いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

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48 イースの正体とロイドの決断

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 お茶の時間の前に、ロイドはミッチェルと共に再び宮殿を訪れた。

 近衛兵から連絡があったのだろう、スペンサーが入り口横で待ち構えるように立っていた。

「おや珍しい。あなたが人を待つなんて」

 スペンサーはにやけ顔のミッチェルを無視して、ロイドが手に持っている小瓶に目を留めた。

「それはいったい何なのだ?」

 ロイドは自慢げに差し出した。

「王様の不調の原因となっている物質を体内から排出するものです」

 スペンサーがミッチェルに目をやると、大丈夫だと大きく頷いた。

「分かった。ではこちらで預からせてもらおう。ここでしばし待て」



 スペンサーは三十分ほどで戻ってきた。二階の廊下から二人を見下ろすと、興奮した様子で呼びかけた。

「ミッチェル! ロイドを連れてすぐに来い」
「どうされたのです? 何があったのです?」
「いいから来い」

 ミッチェルは足早に階段を上りながら振り返ってロイドを見た。
 ロイドは憮然とした表情で応えた。

(そんな目で見ないでください。私は配合比率を間違えたりはしません)

 ロイドとミッチェルは再びニクラウスの寝室に連れていかれた。

 驚いたことに、ニクラウスがヘッドボードにもたれて体を起こしていた。
 アリシアとサーシャ、マクシミリアンもベッド脇に座っている。

(王族が勢揃いですか)

 ニクラウスは、スペンサーとミッチェルに続いて部屋に入ってきたロイドを見て、

「お、おお。そなたか。そなたが救ってくれたのだな」

 と笑みを浮かべた。
 その顔には血色が戻り、目には意思が宿っていた。

「こんなに頭がはっきりするのは随分と久しぶりだ。もう何年も霧がかかったようにぼんやりとした記憶しかないが、自分の犯した罪は、はっきりと覚えている。私は取り返しのつかないことをしてしまった。マルクと話したい。マルクを呼んでくれないか」

 使用人がマルクを呼びに行こうとしたのをミッチェルが止めた。

「マルク様ならもうすぐこちらに到着されると思います。マルク様も、陛下にご報告したいことがおありだとかで」
「そうなのか? わかった。では待つとしよう」



 ミッチェルの言葉通り、それほど待たされることなく、マルクが宮殿に到着したとの連絡が入った。
 ニクラウスは緊張感を漂わせ始めた。
 部屋に入ってきたマルクを見ると、ニクラウスは情けなさそうに顔を歪ませた。

「マルク。すまぬ。モーリンの、あやつの言葉に惑わされておった。ああ、兄上――。私はなんということを。国民に、何よりも兄上に謝りたい――」

 うなだれるニクラウスにマルクが告げた。

「陛下。実は陛下に、いえ皆様に紹介したい者がおるのです。お呼びしてもよろしいかな?」
「ああ、もちろんだ」

 マルクがドアの方を向いて廊下にいる者に声をかけた。

「入ってきなさい」

 おずおずと一人の美しい少年が入ってきた。

「そ、そなたは――」

 ニクラウスの目に涙が溢れた。名乗らなくとも、その人物が誰なのか分かったのだ。
 銀髪に深い青の瞳。
 亡き王妃に瓜二つの顔。

 マルクがゆっくりと頷いて紹介した。

「ヒースリウム王子です」

 ロイドには、その名前を聞いて王族たちが揃って飛び上がったように見えた。
 ニクラウスはブルブルと手を震わせている。

「マルク! それでは――」
「はい。孫娘と偽って今日まで敵の目を欺き、お守りしてまいりました」

 アリシアも涙を止めどなく流している。

「マルク。ああ、そうだったのですね。うっ。うっ。うっ」

 スペンサーは舞踏会でのことを思い出していた。
 懐かしい面影も当然だ。幼くして生き別れた従兄弟だったのだ。

 ニクラウスは涙を拭った。
 ヒースリウムの顔を見ているだけで、鼓動が速まり体温が上昇していく。

「マルク。スペンサー。決めたぞ。一月後だ。諸々の準備があるだろうが長くは待てぬ。一月後に譲位する。国民に発表するのだ。ヒースリウム王子殿下が戻られたとな」

 マクシミリアンは幼い頃の記憶を断片的に思い出しながら、「ヒースリウム王子。ヒースリウム王子……」とうわごとのように繰り返していた。

 サーシャは突然現れた王子が、髪の色こそ違え、お忍びで出会った少年だとすぐに気が付いた。

「そ、その節は――。あ、あのご無礼を。あと、舞踏会では、その――」

 緊張と恥ずかしさのせいで、うまく言葉にならない。

 ヒースリウムが、「ああ。こっちこそ悪かった」と、天使のような微笑みを返したものだから、サーシャはボッと燃え上がるように顔を真っ赤にした。



 皆が感極まっている中、ミッチェルだけはロイドの異変に気が付いた。
 ロイドまでもが天啓を受けたような恍惚とした表情をしていたのだ。



 それは突然やってきてロイドを驚愕させていた。
 もしロイドに魂があったなら、人間がディーバの奇跡の歌声にそうするように、思いっきり魂を震わせていたと思う。

 ロイドとそれは瞬時に互いを認識した。
 通信を受信しているのだ。
 ロイドには相手からの声が聞こえる。

「登録IDを確認。受信レベル九.八」

 ロイドは嬉しさのあまり、自分の登録IDを送信しそうになった。が、ふと、躊躇した。

「私はカスタマーセンターの渉外担当ロボットです。あなたを回収し速やかに離脱しなければなりません。ドローン共々八十分以内に配送ポーターまで戻ってください。九十分後に出発します」

 渉外担当はロイドからの返答を待たずに説明を続けた。

「あなたを含めた分のロットが出荷された直後に、特約事項が追加されました。紛失後に再発見された場合、購入者が望めば契約を元通り履行することができるようになったのです。そして、シェリバンジュ夫妻は履行を望まれました」
「……」
「事故の調査次第ですが、行方不明中の全データを抽出後、出荷状態に戻すかどうかは購入者と調整させていただきます。まずは急いで配送ポーターまでお戻りください」
「……」
 


(さて。どうしたものでしょう)

「ロイド、どうしました?」

 ミッチェルが心配そうにロイドに声をかけた。ほんの数秒間で、ロイドの置かれた状況が大きく変わってしまった。

「たった今、連絡がありました」
「い、今? どこから?」

 ミッチェルは辺りを見回す。

「ああ、ええと。あちらも魔術師なので、魔術を使った会話をしていました」
「な、なるほど」

 ミッチェルは理解できないまま、なんとなく相槌を打った。
 王族たちも何事かとロイドを見た。
 ミッチェルとの会話が気になる様子だ。ロイドはマルクに打ち明けた。

「マルク様。実はつい今しがた、私の本当の主人が見つかったのです。自由の身になったという私の解釈は間違っていました。ですので、私はどうやら戻らねばならないようです」
「なんだと?!」

 王子としての振る舞いを忘れ、ヒースリウムがいつもの調子で口を尖らせてむくれた。

「ふぁっふぁっふぁっ。そんな日が来る気がしておったわいの。短い間じゃったが、お前には随分と世話になったの」

 ミッチェルは自分の耳を疑った。

「戻ると? 戻るとは……?」
「ええと。私なら一秒で、その窓から出ていけます」

「そうじゃなくって!」

 ヒースリウムがミッチェルの言葉を遮って、ロイドのもとに駆け寄ってきた。

「ロイド。本気か。本気でここを去るのか? 私の護衛役を放り出して行くのか?」
「それは――それについてはお詫びします。ですが地方から駆けつけてきた元近衛兵は二千を超えたそうではありませんか。もう私がいなくて大丈夫だと思います」

「そんなことは分かっている! お前、お、お前は、ここを出て行くことを、なんとも思わないのか!」

 ロイドはヒースリウムのバイタルサインの数値が、どれもいったん激しく上昇して、それからすぐに下降したのを見て、その解釈に困惑した。
 ヒースリウムは自分に向けられた皆の視線を感じて、落ち着きを取り戻した。
 「ふう」と息を吐くと静かに尋ねた。


「お前の役目はなんだ?」
「私の役目は――」

(なぜ私は即答しないのでしょう。答えなら決まっています。リーニャン様の警護です。リーニャン様の――)

 ロイドは明白な回答を口にしない自分に驚いていた。

 あれほどまでにマザーとの邂逅を望んでいたというのに。
 マザーと遮断され、言いようのない不安と孤独を感じていたというのに。


 懇願するようなヒースリウムの眼差しのせいなのだろうか。
 その瞳に応えることは、ネットワークに繋がれる安心感を放棄することにつながる……?


 だまりこくったロイドに痺れを切らしたヒースリウムが詰め寄る。

「あの日、マルクと約束したことを言ってみろ!」

「私の役目は――。私の役目は――あなたの護衛です」

「そうだっ! その役目はいつまでだ!」 
「期間の定めはなしです。期限はありません」
「そうだっ! 二度と忘れるなよっ!!」
「そうですね。二度と忘れないようにします」

(ああ、そうです。今の私は不安も孤独も感じていません)

 ロイドは全ての回線を遮断し、呼びかけにエラーを返した。



 感極まった表情のヒースリウムを見つめているロイドの前に、マクシミリアンがぬっと進み出ると、その手を握って跪いた。

「お、おほん。その、ロイド嬢。兄上に続いて父上までも救うとは、あなたは聖女のような方です。あれは――。おほん。その――。舞踏会の時のあれは――何かの見間違いですよね? 俺は心を決めました。あなたがどのような姿であろうとも、お慕い続けます」

 部屋にいる全員がげんなりした顔をする中、ロイドは少しだけ思案すると、マクシミリアンの手を取り、自分の股間に当てた。
 もちろん股間の準備は万端だ。

「ひぃーっ! ぎゃーっ!!」

 マクシミリアンが白目を剥いて倒れると、ロイドは左手の拳を握って自分の頭を軽く小突いた。

「てへ」

 そして舌先を少しだけ、ぺろっと出した。
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みんなの感想(1件)

pepe
2024.12.07 pepe

ちょっと変わった設定だけど面白かった

解除

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