いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

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39 舞踏会③(閉会)

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 大広間ではそこら中から悲鳴が聞こえていた。
 一人また一人と、美しいドレスを身にまとった女性が、ドミノ倒しのように失神していく。

 ロイドが体の向きを少し変えただけで、倒れていくドミノが波打つように移動する。
 真っ青な顔のミッチェルがロイドに駆け寄ると、自分のコートを脱いでロイドの下半身を覆った。

「ロイド! 君はなんてことを! 本当にもう。それより、ほら! 早く履いてください!」

 ロイドはミッチェルの要請に応じてパンツを元通り履いた。
 ミッチェルはロイドの服装を確認すると、コートを小脇に抱えて白目を向いているマクシミリアンに声をかけた。

「マクシミリアン。大丈夫ですか?」

 マクシミリアンは言葉を失ってはいるが、心臓は止まっていなかった。
 ロイドも瞬時にチェックして特に問題ないと判断した。

(ミッチェル。そこはかしこまって『殿下』ではないのですか? 王様の御前ですよ)

 ミッチェルに体を揺すられてもマクシミリアンの反応は鈍く、一向に正気を取り戻す気配がない。
 ミッチェルの呼びかける声は、無情にも騒々しい会場に飲み込まれていく。

「マクシミリアン! マクシミリアン!」

 広間は徐々に悲鳴から喧騒へと変わっていった。



「あっはっはっは! よいぞマクシミリアン! なんとも素晴らしい余興ではないか! あっはっはっはっ! あっはっはっはっ!」

 ニクラウスが、玉座から崩れ落ちんばかりに身をよじって笑い転げた。
 貴族たちは、最初のうちはニクラウスの笑い声に戸惑いを見せていたが、そのうち、誰かがつられたように笑い出すと、我も我もと追随し広間は笑いの渦に包まれた。


「ほら。今のうちに退散しましょう」

 ミッチェルはそう囁くと、ロイドを強引に人だかりの中に連れて入った。
 ロイドはミッチェルに腕を引かれながらも、ドローンの監視映像から、未詳Zが宮殿に入り込む様子を捉えていた。


「ミッチェル。待ってください。私に毒を盛った男が今、宮殿に侵入しました」
「なんですって」

 未詳Zは舞踏会が開催されている大広間とは別の方向へ歩いている。

「ええと。今のところ、この広間に来るつもりはないようです」
「何をする気なのでしょう……。とにかく君は監視を続けてください。イースからも目を離さないようお願いしますよ」

「はい。未詳Xも宮殿に向かっているので、ひょっとすると合流するのかもしれませんね」
「いったい何をするつもりなのでしょうか。私はマルク様に報告してきます」

 広間の中央では、ニクラウスの振る舞いに業を煮やしたスペンサーが、ひとまず事態を収めるため動いていた。
 進行役に何やら耳打ちをしている。
 ふんふんと頷いて聞いていた進行役が驚いた顔でスペンサーを凝視したが、スペンサーは口を真一文字に引き結び、厳しい表情のまま進行役を睨み返した。

 進行役は助けを求めるようにニクラウスの方をチラリと見たが、すぐ横のスペンサーの射殺さんばかりの視線に負けて、大きな声で発表を始めた。


「皆様! 皆様! どうかお静かに! えー、予定の変更をお知らせいたします。今夜十九時からのパーティーは、スペンサー第一王子殿下主催の晩餐会とさせていただきます。お妃様の発表とスペンサー第一王子殿下の摂政就任パーティーは、後日改めての開催とさせていただきます」

 それを聞いた会場内はブーイングの嵐となった。中でも妃候補の家族たちは怒りがおさまらない。

「なんですって! うちの娘が内定しているはずですわ!」
「何をバカなことを! 妃を輩出するのは我が一族と決まっておる。その証拠に最初にお声をかけていただいたではないか」
「まあ、何をおっしゃるんです。順番なんて関係ありませんわ」

 騒然とする貴族たちに圧倒されながらも、進行役は勇気を振り絞って声を張った。


「み、皆様、どうかお静かに。もろもろ含めまして、お妃候補の皆様には、しかるべく改めて特使をお送りさせていただきます。それでは引き続きダンスをお楽しみください」

 進行役はそれだけ言うと、演奏者に向かって合図を送った。
 広間に一際大きな音楽が流れると、貴族たちは徐々に冷静さを取り戻し、本来の目的である伴侶探しにいそしんだ。

 広間のあちこちで、令嬢たちの鮮やかなドレスの裾がひるがえっている光景を目にしたニクラウスは、興醒めとばかりにグラスを置いて立ち上がった。
 ドアへ向かうニクラウスの前にマルクが膝を付いて首を垂れた。

「陛下。私の家の者がとんだ失態を。なんとお詫びしてよいのやら。田舎育ちとはいえ、このような――」
「よいよい。よいのじゃ! 褒美を取らせてやってもよいくらいじゃ。こんなに笑ったのは久しぶりだぞ。思い出しても笑いが込み上げてくるわ! あっはっはっはっ!」

 ニクラウスが上機嫌で部屋を出て行く様子を見送りながら、スペンサーがマルクに話しかけた。

「マルク殿。マクシミリアンこそ、ご迷惑をおかけしました。あの者の断り方はなかなか強烈でしたが。良い薬になったみたいですし」

 二人はそろって王族席の端に、打ちひしがれて座っているマクシミリアンを見た。

「あのロイドとかいう者がマクシミリアンに変わって恥をかいてくれたのです。処罰などありませんよ。陛下も余興と取っておくと明言されましたしね」

 魂の抜けたマクシミリアンは、虚ろな目であらぬ方を見ている。
 十五時の閉会の合図を聞いても、マクシミリアンは一人では立ち上がることさえ出来なかった。
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