹の辺りを抱えて前屈みになった。

(うへっ。水分を蓄えてしまいました。ほんのいっときとはいえ、不愉快極まりない感覚です。初めての経験ですが、これは絶対に好きになれません)

 未詳Zはドアを閉めながら、隙間からロイドの苦しむ様子を見てほくそ笑んだ。

(人が嫌がっている姿を見て笑いましたね)

 ドローン経由で未詳Zの表情を見ていたロイドは怒りがわいた。

(まあ、こんなことだろうと思いましたよ)

 ロイドは部屋にあった花瓶を掴むと花と水を捨てて、その中に体内に取り込んだ水を排出した。



 ドローンによると未詳Zは真っ直ぐ玄関に向かっていたが、それでも仲間がいる可能性は排除できない。
 そう考えたロイドは花瓶を床に置き、二階のイースの部屋まで走った。
 ノックもしないでイースの部屋に入ると、着替えの真っ最中だった。
 正確には、ミッチェルに頼んで用意してもらった、王都を闊歩している金持ち貴族のボンボン風の衣装を広げて眺めていた。

「ノックもしないで、いきなり入ってくる奴があるか!」

 ロイドはイースの健康状態を素早くチェックしたが問題なかった。

「イース。見知らぬ男が水を持ってきませんでしたか? あるいは、部屋の中に水が置かれていませんでしたか?」
「は? この家の使用人は多いから、まだ顔を覚えていない奴もいるけど。誰も来なかったし、水なんかないぞ」

(では次に急ぎましょう)

「もし誰かが水を持ってきても飲まないでくださいね」

 ロイドはそれだけ言い残して部屋を出ると、イースも一緒に部屋を出てきた。

「なんだよ、それ。どういうことなんだ? 説明しろよ」
「急ぎますので」

 ロイドは無視してミッチェルの部屋に向かった。

「待てよ! どこへ行く気だ?」

 かなり早いスピードで走ったにも関わらず、イースがドレスの裾をたくし上げてついてきた。

(そんな格好でよくこれだけのスピードが出せますね)

 ロイドは三階へ上がる階段の途中で止まった。

「なんだよ、急に! はあ。はあ。」

 ドローン映像から、ミッチェルが部屋を出て階段に向かって歩いていることがわかったのだ。
 階段の途中で話をするのもなんなので、ロイドは階段を上りきった。
 そこへちょうどミッチェルがやってきた。

「おや、なんですか。二人して」

 ミッチェルの体にも変化は見られない。

「ミッチェル。変な奴が水を持ってこなかったか。それか、部屋の中に水が置かれていなかったか?」

 ついさっき聞かれたセリフを、イースが我が物顔で言った。

「どういうことです?」
「そうだよ、いったいなんなんだよ」

 イースはミッチェルからロイドに視線を移して答えをせがんだ。

「先ほど、私の部屋に不審人物がやってきて、毒入りの水を飲ませたのです。ですからお二人にも同じように――」
「ど、毒うー?」
「毒ですって? それで、君は大丈夫なのですか? なんともありませんか?」

 ただ驚愕しただけのイースと違い、ミッチェルはロイドの身を案じた。
 その気遣いに気が付いたイースも負けじと叫ぶ。

「お、お前! 先に言えよな。飲んだのか? お得意の魔術で毒だと見破れなかったのか?」
「はい。飲んでみるまでは毒だとは分かりませんでした」
「はあん?!」

 ロイドには化学組成や成分を分析する機能が組み込まれている。
 未踏星系を訪れることを想定したオプションなのだろう。

「おま、お前、全部飲んだのか」
「はい。まあ、すぐに排出しましたが」
「君は毒を飲んでも平気なのですか? それも魔術だと言うのですか?」

 ミッチェルがどれだけ目をしばたたかせようとも、それ以外に説明することはできない。

「そうです。魔術です」

(もうそろそろ分かってくれませんかね。私に関することで不明な点は全て魔術という解釈でお願いしたいものです)

「この毒はコンバラトキシンですね。自然界に存在するものですから、この時代の人間でも簡単に――ええと」

 ミッチェルとイースが困惑した表情でロイドを見ていた。

「とにかくですね。すずらんから採取した毒のようです」
「え? すずらん? すずらんに毒があるのか?」
「ええ」
「それよりも、君に毒を飲ませた者はどこです?」

 未詳Zはロイドの監視下にある。

「その男なら、すでにこの屋敷を出て目抜き通りを歩いています」
「つまり、君の魔術で、その男の様子も覗き見できるという訳ですね」
「はい。おかしな動きがあればすぐに報告します」
「それでは後ほど、顔を見させてもらうとしましょう」

(ああ、例のアレですね。承知しました)

 ミッチェルがハッとした顔で呼びかけた。

「ロイド」
「なんでしょう」
「先ほど、すずらんの毒だと解明していましたね。君は少量でも、その――。毒を摂取すれば、その正体がわかるのですか?」
「はい。微量でも摂取すればわかります」

 ミッチェルは目を輝かせている。
 イースがミッチェルのただならぬ様相に恐る恐る尋ねた。

「ミッチェル。まさか、ロイドに全員の毒見をさせる気なのか?」

 その質問にはロイドが答えた。

「毒味などは不要です。私のドロ――魔術で、怪しい動きは事前に察知できますから」

(先ほどのは興味本位での摂取です。油断していた訳ではありません。王都上空から二機をライアン邸に呼び戻しましたので心配いりません)

 ミッチェルの目の輝きは更に増している。

「イース。そういうことではありません。陛下が盛られた毒です。ライアンが毒の入っていたグラスを保管しているのです」
「じゃ、じゃあ――」
「ええ。ロイドが調べれば、ロイドが盛られた毒と同じか分かります」
「つまり――」
「ロイドが覗き見している犯人がモーリンと繋がっていれば、黒幕はモーリンということになります」
「おおーっ!」

(先ほどは毒の摂取を危険視していたようですが。もうすっかり私を便利使いするつもりのようですね)

「マルク様は確かライアンと一緒に近衛師団の本部を訪ねているはず。すぐにお戻りいただくよう早馬を出しましょう」

 ミッチェルは馴染みの使用人に簡単な手紙を持たせ、ライアンに届けさせた。
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